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本編
第十八話 父達は相変わらずでした
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選挙期間中、自分の選挙区だけ回っていれば良いのかと言えば、実のところそうでもない。
私はまだ二期目でベテランとは程遠い存在だから、どこかの選挙区に呼ばれるということはそんなに多くはないけれど、渡瀬先生や伊勢谷先生など知名度が高く地盤が安定している先生達は、あちらこちらの選挙区へと応援演説に向かうことになっていた。
父が「選挙の時は私も、選挙カーの上に立った客寄せパンダだったよ」と言っていたことを思い出す。皆さんそろってかなりのご高齢なのに大変なことよね。ほんと、国会議員って思っている以上に、体力が必要な職業だ。
「今年はお父さん、高みの見物なのよね?」
「お陰様で。今年の夏は久し振りに、ゆっくり沙織と二人ですごそうかなと思っているんだが……」
結局、数ヶ月間の伊勢谷先生や渡瀬先生達の説得工作は、ことごとく失敗に終わった。まあ本人はまったく議員職に未練が無いのだから、当然と言えば当然の結果だ。
ただ、宴席に参加すればお酌をしにきた先生にグチグチと言われお酒は美味しくない、ゴルフに行けばプレイ中ずっと後ろでブツブツと言われてスコアが思うようにのびず、挙句の果てにはバンカーにボールが深々と埋まってしまった、なんてこともあって、父にとっては散々な数ヶ月だったに違いない。
それでも父は自分の意思を曲げなかった。本人が本当の理由を話すかどうかは別として、単に妻孝行したいからだけでもないらしいことは、周囲も薄々気がついていたようだ。そんなわけで、最後まで比例区に名前だけでもなんていう先生もいたみたいだけれど、今年の夏から父は現職ではなく元職になる。
「だが?」
言葉を途中で切った父の様子に、これは何かあったなとピンとくるものがあって、先を促した。
「娘が選挙に出るのに、のんびり田舎に引っ込んでいるわけにはいかないだろうって、却下された」
「やっぱりね」
「なんだ、それだけか? もう少し同情してくれても良いじゃないか。せっかく評判の旅館の下調べをして、沙織と二人で行くのを楽しみにしていたのに」
私の返事があっさりすぎたのか、不満げな顔でブツブツと言っている。
「もしかして、お母さんに言う前に予約しちゃっていたの?」
「いや。それは沙織にお伺いを立ててからにしようと思っていたからな。で、このありさまだ。何も言わずにさっさと予約を入れて、無理やりにでも連れて行けば良かったな」
馬鹿正直にお伺いなんて立てるんじゃなかったとぼやいた。
「そんなことをしたらお母さんに滅多打ちにされて、その日の内にこっちに戻ってくるハメになるんじゃないの?」
「んー……その可能性は否めない」
うちの父はいくつになっても、母親にまったく頭が上がらない。そして本人はそのことに関して困っているわけでもなく、むしろ喜んでいる節があるのだから始末におえない。娘の私がいうのもなんだけど、嫁LOVEもここまでくると病気だ。
「でも、お母さんの意見はごもっともでしょ?」
「それはそうだが、もう応援にだって立つつもりもないんだから、こっちにいてもお前の役には立たんだろ? まさか年寄りを、雑用でこき使おうだなんて思っていないよな?」
選挙期間中の事務所では様々な雑用があり、それに対して多くの人達がお手伝いをしてくれていた。公職選挙法では金銭のやり取りは禁止されているので、選挙期間中のすべてのことは、応援してくれている支持者の人達の善意によって支えられている。つまり有権者の一票だけではなく、その人達の善意によって、私達は国会議員として働くことができるのだ。
「そんなこと言っていたら、お母さんに薄情者って叱られるんじゃないの?」
「もう叱られた」
そのしょぼんとした顔に、思わず笑ってしまった。きっと旅行を却下された時も、こんな顔で母を見つめていたのだろうと思うとおかしくて仕方がない。七十にもなってこんな顔をするなんて。いつまで経っても幸太郎さんは子供っぽいんだからと、母が笑うのも無理はないかな。
「今回は気の毒だけど我慢して。次からは私にも旦那様ができて、お母さんには心配かけないようにするから」
「だと良いんだがな。まあ今回は遠くからお前の選挙活動を見守ることにするよ。杉下達と一緒に」
……待って、今なんて?
