10 / 67
1月 energy flow
第10話、満月を待つ三日月
しおりを挟む
ため息をつきながらリビングに向かう。こたつに足を突っ込んで、本棚を漁る。お気に入りの能楽本「翁」の脚本を手に取る。
時を超えた芸術は静寂という音楽を紡ぎ、篝火の音すら演出に変える。
「ジャストなタイミングかな?」
「こんばんは。挨拶もせずにすいません」
「いやいや。会いたかったのは俺だからね。騙し討ちにしてすまない」
「言ってくだされば普通に会いますよ」
「自然な感じに会いたかったんだ」
至って話は単純だった。こいつが作った新たなトータルコンシェルジュ機能を持つソフトのサンプル音源を俺に頼みたい、と。
そんなこと、何を今更、改まっていうのだ?
よくよく聞けば、開発規模は確かに小さいが、汎用性は高い。だからリリースされれば巨大なリターンが狙える。だから予め話がしたい。
それがどうした。確かに俺は野心家だと自覚しているが、友人達の利益を掠めるような品のないことはお断りだ。
心配そうにこちらを見なくても、断ることはない。だが、気に入らないし、二つ返事は軽く見られる。気が向いたらと回答しよう。
「構いませんよ。ただアルバイトもあるので、そちらを優先することもありますがいいですか?」
「ああ、それで構わない」
「ありがとう。お前しかいないってわかってるんだけど、頼みにくくて」
「なんでだよ。とりあえず、お腹空いたかなー?」
「ははぁー。お持ちいたしまーす」
3人でノートとか裏紙に夢を書き殴りながら、おにぎりを頬張り、おでんを咥え、酒を啜る。狭いリビングにこたつで暖をとりながら、あーでもない、こーでもないと話す時間は一瞬で、それは永遠のようだった。
ふと、雪が気になった。
カーテンを開けてみると、ベランダにはうっすらと雪が積もっている。お酒が入っているからか気分がいい。火照った身体と議論を少し落ち着けようと、窓を開ける。
「さっむ!!」
「でも、冬の温かい部屋で窓開けるの気持ちよくない?」
「まあね。短時間なら同意するよ」
突っ掛けを履いて、そのままベランダに出るとちらつく雪と暗雲を切り裂くように突然、雷が光った。
ほんの一瞬のこと。
その稲光は地上に落ちるはずなのに、雲の影のせいか光が空に向かって登ったように見えた。
「いま、雷、逆さまに見えた」
「うん。光の滝に龍が登る姿に見えた」
「俺の位置だとさ、窓ガラスに雷が反射して君の左腕に龍が絡みつくように見えた」
振り返ると皆、見えたという。
「なにそれ?かっこいいんだけど」
友人2人と一緒に、3人でみた稲光。
単なる電気信号。もしかしたら見間違い。だけど、3人は同じこと、時間、感じることを共有した。言葉がなくても分かり合えた3人の共通言語。雪が降り注ぐ空をこうして、一緒に見上げている。
「おー、さむ!」「早く入んなよ」「飲み物取ってくる」
3人で一緒なら、きっと、上手くいく。
時を超えた芸術は静寂という音楽を紡ぎ、篝火の音すら演出に変える。
「ジャストなタイミングかな?」
「こんばんは。挨拶もせずにすいません」
「いやいや。会いたかったのは俺だからね。騙し討ちにしてすまない」
「言ってくだされば普通に会いますよ」
「自然な感じに会いたかったんだ」
至って話は単純だった。こいつが作った新たなトータルコンシェルジュ機能を持つソフトのサンプル音源を俺に頼みたい、と。
そんなこと、何を今更、改まっていうのだ?
よくよく聞けば、開発規模は確かに小さいが、汎用性は高い。だからリリースされれば巨大なリターンが狙える。だから予め話がしたい。
それがどうした。確かに俺は野心家だと自覚しているが、友人達の利益を掠めるような品のないことはお断りだ。
心配そうにこちらを見なくても、断ることはない。だが、気に入らないし、二つ返事は軽く見られる。気が向いたらと回答しよう。
「構いませんよ。ただアルバイトもあるので、そちらを優先することもありますがいいですか?」
「ああ、それで構わない」
「ありがとう。お前しかいないってわかってるんだけど、頼みにくくて」
「なんでだよ。とりあえず、お腹空いたかなー?」
「ははぁー。お持ちいたしまーす」
3人でノートとか裏紙に夢を書き殴りながら、おにぎりを頬張り、おでんを咥え、酒を啜る。狭いリビングにこたつで暖をとりながら、あーでもない、こーでもないと話す時間は一瞬で、それは永遠のようだった。
ふと、雪が気になった。
カーテンを開けてみると、ベランダにはうっすらと雪が積もっている。お酒が入っているからか気分がいい。火照った身体と議論を少し落ち着けようと、窓を開ける。
「さっむ!!」
「でも、冬の温かい部屋で窓開けるの気持ちよくない?」
「まあね。短時間なら同意するよ」
突っ掛けを履いて、そのままベランダに出るとちらつく雪と暗雲を切り裂くように突然、雷が光った。
ほんの一瞬のこと。
その稲光は地上に落ちるはずなのに、雲の影のせいか光が空に向かって登ったように見えた。
「いま、雷、逆さまに見えた」
「うん。光の滝に龍が登る姿に見えた」
「俺の位置だとさ、窓ガラスに雷が反射して君の左腕に龍が絡みつくように見えた」
振り返ると皆、見えたという。
「なにそれ?かっこいいんだけど」
友人2人と一緒に、3人でみた稲光。
単なる電気信号。もしかしたら見間違い。だけど、3人は同じこと、時間、感じることを共有した。言葉がなくても分かり合えた3人の共通言語。雪が降り注ぐ空をこうして、一緒に見上げている。
「おー、さむ!」「早く入んなよ」「飲み物取ってくる」
3人で一緒なら、きっと、上手くいく。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる