ミストリアンクエスト

幸崎 亮

文字の大きさ
11 / 105
第1章 ファスティアの冒険者

第11話 ファスティアの守護者

しおりを挟む
 ファスティアの大通りはすでかんさんとしており、商店も完全に閉じられている。乱雑で、一見するとちつじょにも思える街だが、最低限に守られるべきルールは、皆が理解しているようだ。

 それもまた、この街が多くの人々に愛されている所以ゆえんだろう。


 酒場の外ではアリサとカダン――そしてもう一人、フード付きの魔法衣ローブを着た、魔術士の男が待機していた。


「あっ、エルス。こっちこっち」
「待たせちまって、すまねェな!」
「改めてご協力感謝です、エルス殿!――よし、ザイン! 行けるか?」

 自警団長カダンは、ザインと呼んだ魔術士にたずねる。よく見ると彼の着衣にも、カダンと同じ自警団の紋章がしゅうされているようだ。

「はい、団長。しかし、これで風の守護符アミュレットは最後です。よろしいのですか?」
「問題ない! 彼らはロイマン殿がすいせんされた冒険者だ。向かってくれ!」
「かしこまりました」

 ザインは礼儀正しい口調で了承し、緑色の宝石が付いた守護符アミュレットを取り出す。そして、それを握りしめながら、静かに念じはじめた。


「なぁ、行かねェのか?」
「おおっと! 動いてはなりませぬ、エルス殿! 彼の周囲からは離れぬように」
「集中力が大事なんだって。エルス、静かにしよう?」

 エルスらが見守るなか――やがて、ザインが握りしめた守護符アミュレットが緑色の光を放つ。

 同時にザインは呪文を唱え、完成した術式を解放した!


「風の精霊よ、我に力を示したまえ! マフレイト――ッ!」

 風の精霊魔法・マフレイトが発動し、ザインの周囲に風の結界が展開される。

 結界はエルスたち四人をわずかに浮遊させると――無人となった大通りを高速で駆け抜けはじめた!


「うおおおッ! すげェー!」
「すごく速いねぇ。あっ、エルス。黙って黙って」
「悪ィ……ッて、何で俺だけなんだよッ!」
「ハッハッハ! ザインは優秀な魔術士ゆえ、もう話すくらいならば大丈夫ですよ!」

 カダンは豪快に笑い、誇らしげに自身の胸を叩く。

「すげェなー、これ! あっという間に、街の外だぜ!」

 結界の中は足元の安定感こそ無いものの、風圧を感じることもなく立っていられる。制御に集中し続ける術者以外には、なかなか快適な移動手段のようだ。


「ほらエルス、本当ほんとに飛んでるっ! ねぇ、絶対に落ちちゃ駄目だよっ?」
「……いや、期待されても絶対に落ちねえぞ?」
「うん。エルスがいなくなっちゃうと、さみしいもんね」
「ハハッ、お二方! 実に仲がよろしいですな!」

 和やかな雰囲気のまま、街の外フィールドを東へと突き進むいっこう

 だが、今朝エルスたちが魔物狩りをしていた荒地まで差しかかると、周囲の光景が目に見えて変化し始めた。


 あたり一面を、異常な数の魔物がはいかいしている。
 そして数多くの冒険者たちが、いたる所で魔物たちと戦っている。


「こんな数が現れるなんて……。どうなってんだ?」
「魔物どもは突如、はじまりの遺跡からわき出すように現れたのです。どれも弱い魔物ではありますが、いつまで増え続けるのかすらわからぬ状況。万が一、このまま夜を迎えてしまうと流石に手に負えなくなります!」
「なるほど……。団長があんなに必死だったわけだ」

 エルスは空を見上げる。天上の太陽ソルは地上にオレンジ色の光を放ち、ルナとき――すなわち、夜の近づきを告げていた。


「団長さん。いっそ王都にも、助けを求めたほうがいいんじゃないですか?」
「ええ……。もし王都への最終防衛線に魔物どもが辿り着いた場合、即座に伝令を出すよう手配してあります。田舎の王国などと言われてはおりますが、アルティリア騎士団の強さは世界屈指! あっという間に鎮圧出来るでしょう!」

 王国騎士団の強さを熱く語るカダンだが、次第にちんつうな表情を浮かべながら続ける。

「しかし可能な限り、ファスティアだけの力で対処したいのです。もし王都の兵を動かしてしまうような事態になれば……」
「……どッ、どうなるんだ?」

 ごくりと唾を飲み込むエルス。
 そしてカダンはしばし目をじ、大きく息を吸い込む――。

「おそらくファスティアの自治権ははくだつされ、街には王国兵が常駐します! 我々自警団も存在を疑問視され、解散させられるでしょう!――そして自由と冒険者を愛する街ファスティアにも治安向上の為、今以上に神殿騎士が大量に配置されます! こうなると、酒場での賭け事やら決闘などはもっての外! 静かに、お行儀良く食事をしなければなりません――ッ!」

 ねんされる最悪の事態を一気に挙げ連ね、カダンは苦しげに呼吸を荒げた。


「それは確かに、かなり深刻だなッ……。んー、俺は神殿騎士が増えるのが一番ヤダなぁ」
「王都には、たくさん居たもんね。でも、そんなに怖くないと思うんだけどなぁ」

 アリサがエルスに目をると、彼はふるえるような仕草で、自身の腕をさすっていた。

「なんかさ、アイツらッて不気味なんだよなぁ。鎧に兜でガッチガチで、みんな同じ奴に見えるしさ……」
「ええ、わかります! 自分も幼き頃は、彼らの出で立ちに恐怖心を覚えた記憶がありますな!」
「――団長。まもなく到着します」

 ザインはおもむろに三人の会話をさえぎり、運搬魔法マフレイトの速度を落としはじめた。


 やがて眼前の黄昏たそがれの中に、崩れかけた神殿のような建物が不気味に浮かびあがる――。

「……これが、はじまりの遺跡か……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...