「ちょっと。どうしてそこで、杉下さん達秘書様お歴々の名前が出てくるのよ」
「そりゃそうだろ。前回の選挙までは自分達の方で忙しくて、結花の選挙運動を見守るどころじゃなかったからな。今度の選挙は元職同士、気兼ねなくお前がどんなふうに選挙戦を戦うか見ることができる。あいつ等のことだから、きっと晃君やかなめちゃんにあれこれ駄目だしするんだろうなあ、二人とも気の毒に」
その口ぶりから、まったく気の毒だとは思っていないのが丸分かりだ。
「お父さんは?」
「ん?」
「お父さんも私に駄目だしするつもりでいるの?」
私の質問に、父は苦笑いをして首を横に振る。
「俺がそんなことしてみろ。どんだけあいつ等に、お前が言うなって言われることか。だから引退した年寄りらしく、黙っておとなしくしていることにする」
「本当に?」
「ああ。俺が若い頃とは時代も違うことだし、あいつ等にこれ以上あれこれ言われたくないからな」
「てっきりあれこれ言われて喜んでいるんだと思ってたのに」
「まさか!」
杉下さん達と父は、中学生の時からの同級生だったこともあってか、先生と秘書というよりも、どちらかと言えば親友戦友という感じだった。小さい頃の記憶の中にもよく皆で自宅の書斎で、政策についてあれこれと夜遅くまで熱心に話し合っている姿が残っている。熱くなりすぎてしまいに喧嘩みたいになっては、よく後から秘書になった影山さんになだめられていたっけ。
「前の選挙区からは江島君が出るんだったな」
「ええ。この二年間、伊勢谷先生の私設秘書として随分と勉強したみたいだし。元々あの選挙区は、江島さんが出るべきだったところだもの」
私が初めて立候補して国会議員になった選挙区の議席は、富司議員という与党議員が、病気療養を理由に引退したことでできた空席だった。本来は、富司先生の娘婿であり、先生の公設秘書を務めていた江島さんが出るのが筋だったのだけれど、いわゆる大人の事情で私にお鉢が回ってきたのだ。
そして二年経った今度の選挙で、やっと出馬することが決まった。療養中の福司先生もそのことにとても喜んでいるそうだ。
「応援には行くのか?」
「もちろん。富司先生と江島さんの奥さんからも頼まれているし。しっかり応援して議席をとってもらわなきゃ」
「気合を入れて応援するのもいいが、自分の選挙区も大事にしろよ。俺が出馬しないと分かったとたん、野党はのきなみこの選挙区に候補者を立ててきたからな」
「分かってる。お父さんが守ってきた議席は、絶対に渡さないから安心して」
この選挙区は、父だけでなく祖父も守ってきた与党議席の一つだ。私の代で他党の候補者に渡すつもりはない。
「江島さんのところに応援しに行く時は、ちゃんとこっちで大々的にそう宣言してから行くつもり。ちゃんと客寄せパンダになってくるから」
かつて父が言っていた言葉を繰り返す。
「しっかりパンダになってこい。ああ、だが見た目がパンダにならないような。夏の選挙は天気が良くても悪くても大変だから」
「それも分かってる。お母さんが紫外線対策しても日焼けするからって、今からあれこれ化粧品を持ってくるから大変なの。ちょっと過保護すぎると思わない?」
「なに言ってる。沙織は男の俺にだって紫外線対策をしろとあれこれ押し付けてきたんだぞ? お蔭でシミもなく、今のところ男前のままなんだそうだ」
「娘の前で惚気ないでください」
「惚気てない。沙織が言ったことをそのままお前に伝えただけだ」
コンコンと書斎のドアがノックする音がした。
「どうぞ」
扉が開いて顔を出したのは母だった。
「ねえ、そろそろ出てこない? 二人してこそこそと難しい話ばかりで、私のこと放っておくなんてちょっと酷いんじゃないかしら?」
「ああ、すまないな。つい話が長引いてしまった」
そう言って父は母を手招きした。
「もしかして旅行に行けなかったことで、結花に泣きついていたわけじゃないわよね?」
