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先ずは美味しく御馳走さま♪
第四話 眼鏡っ子ロックオンされる?
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「槇村さん、そろそろ目を開けても大丈夫ですよ」
葛城さんの声に、ギュっと閉じていた目をそろりと開ける。
後ろのシートに座らされ、しかるべきものがしかるべきところに、ちゃんと繋がっているかどうか、確認してもらっている間、それをしてくれた年配の整備士さんが、何気ない冗談を言って笑わせてくれたりして、少しは緊張が紛れはしてたんだけど、それも一瞬のこと。葛城さんが乗り込んできて離陸準備を始めると、もう気分は“どうか神様お助けを”な感じだった。それでも仕事は仕事だし、映像は撮らなきゃいけない。とにかく渡された小型のビデオカメラを手にすると、葛城さんが管制の人とお話しているのを邪魔しないように黙って回し続けた。
この際だから白状すると、フレームに葛城さんの姿と外の景色の映像が映り込んでいることを確認した後は、怖いから黙っているのをこれ幸いにとずっと目を閉じたままだった。まさか葛城さんが、それに気がついているとは思わなかったけれど。
「槇村さん? まさか寝ちゃったんですか?」
「起きてますよ。寝られるわけないじゃないですか、こんな騒音の中で」
「いや、意外と寝ちゃえる人なんじゃないかと思ってましたが」
「それは寝るというより、気絶に近いと思います」
とにかく車なんか比じゃないぐらいの音。お互いに通信マイクが無かったら、絶対に会話なんて成り立たないレベルだと思う。ってことはビデオの方の音声って一体どんなことになっているやら……。一応解説するなら喋っておけ、後で何とか調整するとか言われているけど大丈夫なのかな。
「外、ちゃんと撮ってますか?」
「撮ってますよ」
「その割には、カメラが前を向きっぱなしですよ。せっかく雲一つ無く、市街地がくっきり見下ろせるんです、それを撮ってみては?」
「……こっちのことは私に任せて、運転に集中してください」
「これは運転ではなく操縦というものでして」
「揚げ足とる人は嫌いです、ぅひゃっ」
ガクンッと機体が揺れたので、思わず声が漏れた。
「い、今のわざとですよね?!」
「槇村さんのせいですよ。嫌いだなんて言われて、ショックで思わず手に力が入りました」
「ととととにかく、そっちはそっちのお仕事に集中してください!」
笑いを含んだ声で、了解しましたという返事が返ってきた。絶対にわざとだ、酷い人なんだから。
気を取り直して横にカメラを向ければ、そこは青い空と、ところどころにプカプカ浮かぶ白い雲しか見えない。これ、どのぐらいの高さなんだろう。ある程度の高さまですぐに上昇するのは、低空で飛行すると騒音で、近隣の民家に迷惑がかかるかららしかった。それを聞いて、訓練するのも色々と気を遣うんだなあって思った。
それからは、あらかじめ決められていた質問事項を葛城さんにして、そこからはパトロールや訓練でどういうことをするかとか、実際にスクランブルした場合の対処方法などを聞かせてもらった。まあこの会話が、きちんと聞き取れる音声として、カメラに入っているかは疑問だけど。そこは私の記憶と、音声さんの腕にかかっているわけだ。
+++++
「それで、少しは考えが変わりましたか?」
安定感ばっちりの地面に降りて、カメラを浅木さんに渡し、映り具合を確認していたところで葛城さんが声をかけてきた。
「なにがですか?」
「飛ぶの嫌いってやつです」
「……」
そう尋ねられて、ちょっとだけ考え込む。飛行機に乗るのはやっぱり怖いし飛ぶのも好きじゃない。だけどもう一度、葛城さんの後ろに乗せてもらえることになったって言われたら、乗せてもらっても良いかもしれないなって思う。まあ、途中でガクンッとされたのはちょっと腹が立ったし怖かったので、今度は絶対にしないって約束してくれたらだけど。
「槇村さーん、聞こえませんよー」
「当然ですよ、なにも言ってないんですから」
「葛城さん、槇村は気に入ったと思いますよ。降りて来た時の顔が、超ご機嫌って感じでしたから」
浅木さんったら余計なことを!! そんなことないです!と否定しても“またまた、誤魔化すことないじゃないか”とか言ってニヤニヤしている。
