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先ずは美味しく御馳走さま♪
第一話 初めての体当たりリポート
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「ひえぇぇぇ!! なんで私がぁぁぁ?!」
手にしたストローの先っぽをもう一度見つめるが、そこは間違いなく赤く塗られている。二度見しても三度見しても赤いままで、それは“アタリ”を意味している。ただし私にとっては、限りなくハズレに近いことなんだけど。
「あめでとー、槇村ちゃん! お初の現場での体当たりリポ、決定だね♪」
ニコニコ顔の担当ディレクター内海さんの顔に、ゲンコツを食らわしたい衝動に駆られる。ああああ、普段は町内のお祭りのガラガラにさえ当たったことがないのに、どうしてよりによって、今回のお仕事を引き当ててしまったのか。こんなに高いところと飛行機が嫌いなのに……!!
「三輪さん、行きたいって言ってたじゃないですか、ここは是非……」
「ダメダメ、何のためにクジ引きにしたと思ってるのさ。ここで行きたい三輪ちゃんに行かせたら、クジ引きの意味がないだろう」
同じ番組で取材をしている先輩の三輪さんに声をかけたら、内海さんがちょっとだけ怖い顔をしてこちらを睨んできた。
「でも、どうして私なんですかあ……私が飛行機とか高いところが嫌いなの、分かってるじゃないですかあ……嫌いな私が行くより、好きな人がした方が、絶対に良い映像が撮れると思うんですけどぉぉぉ」
「これもお仕事。局からお給料をもらっているんだから、あきらめて行きなさい」
今回、私が当たりを引き当てたのは、某情報バラエティ番組の中で放送される『色々なお仕事』コーナーで使われるもの。しかも今回の取材先は航空自衛隊。そのコーナーでは、取材に行ったリポーターがその職業を体験するってことになっていて、今回の目玉は戦闘機に乗せてもらうというやつだ。
もちろん操縦はしなくて後ろに乗せてもらうだけらしいんだけど、なかなか体験できないことだから、番組内のスタッフからは希望者は殺到した。そのせいでリポーターをクジ引きで決めようってことになったんだけど、どうして行きたくない私までクジを引かなきゃいけないの?! そして、どうしてよりによって、飛行機嫌いで高所恐怖症の私が行くことになってしまったのっっっ?!
「三輪さぁぁぁん」
「アハハハハ、いやあ残念だなぁ、俺、行きたかったのに。槇村ちゃん、戦闘機に乗せてもらった感想を楽しみにしているからガンバレ♪ ああ、その前の低圧訓練もガンバレ♪」
うわーん、鬼だぁぁぁぁ!! 皆して鬼だぁぁぁぁ!!
+++
その日から私の気分は深海の底まで落ち込んでしまって、ちょっとした深海魚状態。そしてそういうイヤなことって、あっという間に目の前にやってくるのよね。次の日が取材一日目の夜、緊張して胃のがおかしな具合だしドキドキして眠れないし、なのにデジタル時計の表示はどんどん進んでいくし。
「飛ぶのはまだなのに、今からこんなに緊張しちゃってどうするのよぉぉぉぉ」
こんな状態だったから、なんとか眠れたのは外がそろそろ明るくなってくるような時間だった。
「うぎゃああああ!!」
そして次に目が覚めたのは、自宅を出なきゃいけない時間ギリギリ。踏んだり蹴ったりってこういうことかもしれないと思いつつ、慌てて飛び起きて洗面所に走った。
「一日目からなんで寝坊しちゃうかな、私!!」
一瞬、仮病を使って三輪さんに押し付けちゃおうか、なんて考えが頭のすみをよぎった。だけどそれって、やっぱりプロとしてどうなの?って思いとどまる。取材当日に寝坊すること自体が、プロとしてどうなのって突っ込まれそうだけど。
とにかく歯を磨いて顔を洗って……必要最低限のことはしておかないと、局のイメージっていうのもあるし。あああ、お腹が鳴っているけど朝ご飯はパス!!
そしてコンタクト!! こういう時に限ってうまく入らないし!!
