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小ネタ
仕事は大事、なんだけど!!
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忘備録に書いた【小話】『お父さんとお母さんが一緒に飛んだらしい』に加筆修正したものです。
http://kagaminoyou.blog.fc2.com/blog-entry-72.html
++++++++++
本日はこれでもかってぐらいの晴天です。私としては嵐になってくれても良かったんだけどな。
うん、仕事は大事、大事なんだよね……うんうん大事、なんだけど!!
「槇村さん、なんだか元気が無いですねえ」
どうしたんですか?と言わんばかりの口調で話しかけてくる某空自のパイロットさん。
私が持っているこのカメラ、かなり高性能で高価だって聞いてはいるけれど結構頑丈そうだし堅そうだから、目の前でニヤニヤしているこのパイロットさんのことを思いっ切り殴っても良いかしら?
出来ることなら地面にめり込むぐらいに思いっきり殴っちゃいたいんだけど!!
「そうですか? 私はいつも通りですけど葛城三佐さん」
少しばかり殺意を滲ませつつニッコリと相手に微笑みかけた。そんな私の気持ちを察したのか一馬さんはほんの少しだけ困った顔をして見せる。そして体を屈めると声を潜めて囁いた。
「あのな、別に俺が率先して優のことを推薦したわけじゃないんだぞ? 十年前のリポートが思いのほか上の連中に好評だったから空幕と広報から話が来たんだ。まさか妻が飛ぶのが嫌いだからって断れるわけないだろ」
俺を閑職に追いやるつもりか?と言われても納得できないものは納得できない。
「だけど喜んでいるのは事実でしょ? 十年越しの野望達成で」
私がボソッと呟くと一馬さんはニヤリと笑った。
「そりゃそうだろ。こんなことでもなければ優を後ろに乗せて飛ぶことなんで不可能なんだしな」
「つまりはこれ幸いにと承諾したわけよね?」
「打診が来た時点で断る選択肢は無いんだぞ?」
「でも喜んでるのには違いないでしょ? そこが重要なの」
「理不尽だ」
「私の方がよっぽど理不尽な気分」
上からの命令だから一馬さんが断れないのは分かってる。だけど本人はその実それを喜んでいるんだものね、絶対に私の方が理不尽な扱いをされてるじゃない。
「俺が安全運転なのは分かってるだろ?」
「それは車でしょ? 飛ぶことに関しては信用できない」
「……理不尽だ」
「だから私の方が理不尽だってば」
ブツブツいいながら建物から出ると滑走路わきにスタンバイしている藍色の機体。あの色は洋上迷彩といって海とのカモフラージュを目的とした塗装なんだとか。
「グレーの飛行機ばかりだと思っていたから新鮮。綺麗ね」
「だから飛行機じゃなくて戦闘機。気に入っただろ?」
「見た目はね」
「やれやれ。そろそろ諦めて仕事モードになってくれよ?」
「カメラで撮影を始めたらお仕事モードになりますから御心配なく」
その返事に笑いながら一馬さんは私にヘルメットをかぶせてくれた。そして自分はヘルメットを脇に抱えたまま、待機していた整備員の人達に敬礼をする。
ほんと、こうやって見ている分には真面目だしカッコいいのよね。私と話し始めた途端にエロパイロットになっちゃうし、子供達と話している時は楽しくて愉快なパパパイロットになっちゃうけれど。
「お久し振りですね、槇村さん」
整備員さん達が機体のあっちこっちに取り付けたカメラのことで一馬さんと話し合いをして機体の点検している間に、少し離れた場所に立っていた年輩の整備員さんがニコニコしながら声をかけてきた。
「お久し振りです、堀部さん。まさかこちらで整備担当をされているなんて知りませんでした」
「いやいや。今は若い連中の指導をしていて現場の整備の方はしていないんですがね。槇村さんが来ると聞いてこっちに出てきたんですよ」
「まあ、嬉しい」