「違いますよ! ちゃんとした画像が撮れていたから、喜んでいただけです」
「隠しても無駄無駄。何年の付き合いだと思ってんだよ」
「なに言ってるんですか! 浅木さんと一緒にお仕事するようになって、まだ1年未満じゃないですか」
「とにかく、飛行機嫌いの槇村も、今回の体験は気に入ったようですよ」
浅木さんの言葉に、ニッコリと笑う葛城さん。
「そうですか、じゃあまた遊びに来てください」
なんとなくその笑顔に、黒い成分が含まれているような気がするのは気のせいかな。いや、気のせいじゃないと思う。絶対にあの笑みには、黒い成分が含まれている。だって上にいた時に、慣れたらエル何とかロールしても平気になりますよとか笑いながら言っていたし、これってまた乗せる気満々ってことじゃ? しかも何とかロールって名前からして、クルクル回ることだよね、きっと。
「ところで、今回の収録した分の放映はいつになるんですか?」
「3週間後の放送に間に合うようにしたいと思っています。防大の学生さんに取材する分もあって、その辺との編集作業がまだ残っているので」
「それにも槇村さんが?」
「いえ、こいつは体験メインなんで、もう一人が今日あちらで取材させてもらってますよ」
「そうですか。放映、楽しみにしていますよ」
これで一通りの仕事が終わったということで、オフモードになってミリオタに戻った浅木さんが、色々と葛城さんに質問をし始めた。私はその間に、服を着替えをさせてもらうことにする。一緒に部屋まで行ってくれるのは、戦闘機に乗った時に冗談を言って笑わせてくれた、年配の整備士さん。着替える時に手伝ってくれた女性隊員さんが、部屋までエスコートする予定だったらしいんだけど、なにやら別の仕事で遅れているそうだ。まあ、脱ぐだけなら私一人でもなんたかなると思う。多分。
部屋でパイロットスーツを脱いで、自分の服に着替えるとホッとする。やっぱり自分の服が一番落ち着く。鏡の前できちんと髪や服が乱れていないかチェックして、外で待っていてくれた整備士さんに声をかけた。
「ありがとうございました。お借りしたパイロットスーツ、一応ちゃんとたたんだつもりなんですけど……」
「大丈夫だよ、どうせ洗濯して備品庫に戻すものだから」
「色々と大変なんですね」
「まあ、すべてが税金でまかなわれているものだし、なんといっても軍用品だから管理が厳しいのは当然でね。皆さんを信用していないわけじゃないんだが、貸し出したものがきちんと返却されているか確認しなくてはならない規則なんだ」
「そういうのが厳しいのは、武器だけかと思ってました」
「これも同じ扱いなんだよ」
パタパタ走ってくる足音が聞こえて慌てた感じのノックの音がした。
「どうぞー」
「すみません、遅れてしまって!」
息を切らして女性隊員が部屋に入ってきた。
「すべてそろっているはずだが、再度の確認頼みます」
「分かりました。東都テレビさんは帰っていただいて大丈夫ですよ。後のことは、こちらでやっておきますから」
「じゃあお言葉に甘えて。今回は色々とお世話になりました」
「いえ、こちらこそ。私も放映を楽しみにしてますね」
なんだか面と向かって楽しみとか言われると恥ずかしいな。そんなことを思いながら部屋の外に出ると、葛城さんが立っていた。あれ? さっきまで浅木さんと話していたはずなのに。しかも着ているのが私服になってるし、なんなのその早技。
「槇村さん、昨日の低圧訓練の時に言ったこと覚えてます?」
「?」
「うまい飯を御馳走するってやつですよ、自分は勤務時間が終わったので、もし良ければ行きませんか」
「おいおい、こんなところでナンパか?」
葛城さんの言葉に、整備士さんが呆れたやつだなと笑った。
「お言葉はありがたいんですけど、他の取材メンバーもいますし」
「ああ、浅木さん達ね。きちんと責任を持って最寄の駅まで送りますって、全員の前で宣誓したらOKもらえましたよ? 浅木さんには、槇村さんはここしばらくまともに食べてないみたいだから、食わせてやって欲しいとまで言われましたが」
「……」
状況が急転しすぎて、頭がついていきません、神様。本当にこういう時の男同士の団結力って、女の私には理解できない。
「気の毒になあ、お嬢さん。葛城にロックオンされちゃったみたいだぞ」
「そんなんじゃありませんよ、ただ食事に誘っているだけです。一緒に飛んだ仲ですし」
