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第1章 ファスティアの冒険者
第11話 ファスティアの守護者
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ファスティアの大通りは既に閑散としており、商店も完全に閉じられている。乱雑で、一見すると無秩序にも思える街だが、最低限に守られるべき法は、皆が理解しているようだ。
それもまた、この街が多くの人々に愛されている所以だろう。
酒場の外ではアリサとカダン――そしてもう一人、フード付きの魔法衣を着た、魔術士の男が待機していた。
「あっ、エルス。こっちこっち」
「待たせちまって、すまねェな!」
「改めてご協力感謝です、エルス殿!――よし、ザイン! 行けるか?」
自警団長カダンは、ザインと呼んだ魔術士に訊ねる。よく見ると彼の着衣にも、カダンと同じ自警団の紋章が刺繍されているようだ。
「はい、団長。しかし、これで風の守護符は最後です。よろしいのですか?」
「問題ない! 彼らはロイマン殿が推薦された冒険者だ。向かってくれ!」
「かしこまりました」
ザインは礼儀正しい口調で了承し、緑色の宝石が付いた守護符を取り出す。そして、それを握りしめながら、静かに念じはじめた。
「なぁ、行かねェのか?」
「おおっと! 動いてはなりませぬ、エルス殿! 彼の周囲からは離れぬように」
「集中力が大事なんだって。エルス、静かにしよう?」
エルスらが見守るなか――やがて、ザインが握りしめた守護符が緑色の光を放つ。
同時にザインは呪文を唱え、完成した術式を解放した!
「風の精霊よ、我に力を示し給え! マフレイト――ッ!」
風の精霊魔法・マフレイトが発動し、ザインの周囲に風の結界が展開される。
結界はエルスたち四人を僅かに浮遊させると――無人となった大通りを高速で駆け抜けはじめた!
「うおおおッ! すげェー!」
「すごく速いねぇ。あっ、エルス。黙って黙って」
「悪ィ……ッて、何で俺だけなんだよッ!」
「ハッハッハ! ザインは優秀な魔術士ゆえ、もう話すくらいならば大丈夫ですよ!」
カダンは豪快に笑い、誇らしげに自身の胸を叩く。
「すげェなー、これ! あっという間に、街の外だぜ!」
結界の中は足元の安定感こそ無いものの、風圧を感じることもなく立っていられる。制御に集中し続ける術者以外には、なかなか快適な移動手段のようだ。
「ほらエルス、本当に飛んでるっ! ねぇ、絶対に落ちちゃ駄目だよっ?」
「……いや、期待されても絶対に落ちねえぞ?」
「うん。エルスがいなくなっちゃうと、さみしいもんね」
「ハハッ、お二方! 実に仲がよろしいですな!」
和やかな雰囲気のまま、街の外を東へと突き進む一行。
だが、今朝エルスたちが魔物狩りをしていた荒地まで差しかかると、周囲の光景が目に見えて変化し始めた。
あたり一面を、異常な数の魔物が徘徊している。
そして数多くの冒険者たちが、いたる所で魔物たちと戦っている。
「こんな数が現れるなんて……。どうなってんだ?」
「魔物どもは突如、はじまりの遺跡からわき出すように現れたのです。どれも弱い魔物ではありますが、いつまで増え続けるのかすらわからぬ状況。万が一、このまま夜を迎えてしまうと流石に手に負えなくなります!」
「なるほど……。団長があんなに必死だったわけだ」
エルスは空を見上げる。天上の太陽は地上にオレンジ色の光を放ち、月の刻――すなわち、夜の近づきを告げていた。
「団長さん。いっそ王都にも、助けを求めたほうがいいんじゃないですか?」
「ええ……。もし王都への最終防衛線に魔物どもが辿り着いた場合、即座に伝令を出すよう手配してあります。田舎の王国などと言われてはおりますが、アルティリア騎士団の強さは世界屈指! あっという間に鎮圧出来るでしょう!」
王国騎士団の強さを熱く語るカダンだが、次第に沈痛な表情を浮かべながら続ける。
「しかし可能な限り、ファスティアだけの力で対処したいのです。もし王都の兵を動かしてしまうような事態になれば……」
「……どッ、どうなるんだ?」
ごくりと唾を飲み込むエルス。
そしてカダンは暫し目を瞑じ、大きく息を吸い込む――。
「おそらくファスティアの自治権は剥奪され、街には王国兵が常駐します! 我々自警団も存在を疑問視され、解散させられるでしょう!――そして自由と冒険者を愛する街ファスティアにも治安向上の為、今以上に神殿騎士が大量に配置されます! こうなると、酒場での賭け事やら決闘などは以ての外! 静かに、お行儀良く食事をしなければなりません――ッ!」
懸念される最悪の事態を一気に挙げ連ね、カダンは苦しげに呼吸を荒げた。
「それは確かに、かなり深刻だなッ……。んー、俺は神殿騎士が増えるのが一番ヤダなぁ」
「王都には、たくさん居たもんね。でも、そんなに怖くないと思うんだけどなぁ」
アリサがエルスに目を遣ると、彼は震えるような仕草で、自身の腕を擦っていた。
「なんかさ、アイツらッて不気味なんだよなぁ。鎧に兜でガッチガチで、みんな同じ奴に見えるしさ……」
「ええ、わかります! 自分も幼き頃は、彼らの出で立ちに恐怖心を覚えた記憶がありますな!」
「――団長。まもなく到着します」
ザインは徐に三人の会話を遮り、運搬魔法の速度を落としはじめた。
やがて眼前の黄昏の中に、崩れかけた神殿のような建物が不気味に浮かびあがる――。
「……これが、はじまりの遺跡か……」
それもまた、この街が多くの人々に愛されている所以だろう。
酒場の外ではアリサとカダン――そしてもう一人、フード付きの魔法衣を着た、魔術士の男が待機していた。
「あっ、エルス。こっちこっち」
「待たせちまって、すまねェな!」
「改めてご協力感謝です、エルス殿!――よし、ザイン! 行けるか?」
自警団長カダンは、ザインと呼んだ魔術士に訊ねる。よく見ると彼の着衣にも、カダンと同じ自警団の紋章が刺繍されているようだ。
「はい、団長。しかし、これで風の守護符は最後です。よろしいのですか?」
「問題ない! 彼らはロイマン殿が推薦された冒険者だ。向かってくれ!」
「かしこまりました」
ザインは礼儀正しい口調で了承し、緑色の宝石が付いた守護符を取り出す。そして、それを握りしめながら、静かに念じはじめた。
「なぁ、行かねェのか?」
「おおっと! 動いてはなりませぬ、エルス殿! 彼の周囲からは離れぬように」
「集中力が大事なんだって。エルス、静かにしよう?」
エルスらが見守るなか――やがて、ザインが握りしめた守護符が緑色の光を放つ。
同時にザインは呪文を唱え、完成した術式を解放した!