堀部さんは私が初めて一馬さんの後ろに乗って飛んだ時に安全装置やベルトの確認をしてくれた整備員さんだった。あの時すでに一馬さんが乗っていたイーグルの整備班の責任者でベテランさんだった筈。
「じゃあ今は何処でお仕事をなさってるんですか?」
「普段は浜松の第一術科学校で教官をしているんですよ」
「えっと確か……整備員さんの卵さん達の学校でしたっけ?」
「そうです。しかしまた槇村さんが葛城三佐と一緒に飛ぶことになるなんて驚きましたよ」
「私もビックリです。もう二度と戦闘機になんて乗ることは無いと思っていたんですけどね」
溜め息をつきながら一馬さんの背中を見詰めた。
「葛城さんが喜んじゃって大変ですよ」
「でしょうな。自分の伴侶を乗せて飛ぶなんてそうそう出来ることじゃありませんから。他のパイロットからしたら羨ましいことですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、間違いなく」
一馬さんが振り返った。顔つきからして既にお仕事モードになりつつあるらしい。
「優、こっちは準備完了だ。そっちはどうだ?」
「百万年ぐらい準備は完了しそうにないです」
「じゃあ私がエスコートいたしましょう、葛城夫人」
堀部さんは前と同じように冗談話をあれこれしながら戦闘機へと一緒に歩いてくれる。
「奥様と一緒に二度目のフライトとは幸運の持ち主ですな、葛城三佐」
「肝心な奥様がまったく喜んでいないのが悲しいところなんですがね。ところで優、撮影用のカメラはこっちに既に設置されているから手にしているカメラは持ち込まなくても大丈夫だぞ」
「これは一馬さんを後ろから殴る為に持っていくの」
「おい、それは武器なのか」
一馬さんは呆れたように声をあげ、堀部さんは愉快気な笑い声をあげた。
「可能ならスナップ写真を撮ってくれって話だから。こうやって手首にストラップで固定しておけばコックピットの中で飛んでいかないから大丈夫でしょ?」
「それで俺を殴らない限りはな」
「良い子にしていたら殴りませんから御安心ください」
そう言いながらステップを昇ってコックピットのシートに座る。後からついてきた堀部さんが私のシートベルトがきちんと留められているか等を丁寧に確認してくれた。その間に前に座った葛城さんは管制と通信を始めている。当然のことながら英語だ。そして普段とは違う一馬さんの口調にちょっとだけときめいたりして……あくまでもちょっとだけ。
「準備完了です、三佐」
堀部さんが葛城さんの肩をポンと叩いた。
「ありがとうございます。……優、今日はさっきのミィーティングでも話したが離陸したらそのまま海上に出る。ちょっとしたビックリもあるらしいぞ」
「え、ちょっと、もうこれ以上のビックリは要らないってば」
「空幕からのサプライズプレゼントだそうだ」
「いらないーーーっ!!」
私の叫びを遮るようにエンジンがキーンという高い音と共に動き始めた。その音がどんどん大きくなって、一馬さんと戦闘機の前に立っている整備員さんがハンドシグナルで幾つかやり取りをするとキャノピーがおろされる。
ここからしばらくは幾ら一馬さんにムカついていても大人しくしているしかない。だけど一回ぐらいは良いわよね。そう思ってエンジンの音が大きくなっていく中、足がベルトで固定されて自由にならないのでその代りにゲンコツで目の前のシートにパンチを繰り出した。
「おいおい、大人しくしていろ、こっちは離陸準備に入っているんだから」
「ムカつく!」
視線をコックピットの外に向ければ整備員さんが機体の下から出てきた。手に持っているのはタイヤ止めみたいなものだ。近代的にな兵器にはちょっと似つかわしくないアナログチックなものが可愛くて思わず写真を撮ってしまった。
「それはそうと、十年前は目を閉じていて離陸までの手順は見てなかっただろ? 通常の離陸までには五十以上の手順がある。細かい説明はしないが今日はしっかり前後左右をその可愛いお目目を開けて見ておけよ?」
まったくこっちのムカつきなんてお構いなしなんだから!