絶対に寝不足のせいだと溜め息を一つついて、手にしたのは予備の、内海さん曰く「アラレちゃん眼鏡」。なんでも、内海さんが子供の頃にはやった漫画で、こういう眼鏡をしていたキャラクターがいたらしい。
私だってこんな眼鏡したくないんだよ。だけどコンタクトがうまくおさまらないんだもの、しかたがないじゃない。アラレちゃんだかお煎餅ちゃんだか知らないけれど、見た目はあきらめてもらうしかない。
「……どうせ顔なんて、そんなに見られないだろうし」
うん。あちらもお仕事だから、人の眼鏡のことなんて気にしないよねと自分に言い聞かせて眼鏡をかける。鏡に映った自分の姿を見て、どんよりとした気分になった。
―― きっと収録日には、出演者さん達にいじられるんだろうなあ ――
そんなことを考えたら、さらに憂鬱になってしまった。
これ以上は無いぐらいなドン底気分で自宅を出ると、急いで待ち合わせの場所に向かう。案の定、合流したカメラマンの浅木さんや他のスタッフさん達からも、さんざん眼鏡のことでからかわれた。最終的に、浅木さんの「可愛いから許す」で問題ないとされたけど。
―― あ、眼鏡をはずしたら何も見えないってことは、飛行機に乗る時にはずせば良いんじゃない? 外がボンヤリとしか見えなかったら怖くないかも? ――
あ、これはなかなか名案かも!
+++++
そしてやって来ました、航空自衛隊の航空祭!
別にここに来ること自体はイヤじゃなかった。空を飛ぶのがイヤってだけで、それなりに興味もあったし。あらためて周囲を見回してみると、まだ朝も早い時間だと言うのに、家族づれや女の子達の姿が目につくことに気がついた。こういうのって、マニアックな男性の来場者が多いんだろうって勝手に想像していたんだけど、それは思い込みだったみたいだ。
「今日こちらで案内してくださるのは、広報官の方なんですよね?」
ゲート近くで待っている、それらしい人の姿を探す。広報官をしている人は、航空自衛隊内で色々な部署を回り様々な経験を積んでいる、言わば航空自衛隊の中のベテランさん。つまりはある程度の年齢の人らしい。ってことで年配の制服を着ている人を探した。
「あれえ……いませんねえ……本当に男の人なんですよね?」
「ああ。たしか田沼二佐……あ、ちょい待ち、内海さんからメール来た」
「なんです?」
浅木さんが立ち止まって、ポケットから携帯電話を取り出す。
「なになに、当日の案内人は葛城二尉というパイロットなり。連絡おっそっ!!」
「……いつものことですよね、そういうハプニング」
やれやれと皆で溜め息をついた。土壇場で急な変更があることはよくあることで珍しくないけど、もう少しなんとかならないものかというのが現場の本音だ。
「ってことは、もう少し若い人を探せば良いんですかね……」
「みたいだな」
あらためて制服の人、もしくはパイロットさんらしき人の姿を探す。そう言えば、いま通りすぎたゲートのところに、ちょっと不機嫌そうな顔して所在なさげに立っている人がいるんだけど、あの人じゃないかな? 制服ではなく、ジャンパーの下にくすんだグリーンのつなぎのようなのを着て、キャップをかぶっている人。写真で見るような制服じゃないけど、なんとなくパイロットっぽくないですか? それにあちらも視線をあちこちに向けて、誰かを探しているようだし。
「あの……もしかして葛城二尉さんですか?」
ゲートへと小走りに引き返し、その人に近寄り思い切って声をかけてみる。あ、胸のところに1st Lt.KATSURAGIって名前が縫い付けられている。この人で間違いないみたいだ。思っていたような制服じゃないけれど、これはこれでカッコいいかも。これなら世の中の女子が、制服に萌え萌えするという気持ちも、分からないでもないかな。
「そうですが、もしかして東都テレビさん?」
その人は私のことを見下ろしてしばらく黙り込んだ後、やっと口を開いた。あれ? 顔ではなく、眼鏡をジッと見られている気がするのは気のせい?
