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先ずは美味しく御馳走さま♪
第二話 格好から入っても……
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葛城さんに案内されながら、私達は航空祭の様子も取材させてもらった。展示されているものの中には、米軍から借り受けた機体もあるとかで、それを見た浅木さんのはしゃぎっぷりと言ったら、もう子供かってな具合で、仕事のこと忘れて完全に素に戻ってカメラを回している。そんなに好きなら、戦闘機に乗るのも変わってくれれば良いのに。
「なに言ってるんだ、女の子がパイロットスーツを着たところが絵になるんじゃないか」
ブツブツ文句を言っている私にカメラを向けながら笑う。いま撮っている映像は番組では使えないけど、こういう本番前の映像を撮っておくのもまた、カメラマンの楽しみなんだそうだ。そんな私達の会話を耳にした葛城一尉が、首をかしげてこちらを見る。
「もしかして乗るのがイヤだとか?」
「……あの私、高いところ嫌いで飛行機に乗るのも嫌いで」
「じゃあどうして今回の取材に?」
「仕事、ですから」
まさかクジで当たりだかハズレだかを引いたなんて、言えるわけがないじゃない。それに、仕事だからっていうのは本当のことだし。葛城さんはこちらをジッと見下ろして、なにやら思案中な感じ。もしかして嘘がバレた? まさかね。
「仕事ですか。まあそういうことにしておきましょうか」
変な笑いが口元に浮かんでいるように見えるのは、気のせいということにしておこう。
「普通こういう体験って、男の人が乗るものだと思うんですけど、葛城さんはどう思います?」
「自分は、女性の議員さんを乗せて飛んだことがありますよ」
「……そうですか」
……無念。
「大丈夫ですよ。槇村さんを乗せて、急旋回したり急降下したりすることはしませんから。自分に限ったことではありませんが、お客さんを乗せている時は大体お行儀よく飛びます」
「と、当然ですよ、そんなことされたら、絶対に気絶しちゃいます」
聞いただけでめまいがする……。
「あの、ちなみにお行儀よく飛ばない時もあるんですか?」
私の質問に、葛城さんはニヤッと笑った。
「オフレコですよ?」
「わかりまた、オフレコで」
「個人的に気に入らない上官や、嫌いな議員を乗せた時は少しだけ脅かしてやります」
「少しって?」
「さあ?」
葛城さんは首をかしげながらとぼける。世の中には知らない方が良いこともあるって言うけど、まさにこれがそうなんじゃないかなって気がしてきた。
建物に入ると、普段パイロットさん達がすごしているお部屋とか、訓練する施設とかを順番に案内してもらう。もっと物々しい壁に仕切られているのかと思っていたら、意外と普通でちょっと拍子抜けな感じかも。そんな感想をポソッと漏らしたら、葛城さんにそれはハリウッド映画の観すぎですよと笑われてしまった。
「槇村さんは実際に戦闘機に乗る訳なので、事前にちょっとした訓練が必要なわけですが、今日はそれをやってもらうことなります」
「はい」
たしか低圧訓練とかいうものだ。
「この訓練を合格しないと後ろに乗せられないんですよ。せっかくですから、高度約三万フィート越えの世界がどんな感じかってことを、今日は是非とも体験してみてください」
「でも、飛んでいる飛行機の中から出るわけじゃないですよね?」
「それでも機内の気圧はかなり下がりますよ? 標高の高い山に車で行ったら、耳がツーンとなりませんか? あれと同じ原理です」
「ああ、確かに」
「それから、緊急脱出の方法なども覚えてもらいます。万が一のことがあった時のために」
「ま、万が一……」
ダメだ、本当にめまいがしてきたし変な汗が出てきたよ。
「ああ、心配ないですよ。今のところ自分は、そんなことになった経験はないので」
そりゃそうだよね。あったらここに立ってないよね……。
「万が一のため、ですよね?」
「そうです、万が一のためです」
「本当に万が一ですよね?」
「はい、万が一です。だけどその前にまずは格好から入りましょうか。パイロットスーツを着たら、なんとなくそれらしい気分になって、少しは怖いのがマシかもしれませんよ」
「そ、そういうものなんてすかね……」
半信半疑な感じで、用意してもらったパイロットスーツに着替えることにした。当然のことながら、お手伝いをしてくれのは女性隊員さん。自分が手伝いますよ?と葛城さんは邪気のない笑顔を浮かべていたけど、待機していた女性隊員さんに、部屋から追い出されてしまった。ドアから出される瞬間、葛城さんが女性隊員に蹴られていたように見えたのは、気のせいかな。
