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第1章 ファスティアの冒険者
第41話 冒険者の覚悟
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魔物の襲撃を退け、薄霧に包まれる林道を往く三人。
盗賊団が根城にしているという洞窟までの道すがら、ニセルが口を開く――。
「エルス――さっきの話の続きだが……」
「ああ、なんか言いかけてたッけ。なんだ?」
「単刀直入に訊くが――お前さんは、何者なんだ?」
「へッ……? 何者だ――ッて、言われても……?」
ニセルからの意外な質問に、エルスの思考が混乱する――。
彼はなぜ、そんな質問をしたのか?
そもそも自分とは何者なのか?
――それは、エルス自身にも到底わからないことだった。
「ああ、すまない。オレが疑問に思ったのは――お前さんが使った〝精霊魔法〟のことでな」
「精霊魔法の? あッ、そういうことか……」
その単語が出たことで、エルスは質問の意図を理解する。
精霊魔法とは、その名が示す通り、世界に存在する精霊と契約を交わし、かれらの力を借りて発動される魔法の総称だ。
精霊はそれぞれ、炎・風・土・水の四系統の属性に分類され、それらが相互に干渉し合うことで、世界全体のバランスを保っている。即ち、炎は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は炎に強いといった関係性だ。
世界各地の季節や気温、天候といった事象はすべて――
これらの強弱や、配分によって制御されている。
また、個人が扱うことが可能な属性には制限があり、人間族とドワーフ族は一つの系統のみ、エルフ族は二系統のみに限られている。
そして、たとえエルフ族の血を引く者であっても〝炎〟と〝水〟など、強弱関係にある魔法を同時に扱うことは不可能だ。
これは、この世界に生きる者ならば決して抗うことのできない――
神によって定められた、絶対のルールなのだ。
「それさ――実は俺にも、よくわからねェんだよな。父さんは死んじまったし、何か知ってそうな奴も、まだ教えてくれねェしさ。隠すつもりはねェんだけど、上手く説明もできねェんだ」
「そうか。いや、無理に訊いてすまなかったな。誰にでも秘密はあるものさ」
不躾な質問だったと感じてか、ニセルはエルスに頭を下げる。
そんなニセルの顔を見上げながら、アリサも彼に訊く――。
「ニセルさんにも、あるの? 秘密」
「まぁな。お前さんたちよりも、少しばかり長く生きてるくらいには、な?」
「んー? 例えば、どんなのだ?」
「もうすぐわかるさ。カダンのヤツも、それを期待してオレを呼んだんだろう」
「あっ。そういえば、適任者って言ってたもんね。団長さん」
カダンの見立てでは、今回の依頼をニセル単独でも達成可能だと判断していた。エルスとアリサの同行を許してくれたのは、二人の冒険者としての成長を見込んでのことだろう。
「最初会った時は、暑苦しい変なオッサンだと思ってたけど――団長って、何気にすげェ人だよなぁ」
この世界の人々それぞれに、それぞれの物語がある。エルスはなんとなく、カルミドの家で見た〝写真〟の数々を思い浮かべていた。
そうして物思いに耽りながら歩みを進めていると――
不意にニセルが片腕を挙げ、二人の足を停止させる。
「――話し声が聞こえるな。三人――いや、四人か。ここからは慎重に行くぞ」
「ん? 何も聞こえねェけど……」
「まっ。オレの耳は〝特別製〟なのさ」
そう言ってニセルは、自身の左耳を指でさす。
同時に、彼の左眼もキラリと光を放ったように見えた――。
「そうなのか? んー、よくわからねェけど信じるぜ!」
「うんっ。ニセルさん、頼りになるもんね」
慎重に。さらに林道を奥へと進んだ一行は、ついに盗賊団のアジトと思われる洞窟に辿り着く――。
洞窟前の広場には、荷台ごと隊商から奪ったであろう、梱包されたままの荷物や、大型の雑貨類などの物品が乱雑に置かれている。
そして、ニセルの読み通り――
ぽっかりと開いた入口の前では、盗賊と思わしき四人の男たちが屯していた。
「……ついに、来たな……」
エルスは震える腕をなんとか抑える。
あの四人とは戦闘になるだろう。
そして、誰かが確実に――死ぬことになるのだ。
やらなければ――。
自分が殺さなければ、殺されるのは自分だ。
とっくに覚悟は決めたはずだったが、エルスの震えは止まらない――。
「エルス、大丈夫……?」
アリサは、心配そうな表情をエルスへ向ける。そんな彼女自身は、いつもと変わりのない様子だ。
エルスは唇を震わせながら、何度も小さく頷いた――。
盗賊団が根城にしているという洞窟までの道すがら、ニセルが口を開く――。
「エルス――さっきの話の続きだが……」
「ああ、なんか言いかけてたッけ。なんだ?」
「単刀直入に訊くが――お前さんは、何者なんだ?」
「へッ……? 何者だ――ッて、言われても……?」
ニセルからの意外な質問に、エルスの思考が混乱する――。
彼はなぜ、そんな質問をしたのか?