「ほらね。一緒に飛んだ仲って、言葉からして怪しいでしょ」
そんなことを私に言われても困ってしまう。そしてさらに困ったことに、私のお腹は飛ぶことが終わったとたんに、に空腹を訴え出しているのだ。お腹すいた、ご飯食べたい。
「さあ、行きますよ、ちゃんと後ろに乗せてあげますから、御安心を」
後ろって?と尋ねる間もなく、引っ張っていかれたので整備士さんにお礼も御挨拶もできなかった。とは言え後ろを振り向いた時、こちらを見て笑いながら、帽子を片手で振っていたので、見送ってくれてはいたんだと思う、多分。
+++
「……葛城さん?」
「なんでしょう?」
「自転車の二人乗りっていけないんじゃ?」
「あー……かもしれませね、俺、陸地を走る乗り物のことは詳しくなくて」
何故かママチャリの後ろに乗せられて、向かっているのは御近所の商店街らしい。横座りをして、葛城さんの腰に手を回しているのはしかたが無いとして、何気なく道路に目をやったら、横で信号待ちをしていたパトカーのお兄さんと、まともに目があってしまった。あまりにもガン見され続けたので、気まずくなって思わずエヘッと笑ったら、助手席に座っていたお巡りさんも、苦笑い気味な笑みを浮かべてくれた。
「見られてますよ……」
「誰にですか」
「お巡りさんに」
私の言葉に、パトカー方に目を向けると愛想よく“お疲れ様です~”と声をかけている。あちらからは“気をつけて下さいよ、本当はダメなんですからね”と軽く注意を受けただけですんだ。
「もしかして、顔見知りさんとかですか?」
「たまにパトロールしているのを見かける人ですよ。あちらは俺が自衛官とは知らないでしょうが」
知っていたらきっと厳重注意されると思う。
「公務員がルール違反だなんて」
「臨機応変なんでしょ?」
「それ言ったら映画の世界だって言ったじゃないですか」
「あっちのルール違反の方がずっと大事じゃないですか、公文書偽造ですよ? 槇村さんはそれをする気満々だったじゃないですか」
「私は公務員じゃありませんから」
「報道に携わる人間が法律違反だなんて……」
恐ろしくて震えてきますねえと言いつつ、人がいないことを良いことに、歩道で蛇行運転するとかやめて欲しい。しかも槇村さん落っこちないでくださいね~と笑いながらとか!!
葛城さんの声に、ギュっと閉じていた目をそろりと開ける。
後ろのシートに座らされ、しかるべきものがしかるべきところに、ちゃんと繋がっているかどうか、確認してもらっている間、それをしてくれた年配の整備士さんが、何気ない冗談を言って笑わせてくれたりして、少しは緊張が紛れはしてたんだけど、それも一瞬のこと。葛城さんが乗り込んできて離陸準備を始めると、もう気分は“どうか神様お助けを”な感じだった。それでも仕事は仕事だし、映像は撮らなきゃいけない。とにかく渡された小型のビデオカメラを手にすると、葛城さんが管制の人とお話しているのを邪魔しないように黙って回し続けた。
この際だから白状すると、フレームに葛城さんの姿と外の景色の映像が映り込んでいることを確認した後は、怖いから黙っているのをこれ幸いにとずっと目を閉じたままだった。まさか葛城さんが、それに気がついているとは思わなかったけれど。
「槇村さん? まさか寝ちゃったんですか?」
「起きてますよ。寝られるわけないじゃないですか、こんな騒音の中で」
「いや、意外と寝ちゃえる人なんじゃないかと思ってましたが」
「それは寝るというより、気絶に近いと思います」
とにかく車なんか比じゃないぐらいの音。お互いに通信マイクが無かったら、絶対に会話なんて成り立たないレベルだと思う。ってことはビデオの方の音声って一体どんなことになっているやら……。一応解説するなら喋っておけ、後で何とか調整するとか言われているけど大丈夫なのかな。
「外、ちゃんと撮ってますか?」
「撮ってますよ」
「その割には、カメラが前を向きっぱなしですよ。せっかく雲一つ無く、市街地がくっきり見下ろせるんです、それを撮ってみては?」
「……こっちのことは私に任せて、運転に集中してください」
「これは運転ではなく操縦というものでして」
「揚げ足とる人は嫌いです、ぅひゃっ」
ガクンッと機体が揺れたので、思わず声が漏れた。
「い、今のわざとですよね?!」
「槇村さんのせいですよ。嫌いだなんて言われて、ショックで思わず手に力が入りました」