「なんでそんなことまで覚えてるんだか……」
「そりゃ優と初めて飛んだ日のことだから」
それだけ言うと一馬さんは離陸準備に入った。コックピットの中の空気が一瞬にして変わる。一馬さんが戦闘機のパイロットになった瞬間だ。
目を外に向ければ翼のフラップとかいうのやら後ろの尾翼とかいうところがパタパタと動いている。そう言えばこういう動作確認も十年前は後で浅木さんが撮ったカメラの映像を見ただけで自分の目では見ていなかったっけ。
一馬さんが機体の動作確認をしている間に、私の方も離陸前に戦闘機に設置された三つのカメラがきちんと所定の場所にあるかもう一度確認をした。一馬さんの正面に一つと両翼に後ろ向きに一つ、前向きに一つ。OK、ちゃんとついているし赤いランプが点いているから録画は開始されているってことだ。
滑走路の端まで移動すると機体が一旦止まる。
「それでは覚悟は良いかな、槇村さん?」
「いつでもどうぞ、今度はちゃんと目を開けて見てますから」
「それは良い心掛けで」
一馬さんが管制と何やら一言二言通信を交わすと機体が動き始めた。
そりゃ一馬さんの腕は信じているけど正直に言うとやっぱり怖い。本当は目を閉じたかったけどこれがきっと一馬さんと一緒に飛ぶ最後の機会だと思うと、どうしてもちゃんと見ておかなきゃという気持ちになって頑張って目を開けていた。
ふわりと体が浮き上がるような感覚がして地面が下へと離れていく。しばらくは徐々に上昇しているって感じだったのに急に角度をつけて上昇を始めた。ああ、そう言えば前にも教えてくれたっけ、日本では民家が近いから早々に高度をとるって……うわあっ?!
「わあ?!」
いきなり景色がぐるりと引っ繰り返ったので思わず変な声が出てしまう。
「ちょっと、なにしてるんですか?!」
「あまりにも嬉しくてつい」
シレッとした答えが返ってきた。
「おおおお、お行儀よく飛んでください!!」
「了解しました、奥様」
笑いを含んだ返事が返ってくる。油断した私がバカだった……。いきなり機体を一回転させるとは思ってなかったよ、あまりにも突然すぎて胃も引っ繰り返るヒマがなかったみたいだけど。
高度を上げていくといつの間にか雲の上。前の時は雲一つなかったけれど今回は綿菓子みたいな雲があっちこっちにポッカリと浮いている。何だか可愛くてカメラを構える。
「今回は随分と余裕があるじゃないか」
「お陰様で。わあ、もう回転は無しで!!」
機体が九十度傾いたので慌てて声をあげた。もう一馬さん絶対に楽しんでるよね?!
「これ、広報なんだよね?!」
「だと思うけどな」
「だったらもう少しお行儀よく飛ぶとかそういう気遣いは無いのかな?!」
「十分にお行儀良いだろう。悪いっていうのはだな、もっとこう、グルングルンと」
いきなり機体が引っ繰り返って背面飛行をしたまま降下する。もうあまりのことに悲鳴も出ない。
「……とまあこんなことをするのがお行儀が悪いってやつだと思うんだがな。おい、大丈夫か?」
しばらくして元の状態に機体の姿勢が戻ると一馬さんが笑いながら話しかけてきた。
「だ、大丈夫じゃないことぐらい分かってるでしょ、お行儀よくしてほしいって言ってるのに……!!」
「機体の性能を余すことなく見てもらうにはこのぐらいのことはしないと」
「そういうのはプロの人を乗せて見せてあげて!」
「槇村さんもプロじゃ?」
「そっちのプロじゃなくて飛行機のプロ!!」
「こいつは飛行機じゃなくて戦闘機な」
もう飛んでなかったら思いっ切り一馬さんのことを殴ってやりたい!!
