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小ネタ
葛城家のスキーシーズン
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「パパだー!」
「パパもどってきたー」
翔と颯が上を見ながら、持っていたストックを振り回す。
「ちょっと、ストックふりまわすのはやめて。他の人に当たったらケガしちゃうよ!」
二人に注意をしてからスキー場の上のほうを見ると、派手な色のスキーウェアを着た一馬さんがこっちに滑ってくるのが見えた。
「パパのウェア、あの色にして正解だね。めちゃくちゃ目立つし」
「はで!」
「はではで!」
私達の前まで滑ってくると、これまた派手に雪を跳ね上げながら止まる。頭から雪をかぶった翔と颯が、キャーキャー悲鳴をあげながら笑った。
「パパおかえりー」
「おかえりー!」
「あははははははは~~戻ったぞ~~」
久しぶりの休暇だったし、子供達は見ているから午前中は好きに滑ってきていいよと送り出したのに、三十分もしないうちに戻ってきた。しかも変な笑い声をあげながら。
「どうしたの? 早くない?」
不自然なハイテンションに引き気味になりながら声をかける。
「リフトの乗り継ぎを間違えたらしく、着いたのが上級コースのてっぺんだった」
「えー?」
一馬さん曰く、自分は滑ることはできてもここの上級者コースは無理ゲーなんだそうだ。
「途中までリフトでおりてきたの?」
たまに乗り継ぎを間違える人もいるし、そうやって戻ってくる人も珍しくない。ゲレンデの常連なら「あー、間違えて上まで行っちゃったのね」で納得するパターン。その手のことには慎重な一馬さんのことだから、きっとリフトに乗って途中までおりてきたに違いないと思っていたんだけど……。
「三つのコブ上空を飛んだ時は死ぬかと思った」
「え、滑ってきたってこと? それ、笑いごとじゃないよね」
ここの一番上の上級者コースは傾斜も急で、地元でも有名な難しいコースだ。それを滑ってきたと。そりゃあ、一馬さんじゃなくても変な笑いになるかも。ていうか、慎重な滑りをする一馬さんは一体どこへ? 魔がさしたというやつなんだろうか?
「転ばなかった?」
「もちろんだ。転倒して骨折でもしてみろ。隊長に殺される」
一馬さんの仕事は航空自衛隊の戦闘機パイロット。このあたりは、北の大国から定期便が毎日のように飛んでくる。現場のパイロット同士は、それなりにおなじみさん的な空気もあるようだけど、それはそれこれはこれ。骨折でもして飛べなくなったら、間違いなくあの飛行隊長さんが病室にやってくる。
「あー、本当に死ぬかと思った。もうあそこまでは絶対に行かない。と言うか、もう今日のエネルギーは使い切った」
本気とも冗談ともつかない表情でそう言った。
「じゃあ、どうする? 残りの時間はおとなしく、翔達と一緒にバンビ教室に参加する?」
「そうする。ていうか、翔も颯も教室に参加する必要あるのか? そこいらの学生なみに滑ってるじゃないか」
「それは親のひいき目ってやつだと思うよ。それと、これだけたくさんの人がゲレンデにいる時は、小さい子はバンビ教室で滑ったほうが安心だし」
今はシーズンまっさかり。しかも春休みで大きなお兄さん達も多い。あんなふうに、めちゃくちゃスピードを出して滑っているお兄さん達が多い場合は、バンビゲレンデにいたほうが親としては安心だ。
「それもそうだな。優、なんなら滑ってきていいぞ? 俺が翔たちを見てるから」
「私もバンビで良いかな~。せっかくカメラ持ってきたことだし、写真とるのに専念する」
「いいのか?」
「うん。ほら、可愛い時期って、あっという間にすぎちゃうでしょ?」
私達の前をペタペタと進んでいく息子達の後ろ姿に目を向ける。小さい時期はあっという間にすぎてしまう。写真に残すなら今のうちだ。二人の背中を見た一馬さんも納得した様子。
「じゃあ今日は、俺達も初心に戻ってバンビ教室の生徒だな」
「めちゃくちゃ年寄りのバンビだねー」
「年寄りはよけいだぞ」
一馬さんのことだから、すぐに飽きるのでは?と思っていたけどそうでもなかった。いまさら質問できない初歩的な技術を教わることができて、一馬さん的にはタナボタなラッキーだったみたいだ。