着ながら思うことは、素人の私でもこういうのを身につけると、それなりにそれらしく見えてくるということ。ただし、あくまでもそれらしく止まり。自慢ではないけど私の身長は150センチとちょっと。そのせいか、裾や袖がなんともかんともな状態で、折り曲げなければならない状態。足元の裾は靴の中に突っ込んでしまえば何とか見れたものになったけど、袖は……。
「ちょっと大きかったですね。これより小さいサイズがなくて、申し訳ありません」
手伝ってくれている隊員さんが、私の状態を見て申し訳なさそうに言った。
「いえ。私があともうちょっと、手足が長ければ良かったんですけどね……」
ついでに身長も。ちなみに本来パイロットになるには、少なくとも身長は158センチないとダメらしい。
「袖もグローブをすれば目立たなくなりますから……あ、グローブというのは、手袋のごっついやつだと思っていただければ」
頭の中に、野球選手がしているグローブが浮かんだのが分かったのか、その女性隊員さんがそう付け加えて、実物を見せてくれた。なるほど、たしかに手袋のごっついやつだ。着替え終わると皆が待っている部屋に戻り、まずは服装の紹介を葛城さんの解説つきで収録する。カメラが回っている間、葛城さんはさっきとは打って変わって、真面目な顔つきと口調で、見るからに自衛官ですと言った雰囲気で説明をしてくれた。OKが出てカメラを止めると、ホッと息をついてこちらを見下ろしてニヤリと笑う。
「こういう仕事も大変ですね、なにかをしながらカメラに向かって喋るというのは、意外と難しい」
「でもお上手でしたよ、分かりやすい説明でしたし」
「そうですか? だったら良いんですが」
分かりやすかったというのは本当のこと。難しい専門用語を使わず、素人にでも理解できるような言葉で説明してくれていたのは、聞いていて分かった。
「それはそうと、なかなかお似合いですよ、槇村さん」
「格好から入っても、あまり気分は晴れませんが……」
「そうなんですか?」
「それに同じ格好していても、葛城さんの方が似合ってますし」
「そりゃあ、槇村さんの方が似合っているなんて話になったら、自分の立場が無いじゃないですか。さあ、次どんどん行きますよ~」
時間は限られているんですから、サクサク行きましょうと言いながら私達の前を歩いていく。私達は置いて行かれないように慌てて追いかけた。
「なんだかさっきと違いますよ、葛城さん」
「さっき?」
「収録の時です」
「ああ、そのことですか。全国区に放映される番組ですからね。我々自衛官のイメージを落とす訳にはいきませんから」
「つまり?」
「つまり、さっきのは当然のことながら、よそ行きの顔です」
「……そうなんですか」
「もともと自分は広報官ではありませんので」
「そうでした、すみません」
「いえ。こんな可愛い人を乗せて飛ぶなんてなかなか無いですから。引き受けて良かったです。明日が楽しみだな」
本気とも冗談とも取れる口調でそう言うと、ニッコリと笑いかけてきた。そして後ろにいる浅木さんに、東都テレビさんのリポーターさんってこういう感じの方が多いんですか?なんて聞いている。どうやら私が着替えている間に、男性陣はそれなりに親しくなったようだ。
「ああ、そうだ。肝心なことを聞き忘れていたんですが。皆さん、虫歯は無いですね? 治療中も含めてですが」
そう尋ねると、音声の根岸君が手を上げて治療中ですと言った。
「だったら減圧室には入らないほうが安全かな。そうなったら収録に影響はありますか?」
「音声だけなら、俺一人でもなんとかなりますよ」
「それなら良いんですが」
浅木さんの言葉にうなづく。
「あの、虫歯と減圧となんの関係が?」
「山に登ったりすると、ポテトチップスの袋がパンパンに膨らむ現象は、理解できますか?」
「はい、それは」
「それと同じことなんですよ。歯に穴が空いていると気圧の変化で、そこの空気が膨張して破裂する可能性があるんです。つまり歯が破裂して口の中が血塗れになると」
血塗れ……歯が破裂で口の中が血塗れ……
「……」
「槇村さん?」
「……葛城さん、私なんだか気分が悪くなってきた気がします……」
「虫歯あるんですか?」
「今のところありません。健康な歯だって歯科医の先生からは褒められたとこです」
「だったら心配する必要はないですよ。ちなみに、治療が完了しているものも問題ありませんから、そこは安心してください」
「でも気分が悪くなった気がします……浅木さん、やっぱり変わって欲しいかもです」
「あ、俺、虫歯あったわ、ごめんな、槇村ちゃん。変わってやりたいけど、俺も口の中が血塗れになるのは勘弁だ」
わ、わざとらしい。本当に申し訳ないなあと言っている顔がねそんなふうにニヤニヤしているじゃない。その顔のどこが申し訳ないなのよ、浅木さん!!