母が悪戯っぽい笑みを浮かべながら、父の横にきてそのままソファに座る。
「まさか。泣きついても君の娘は母は正しいと言って、取り合ってくれなかったよ」
「ほんとに薄情よね、幸太郎さんてば。自分の選挙区から娘が初めて立候補するのに、旅行に行こうだなんて」
「妻至上主義のお父さんだから、それを聞いても驚かなかったけどね」
フフフッと母と私とで笑い合っているのを見て、父は憮然とした顔をしたかって? まさかまさか、嬉しそうに母の肩に手を回してニヤニヤしていましたとも。
+++++
そして選挙戦が始まって初めての金曜日、応援演説に向かった先の宣伝カーの上に立ったら、遠くに父の姿が見えた。人だかりからかなり離れた場所、できるだけ目立たないような場所に立ち、こちらを見ている。
「ちょっと、家族総出で来るなんて聞いてないわよ……」
しかもそこにいるのは両親と杉下さん達だけではなく、兄夫婦やら森永さん一家の姿まであった。ちょっとまって、なんなのこの羞恥プレーみたいなギャラリー勢ぞろいの状況は!
そして私が自分達に気づいたのが分かったのか、奈緒ちゃんと友里ちゃんがニコニコしながら手を振ってきた。両親が今日の応援演説を見に来るとは聞いていたけど、まさかここまでオールスターで押し掛けてくるとは思わなかった。まったくもって皆の行動力にはいつもながら驚かされる。
「結花先生?」
横に立っていた江島さんに声をかけられて我に返る。そうだ、今日はしっかり江島さんのことを応援しなきゃ。
「お願いできますか?」
「はい」
ニッコリと微笑むと江島さんからマイクを受け取る。
目の前に集まっているのは、二年前の選挙で皆さんの票を私にくださいとお願いした人達だ。その票を今度は隣に立っている江島さんに。そうお願いするために、私はマイクを両手に持つとその人達に向けて声をあげた。
私はまだ二期目でベテランとは程遠い存在だから、どこかの選挙区に呼ばれるということはそんなに多くはないけれど、渡瀬先生や伊勢谷先生など知名度が高く地盤が安定している先生達は、あちらこちらの選挙区へと応援演説に向かうことになっていた。
父が「選挙の時は私も、選挙カーの上に立った客寄せパンダだったよ」と言っていたことを思い出す。皆さんそろってかなりのご高齢なのに大変なことよね。ほんと、国会議員って思っている以上に、体力が必要な職業だ。
「今年はお父さん、高みの見物なのよね?」
「お陰様で。今年の夏は久し振りに、ゆっくり沙織と二人ですごそうかなと思っているんだが……」
結局、数ヶ月間の伊勢谷先生や渡瀬先生達の説得工作は、ことごとく失敗に終わった。まあ本人はまったく議員職に未練が無いのだから、当然と言えば当然の結果だ。
ただ、宴席に参加すればお酌をしにきた先生にグチグチと言われお酒は美味しくない、ゴルフに行けばプレイ中ずっと後ろでブツブツと言われてスコアが思うようにのびず、挙句の果てにはバンカーにボールが深々と埋まってしまった、なんてこともあって、父にとっては散々な数ヶ月だったに違いない。
それでも父は自分の意思を曲げなかった。本人が本当の理由を話すかどうかは別として、単に妻孝行したいからだけでもないらしいことは、周囲も薄々気がついていたようだ。そんなわけで、最後まで比例区に名前だけでもなんていう先生もいたみたいだけれど、今年の夏から父は現職ではなく元職になる。
「だが?」
言葉を途中で切った父の様子に、これは何かあったなとピンとくるものがあって、先を促した。
「娘が選挙に出るのに、のんびり田舎に引っ込んでいるわけにはいかないだろうって、却下された」
「やっぱりね」
「なんだ、それだけか? もう少し同情してくれても良いじゃないか。せっかく評判の旅館の下調べをして、沙織と二人で行くのを楽しみにしていたのに」
私の返事があっさりすぎたのか、不満げな顔でブツブツと言っている。
「もしかして、お母さんに言う前に予約しちゃっていたの?」