「風の精霊よ、我に力を示し給え! マフレイト――ッ!」
風の精霊魔法・マフレイトが発動し、ザインの周囲に風の結界が展開される。
結界はエルスたち四人を僅かに浮遊させると――無人となった大通りを高速で駆け抜けはじめた!
「うおおおッ! すげェー!」
「すごく速いねぇ。あっ、エルス。黙って黙って」
「悪ィ……ッて、何で俺だけなんだよッ!」
「ハッハッハ! ザインは優秀な魔術士ゆえ、もう話すくらいならば大丈夫ですよ!」
カダンは豪快に笑い、誇らしげに自身の胸を叩く。
「すげェなー、これ! あっという間に、街の外だぜ!」
結界の中は足元の安定感こそ無いものの、風圧を感じることもなく立っていられる。制御に集中し続ける術者以外には、なかなか快適な移動手段のようだ。
「ほらエルス、本当に飛んでるっ! ねぇ、絶対に落ちちゃ駄目だよっ?」
「……いや、期待されても絶対に落ちねえぞ?」
「うん。エルスがいなくなっちゃうと、さみしいもんね」
「ハハッ、お二方! 実に仲がよろしいですな!」
和やかな雰囲気のまま、街の外を東へと突き進む一行。
だが、今朝エルスたちが魔物狩りをしていた荒地まで差しかかると、周囲の光景が目に見えて変化し始めた。
あたり一面を、異常な数の魔物が徘徊している。
そして数多くの冒険者たちが、いたる所で魔物たちと戦っている。
「こんな数が現れるなんて……。どうなってんだ?」
「魔物どもは突如、はじまりの遺跡からわき出すように現れたのです。どれも弱い魔物ではありますが、いつまで増え続けるのかすらわからぬ状況。万が一、このまま夜を迎えてしまうと流石に手に負えなくなります!」
「なるほど……。団長があんなに必死だったわけだ」
エルスは空を見上げる。天上の太陽は地上にオレンジ色の光を放ち、月の刻――すなわち、夜の近づきを告げていた。
「団長さん。いっそ王都にも、助けを求めたほうがいいんじゃないですか?」
「ええ……。もし王都への最終防衛線に魔物どもが辿り着いた場合、即座に伝令を出すよう手配してあります。田舎の王国などと言われてはおりますが、アルティリア騎士団の強さは世界屈指! あっという間に鎮圧出来るでしょう!」
王国騎士団の強さを熱く語るカダンだが、次第に沈痛な表情を浮かべながら続ける。
「しかし可能な限り、ファスティアだけの力で対処したいのです。もし王都の兵を動かしてしまうような事態になれば……」
「……どッ、どうなるんだ?」
ごくりと唾を飲み込むエルス。
そしてカダンは暫し目を瞑じ、大きく息を吸い込む――。
「おそらくファスティアの自治権は剥奪され、街には王国兵が常駐します! 我々自警団も存在を疑問視され、解散させられるでしょう!――そして自由と冒険者を愛する街ファスティアにも治安向上の為、今以上に神殿騎士が大量に配置されます! こうなると、酒場での賭け事やら決闘などは以ての外! 静かに、お行儀良く食事をしなければなりません――ッ!」
懸念される最悪の事態を一気に挙げ連ね、カダンは苦しげに呼吸を荒げた。
「それは確かに、かなり深刻だなッ……。んー、俺は神殿騎士が増えるのが一番ヤダなぁ」
「王都には、たくさん居たもんね。でも、そんなに怖くないと思うんだけどなぁ」
アリサがエルスに目を遣ると、彼は震えるような仕草で、自身の腕を擦っていた。
「なんかさ、アイツらッて不気味なんだよなぁ。鎧に兜でガッチガチで、みんな同じ奴に見えるしさ……」
「ええ、わかります! 自分も幼き頃は、彼らの出で立ちに恐怖心を覚えた記憶がありますな!」
「――団長。まもなく到着します」
ザインは徐に三人の会話を遮り、運搬魔法の速度を落としはじめた。
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