「ととととにかく、そっちはそっちのお仕事に集中してください!」
笑いを含んだ声で、了解しましたという返事が返ってきた。絶対にわざとだ、酷い人なんだから。
気を取り直して横にカメラを向ければ、そこは青い空と、ところどころにプカプカ浮かぶ白い雲しか見えない。これ、どのぐらいの高さなんだろう。ある程度の高さまですぐに上昇するのは、低空で飛行すると騒音で、近隣の民家に迷惑がかかるかららしかった。それを聞いて、訓練するのも色々と気を遣うんだなあって思った。
それからは、あらかじめ決められていた質問事項を葛城さんにして、そこからはパトロールや訓練でどういうことをするかとか、実際にスクランブルした場合の対処方法などを聞かせてもらった。まあこの会話が、きちんと聞き取れる音声として、カメラに入っているかは疑問だけど。そこは私の記憶と、音声さんの腕にかかっているわけだ。
+++++
「それで、少しは考えが変わりましたか?」
安定感ばっちりの地面に降りて、カメラを浅木さんに渡し、映り具合を確認していたところで葛城さんが声をかけてきた。
「なにがですか?」
「飛ぶの嫌いってやつです」
「……」
そう尋ねられて、ちょっとだけ考え込む。飛行機に乗るのはやっぱり怖いし飛ぶのも好きじゃない。だけどもう一度、葛城さんの後ろに乗せてもらえることになったって言われたら、乗せてもらっても良いかもしれないなって思う。まあ、途中でガクンッとされたのはちょっと腹が立ったし怖かったので、今度は絶対にしないって約束してくれたらだけど。
「槇村さーん、聞こえませんよー」
「当然ですよ、なにも言ってないんですから」
「葛城さん、槇村は気に入ったと思いますよ。降りて来た時の顔が、超ご機嫌って感じでしたから」
浅木さんったら余計なことを!! そんなことないです!と否定しても“またまた、誤魔化すことないじゃないか”とか言ってニヤニヤしている。
「違いますよ! ちゃんとした画像が撮れていたから、喜んでいただけです」
「隠しても無駄無駄。何年の付き合いだと思ってんだよ」
「なに言ってるんですか! 浅木さんと一緒にお仕事するようになって、まだ1年未満じゃないですか」
「とにかく、飛行機嫌いの槇村も、今回の体験は気に入ったようですよ」
浅木さんの言葉に、ニッコリと笑う葛城さん。
「そうですか、じゃあまた遊びに来てください」
なんとなくその笑顔に、黒い成分が含まれているような気がするのは気のせいかな。いや、気のせいじゃないと思う。絶対にあの笑みには、黒い成分が含まれている。だって上にいた時に、慣れたらエル何とかロールしても平気になりますよとか笑いながら言っていたし、これってまた乗せる気満々ってことじゃ? しかも何とかロールって名前からして、クルクル回ることだよね、きっと。
「ところで、今回の収録した分の放映はいつになるんですか?」
「3週間後の放送に間に合うようにしたいと思っています。防大の学生さんに取材する分もあって、その辺との編集作業がまだ残っているので」
「それにも槇村さんが?」
「いえ、こいつは体験メインなんで、もう一人が今日あちらで取材させてもらってますよ」
「そうですか。放映、楽しみにしていますよ」
これで一通りの仕事が終わったということで、オフモードになってミリオタに戻った浅木さんが、色々と葛城さんに質問をし始めた。私はその間に、服を着替えをさせてもらうことにする。一緒に部屋まで行ってくれるのは、戦闘機に乗った時に冗談を言って笑わせてくれた、年配の整備士さん。着替える時に手伝ってくれた女性隊員さんが、部屋までエスコートする予定だったらしいんだけど、なにやら別の仕事で遅れているそうだ。まあ、脱ぐだけなら私一人でもなんたかなると思う。多分。
部屋でパイロットスーツを脱いで、自分の服に着替えるとホッとする。やっぱり自分の服が一番落ち着く。鏡の前できちんと髪や服が乱れていないかチェックして、外で待っていてくれた整備士さんに声をかけた。
「ありがとうございました。お借りしたパイロットスーツ、一応ちゃんとたたんだつもりなんですけど……」
「大丈夫だよ、どうせ洗濯して備品庫に戻すものだから」
「色々と大変なんですね」
「まあ、すべてが税金でまかなわれているものだし、なんといっても軍用品だから管理が厳しいのは当然でね。皆さんを信用していないわけじゃないんだが、貸し出したものがきちんと返却されているか確認しなくてはならない規則なんだ」