「地面に戻ったら覚えてなさいよ!」
「あー、じゃあずっと飛んでないと」
「燃料無くなっちゃうでしょ!」
「この世には空中給油機なんて便利なものがあってだな」
「あああ、殴りたい!!」
「またまた物騒なことを」
サプライズって一回転することだったの?!なんて考えていたら海上に出た辺りで急にシグナルが鳴った。
「何の音?」
「よその戦闘機が接近している音」
「え、何処の? まさか国籍不明機とかそういうの?」
「まさか。友軍機だよ、正確にはアメリカ海軍な」
「え?!」
キョロキョロと機影を探していると一馬さんが後ろを見ろと指を後ろに向けてきた。
「?」
体をひねって後ろを覗き込む。接近してくるグレーの機体が三機。
「あれは何ってやつ?」
「FA-18。通称スーパーホーネット。うちのF-2とほぼ同時期にロールアウトしたアメリカ軍の機体だ」
「えっと写真に撮っても大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。撮ってやってくれ、喜ぶから」
一馬さんに言われて横に並んだ相手の戦闘機にカメラを向けるとパイロットさんがこっちを見てVサインをしてきた。
「もしかして一馬さんのお知り合い?」
「共同訓練で三回ほどキルコールしてやった奴」
「わお」
『駄目だ、そんなことしたら離婚される。今日のところは見逃してやるからさっさと行け』
一馬さんが何やら相手と話をしている。あっちのパイロットさんがこっちを見ながら片手を忙しなく振った。
「何て言ってるの?」
「勝負しろってさ。この前の訓練でコールされたのが余程悔しかったらしい。優のお許しが出たら直ぐにでも空中摸擬戦を始められるんだが?」
「そんなことしたら離婚だからね」
「だよな」
『うちの嫁がお怒りだぞ。ああ、分かった、ついて行くよ』
「なに?」
「母艦が近くにいるからついでに上を飛んで写真を撮っていけってさ」
「そうなの? あ、もしかしてこれがサプライズ?」
「そんなところだ。なかなか見る機会も撮る機会も無いだろ? さすがにこいつは空母に着艦できないから乗ることは出来ないけどな」
「相手は空軍さんじゃなくて海軍さんなんだよね?」
「あっちには空母があるからな」
「へえ。ちなみに一馬さんが三勝したお相手のお名前は?」
「B・B・バートレット中佐。そのうち会えるかもな」
そんな訳で私は滅多に取れないような角度からアメリカ海軍の空母の写真を撮ることに成功し、浅木さんに泣いて羨ましがられることになった。
だけどまさか別のところでとんでもないことになるなんて、この時は想像もしてなかったのよね。
+++++
「…………」
「???」
仕事から帰ってきたら、お留守番をしてくれていた二人の息子の内の一人が何故か恨めし気な目で私を見ているんだけど何でかな……?
「どうしたの。何か私に言いたいことでもあるの?」
今日は普通に仕事の日だったし何か約束をしていて忘れたということも無い筈なんだけどな。
「……ずるい」
「え?」
恨めし気な顔をして私のことを見上げていた次男の颯がボソッと呟いた。
「ずるいって言ってるの!」
「なんで? 私、何かずるいことした?」
颯はブツブツ言いながら両手をブランブランさせている。どうやら理由を話すつもりは無いみたいだ。
仕方がないから長男の翔に視線をうつす。私と目が合うと肩をすくめてみせた。こんな仕草が妙に一馬さんに似ているので時々ドキッとしてしまうよ。
「なにがずるいの?」
「今日、仕事でお父さんがいる基地に行ったでしょ?」
「うん。だけどお仕事だよ?」
「分かってる。で、お父さんの戦闘機の後ろに乗せてもらって飛んだんでしょ?」
「うん、飛んだね、飛びたくなかったけど」
十年越しの野望がかなったって一馬さんは地上に降りてきてからも御機嫌だった。きっと御機嫌のまま今夜も帰ってくるに違いない。
「お父さんと一緒に飛んだのがずるいんだってさ。颯も一緒に乗せて欲しかったって」
「それは無理だよ颯~~。車とはわけが違うんだから……」
「……でもずるい」
「そんなこと言われてもお仕事だからね。別にお父さんと楽しくドライブしていたってわけじゃないんだから」
少なくとも離陸直前までは一馬さんだって真面目な顔をしていたんだし? その後は基地に戻るまで新型戦闘機の性能を存分に御堪能下さい(^^♪とかふざけたことを言って、思いっ切り好き勝手にお飛びあそばしましたけれどもね。
「僕もなる!」
「はい?」
「僕も戦闘機のパイロットになってお母さんを乗せて飛ぶ!」
一馬さん、あなたの息子は目の前でとんでもないことを宣言しているんですが。
「お父さんじゃなくて?」
「お母さんを乗せるの!」
やっと十年越しの野望が消えてくれたと思ったらまさかの伏兵……。
颯はいま幼稚園。そのうちなりたいものが変わるかもしれないよね……? いや、変わって下さい、お願いだから!
http://kagaminoyou.blog.fc2.com/blog-entry-72.html
++++++++++
本日はこれでもかってぐらいの晴天です。私としては嵐になってくれても良かったんだけどな。
うん、仕事は大事、大事なんだよね……うんうん大事、なんだけど!!
