彼と私と空と雲

鏡野ゆう

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盛り上げるの頑張ってます

第六話 ニヤニヤ狼が考える良からぬこと

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「……」
「そんなに睨んでも無駄だってのは分かってるんだろ? って言うか本気で嫌がってないよな?」

 お湯につかりながらちょっと恨めし気な目で葛城さんを睨んでみたけど全く効果なし。それどころか目の前でシャンプーしているエロパイロットさんは面白がっているようで私の顔をニヤニヤしながら横目で見ていた。

「だいたいな、自分の食欲と俺の性欲のどっちが大事なんだって話はそのまま優にも言えることなんだぞ?」
「どういうこと?」
「自分の食欲と恋人の性欲とどっちが大事なんだって話だよ」
「私の食欲に決まってる」

 きっぱりはっきり言ったら即答かよと葛城さんが呆れたように呟いた。

「だってそうじゃない、欲求不満では死なないけど空腹でなら死んじゃうもの、だから食欲の方が大事」
「俺は欲求不満でも死ぬぞ」
「嘘ばっかり。今だって大人しいものじゃない、そこの人」

 そう言って葛城さんの股間を指す。

「そこの人とか指さすなよ、まったくはしたないぞ、槇村さん」
「私がはしたなくなったのは間違いなく葛城さんのせいです」
「確かに俺のお蔭でエロい体にはなったかもな」

 だからどうして「葛城さんのせい」が都合よく「葛城さんのお蔭」に脳内変換されてしまうのか。それにお言葉ですがエロい体になんてなってないんだからね!!

「熱々でカリカリのたこ焼き、楽しみにしていたのになぁ……」
「まだ言うか。温め直せば熱々だろ?」
「熱々にはなるけどカリカリはなくなっちゃうじゃない、レンジでチンしたらふにゃふにゃだもの」

 ふぅと溜め息をついて湯船の縁に顎を乗せた。葛城さんは俺よりたこ焼きの食感の方が大事なのかとブツブツ言いながらシャワーで泡をすすいでいる。

「ふん、あのカリカリ感が美味しいのにその良さが分からないなんて葛城さんは私の恋人として失格だよ」
「どうしてそこが合否の基準なんだよ」
「食べ物の恨みは怖いんだからね」

 やれやれと首を振りながらシャンプーを終えた葛城さんは私のことを端っこに追いやって湯船に入ってきた。

「まあそこら辺は後でちゃんと埋め合わせをしますよ、俺の体で」
「それって埋め合わせになっていないような気がする」
「気のせい気のせい。ところで……」

 どう考えても私の埋め合わせにはなって無いような気がするんだけどなあ。

「さすがに二人で入るには狭いよな、官舎の風呂は」
「大人しく一人ずつ入れば問題ないじゃない」
「それはイヤだ」

 後ろから私のことを引き寄せて足の間に座らせるとくっついたままでお湯の中でまったりする。ピッタリとくっついてはいるけれど狭いせいもあって、普段ならあれこれ悪戯をしてくる葛城さんもお風呂の中では比較的大人しい。あくまでも「比較的」ってことだけど。

「もし二人で暮らすんなら湯船がもう少し大きい物件を探さなきゃな」
「……どういうこと?」
「だってそうだろ? 狭いとあれこれ出来ないじゃないか」
「そうじゃなくて、二人で暮らすって?」

 葛城さんがしたいらしい「あれこれ」も気になるけどどうしてそんな話になったのかの方が気になる。本人の顔が見たくて身体をひねって向かい合わせのように座り直す。確かにもう少し広くないとこういうことをするのも大変かな……とか思いながら。

「もしかして私に黙って良からぬことを考えているとかないよね?」
「良からぬことって?」

 彼なりに無邪気な顔を装ってはいるんだろうけど普段が普段なだけに怪しさ満載、胡散臭いことこの上ない。きっと私のそんな考えが伝わったんだろうと思う、葛城さんは溜息をついて微笑んだ。

「たまに優と一緒に暮したら楽しいだろうなって考えることがあってそのせいでうっかり口が滑っただけだよ。別に良からぬサプライズなんて考えてないから」
「本当に?」
「ああ」

 それからいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「そうだなあ……もし俺が本気で良からぬことをするつもりなら先ずは問答無用で優のことをベッドに縛りつけて一週間ぐらいはやりまくり、かな?」
「ちょっと」
「で、赤ん坊ができたら問答無用で婚姻届を書かせて一生縛りつける、だな」
「なんか言ってることがヤンデレってぽくない?」

 そりゃ簀巻きにして問答無用で飛行機に乗せるとか言わないだけましだけど。

「まあ仕方ないから今の仕事を続けることは認めてやろうかな」
「冗談には聞こえない……しかも超上から目線」

 葛城さんがその気になったら本当にそんなことをしそうで怖い。

「だが優、ちゃんと言われた通りに気持ち的な盛り上げを頑張っている俺にそろそろ御褒美をくれても良いだろ?」
「いつも御褒美くれとか言って私のことベッドに引き摺り込むくせにまだ何か欲しいの?」
「欲しい」

 何て言うか自分に正直だよね。

「それで? 飛行機に乗る以外のことならそれなりに善処してあげるけど」
「ここに俺と優の赤ん坊」

 そう言いながら私のお腹に触れてきた。

「赤ちゃん? 葛城さん、赤ちゃんが欲しいの?」
「俺と優のな……いててててっ、なんだよ!!」

 両頬を思いっきりつねる。

「なんだよじゃないでしょ!! 良からぬことを考えてないとか護衛艦に乗っている時だってこんな場所で急にプロポーズなんてしないとか言っておきながら!! 今しているのは何?!」
「……」
「なによ」
「戦闘機のことは飛行機って言うくせに護衛艦は護衛艦なんだな」

 気にするとこはそこなのか! なんか無性に腹が立ってきた!!

「それと俺はまだプロポーズしているつもりはないぞ。御褒美は何が良いかって質問されたから正直に答えただけで……おい、なんでそんな不穏な顔をしてお湯の中を覗いてるんだ」
「ほっぺただけつねっても足りない気がしてきた……」
「おい、よせ」

 お湯の中の息子さんに手を伸ばしたところで慌てた葛城さんに手首を掴まれる。

「大層ご立腹なのは分かったから。とにかく今言った通り、御褒美に何が欲しいかって聞かれたから自分の欲しいものを言っただけなんだ。期待しているなら申し訳ないがその勢いで何かしようとは思ってない」
「別に期待してるわけじゃないよ」

 今はまだね。

「だよな、今の顔はそんなことを期待している顔じゃない」

 だけど葛城さんの方も本当にそうなのかな? 油断していたら気が付いた時には葛城さんの思い通りに事が進んじゃっていたなんてことにならない?

「しかしそこまで腹を立てるってことは、それなりに俺との将来について考えてくれているって判断していいんだよな?」
「何をどう進めるにしても、お付き合いを始めた時みたいになし崩しで流されちゃって~みたいなのが嫌なだけ」

 それは分かっていると葛城さんは頷いた。

「じゃあいずれは俺が欲しい御褒美をくれる気はあるってことでOK?」
「きちんとしてくれたらね」
「何を?」
「ねじ切っちゃっても良いですかー?」
「やめろって」

 やれやれ。去年の今頃はこんな風に男の人と一緒にお風呂に入りながらその息子さんをねじ切っちゃうぞなんて自分が言うとは思ってもみなかったよ。

「ところで槇村さんや」
「なによ」

 私って葛城さんと付き合うようになってから間違いなくはしたなくなった?などと考えていたから返事も上の空で目の前にいるエロパイロットさんがニヤリと黒い笑みを浮かべたことに気が付いてなかった。

「たこ焼きから話が逸れてすっかり忘れていたが、これからの時間ってもともとは俺と巻波のことを優が疑ったお仕置きタイムなんだよなぁ?」
「え? そ、そうだったかな?」

 なんでそういうことだけタイミングよく思い出しちゃうかな?

「さて、風呂を出たら楽しいお仕置きタイムですよ、槇村さん♪」
「私、疑ってなんかいないのに!」

 それに楽しいのは葛城さんだけじゃ? 私はこのままパジャマを着てたこ焼を食べてから朝まで熟睡させてもらっても良いんだよ?