「いや。それは沙織にお伺いを立ててからにしようと思っていたからな。で、このありさまだ。何も言わずにさっさと予約を入れて、無理やりにでも連れて行けば良かったな」
馬鹿正直にお伺いなんて立てるんじゃなかったとぼやいた。
「そんなことをしたらお母さんに滅多打ちにされて、その日の内にこっちに戻ってくるハメになるんじゃないの?」
「んー……その可能性は否めない」
うちの父はいくつになっても、母親にまったく頭が上がらない。そして本人はそのことに関して困っているわけでもなく、むしろ喜んでいる節があるのだから始末におえない。娘の私がいうのもなんだけど、嫁LOVEもここまでくると病気だ。
「でも、お母さんの意見はごもっともでしょ?」
「それはそうだが、もう応援にだって立つつもりもないんだから、こっちにいてもお前の役には立たんだろ? まさか年寄りを、雑用でこき使おうだなんて思っていないよな?」
選挙期間中の事務所では様々な雑用があり、それに対して多くの人達がお手伝いをしてくれていた。公職選挙法では金銭のやり取りは禁止されているので、選挙期間中のすべてのことは、応援してくれている支持者の人達の善意によって支えられている。つまり有権者の一票だけではなく、その人達の善意によって、私達は国会議員として働くことができるのだ。
「そんなこと言っていたら、お母さんに薄情者って叱られるんじゃないの?」
「もう叱られた」
そのしょぼんとした顔に、思わず笑ってしまった。きっと旅行を却下された時も、こんな顔で母を見つめていたのだろうと思うとおかしくて仕方がない。七十にもなってこんな顔をするなんて。いつまで経っても幸太郎さんは子供っぽいんだからと、母が笑うのも無理はないかな。
「今回は気の毒だけど我慢して。次からは私にも旦那様ができて、お母さんには心配かけないようにするから」
「だと良いんだがな。まあ今回は遠くからお前の選挙活動を見守ることにするよ。杉下達と一緒に」
……待って、今なんて?
「ちょっと。どうしてそこで、杉下さん達秘書様お歴々の名前が出てくるのよ」
「そりゃそうだろ。前回の選挙までは自分達の方で忙しくて、結花の選挙運動を見守るどころじゃなかったからな。今度の選挙は元職同士、気兼ねなくお前がどんなふうに選挙戦を戦うか見ることができる。あいつ等のことだから、きっと晃君やかなめちゃんにあれこれ駄目だしするんだろうなあ、二人とも気の毒に」
その口ぶりから、まったく気の毒だとは思っていないのが丸分かりだ。
「お父さんは?」
「ん?」
「お父さんも私に駄目だしするつもりでいるの?」
私の質問に、父は苦笑いをして首を横に振る。
「俺がそんなことしてみろ。どんだけあいつ等に、お前が言うなって言われることか。だから引退した年寄りらしく、黙っておとなしくしていることにする」
「本当に?」
「ああ。俺が若い頃とは時代も違うことだし、あいつ等にこれ以上あれこれ言われたくないからな」
「てっきりあれこれ言われて喜んでいるんだと思ってたのに」
「まさか!」
杉下さん達と父は、中学生の時からの同級生だったこともあってか、先生と秘書というよりも、どちらかと言えば親友戦友という感じだった。小さい頃の記憶の中にもよく皆で自宅の書斎で、政策についてあれこれと夜遅くまで熱心に話し合っている姿が残っている。熱くなりすぎてしまいに喧嘩みたいになっては、よく後から秘書になった影山さんになだめられていたっけ。
「前の選挙区からは江島君が出るんだったな」
「ええ。この二年間、伊勢谷先生の私設秘書として随分と勉強したみたいだし。元々あの選挙区は、江島さんが出るべきだったところだもの」
私が初めて立候補して国会議員になった選挙区の議席は、富司議員という与党議員が、病気療養を理由に引退したことでできた空席だった。本来は、富司先生の娘婿であり、先生の公設秘書を務めていた江島さんが出るのが筋だったのだけれど、いわゆる大人の事情で私にお鉢が回ってきたのだ。