「槇村さん、なんだか元気が無いですねえ」
どうしたんですか?と言わんばかりの口調で話しかけてくる某空自のパイロットさん。
私が持っているこのカメラ、かなり高性能で高価だって聞いてはいるけれど結構頑丈そうだし堅そうだから、目の前でニヤニヤしているこのパイロットさんのことを思いっ切り殴っても良いかしら?
出来ることなら地面にめり込むぐらいに思いっきり殴っちゃいたいんだけど!!
「そうですか? 私はいつも通りですけど葛城三佐さん」
少しばかり殺意を滲ませつつニッコリと相手に微笑みかけた。そんな私の気持ちを察したのか一馬さんはほんの少しだけ困った顔をして見せる。そして体を屈めると声を潜めて囁いた。
「あのな、別に俺が率先して優のことを推薦したわけじゃないんだぞ? 十年前のリポートが思いのほか上の連中に好評だったから空幕と広報から話が来たんだ。まさか妻が飛ぶのが嫌いだからって断れるわけないだろ」
俺を閑職に追いやるつもりか?と言われても納得できないものは納得できない。
「だけど喜んでいるのは事実でしょ? 十年越しの野望達成で」
私がボソッと呟くと一馬さんはニヤリと笑った。
「そりゃそうだろ。こんなことでもなければ優を後ろに乗せて飛ぶことなんで不可能なんだしな」
「つまりはこれ幸いにと承諾したわけよね?」
「打診が来た時点で断る選択肢は無いんだぞ?」
「でも喜んでるのには違いないでしょ? そこが重要なの」
「理不尽だ」
「私の方がよっぽど理不尽な気分」
上からの命令だから一馬さんが断れないのは分かってる。だけど本人はその実それを喜んでいるんだものね、絶対に私の方が理不尽な扱いをされてるじゃない。
「俺が安全運転なのは分かってるだろ?」
「それは車でしょ? 飛ぶことに関しては信用できない」
「……理不尽だ」
「だから私の方が理不尽だってば」
ブツブツいいながら建物から出ると滑走路わきにスタンバイしている藍色の機体。あの色は洋上迷彩といって海とのカモフラージュを目的とした塗装なんだとか。
「グレーの飛行機ばかりだと思っていたから新鮮。綺麗ね」
「だから飛行機じゃなくて戦闘機。気に入っただろ?」
「見た目はね」
「やれやれ。そろそろ諦めて仕事モードになってくれよ?」
「カメラで撮影を始めたらお仕事モードになりますから御心配なく」
その返事に笑いながら一馬さんは私にヘルメットをかぶせてくれた。そして自分はヘルメットを脇に抱えたまま、待機していた整備員の人達に敬礼をする。
ほんと、こうやって見ている分には真面目だしカッコいいのよね。私と話し始めた途端にエロパイロットになっちゃうし、子供達と話している時は楽しくて愉快なパパパイロットになっちゃうけれど。
「お久し振りですね、槇村さん」
整備員さん達が機体のあっちこっちに取り付けたカメラのことで一馬さんと話し合いをして機体の点検している間に、少し離れた場所に立っていた年輩の整備員さんがニコニコしながら声をかけてきた。
「お久し振りです、堀部さん。まさかこちらで整備担当をされているなんて知りませんでした」
「いやいや。今は若い連中の指導をしていて現場の整備の方はしていないんですがね。槇村さんが来ると聞いてこっちに出てきたんですよ」
「まあ、嬉しい」
堀部さんは私が初めて一馬さんの後ろに乗って飛んだ時に安全装置やベルトの確認をしてくれた整備員さんだった。あの時すでに一馬さんが乗っていたイーグルの整備班の責任者でベテランさんだった筈。
「じゃあ今は何処でお仕事をなさってるんですか?」
「普段は浜松の第一術科学校で教官をしているんですよ」
「えっと確か……整備員さんの卵さん達の学校でしたっけ?」