そんなわけで午前中は、撮影も兼ねて皆で酸素マスクの取り扱い方や諸々のレクチャーを受けたんだけど、午後からの低圧訓練体験は、私以外のメンバーはガラス越しでの撮影になった。どう考えても、なにの陰謀としか思えない。
「なんだかものすごく不穏な顔してますよ、槇村さん」
「……口の中が血塗れになっても良いので、浅木さん達をここに引きずりこんだらダメでしょうか」
「本人の申告が無ければ、自己責任ということでしらばっくれることもでき来ますが、残念なことに皆さん虫歯ありと申告されていますから。ここで流血事故が起きると、それは我々の責任問題となるわけで」
「……」
「そんな顔してもダメなものはダメです」
「なにも言ってませんよ」
ガラス越しにこちらに手を振っている浅木さんに向かって、ベーッと舌を突き出してみせた。
「そろそろ耳がツーンとしてきましたか?」
「……そうですね。耳がつまってきた感じがしてきました」
「それ、空気抜きできます?」
「鼻をつまんでっていう?」
「そうです」
「それは大丈夫です」
私がきちんとできたのを見届けた葛城さんは、私に酸素マスクをつけさせると隣に座って、同じようにマスクをすると、部屋の外の機器の操作を担当をしている自衛官さんにうなづいてみせた。
「三万六千フィートと言うと約一万一千メートル、かなり空気が薄い状態になりますから、気分が悪くなったら遠慮なく行ってください」
「分かりました」
「現役の自衛官でも、気分が悪くなったりしますからね。仕事だからと言って我慢はしないように」
「なに言ってるんだ、女の子がパイロットスーツを着たところが絵になるんじゃないか」
ブツブツ文句を言っている私にカメラを向けながら笑う。いま撮っている映像は番組では使えないけど、こういう本番前の映像を撮っておくのもまた、カメラマンの楽しみなんだそうだ。そんな私達の会話を耳にした葛城一尉が、首をかしげてこちらを見る。
「もしかして乗るのがイヤだとか?」
「……あの私、高いところ嫌いで飛行機に乗るのも嫌いで」
「じゃあどうして今回の取材に?」
「仕事、ですから」
まさかクジで当たりだかハズレだかを引いたなんて、言えるわけがないじゃない。それに、仕事だからっていうのは本当のことだし。葛城さんはこちらをジッと見下ろして、なにやら思案中な感じ。もしかして嘘がバレた? まさかね。
「仕事ですか。まあそういうことにしておきましょうか」
変な笑いが口元に浮かんでいるように見えるのは、気のせいということにしておこう。
「普通こういう体験って、男の人が乗るものだと思うんですけど、葛城さんはどう思います?」
「自分は、女性の議員さんを乗せて飛んだことがありますよ」
「……そうですか」
……無念。
「大丈夫ですよ。槇村さんを乗せて、急旋回したり急降下したりすることはしませんから。自分に限ったことではありませんが、お客さんを乗せている時は大体お行儀よく飛びます」
「と、当然ですよ、そんなことされたら、絶対に気絶しちゃいます」
聞いただけでめまいがする……。
「あの、ちなみにお行儀よく飛ばない時もあるんですか?」
私の質問に、葛城さんはニヤッと笑った。
「オフレコですよ?」
「わかりまた、オフレコで」
「個人的に気に入らない上官や、嫌いな議員を乗せた時は少しだけ脅かしてやります」
「少しって?」
「さあ?」
葛城さんは首をかしげながらとぼける。世の中には知らない方が良いこともあるって言うけど、まさにこれがそうなんじゃないかなって気がしてきた。
建物に入ると、普段パイロットさん達がすごしているお部屋とか、訓練する施設とかを順番に案内してもらう。もっと物々しい壁に仕切られているのかと思っていたら、意外と普通でちょっと拍子抜けな感じかも。そんな感想をポソッと漏らしたら、葛城さんにそれはハリウッド映画の観すぎですよと笑われてしまった。
「槇村さんは実際に戦闘機に乗る訳なので、事前にちょっとした訓練が必要なわけですが、今日はそれをやってもらうことなります」