「そういうのが厳しいのは、武器だけかと思ってました」
「これも同じ扱いなんだよ」
パタパタ走ってくる足音が聞こえて慌てた感じのノックの音がした。
「どうぞー」
「すみません、遅れてしまって!」
息を切らして女性隊員が部屋に入ってきた。
「すべてそろっているはずだが、再度の確認頼みます」
「分かりました。東都テレビさんは帰っていただいて大丈夫ですよ。後のことは、こちらでやっておきますから」
「じゃあお言葉に甘えて。今回は色々とお世話になりました」
「いえ、こちらこそ。私も放映を楽しみにしてますね」
なんだか面と向かって楽しみとか言われると恥ずかしいな。そんなことを思いながら部屋の外に出ると、葛城さんが立っていた。あれ? さっきまで浅木さんと話していたはずなのに。しかも着ているのが私服になってるし、なんなのその早技。
「槇村さん、昨日の低圧訓練の時に言ったこと覚えてます?」
「?」
「うまい飯を御馳走するってやつですよ、自分は勤務時間が終わったので、もし良ければ行きませんか」
「おいおい、こんなところでナンパか?」
葛城さんの言葉に、整備士さんが呆れたやつだなと笑った。
「お言葉はありがたいんですけど、他の取材メンバーもいますし」
「ああ、浅木さん達ね。きちんと責任を持って最寄の駅まで送りますって、全員の前で宣誓したらOKもらえましたよ? 浅木さんには、槇村さんはここしばらくまともに食べてないみたいだから、食わせてやって欲しいとまで言われましたが」
「……」
状況が急転しすぎて、頭がついていきません、神様。本当にこういう時の男同士の団結力って、女の私には理解できない。
「気の毒になあ、お嬢さん。葛城にロックオンされちゃったみたいだぞ」
「そんなんじゃありませんよ、ただ食事に誘っているだけです。一緒に飛んだ仲ですし」
「ほらね。一緒に飛んだ仲って、言葉からして怪しいでしょ」
そんなことを私に言われても困ってしまう。そしてさらに困ったことに、私のお腹は飛ぶことが終わったとたんに、に空腹を訴え出しているのだ。お腹すいた、ご飯食べたい。
「さあ、行きますよ、ちゃんと後ろに乗せてあげますから、御安心を」
後ろって?と尋ねる間もなく、引っ張っていかれたので整備士さんにお礼も御挨拶もできなかった。とは言え後ろを振り向いた時、こちらを見て笑いながら、帽子を片手で振っていたので、見送ってくれてはいたんだと思う、多分。
+++
「……葛城さん?」
「なんでしょう?」
「自転車の二人乗りっていけないんじゃ?」
「あー……かもしれませね、俺、陸地を走る乗り物のことは詳しくなくて」
何故かママチャリの後ろに乗せられて、向かっているのは御近所の商店街らしい。横座りをして、葛城さんの腰に手を回しているのはしかたが無いとして、何気なく道路に目をやったら、横で信号待ちをしていたパトカーのお兄さんと、まともに目があってしまった。あまりにもガン見され続けたので、気まずくなって思わずエヘッと笑ったら、助手席に座っていたお巡りさんも、苦笑い気味な笑みを浮かべてくれた。
「見られてますよ……」
「誰にですか」
「お巡りさんに」
私の言葉に、パトカー方に目を向けると愛想よく“お疲れ様です~”と声をかけている。あちらからは“気をつけて下さいよ、本当はダメなんですからね”と軽く注意を受けただけですんだ。
「もしかして、顔見知りさんとかですか?」
「たまにパトロールしているのを見かける人ですよ。あちらは俺が自衛官とは知らないでしょうが」
知っていたらきっと厳重注意されると思う。
「公務員がルール違反だなんて」
「臨機応変なんでしょ?」
「それ言ったら映画の世界だって言ったじゃないですか」
「あっちのルール違反の方がずっと大事じゃないですか、公文書偽造ですよ? 槇村さんはそれをする気満々だったじゃないですか」
「私は公務員じゃありませんから」
「報道に携わる人間が法律違反だなんて……」
恐ろしくて震えてきますねえと言いつつ、人がいないことを良いことに、歩道で蛇行運転するとかやめて欲しい。しかも槇村さん落っこちないでくださいね~と笑いながらとか!!
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