「そうです。しかしまた槇村さんが葛城三佐と一緒に飛ぶことになるなんて驚きましたよ」
「私もビックリです。もう二度と戦闘機になんて乗ることは無いと思っていたんですけどね」
溜め息をつきながら一馬さんの背中を見詰めた。
「葛城さんが喜んじゃって大変ですよ」
「でしょうな。自分の伴侶を乗せて飛ぶなんてそうそう出来ることじゃありませんから。他のパイロットからしたら羨ましいことですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、間違いなく」
一馬さんが振り返った。顔つきからして既にお仕事モードになりつつあるらしい。
「優、こっちは準備完了だ。そっちはどうだ?」
「百万年ぐらい準備は完了しそうにないです」
「じゃあ私がエスコートいたしましょう、葛城夫人」
堀部さんは前と同じように冗談話をあれこれしながら戦闘機へと一緒に歩いてくれる。
「奥様と一緒に二度目のフライトとは幸運の持ち主ですな、葛城三佐」
「肝心な奥様がまったく喜んでいないのが悲しいところなんですがね。ところで優、撮影用のカメラはこっちに既に設置されているから手にしているカメラは持ち込まなくても大丈夫だぞ」
「これは一馬さんを後ろから殴る為に持っていくの」
「おい、それは武器なのか」
一馬さんは呆れたように声をあげ、堀部さんは愉快気な笑い声をあげた。
「可能ならスナップ写真を撮ってくれって話だから。こうやって手首にストラップで固定しておけばコックピットの中で飛んでいかないから大丈夫でしょ?」
「それで俺を殴らない限りはな」
「良い子にしていたら殴りませんから御安心ください」
そう言いながらステップを昇ってコックピットのシートに座る。後からついてきた堀部さんが私のシートベルトがきちんと留められているか等を丁寧に確認してくれた。その間に前に座った葛城さんは管制と通信を始めている。当然のことながら英語だ。そして普段とは違う一馬さんの口調にちょっとだけときめいたりして……あくまでもちょっとだけ。
「準備完了です、三佐」
堀部さんが葛城さんの肩をポンと叩いた。
「ありがとうございます。……優、今日はさっきのミィーティングでも話したが離陸したらそのまま海上に出る。ちょっとしたビックリもあるらしいぞ」
「え、ちょっと、もうこれ以上のビックリは要らないってば」
「空幕からのサプライズプレゼントだそうだ」
「いらないーーーっ!!」
私の叫びを遮るようにエンジンがキーンという高い音と共に動き始めた。その音がどんどん大きくなって、一馬さんと戦闘機の前に立っている整備員さんがハンドシグナルで幾つかやり取りをするとキャノピーがおろされる。
ここからしばらくは幾ら一馬さんにムカついていても大人しくしているしかない。だけど一回ぐらいは良いわよね。そう思ってエンジンの音が大きくなっていく中、足がベルトで固定されて自由にならないのでその代りにゲンコツで目の前のシートにパンチを繰り出した。
「おいおい、大人しくしていろ、こっちは離陸準備に入っているんだから」
「ムカつく!」
視線をコックピットの外に向ければ整備員さんが機体の下から出てきた。手に持っているのはタイヤ止めみたいなものだ。近代的にな兵器にはちょっと似つかわしくないアナログチックなものが可愛くて思わず写真を撮ってしまった。
「それはそうと、十年前は目を閉じていて離陸までの手順は見てなかっただろ? 通常の離陸までには五十以上の手順がある。細かい説明はしないが今日はしっかり前後左右をその可愛いお目目を開けて見ておけよ?」
まったくこっちのムカつきなんてお構いなしなんだから!