「はい」
たしか低圧訓練とかいうものだ。
「この訓練を合格しないと後ろに乗せられないんですよ。せっかくですから、高度約三万フィート越えの世界がどんな感じかってことを、今日は是非とも体験してみてください」
「でも、飛んでいる飛行機の中から出るわけじゃないですよね?」
「それでも機内の気圧はかなり下がりますよ? 標高の高い山に車で行ったら、耳がツーンとなりませんか? あれと同じ原理です」
「ああ、確かに」
「それから、緊急脱出の方法なども覚えてもらいます。万が一のことがあった時のために」
「ま、万が一……」
ダメだ、本当にめまいがしてきたし変な汗が出てきたよ。
「ああ、心配ないですよ。今のところ自分は、そんなことになった経験はないので」
そりゃそうだよね。あったらここに立ってないよね……。
「万が一のため、ですよね?」
「そうです、万が一のためです」
「本当に万が一ですよね?」
「はい、万が一です。だけどその前にまずは格好から入りましょうか。パイロットスーツを着たら、なんとなくそれらしい気分になって、少しは怖いのがマシかもしれませんよ」
「そ、そういうものなんてすかね……」
半信半疑な感じで、用意してもらったパイロットスーツに着替えることにした。当然のことながら、お手伝いをしてくれのは女性隊員さん。自分が手伝いますよ?と葛城さんは邪気のない笑顔を浮かべていたけど、待機していた女性隊員さんに、部屋から追い出されてしまった。ドアから出される瞬間、葛城さんが女性隊員に蹴られていたように見えたのは、気のせいかな。
着ながら思うことは、素人の私でもこういうのを身につけると、それなりにそれらしく見えてくるということ。ただし、あくまでもそれらしく止まり。自慢ではないけど私の身長は150センチとちょっと。そのせいか、裾や袖がなんともかんともな状態で、折り曲げなければならない状態。足元の裾は靴の中に突っ込んでしまえば何とか見れたものになったけど、袖は……。
「ちょっと大きかったですね。これより小さいサイズがなくて、申し訳ありません」
手伝ってくれている隊員さんが、私の状態を見て申し訳なさそうに言った。
「いえ。私があともうちょっと、手足が長ければ良かったんですけどね……」
ついでに身長も。ちなみに本来パイロットになるには、少なくとも身長は158センチないとダメらしい。
「袖もグローブをすれば目立たなくなりますから……あ、グローブというのは、手袋のごっついやつだと思っていただければ」
頭の中に、野球選手がしているグローブが浮かんだのが分かったのか、その女性隊員さんがそう付け加えて、実物を見せてくれた。なるほど、たしかに手袋のごっついやつだ。着替え終わると皆が待っている部屋に戻り、まずは服装の紹介を葛城さんの解説つきで収録する。カメラが回っている間、葛城さんはさっきとは打って変わって、真面目な顔つきと口調で、見るからに自衛官ですと言った雰囲気で説明をしてくれた。OKが出てカメラを止めると、ホッと息をついてこちらを見下ろしてニヤリと笑う。
「こういう仕事も大変ですね、なにかをしながらカメラに向かって喋るというのは、意外と難しい」
「でもお上手でしたよ、分かりやすい説明でしたし」
「そうですか? だったら良いんですが」
分かりやすかったというのは本当のこと。難しい専門用語を使わず、素人にでも理解できるような言葉で説明してくれていたのは、聞いていて分かった。
「それはそうと、なかなかお似合いですよ、槇村さん」
「格好から入っても、あまり気分は晴れませんが……」
「そうなんですか?」
「それに同じ格好していても、葛城さんの方が似合ってますし」
「そりゃあ、槇村さんの方が似合っているなんて話になったら、自分の立場が無いじゃないですか。さあ、次どんどん行きますよ~」
時間は限られているんですから、サクサク行きましょうと言いながら私達の前を歩いていく。私達は置いて行かれないように慌てて追いかけた。