そして二年経った今度の選挙で、やっと出馬することが決まった。療養中の福司先生もそのことにとても喜んでいるそうだ。
「応援には行くのか?」
「もちろん。富司先生と江島さんの奥さんからも頼まれているし。しっかり応援して議席をとってもらわなきゃ」
「気合を入れて応援するのもいいが、自分の選挙区も大事にしろよ。俺が出馬しないと分かったとたん、野党はのきなみこの選挙区に候補者を立ててきたからな」
「分かってる。お父さんが守ってきた議席は、絶対に渡さないから安心して」
この選挙区は、父だけでなく祖父も守ってきた与党議席の一つだ。私の代で他党の候補者に渡すつもりはない。
「江島さんのところに応援しに行く時は、ちゃんとこっちで大々的にそう宣言してから行くつもり。ちゃんと客寄せパンダになってくるから」
かつて父が言っていた言葉を繰り返す。
「しっかりパンダになってこい。ああ、だが見た目がパンダにならないような。夏の選挙は天気が良くても悪くても大変だから」
「それも分かってる。お母さんが紫外線対策しても日焼けするからって、今からあれこれ化粧品を持ってくるから大変なの。ちょっと過保護すぎると思わない?」
「なに言ってる。沙織は男の俺にだって紫外線対策をしろとあれこれ押し付けてきたんだぞ? お蔭でシミもなく、今のところ男前のままなんだそうだ」
「娘の前で惚気ないでください」
「惚気てない。沙織が言ったことをそのままお前に伝えただけだ」
コンコンと書斎のドアがノックする音がした。
「どうぞ」
扉が開いて顔を出したのは母だった。
「ねえ、そろそろ出てこない? 二人してこそこそと難しい話ばかりで、私のこと放っておくなんてちょっと酷いんじゃないかしら?」
「ああ、すまないな。つい話が長引いてしまった」
そう言って父は母を手招きした。
「もしかして旅行に行けなかったことで、結花に泣きついていたわけじゃないわよね?」
母が悪戯っぽい笑みを浮かべながら、父の横にきてそのままソファに座る。
「まさか。泣きついても君の娘は母は正しいと言って、取り合ってくれなかったよ」
「ほんとに薄情よね、幸太郎さんてば。自分の選挙区から娘が初めて立候補するのに、旅行に行こうだなんて」
「妻至上主義のお父さんだから、それを聞いても驚かなかったけどね」
フフフッと母と私とで笑い合っているのを見て、父は憮然とした顔をしたかって? まさかまさか、嬉しそうに母の肩に手を回してニヤニヤしていましたとも。
+++++
そして選挙戦が始まって初めての金曜日、応援演説に向かった先の宣伝カーの上に立ったら、遠くに父の姿が見えた。人だかりからかなり離れた場所、できるだけ目立たないような場所に立ち、こちらを見ている。
「ちょっと、家族総出で来るなんて聞いてないわよ……」
しかもそこにいるのは両親と杉下さん達だけではなく、兄夫婦やら森永さん一家の姿まであった。ちょっとまって、なんなのこの羞恥プレーみたいなギャラリー勢ぞろいの状況は!
そして私が自分達に気づいたのが分かったのか、奈緒ちゃんと友里ちゃんがニコニコしながら手を振ってきた。両親が今日の応援演説を見に来るとは聞いていたけど、まさかここまでオールスターで押し掛けてくるとは思わなかった。まったくもって皆の行動力にはいつもながら驚かされる。
「結花先生?」
横に立っていた江島さんに声をかけられて我に返る。そうだ、今日はしっかり江島さんのことを応援しなきゃ。
「お願いできますか?」
「はい」
ニッコリと微笑むと江島さんからマイクを受け取る。
目の前に集まっているのは、二年前の選挙で皆さんの票を私にくださいとお願いした人達だ。その票を今度は隣に立っている江島さんに。そうお願いするために、私はマイクを両手に持つとその人達に向けて声をあげた。
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