「はい、私、東都テレビの槇村と言います。あ、えっと、これ名刺です」
カバンの中から名刺ケースを引っ張り出し、名刺を出すと葛城さんに差し出す。そして今日はよろしくお願いしますと、頭を下げた。
「どうも。今日と明日の二日間、皆さんの案内を任された葛城です。本来なら広報官の田沼三佐がご案内するのですが、あいにくと体調を崩していまして。自分はパイロットなので、こういうことは不慣れですが……」
「いえ。こちらこそ無理なお願いをしたようで本当に申し訳ありません」
航空祭にこんなに人がたくさん来るって分かっていたら、もっと別の日程で調整したのにって思う。きっと葛城さんだって今日は忙しいはずなのだ。航空祭が開催される日だって、国防のお仕事は年中無休なんだから。
「えーと、槇村さん?」
「はい?」
葛城さんは、恐縮してペコペコと頭を下げている私に、なにか言いたそうな顔をして口を挟んできた。首をかしげて見上げると、ジッとこちらを見て少しだけ笑った、ように見えた。そして自分の鼻のあたりを指で示す。
「眼鏡、落ちますよ?」
言われて初めて、視界に入っていたメガネのフレームが不自然に曲がっていることに気がついた。慌ててずり落ちていた眼鏡をかけなおす。
「すすす、すみません、普段はコンタクトなんですけど、寝坊して慌ててたものですから」
「ああ、なるほど」
納得したというふうに呟くと、葛城さんはうなづいて少し楽しそうに笑みを口元に浮かべた。
「その眼鏡で仕事しているんじゃないって分かって、安心しましたよ」
「は……?」
「深刻なニュースには似合いそうにないから」
それはたしかに。だけど、面と向かって言われると、ちょっと傷つくかもしれない。
「え、あ、私、アナウンサーじゃないですから……」
もしかして、人気の女子アナさんとか先輩リポーターの加賀谷さんとか、そういう美人さんが来るって期待していたのかな? うちの局は、何気に美人アナや美人な先輩リポーターとか多いから。だけどこういう突撃系のリポートは、そういう美人さんより、私達みたいな駆け出しが任されることが多いんだよね。もし期待していたのなら、おあいにくさまでしたとしか言いようがないかな。
「私、まだ新人ですし、入社してから真面目なニュースなんて読んだことないんですよ? どちらかと言うと、裏方的な使い走りが主な仕事で、リポーターも今回が初めてみたいなものなんです。局アナに憧れて入社はしたんですけどね」
「大変ですね。今回のお仕事だって、女性よりも男性の方が向いているような気はしますが」
「……ですよねえ」
まさかクジ引きでなんて口が裂けても言えない。
「じゃあ、今回は初心者な者同士ってことで、よろしくお願いします」
「はい! こちらこそよろしくお願いします。あ、ところで、明日なんですけど、こんな眼鏡でも大丈夫でしょうか?」
自分の眼鏡に触れながら尋ねてみる。
「コンタクトレンズをしているパイロットは多いんですよ。ですから後ろに乗る分には心配ないですよ」
「そう、ですか……」
ちょっと心配ですねとか言われたら、喜んで一緒に来ているカメラマンの浅木さん(裸眼視力1.5)に押しつけようと思っていたのに、無念だ……。
手にしたストローの先っぽをもう一度見つめるが、そこは間違いなく赤く塗られている。二度見しても三度見しても赤いままで、それは“アタリ”を意味している。ただし私にとっては、限りなくハズレに近いことなんだけど。
「あめでとー、槇村ちゃん! お初の現場での体当たりリポ、決定だね♪」
ニコニコ顔の担当ディレクター内海さんの顔に、ゲンコツを食らわしたい衝動に駆られる。ああああ、普段は町内のお祭りのガラガラにさえ当たったことがないのに、どうしてよりによって、今回のお仕事を引き当ててしまったのか。こんなに高いところと飛行機が嫌いなのに……!!
「三輪さん、行きたいって言ってたじゃないですか、ここは是非……」
「ダメダメ、何のためにクジ引きにしたと思ってるのさ。ここで行きたい三輪ちゃんに行かせたら、クジ引きの意味がないだろう」
同じ番組で取材をしている先輩の三輪さんに声をかけたら、内海さんがちょっとだけ怖い顔をしてこちらを睨んできた。
「でも、どうして私なんですかあ……私が飛行機とか高いところが嫌いなの、分かってるじゃないですかあ……嫌いな私が行くより、好きな人がした方が、絶対に良い映像が撮れると思うんですけどぉぉぉ」
「これもお仕事。局からお給料をもらっているんだから、あきらめて行きなさい」
今回、私が当たりを引き当てたのは、某情報バラエティ番組の中で放送される『色々なお仕事』コーナーで使われるもの。しかも今回の取材先は航空自衛隊。そのコーナーでは、取材に行ったリポーターがその職業を体験するってことになっていて、今回の目玉は戦闘機に乗せてもらうというやつだ。
もちろん操縦はしなくて後ろに乗せてもらうだけらしいんだけど、なかなか体験できないことだから、番組内のスタッフからは希望者は殺到した。そのせいでリポーターをクジ引きで決めようってことになったんだけど、どうして行きたくない私までクジを引かなきゃいけないの?! そして、どうしてよりによって、飛行機嫌いで高所恐怖症の私が行くことになってしまったのっっっ?!