「なんでそんなことまで覚えてるんだか……」
「そりゃ優と初めて飛んだ日のことだから」
それだけ言うと一馬さんは離陸準備に入った。コックピットの中の空気が一瞬にして変わる。一馬さんが戦闘機のパイロットになった瞬間だ。
目を外に向ければ翼のフラップとかいうのやら後ろの尾翼とかいうところがパタパタと動いている。そう言えばこういう動作確認も十年前は後で浅木さんが撮ったカメラの映像を見ただけで自分の目では見ていなかったっけ。
一馬さんが機体の動作確認をしている間に、私の方も離陸前に戦闘機に設置された三つのカメラがきちんと所定の場所にあるかもう一度確認をした。一馬さんの正面に一つと両翼に後ろ向きに一つ、前向きに一つ。OK、ちゃんとついているし赤いランプが点いているから録画は開始されているってことだ。
滑走路の端まで移動すると機体が一旦止まる。
「それでは覚悟は良いかな、槇村さん?」
「いつでもどうぞ、今度はちゃんと目を開けて見てますから」
「それは良い心掛けで」
一馬さんが管制と何やら一言二言通信を交わすと機体が動き始めた。
そりゃ一馬さんの腕は信じているけど正直に言うとやっぱり怖い。本当は目を閉じたかったけどこれがきっと一馬さんと一緒に飛ぶ最後の機会だと思うと、どうしてもちゃんと見ておかなきゃという気持ちになって頑張って目を開けていた。
ふわりと体が浮き上がるような感覚がして地面が下へと離れていく。しばらくは徐々に上昇しているって感じだったのに急に角度をつけて上昇を始めた。ああ、そう言えば前にも教えてくれたっけ、日本では民家が近いから早々に高度をとるって……うわあっ?!
「わあ?!」
いきなり景色がぐるりと引っ繰り返ったので思わず変な声が出てしまう。
「ちょっと、なにしてるんですか?!」
「あまりにも嬉しくてつい」
シレッとした答えが返ってきた。
「おおおお、お行儀よく飛んでください!!」
「了解しました、奥様」
笑いを含んだ返事が返ってくる。油断した私がバカだった……。いきなり機体を一回転させるとは思ってなかったよ、あまりにも突然すぎて胃も引っ繰り返るヒマがなかったみたいだけど。
高度を上げていくといつの間にか雲の上。前の時は雲一つなかったけれど今回は綿菓子みたいな雲があっちこっちにポッカリと浮いている。何だか可愛くてカメラを構える。
「今回は随分と余裕があるじゃないか」
「お陰様で。わあ、もう回転は無しで!!」
機体が九十度傾いたので慌てて声をあげた。もう一馬さん絶対に楽しんでるよね?!
「これ、広報なんだよね?!」
「だと思うけどな」
「だったらもう少しお行儀よく飛ぶとかそういう気遣いは無いのかな?!」
「十分にお行儀良いだろう。悪いっていうのはだな、もっとこう、グルングルンと」
いきなり機体が引っ繰り返って背面飛行をしたまま降下する。もうあまりのことに悲鳴も出ない。
「……とまあこんなことをするのがお行儀が悪いってやつだと思うんだがな。おい、大丈夫か?」
しばらくして元の状態に機体の姿勢が戻ると一馬さんが笑いながら話しかけてきた。
「だ、大丈夫じゃないことぐらい分かってるでしょ、お行儀よくしてほしいって言ってるのに……!!」
「機体の性能を余すことなく見てもらうにはこのぐらいのことはしないと」
「そういうのはプロの人を乗せて見せてあげて!」
「槇村さんもプロじゃ?」
「そっちのプロじゃなくて飛行機のプロ!!」
「こいつは飛行機じゃなくて戦闘機な」
もう飛んでなかったら思いっ切り一馬さんのことを殴ってやりたい!!
