神様達の転職事情~八百万ハローワーク

鏡野ゆう

文字の大きさ
28 / 35

第二十八話 神様お休み中 2

しおりを挟む
「燃やすって、そんな簡単に言いますけど、燃えるモノなんですか? そこに捨てられてるのって」
「だって今、カエルと猫も言ったろ? 火の神様に燃やしてもらうって」

 思わず納得しかけてから「いやいや待って」となった。井戸の中で暴れているのは、ただのポイ捨てされたゴミではなく(というか、そもそもゴミは暴れないから!)、神様的なレベルのゴミなのだ。いくら特殊技能持ち職員の浜岡はまおかさんでも、そう簡単に燃やせるはずがない。

「それは神様だからでしょ? 浜岡さんはどこから見ても人間じゃないですか」
「そこが特殊技能持ち職員の、すごいところなんだよ~。ダテに毎月、特殊技能手当をもらってるわけじゃないんだよ~」

 浜岡さんは偉そうにふんぞり返ってみせる。

「へー……そうなんですかー……」
「だから棒読みはやめようね、羽倉はくらさん。今からちゃんと説明するから。まずは、これ」

 顔をしかめつつ、上着の内ポケットから折りたたまれた白い紙を出した。

「いくら特殊技能持ちとは言え、そう簡単にあれこれできるわけじゃないんだ。羽倉さんが言うように、僕はただの人間だからね。もちろんできる人もいるけど、そういう人達は日本でも、片手ぐらいの数しかいない」

 浜岡さんは片手で指を三本たてる。つまり、あれこれ何でもできる日本人は、三人しかいないということらしい。

「ちなみに鎌倉かまくらさんは、この三本指には含まれていないからね」
「え、そうなんですか?」
「それでも俺達に比べると、段違いにあれこれできる人だけどね。そんなわけで普通の特殊技能持ちの職員は、たいてい補助的な道具を使う。それがこれ」
「もしかしてそれ、おふだ?」

 浜岡さんが手に持っている、何も書かれていない白い紙に視線を戻す。

「もしかしなくてもおふだ。一見なにも書かれていないただの紙だけど、そこいらで手に入るおふだとは、効力のレベルが違う代物しろものだ。ちなみにこれは、火の神様の力を宿したおふだだから、その手のものはひっじょーによく燃える」
「ひっじょーにってことは……あそこで暴れているゴミもってことですね」

 井戸の上でバタバタしているものを指さす。

「そのとおり。ちなみに、風の神様や水の神様のおふだもあるよ」

 浜岡さんはポケットからライターを取り出した。

「そのライターも特別製なんですか?」

 期待しつつ質問をする。単なるライターに見えるけど、実はどこかの古い神様が宿っているライターとか?

「これはそのへんで売られてる、使い捨ての百円ライターだよ」
「えー……」

 神様の力を宿したおふだに火をつけるのが、そのへんで売られている百円ライターだなんて。ちょっとどころか、かなりガッカリだ。

「もっと高価なライターを使うものかと思ってましたよ……っていうか、高価なライターを使ってくださいよ~~」
「俺はタバコを吸わないから、これで十分なんだよ。喫煙者の先輩達は、もっと高級なライターを使ってるよ。しかもかなり年季が入ったやつ。あれぐらい古いモノなら、そのうち付喪神つくもがみ化するんじゃないかなあ」

 誰かのライターを思い浮かべたらしく、浜岡さんはニヤニヤと笑う。

「それから、おふだは特殊技能持ちの職員が使わないと効力を発揮しない。羽倉さんが火をつけても、普通に燃えるだけなんだよ」
「へえ……誰でも使えるわけじゃないんだ」

『説明は後でするでござるよ!』
『さっさと燃やすでおじゃる!」

 フタと一緒にバタバタと上下に激しく揺れながら、とうとうカエルと招き猫が声をあげた。

「ああ、そうだった。羽倉さん、そっちに行って、カエルと猫と一緒にフタを押さえていてくれるかな」
「良いですけど、だいじょうぶなんですよね? 私達、燃えたりしませんよね?」
「僕をなんだと思ってるのさ。これでも国家公務員だよ?」
「浜岡さんがお坊さんでも神主さんでも神父様でも、心配なものは心配ですよ。なにか異変が起きたら、すぐに逃げますから」