「三輪さぁぁぁん」
「アハハハハ、いやあ残念だなぁ、俺、行きたかったのに。槇村ちゃん、戦闘機に乗せてもらった感想を楽しみにしているからガンバレ♪ ああ、その前の低圧訓練もガンバレ♪」
うわーん、鬼だぁぁぁぁ!! 皆して鬼だぁぁぁぁ!!
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その日から私の気分は深海の底まで落ち込んでしまって、ちょっとした深海魚状態。そしてそういうイヤなことって、あっという間に目の前にやってくるのよね。次の日が取材一日目の夜、緊張して胃のがおかしな具合だしドキドキして眠れないし、なのにデジタル時計の表示はどんどん進んでいくし。
「飛ぶのはまだなのに、今からこんなに緊張しちゃってどうするのよぉぉぉぉ」
こんな状態だったから、なんとか眠れたのは外がそろそろ明るくなってくるような時間だった。
「うぎゃああああ!!」
そして次に目が覚めたのは、自宅を出なきゃいけない時間ギリギリ。踏んだり蹴ったりってこういうことかもしれないと思いつつ、慌てて飛び起きて洗面所に走った。
「一日目からなんで寝坊しちゃうかな、私!!」
一瞬、仮病を使って三輪さんに押し付けちゃおうか、なんて考えが頭のすみをよぎった。だけどそれって、やっぱりプロとしてどうなの?って思いとどまる。取材当日に寝坊すること自体が、プロとしてどうなのって突っ込まれそうだけど。
とにかく歯を磨いて顔を洗って……必要最低限のことはしておかないと、局のイメージっていうのもあるし。あああ、お腹が鳴っているけど朝ご飯はパス!!
そしてコンタクト!! こういう時に限ってうまく入らないし!!
絶対に寝不足のせいだと溜め息を一つついて、手にしたのは予備の、内海さん曰く「アラレちゃん眼鏡」。なんでも、内海さんが子供の頃にはやった漫画で、こういう眼鏡をしていたキャラクターがいたらしい。
私だってこんな眼鏡したくないんだよ。だけどコンタクトがうまくおさまらないんだもの、しかたがないじゃない。アラレちゃんだかお煎餅ちゃんだか知らないけれど、見た目はあきらめてもらうしかない。
「……どうせ顔なんて、そんなに見られないだろうし」
うん。あちらもお仕事だから、人の眼鏡のことなんて気にしないよねと自分に言い聞かせて眼鏡をかける。鏡に映った自分の姿を見て、どんよりとした気分になった。
―― きっと収録日には、出演者さん達にいじられるんだろうなあ ――
そんなことを考えたら、さらに憂鬱になってしまった。
これ以上は無いぐらいなドン底気分で自宅を出ると、急いで待ち合わせの場所に向かう。案の定、合流したカメラマンの浅木さんや他のスタッフさん達からも、さんざん眼鏡のことでからかわれた。最終的に、浅木さんの「可愛いから許す」で問題ないとされたけど。
―― あ、眼鏡をはずしたら何も見えないってことは、飛行機に乗る時にはずせば良いんじゃない? 外がボンヤリとしか見えなかったら怖くないかも? ――
あ、これはなかなか名案かも!
+++++
そしてやって来ました、航空自衛隊の航空祭!
別にここに来ること自体はイヤじゃなかった。空を飛ぶのがイヤってだけで、それなりに興味もあったし。あらためて周囲を見回してみると、まだ朝も早い時間だと言うのに、家族づれや女の子達の姿が目につくことに気がついた。こういうのって、マニアックな男性の来場者が多いんだろうって勝手に想像していたんだけど、それは思い込みだったみたいだ。
「今日こちらで案内してくださるのは、広報官の方なんですよね?」
ゲート近くで待っている、それらしい人の姿を探す。広報官をしている人は、航空自衛隊内で色々な部署を回り様々な経験を積んでいる、言わば航空自衛隊の中のベテランさん。つまりはある程度の年齢の人らしい。ってことで年配の制服を着ている人を探した。
「あれえ……いませんねえ……本当に男の人なんですよね?」
「ああ。たしか田沼二佐……あ、ちょい待ち、内海さんからメール来た」
「なんです?」
浅木さんが立ち止まって、ポケットから携帯電話を取り出す。
「なになに、当日の案内人は葛城二尉というパイロットなり。連絡おっそっ!!」
「……いつものことですよね、そういうハプニング」
やれやれと皆で溜め息をついた。土壇場で急な変更があることはよくあることで珍しくないけど、もう少しなんとかならないものかというのが現場の本音だ。
「ってことは、もう少し若い人を探せば良いんですかね……」
「みたいだな」
あらためて制服の人、もしくはパイロットさんらしき人の姿を探す。そう言えば、いま通りすぎたゲートのところに、ちょっと不機嫌そうな顔して所在なさげに立っている人がいるんだけど、あの人じゃないかな? 制服ではなく、ジャンパーの下にくすんだグリーンのつなぎのようなのを着て、キャップをかぶっている人。写真で見るような制服じゃないけど、なんとなくパイロットっぽくないですか? それにあちらも視線をあちこちに向けて、誰かを探しているようだし。
「あの……もしかして葛城二尉さんですか?」
ゲートへと小走りに引き返し、その人に近寄り思い切って声をかけてみる。あ、胸のところに1st Lt.KATSURAGIって名前が縫い付けられている。この人で間違いないみたいだ。思っていたような制服じゃないけれど、これはこれでカッコいいかも。これなら世の中の女子が、制服に萌え萌えするという気持ちも、分からないでもないかな。
「そうですが、もしかして東都テレビさん?」
その人は私のことを見下ろしてしばらく黙り込んだ後、やっと口を開いた。あれ? 顔ではなく、眼鏡をジッと見られている気がするのは気のせい?
