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第1章 ファスティアの冒険者
第40話 マナの満ちる時
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魔物の群れを退けたのも束の間、次なる進行方向――やや細くなった林道付近には、またしても数体のハイコボルドと、巨大なクモの群れが犇いていた。
「初めて見るヤツだ……。なんか気持ち悪ィし、あンまし近づきたくねェな」
「そうかなぁ? けっこうかわいいと思うけど」
「二人とも、あの魔物の吐く粘液には気をつけろ。装備を台無しにされかねん」
「わかった!……へッ、それならッ!」
エルスは剣を納め、二人の前へ進み出る。そして右手をかざし、魔物を一網打尽にすべく呪文を唱え始めた!
余力は残すべきだとしても、今は霧が出ている影響で魔力素の濃度が高い。たとえ体内の魔力素を消耗したとしても、すぐに回復するだろう。
「――むっ? 待てエルス!」
ニセルはエルスの詠唱内容に気づき、慌てて彼を制止する!――が、すでに彼は発動の準備に入っているためか、警告にも反応がない!
「マズイぞ、伏せろアリサ!」
「えっ……?」
もう魔法の中断は間に合わない。ニセルはアリサの肩を抑え、強引に彼女を屈ませる!――それとほぼ同時に、エルスが魔力を解き放った!
「フォルス――ッ!」
炎の精霊魔法・フォルスが発動し――
なんと、エルスの周囲に十数個もの火球が出現した!
「……あッ……? へえぇッ!?」
普段の数倍以上も現れた火球に、術者であるエルスも驚きのあまり、間の抜けた声を発する。そして、炎は矢のように形を変え、前方の魔物たちへ向け驟雨の如く降り注いだ――!
「ギイィィィーエェーッ!」
炎の矢は敵を焼き尽くし、それらをあっという間に瘴気へと還す!――さらに炎は背後の木々にまで燃え移り、目の前の林が激しい炎に包まれた!
「伏せろエルス! すぐに息を止めろ!」
「あ……ああッ……!」
ニセルは呆然と立ち尽くすエルスの腕を引っ張り、彼を引き倒すかのように屈ませる!――その直後、三人の頭上を激しい熱風が通り抜けた! もし、これをまともに吸い込んでいれば、確実に肺を焼かれていただろう。
「アリサ、水の魔法は使えるか?」
「ううん。わたしは光魔法しか、ごめんなさい」
「いや、かまわんさ。二人とも、一旦下がるぞ。このままでは炎にまかれてしまう」
「――まッ、待ってくれ! それなら……!」
エルスは素早く立ち上がり――
燃え上がる木々に手をかざしながら、今度は別の呪文を唱える!
「なにっ!?――まさか、それは……!」
その呪文の正体に、ニセルは驚愕を隠し切れない。その間に、エルスは冷静に術式を完成させ、右手を高く掲げた!
「ミュゼル――ッ!」
水の精霊魔法・ミュゼルが発動し、エルスの頭上に十数個の水泡が出現する! 水泡は回転しつつ飛散し、着弾地点の周囲を凍りつかせる!
エルスの魔法によって、激しい音を立てながら燃え盛っていた林道は一瞬にして、今度は氷壁に覆われた静寂の空間へと変貌してしまった――。
「うへェ……戦闘終了ぉ……。本当すまねェ、二人とも……」
火災の処理を終え、へたり込みかけたエルスをアリサが支える。結果的に魔物の群れは討伐されたものの、一歩間違えれば大惨事となっていただろう。
「いや……。オレも先に注意しておくべきだった。二人とも、怪我は無いか?」
「うん、大丈夫。ニセルさんのおかげで助かったよ」
礼を言いながら立ち上がり、アリサはスカートや長いポニーテールについた泥を掃う。彼女の長い茶髪も、少々縮れてしまったようだ。
「霧ン中で魔法を撃ったこと無くってさ……。あんなことになッちまうとは……」
かなり憔悴してしまったのか、エルスは二人に対して深々と頭を下げる。魔力素の集合体ともいえる霧には、魔法の威力を増幅させる効果もあるようだ。
経験を積んだ魔術士ならば、霧の影響も考慮しながら発動の際の魔力を調整するのだが、実戦経験の浅いエルスは変化に気づかず、普段通り術を解き放ってしまった。
「ふっ。失敗は誰にでもあるさ、あまり気にするな。それより――」
そこまでを言いかけたニセルだったが――
一旦言葉を切り、凍りついた林道を指さす。
「んッ? なんだニセル?」
「いや、進みながら話そう。霧が出ている間に辿り着きたいからな」
ニセルの言葉通り――現在は周囲の明るさが増し、太陽の光が氷の柱に反射して幻想的に輝いている。霧が晴れかけているのだろう。エルスたちは目的の洞窟へ向け、この光の中へと歩みを進めるのだった――。
「初めて見るヤツだ……。なんか気持ち悪ィし、あンまし近づきたくねェな」
「そうかなぁ? けっこうかわいいと思うけど」
「二人とも、あの魔物の吐く粘液には気をつけろ。装備を台無しにされかねん」
「わかった!……へッ、それならッ!」
エルスは剣を納め、二人の前へ進み出る。そして右手をかざし、魔物を一網打尽にすべく呪文を唱え始めた!