そもそも自分とは何者なのか?
――それは、エルス自身にも到底わからないことだった。
「ああ、すまない。オレが疑問に思ったのは――お前さんが使った〝精霊魔法〟のことでな」
「精霊魔法の? あッ、そういうことか……」
その単語が出たことで、エルスは質問の意図を理解する。
精霊魔法とは、その名が示す通り、世界に存在する精霊と契約を交わし、かれらの力を借りて発動される魔法の総称だ。
精霊はそれぞれ、炎・風・土・水の四系統の属性に分類され、それらが相互に干渉し合うことで、世界全体のバランスを保っている。即ち、炎は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は炎に強いといった関係性だ。
世界各地の季節や気温、天候といった事象はすべて――
これらの強弱や、配分によって制御されている。
また、個人が扱うことが可能な属性には制限があり、人間族とドワーフ族は一つの系統のみ、エルフ族は二系統のみに限られている。
そして、たとえエルフ族の血を引く者であっても〝炎〟と〝水〟など、強弱関係にある魔法を同時に扱うことは不可能だ。
これは、この世界に生きる者ならば決して抗うことのできない――
神によって定められた、絶対のルールなのだ。
「それさ――実は俺にも、よくわからねェんだよな。父さんは死んじまったし、何か知ってそうな奴も、まだ教えてくれねェしさ。隠すつもりはねェんだけど、上手く説明もできねェんだ」
「そうか。いや、無理に訊いてすまなかったな。誰にでも秘密はあるものさ」
不躾な質問だったと感じてか、ニセルはエルスに頭を下げる。
そんなニセルの顔を見上げながら、アリサも彼に訊く――。
「ニセルさんにも、あるの? 秘密」
「まぁな。お前さんたちよりも、少しばかり長く生きてるくらいには、な?」
「んー? 例えば、どんなのだ?」
「もうすぐわかるさ。カダンのヤツも、それを期待してオレを呼んだんだろう」
「あっ。そういえば、適任者って言ってたもんね。団長さん」
カダンの見立てでは、今回の依頼をニセル単独でも達成可能だと判断していた。エルスとアリサの同行を許してくれたのは、二人の冒険者としての成長を見込んでのことだろう。
「最初会った時は、暑苦しい変なオッサンだと思ってたけど――団長って、何気にすげェ人だよなぁ」
この世界の人々それぞれに、それぞれの物語がある。エルスはなんとなく、カルミドの家で見た〝写真〟の数々を思い浮かべていた。
そうして物思いに耽りながら歩みを進めていると――
不意にニセルが片腕を挙げ、二人の足を停止させる。
「――話し声が聞こえるな。三人――いや、四人か。ここからは慎重に行くぞ」
「ん? 何も聞こえねェけど……」
「まっ。オレの耳は〝特別製〟なのさ」
そう言ってニセルは、自身の左耳を指でさす。
同時に、彼の左眼もキラリと光を放ったように見えた――。
「そうなのか? んー、よくわからねェけど信じるぜ!」
「うんっ。ニセルさん、頼りになるもんね」
慎重に。さらに林道を奥へと進んだ一行は、ついに盗賊団のアジトと思われる洞窟に辿り着く――。
洞窟前の広場には、荷台ごと隊商から奪ったであろう、梱包されたままの荷物や、大型の雑貨類などの物品が乱雑に置かれている。
そして、ニセルの読み通り――
ぽっかりと開いた入口の前では、盗賊と思わしき四人の男たちが屯していた。
「……ついに、来たな……」
エルスは震える腕をなんとか抑える。
あの四人とは戦闘になるだろう。
そして、誰かが確実に――死ぬことになるのだ。
やらなければ――。
自分が殺さなければ、殺されるのは自分だ。
とっくに覚悟は決めたはずだったが、エルスの震えは止まらない――。
「エルス、大丈夫……?」
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