「パパもどってきたー」
翔と颯が上を見ながら、持っていたストックを振り回す。
「ちょっと、ストックふりまわすのはやめて。他の人に当たったらケガしちゃうよ!」
二人に注意をしてからスキー場の上のほうを見ると、派手な色のスキーウェアを着た一馬さんがこっちに滑ってくるのが見えた。
「パパのウェア、あの色にして正解だね。めちゃくちゃ目立つし」
「はで!」
「はではで!」
私達の前まで滑ってくると、これまた派手に雪を跳ね上げながら止まる。頭から雪をかぶった翔と颯が、キャーキャー悲鳴をあげながら笑った。
「パパおかえりー」
「おかえりー!」
「あははははははは~~戻ったぞ~~」
久しぶりの休暇だったし、子供達は見ているから午前中は好きに滑ってきていいよと送り出したのに、三十分もしないうちに戻ってきた。しかも変な笑い声をあげながら。
「どうしたの? 早くない?」
不自然なハイテンションに引き気味になりながら声をかける。
「リフトの乗り継ぎを間違えたらしく、着いたのが上級コースのてっぺんだった」
「えー?」
一馬さん曰く、自分は滑ることはできてもここの上級者コースは無理ゲーなんだそうだ。
「途中までリフトでおりてきたの?」
たまに乗り継ぎを間違える人もいるし、そうやって戻ってくる人も珍しくない。ゲレンデの常連なら「あー、間違えて上まで行っちゃったのね」で納得するパターン。その手のことには慎重な一馬さんのことだから、きっとリフトに乗って途中までおりてきたに違いないと思っていたんだけど……。
「三つのコブ上空を飛んだ時は死ぬかと思った」
「え、滑ってきたってこと? それ、笑いごとじゃないよね」
ここの一番上の上級者コースは傾斜も急で、地元でも有名な難しいコースだ。それを滑ってきたと。そりゃあ、一馬さんじゃなくても変な笑いになるかも。ていうか、慎重な滑りをする一馬さんは一体どこへ? 魔がさしたというやつなんだろうか?
「転ばなかった?」
「もちろんだ。転倒して骨折でもしてみろ。隊長に殺される」
一馬さんの仕事は航空自衛隊の戦闘機パイロット。このあたりは、北の大国から定期便が毎日のように飛んでくる。現場のパイロット同士は、それなりにおなじみさん的な空気もあるようだけど、それはそれこれはこれ。骨折でもして飛べなくなったら、間違いなくあの飛行隊長さんが病室にやってくる。
「あー、本当に死ぬかと思った。もうあそこまでは絶対に行かない。と言うか、もう今日のエネルギーは使い切った」
本気とも冗談ともつかない表情でそう言った。
「じゃあ、どうする? 残りの時間はおとなしく、翔達と一緒にバンビ教室に参加する?」
「そうする。ていうか、翔も颯も教室に参加する必要あるのか? そこいらの学生なみに滑ってるじゃないか」
「それは親のひいき目ってやつだと思うよ。それと、これだけたくさんの人がゲレンデにいる時は、小さい子はバンビ教室で滑ったほうが安心だし」
今はシーズンまっさかり。しかも春休みで大きなお兄さん達も多い。あんなふうに、めちゃくちゃスピードを出して滑っているお兄さん達が多い場合は、バンビゲレンデにいたほうが親としては安心だ。
「それもそうだな。優、なんなら滑ってきていいぞ? 俺が翔たちを見てるから」
「私もバンビで良いかな~。せっかくカメラ持ってきたことだし、写真とるのに専念する」
「いいのか?」
「うん。ほら、可愛い時期って、あっという間にすぎちゃうでしょ?」
私達の前をペタペタと進んでいく息子達の後ろ姿に目を向ける。小さい時期はあっという間にすぎてしまう。写真に残すなら今のうちだ。二人の背中を見た一馬さんも納得した様子。
「じゃあ今日は、俺達も初心に戻ってバンビ教室の生徒だな」
「めちゃくちゃ年寄りのバンビだねー」
「年寄りはよけいだぞ」
一馬さんのことだから、すぐに飽きるのでは?と思っていたけどそうでもなかった。いまさら質問できない初歩的な技術を教わることができて、一馬さん的にはタナボタなラッキーだったみたいだ。
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