余力は残すべきだとしても、今は霧が出ている影響で魔力素の濃度が高い。たとえ体内の魔力素を消耗したとしても、すぐに回復するだろう。
「――むっ? 待てエルス!」
ニセルはエルスの詠唱内容に気づき、慌てて彼を制止する!――が、すでに彼は発動の準備に入っているためか、警告にも反応がない!
「マズイぞ、伏せろアリサ!」
「えっ……?」
もう魔法の中断は間に合わない。ニセルはアリサの肩を抑え、強引に彼女を屈ませる!――それとほぼ同時に、エルスが魔力を解き放った!
「フォルス――ッ!」
炎の精霊魔法・フォルスが発動し――
なんと、エルスの周囲に十数個もの火球が出現した!
「……あッ……? へえぇッ!?」
普段の数倍以上も現れた火球に、術者であるエルスも驚きのあまり、間の抜けた声を発する。そして、炎は矢のように形を変え、前方の魔物たちへ向け驟雨の如く降り注いだ――!
「ギイィィィーエェーッ!」
炎の矢は敵を焼き尽くし、それらをあっという間に瘴気へと還す!――さらに炎は背後の木々にまで燃え移り、目の前の林が激しい炎に包まれた!
「伏せろエルス! すぐに息を止めろ!」
「あ……ああッ……!」
ニセルは呆然と立ち尽くすエルスの腕を引っ張り、彼を引き倒すかのように屈ませる!――その直後、三人の頭上を激しい熱風が通り抜けた! もし、これをまともに吸い込んでいれば、確実に肺を焼かれていただろう。
「アリサ、水の魔法は使えるか?」
「ううん。わたしは光魔法しか、ごめんなさい」
「いや、かまわんさ。二人とも、一旦下がるぞ。このままでは炎にまかれてしまう」
「――まッ、待ってくれ! それなら……!」
エルスは素早く立ち上がり――
燃え上がる木々に手をかざしながら、今度は別の呪文を唱える!
「なにっ!?――まさか、それは……!」
その呪文の正体に、ニセルは驚愕を隠し切れない。その間に、エルスは冷静に術式を完成させ、右手を高く掲げた!
「ミュゼル――ッ!」
水の精霊魔法・ミュゼルが発動し、エルスの頭上に十数個の水泡が出現する! 水泡は回転しつつ飛散し、着弾地点の周囲を凍りつかせる!
エルスの魔法によって、激しい音を立てながら燃え盛っていた林道は一瞬にして、今度は氷壁に覆われた静寂の空間へと変貌してしまった――。
「うへェ……戦闘終了ぉ……。本当すまねェ、二人とも……」
火災の処理を終え、へたり込みかけたエルスをアリサが支える。結果的に魔物の群れは討伐されたものの、一歩間違えれば大惨事となっていただろう。
「いや……。オレも先に注意しておくべきだった。二人とも、怪我は無いか?」
「うん、大丈夫。ニセルさんのおかげで助かったよ」
礼を言いながら立ち上がり、アリサはスカートや長いポニーテールについた泥を掃う。彼女の長い茶髪も、少々縮れてしまったようだ。
「霧ン中で魔法を撃ったこと無くってさ……。あんなことになッちまうとは……」
かなり憔悴してしまったのか、エルスは二人に対して深々と頭を下げる。魔力素の集合体ともいえる霧には、魔法の威力を増幅させる効果もあるようだ。
経験を積んだ魔術士ならば、霧の影響も考慮しながら発動の際の魔力を調整するのだが、実戦経験の浅いエルスは変化に気づかず、普段通り術を解き放ってしまった。
「ふっ。失敗は誰にでもあるさ、あまり気にするな。それより――」
そこまでを言いかけたニセルだったが――
一旦言葉を切り、凍りついた林道を指さす。
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ニセルの言葉通り――現在は周囲の明るさが増し、太陽の光が氷の柱に反射して幻想的に輝いている。霧が晴れかけているのだろう。エルスたちは目的の洞窟へ向け、この光の中へと歩みを進めるのだった――。
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