「なんだかさっきと違いますよ、葛城さん」
「さっき?」
「収録の時です」
「ああ、そのことですか。全国区に放映される番組ですからね。我々自衛官のイメージを落とす訳にはいきませんから」
「つまり?」
「つまり、さっきのは当然のことながら、よそ行きの顔です」
「……そうなんですか」
「もともと自分は広報官ではありませんので」
「そうでした、すみません」
「いえ。こんな可愛い人を乗せて飛ぶなんてなかなか無いですから。引き受けて良かったです。明日が楽しみだな」
本気とも冗談とも取れる口調でそう言うと、ニッコリと笑いかけてきた。そして後ろにいる浅木さんに、東都テレビさんのリポーターさんってこういう感じの方が多いんですか?なんて聞いている。どうやら私が着替えている間に、男性陣はそれなりに親しくなったようだ。
「ああ、そうだ。肝心なことを聞き忘れていたんですが。皆さん、虫歯は無いですね? 治療中も含めてですが」
そう尋ねると、音声の根岸君が手を上げて治療中ですと言った。
「だったら減圧室には入らないほうが安全かな。そうなったら収録に影響はありますか?」
「音声だけなら、俺一人でもなんとかなりますよ」
「それなら良いんですが」
浅木さんの言葉にうなづく。
「あの、虫歯と減圧となんの関係が?」
「山に登ったりすると、ポテトチップスの袋がパンパンに膨らむ現象は、理解できますか?」
「はい、それは」
「それと同じことなんですよ。歯に穴が空いていると気圧の変化で、そこの空気が膨張して破裂する可能性があるんです。つまり歯が破裂して口の中が血塗れになると」
血塗れ……歯が破裂で口の中が血塗れ……
「……」
「槇村さん?」
「……葛城さん、私なんだか気分が悪くなってきた気がします……」
「虫歯あるんですか?」
「今のところありません。健康な歯だって歯科医の先生からは褒められたとこです」
「だったら心配する必要はないですよ。ちなみに、治療が完了しているものも問題ありませんから、そこは安心してください」
「でも気分が悪くなった気がします……浅木さん、やっぱり変わって欲しいかもです」
「あ、俺、虫歯あったわ、ごめんな、槇村ちゃん。変わってやりたいけど、俺も口の中が血塗れになるのは勘弁だ」
わ、わざとらしい。本当に申し訳ないなあと言っている顔がねそんなふうにニヤニヤしているじゃない。その顔のどこが申し訳ないなのよ、浅木さん!!
そんなわけで午前中は、撮影も兼ねて皆で酸素マスクの取り扱い方や諸々のレクチャーを受けたんだけど、午後からの低圧訓練体験は、私以外のメンバーはガラス越しでの撮影になった。どう考えても、なにの陰謀としか思えない。
「なんだかものすごく不穏な顔してますよ、槇村さん」
「……口の中が血塗れになっても良いので、浅木さん達をここに引きずりこんだらダメでしょうか」
「本人の申告が無ければ、自己責任ということでしらばっくれることもでき来ますが、残念なことに皆さん虫歯ありと申告されていますから。ここで流血事故が起きると、それは我々の責任問題となるわけで」
「……」
「そんな顔してもダメなものはダメです」
「なにも言ってませんよ」
ガラス越しにこちらに手を振っている浅木さんに向かって、ベーッと舌を突き出してみせた。
「そろそろ耳がツーンとしてきましたか?」
「……そうですね。耳がつまってきた感じがしてきました」
「それ、空気抜きできます?」
「鼻をつまんでっていう?」
「そうです」
「それは大丈夫です」
私がきちんとできたのを見届けた葛城さんは、私に酸素マスクをつけさせると隣に座って、同じようにマスクをすると、部屋の外の機器の操作を担当をしている自衛官さんにうなづいてみせた。
「三万六千フィートと言うと約一万一千メートル、かなり空気が薄い状態になりますから、気分が悪くなったら遠慮なく行ってください」
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