「地面に戻ったら覚えてなさいよ!」
「あー、じゃあずっと飛んでないと」
「燃料無くなっちゃうでしょ!」
「この世には空中給油機なんて便利なものがあってだな」
「あああ、殴りたい!!」
「またまた物騒なことを」
サプライズって一回転することだったの?!なんて考えていたら海上に出た辺りで急にシグナルが鳴った。
「何の音?」
「よその戦闘機が接近している音」
「え、何処の? まさか国籍不明機とかそういうの?」
「まさか。友軍機だよ、正確にはアメリカ海軍な」
「え?!」
キョロキョロと機影を探していると一馬さんが後ろを見ろと指を後ろに向けてきた。
「?」
体をひねって後ろを覗き込む。接近してくるグレーの機体が三機。
「あれは何ってやつ?」
「FA-18。通称スーパーホーネット。うちのF-2とほぼ同時期にロールアウトしたアメリカ軍の機体だ」
「えっと写真に撮っても大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。撮ってやってくれ、喜ぶから」
一馬さんに言われて横に並んだ相手の戦闘機にカメラを向けるとパイロットさんがこっちを見てVサインをしてきた。
「もしかして一馬さんのお知り合い?」
「共同訓練で三回ほどキルコールしてやった奴」
「わお」
『駄目だ、そんなことしたら離婚される。今日のところは見逃してやるからさっさと行け』
一馬さんが何やら相手と話をしている。あっちのパイロットさんがこっちを見ながら片手を忙しなく振った。
「何て言ってるの?」
「勝負しろってさ。この前の訓練でコールされたのが余程悔しかったらしい。優のお許しが出たら直ぐにでも空中摸擬戦を始められるんだが?」
「そんなことしたら離婚だからね」
「だよな」
『うちの嫁がお怒りだぞ。ああ、分かった、ついて行くよ』
「なに?」
「母艦が近くにいるからついでに上を飛んで写真を撮っていけってさ」
「そうなの? あ、もしかしてこれがサプライズ?」
「そんなところだ。なかなか見る機会も撮る機会も無いだろ? さすがにこいつは空母に着艦できないから乗ることは出来ないけどな」
「相手は空軍さんじゃなくて海軍さんなんだよね?」
「あっちには空母があるからな」
「へえ。ちなみに一馬さんが三勝したお相手のお名前は?」
「B・B・バートレット中佐。そのうち会えるかもな」
そんな訳で私は滅多に取れないような角度からアメリカ海軍の空母の写真を撮ることに成功し、浅木さんに泣いて羨ましがられることになった。
だけどまさか別のところでとんでもないことになるなんて、この時は想像もしてなかったのよね。
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「…………」
「???」
仕事から帰ってきたら、お留守番をしてくれていた二人の息子の内の一人が何故か恨めし気な目で私を見ているんだけど何でかな……?
「どうしたの。何か私に言いたいことでもあるの?」
今日は普通に仕事の日だったし何か約束をしていて忘れたということも無い筈なんだけどな。
「……ずるい」
「え?」
恨めし気な顔をして私のことを見上げていた次男の颯がボソッと呟いた。
「ずるいって言ってるの!」
「なんで? 私、何かずるいことした?」
颯はブツブツ言いながら両手をブランブランさせている。どうやら理由を話すつもりは無いみたいだ。
仕方がないから長男の翔に視線をうつす。私と目が合うと肩をすくめてみせた。こんな仕草が妙に一馬さんに似ているので時々ドキッとしてしまうよ。
「なにがずるいの?」
「今日、仕事でお父さんがいる基地に行ったでしょ?」
「うん。だけどお仕事だよ?」
「分かってる。で、お父さんの戦闘機の後ろに乗せてもらって飛んだんでしょ?」
「うん、飛んだね、飛びたくなかったけど」
十年越しの野望がかなったって一馬さんは地上に降りてきてからも御機嫌だった。きっと御機嫌のまま今夜も帰ってくるに違いない。
「お父さんと一緒に飛んだのがずるいんだってさ。颯も一緒に乗せて欲しかったって」
「それは無理だよ颯~~。車とはわけが違うんだから……」
「……でもずるい」
「そんなこと言われてもお仕事だからね。別にお父さんと楽しくドライブしていたってわけじゃないんだから」
少なくとも離陸直前までは一馬さんだって真面目な顔をしていたんだし? その後は基地に戻るまで新型戦闘機の性能を存分に御堪能下さい(^^♪とかふざけたことを言って、思いっ切り好き勝手にお飛びあそばしましたけれどもね。
「僕もなる!」
「はい?」
「僕も戦闘機のパイロットになってお母さんを乗せて飛ぶ!」
一馬さん、あなたの息子は目の前でとんでもないことを宣言しているんですが。
「お父さんじゃなくて?」
「お母さんを乗せるの!」
やっと十年越しの野望が消えてくれたと思ったらまさかの伏兵……。
颯はいま幼稚園。そのうちなりたいものが変わるかもしれないよね……? いや、変わって下さい、お願いだから!
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