 今の状態だって十分に異変が起きているけれども。

「信用ないなあ……」
「たとえ浜岡さんが三本指の一人でも、心配ですから!」

 恐る恐るバタバタと暴れるフタを押さえこむ。こちらの恐怖を感じ取ったのか、フタがさらに激しく暴れだした。

「なんか、ますます暴れてるんですけど! こんな状態で、よく二匹だけで押さえてたもんですよ!」

『まったくでござる!』
『そろそろ限界でおじゃる――!!』

『すまぬ~~出遅れた~~』

 のんきな声とともに背後から黒い影が飛んできて、フタの上にドスンと降り立った。現れたのは……どう見ても狸の置物だった。

―― また変なのが現われた! ――

『おぬし、なにをしておったのだ!』
『まったくでおじゃる!』
『すまぬ~~寝坊じゃ~~』

 狸は激しく揺れながらガハハッと笑った。いきなりの出現にあせったが、どうやらカエルと招き猫のお知り合いらしい。

『助っ人がいるではないか~~良かったの~~』
『良くないでござる!』
『留守居役として恥でおじゃる!!』

 押さえるのが三匹に増えても、フタはおとなしくなりそうにない。

「あの、浜岡さん! さっさと燃やしちゃってくださいよ、この中のゴミ!!」
「はいはい、少々お待ちを」

 浜岡さんはノンビリとそう答え、ライターでお札に火をつけた。火がつくと同時に、それまで真っ白だった表面に模様が浮き上がる。そして浜岡さんは、フタの上で飛び跳ねている三匹に目をやった。

「じゃあ、これを井戸の中に入れるので、合図したらフタを開けてくれるかな」

『承知でござる』
『承知でおじゃる』
『承知したよ~~』

 まるで今まで何度も同じことをしていたように、私を除く三匹と一人は息を合わせ、フタを動かし火のついたおふだを井戸に放りこむ。とたんにフタが激しく上へ向かって跳ねだした。

「はい、しっかり押さえて!」
「こんなの無理です――!!」
「ガンバレガンバレ~~」
「てか、なんでそこで笑いながら立ってますかね?! 普通、一緒に押さえませんか?!」

 その場で私達に声援らしきものを送っている相手をにらむ。

「俺まで両手をふさいだら、不測の事態が起きた時に困るじゃないか。まあ、笑ったのは申し訳ないけど」
「不測の事態とか……!!」

 そんなことが起きるかもしれないのに、資格持ちじゃない自分にこんなことをさせるなんて、あまりにもあんまりじゃ?!と言いかけたところで、ドンッというかボンッというか派手な音がして、地面が大きく震えた。そしてフタが吹き飛び、真っ黒な煙が立ちあがる。

「うっわ、昔の機関車なみの煙が出たねえ」
「浜岡さん、笑い事じゃない~~!」

『煙が真っ黒でござる!』
『誰じゃ、燃えないゴミまで放り込んだのは!
『分別されていないゴミのせいで、みんな、すすまみれだね~~』

 煙のせいで、その場にいた全員が激しくせき込んだ。

「分別してないせいで大変なことになったね」

 煙が薄らいできたところで、浜岡さんは肩のすすをはらいながら、苦笑いをする。

「神様のゴミも分別が必要とか、もうシャレになりませんよ……」

 ブツブツ言いながら、自分の服をチェックをした。あっちこっちに煤がついて、せっかくの服が黒い水玉模様で台無しだ。

「これ、普通の洗濯とクリーニングで落ちるんですか?」
「ここまで凄いの初めてだけど、だいじょうぶだと思うよ。いつも普通に洗濯してるし、俺」
「だったら良いんですけど……」

 家の洗濯機を使うのに抵抗を感じてしまう。八百万やおよろずハロワ近くのコインランドリーを利用しようか。あそこなら、私にも見える神様が常駐しているかもしれないし。

『そのほうらが来てくれて助かったでござるよ。ゴミはちゃんと燃え尽きたようでござるし』
『ああ、立ち去る前にすすをはらうでおじゃるよ。よけいなモノまで混じっておったし、普通の人間にはさわりがあるでおじゃる』
『燃やしてくれたお礼に、僕らがはらってあげるよ~~』

 そう言いながら三匹が取り出したのは、どこから見てもドラッグストアで売られている掃除用のハタキだった。

―― え、はらうって、それで……? ――
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

処理中です...