「それと俺が凄いことも証明しないといけないんだよな?」
「だからそれだって訂正したじゃない!」
「取って付けたようにだけどな~」

 ニッコリと微笑んだ顔が怖い。

「あの、お風呂上がりのたこ焼きは?」
「明日の朝飯かな? 昼飯かな?」
「まじっすか」

 やっぱり車の中で一個だけでも食べておけば良かったよ!


+++


「ねえ、葛城さん」

 お風呂から上がった私達はそのままベッドに直行……葛城さんはそうしたかったんだろうけど、髪だけは何としてでも乾かしたいと私が言い張ったのでその希望だけはかなえられた。但しバスタオルを体に巻きつけただけで彼の膝に座りながらという謎な状態で、お蔭で温風が後ろの椅子人間さんに当たらないようにって気を遣っちゃってやりにくいことこの上ない。

「ん?」
「さっきから何してるの?」

 葛城さんが私のことを膝の上に座らせて大人しくしている筈もなく、邪魔するように肩やら首にキスをしていたんだけど何となく感触がそれだけじゃないんだよね。こっちはドライヤーの風が当たらないようにって気を遣っているのにまったくもう。

「これでまたしばらく優には会えないからな。馬鹿な誰かが声をかけてこないようにマーキング」
「私は明後日から仕事なんだけど」
「しばらく髪はアップにしない方が良いぞ。まあ見せびらかしたいならアップもどうぞって感じだが」

 そう言いながら耳の下をきつく吸ってきた。

「あ! そんなところにつけたらアップにしなくても見えちゃうってば」
「マーキングは見えなきゃ意味ないだろ」
「まったくもう……」

 ドライヤーで一発殴っても良いかな?

「もちろんここだけじゃなくて見えない場所にもつけて差し上げるつもりでいるのでどうぞ御安心ください」

 そう言いながら私の手からドライヤーを取り上げてスイッチを切ると、それを足元に放り出してから私のことを同じようにベッドに放り投げた。

「お仕置きタイムなのに俺って優しいだろ?」
「どこがっ」

 文句を言い続けようとしたけどそこは葛城さんの方が一枚上手で素早くキスで口を塞がれてしまった。そして体に巻きつけていたバスタオルが取り去られて葛城さんの指が体の上を這う。相変わらず優しいタッチだ……やってることはとてつもなくエロいけど。

「なに考えてた?」

 私の頭がちょっと別のことを考えたのを感じたのか葛城さんが顔を上げた。

「こんな感じで飛行機を触っていたんだったら葛城さんって本当に変態さんだなあって」
「言うに事欠いて何てことを言うんだ」

 だって私にしているようなことを飛行機相手にしていたんだったら十分に変態さんだと思うんだけど違う?

「他の女の人にもって言われないだけマシでしょ?」
「優、それってもしかしてヤキモチなのか?」
「機械相手にヤキモチなんて妬かないよ」
「ふーん、まあそういうことにしておいてやる」
「妬いてないってば。それからそのふーんっていうのやめてよね、あ……っ」

 葛城さんの指が太ももの間に潜り込んできて熱くなり始めていた場所をゆるりと撫でてきた。

「確かに戦闘機はこんな可愛い反応はしてくれないよな。それにこんなに柔らかくないし熱くもないし」

 さっきまで自分の肌の上を這っていた指が胎内に入り込んでくる感触に体が震える。指を動かしながら私のことを楽し気に伺っている葛城さんてば本当にドエスなんだから!!

「さーて、じゃあお待ちかねのお仕置きタイムの始まりだ」
「もう、このドエスなエロパイロット!!」
「俺のS度なんて陸自の森永に比べたら可愛いもんだぞ? ま、褒め言葉として有り難く頂戴しておくことにするが」
「ドエスのドヘンターイ!!」
「はいはい。槇村さんの子育てのモットーは褒めて育てるってやつなんだな。それは俺も賛同する」
「なんでそうなるー!!」

 それからしばらくして眠りに落ちる瞬間に頭に浮かんだのは、明日が休みで本当に良かったということだった。
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