「はい、私、東都テレビの槇村と言います。あ、えっと、これ名刺です」
カバンの中から名刺ケースを引っ張り出し、名刺を出すと葛城さんに差し出す。そして今日はよろしくお願いしますと、頭を下げた。
「どうも。今日と明日の二日間、皆さんの案内を任された葛城です。本来なら広報官の田沼三佐がご案内するのですが、あいにくと体調を崩していまして。自分はパイロットなので、こういうことは不慣れですが……」
「いえ。こちらこそ無理なお願いをしたようで本当に申し訳ありません」
航空祭にこんなに人がたくさん来るって分かっていたら、もっと別の日程で調整したのにって思う。きっと葛城さんだって今日は忙しいはずなのだ。航空祭が開催される日だって、国防のお仕事は年中無休なんだから。
「えーと、槇村さん?」
「はい?」
葛城さんは、恐縮してペコペコと頭を下げている私に、なにか言いたそうな顔をして口を挟んできた。首をかしげて見上げると、ジッとこちらを見て少しだけ笑った、ように見えた。そして自分の鼻のあたりを指で示す。
「眼鏡、落ちますよ?」
言われて初めて、視界に入っていたメガネのフレームが不自然に曲がっていることに気がついた。慌ててずり落ちていた眼鏡をかけなおす。
「すすす、すみません、普段はコンタクトなんですけど、寝坊して慌ててたものですから」
「ああ、なるほど」
納得したというふうに呟くと、葛城さんはうなづいて少し楽しそうに笑みを口元に浮かべた。
「その眼鏡で仕事しているんじゃないって分かって、安心しましたよ」
「は……?」
「深刻なニュースには似合いそうにないから」
それはたしかに。だけど、面と向かって言われると、ちょっと傷つくかもしれない。
「え、あ、私、アナウンサーじゃないですから……」
もしかして、人気の女子アナさんとか先輩リポーターの加賀谷さんとか、そういう美人さんが来るって期待していたのかな? うちの局は、何気に美人アナや美人な先輩リポーターとか多いから。だけどこういう突撃系のリポートは、そういう美人さんより、私達みたいな駆け出しが任されることが多いんだよね。もし期待していたのなら、おあいにくさまでしたとしか言いようがないかな。
「私、まだ新人ですし、入社してから真面目なニュースなんて読んだことないんですよ? どちらかと言うと、裏方的な使い走りが主な仕事で、リポーターも今回が初めてみたいなものなんです。局アナに憧れて入社はしたんですけどね」
「大変ですね。今回のお仕事だって、女性よりも男性の方が向いているような気はしますが」
「……ですよねえ」
まさかクジ引きでなんて口が裂けても言えない。
「じゃあ、今回は初心者な者同士ってことで、よろしくお願いします」
「はい! こちらこそよろしくお願いします。あ、ところで、明日なんですけど、こんな眼鏡でも大丈夫でしょうか?」
自分の眼鏡に触れながら尋ねてみる。
「コンタクトレンズをしているパイロットは多いんですよ。ですから後ろに乗る分には心配ないですよ」
「そう、ですか……」
ちょっと心配ですねとか言われたら、喜んで一緒に来ているカメラマンの浅木さん(裸眼視力1.5)に押しつけようと思っていたのに、無念だ……。
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