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A Midsummer Night's Dream

答えのない問い

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この初めは小さかった、本当に小さな投げられた波紋は、少しずつ機械人形を壊していく。

まるで組曲として編成されたVariationのように。

真夏の夜の夢の薬を、瞼に塗られたあとに目を開けた世界のように。

どこまでもクソッタレな同僚と上司ではあるが、今の仕事そのものは好きだった。
この仕事をすでに13年は続けているが飽きてもいない。

今の職場は試される大地とは言わないが、人間で試験すんなよ!と呼べる暑さと寒さと湿気と乾燥の大地な職場だ。でも、愛していた。みんなも技術も。カラフルな、幸せな世界。

もし今年も受験させて貰えるなら。
今度はきちんと上司から支援をして貰えるなら。

今と変わらず全力で仕事をするし、次こそ受かると思っていた。
そのための努力は惜しまないつもりだった。

しかし、上司達が出した答えは「否」だった。俺を上に上げるつもりもないし、支援はしない。ただ仕事はしろ、だったんだ。

誰より仕事してきた自負はある。事業所の発明者の約半分。部署数でいえば最多を1人で抱えて、目標は全て達成してきた。しかも、新人教育に他のプロジェクトを抱えながらである。

だけど東京から来た課長が俺に言った言葉は「同じ職場の仲間を信頼できないお前に仕事は渡せない」だった。

なら、そもそも俺に任せるな。じゃあ、てめーがやれ。
キレた俺は関係各所に次は俺ではない、とメールを飛ばした。当然、製品すらわからない係長と尻に殻がついた3年目だけでこなせる訳がない。

案の定、大炎上した。bccで見る罵詈雑言。
現実も真実も見ないで、感情と理想で進めようとするからバカをみる。

結局、この言葉は俺の仕事相手先である社内の方々に非難を浴びて撤回させられたようだ。
仕事は俺に戻り、若い子達の成長レベル見ながら仕事を振り直す。

課長は認めてないが真面目に俺にしか仕事が来ない上に皮肉たっぷりなメールが課長宛に何通か飛んだことはbccで見ている。

現実は非情だ。夢で仕事は終わらない。

ただ「異動」か心を入れ替えたか確認するために一年は推薦しないと、自部署の部長が俺に宣言したことで俺の腹が決まってしまった。

一年、去れど次の受験は初老である。
しかも気に入らなければ受けさせない、とまで言われている。

本来なら28から35歳に受ける試験を40歳で学科から受け直せ、と言われた時点でこの会社への愛想が尽きてしまったのである。

「エコ贔屓してでも上げさせたいヤツは上げろ」とお偉いさんが言っている以上、上がるのは、あの子だろう。

とはいえ、今の職種そのものは好きだしこの職種を10年以上やってきた。昇進昇格に拘らなければ、開発側や他部署からの異動引き合いもいくつか頂いていた。

他部署からは課長級から言葉選び含めての叱咤激励から、優しい言葉まで下さった。
血の通った温かい言葉を貰い、実際に俺の異動先探しに動いてくれた方もいた。

本当にこれは嬉しかった。俺が不恰好でも全力でやってきたこと自体は無駄とは言えない。
そう、思えた。
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