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第1章 ファスティアの冒険者
第42話 コンフリクト
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霧の中、長い林道を抜け――ようやく目的地である盗賊団の根城へ辿り着いたエルスたち。洞窟の入口前には、見張りと思わしき四人の男らが屯していた。
ニセルの見立てによると洞窟内には罠が張られており、彼らとの交戦を避けて三人が侵入することは不可能だ。
霧に乗じて見張りへ奇襲を掛けるべく、ニセルは二人に簡単な作戦を話す――。
「オレが向こうへ回り込み、あの二人を始末する。こっちの二人を、お前さんたちで一人ずつ片づけろ。――いけるか?」
「はいっ!」
「……わッ、わかった……!」
「よし。それでは――」
「――ちょ、待ったッ……!」
行動に移りかけたニセルを、エルスが慌てて引き留める。
「どうした?」
「もしさ――俺がアイツに苦戦しても、二人とも手を出さねェでくれ……」
一人の冒険者として、自分自身でやらなければいけない。
エルスは何度も、自身に言い聞かせる――。
「ああ、わかった。ただし死ぬなよ? 向こうは遠慮なく、お前さんを殺しにくるだろうからな」
「エルス、気をつけてね?」
「お……おうッ……!」
消え入りそうな声で言い、エルスは引きつった笑顔と共に親指を立てる。
そんな彼の指先は、未だ震えたままだ――。
「では作戦開始だ。増援を呼ばれる前に、手早く片づけるぞ」
ニセルは霧に隠れながら洞窟の前を迂回し、エルスらと反対側へと回り込む――。
ついに〝人〟との戦闘が始まる。
エルスとアリサは剣を抜き、静かに息を呑む。ほどなくして、目的の地点に辿り着いたニセルが小石を拾い、広場の中央へ投げた――!
「んあ? なんだ?」
物音に気づいた男たちは抜き身の武器を手に、中央へ集まってくる。
そんな彼らを囲むように、エルスたちも勢いよく飛び出す――!
「チッ!――敵か? 冒険者を寄越すとは、あの腰抜け連中め!」
「ここは俺らの縄張りだ! 失せやがれ自警団の犬どもが!」
「――ふっ。悪いが、そういうわけにはいかん。念のために訊くが、賊から足を洗うなら見逃してもいいぞ?」
「ふざけんじゃねぇ!――いくぞテメェら、ぶっ殺してやる!」
ニセルの提案に、当然ながら良い返答が戻るはずもなく――
盗賊の決まり文句のような台詞と共に、戦闘の幕が切って落とされた――!
「そうか。残念だ」
宣言通り。ニセルは一切の無駄のない動きで二人の盗賊の息の根を止め、刃に付いた血を振り払う――!
あっさりと。
悲鳴すら上げることなく。
二人の男は、ニセルの足元に転がった。
「ふっ」
ニセルは息を吐き、エルスの方へ目を遣る。彼ひとりでも、難なくこの場を制圧できただろう。それも不意打ちならば、相手が言葉を発する暇さえ与えずに。
それでも、あえて正面からの戦闘に持ち込んだのは――
彼らへの優しさであり、冒険者としての試練なのだ。
「自分なりの答えを探せ。絶対に死ぬなよ?」
霧の中から戦況を見守るべく――
ニセルは対峙しあう四人から距離をとる――。
「よく見りゃ、女とガキじゃねぇか! ナメやがって!」
「ガキじゃないもん! やあっ――!」
片手持ちの斧を振り上げ、盗賊の男がアリサに襲いかかる!――だが、彼女の素早い剣によって胸を貫かれ、男は敢え無く大地に崩れ落ちた!
「ごぼッ……!……この女……!」
「あっ、女は合ってたかも」
ニセルとアリサによって、あっという間に三人が倒され――エルスと対峙している盗賊にも、焦りの色が浮かぶ。
「クソが……! ふざけやがって、どこにこんな……」
禿げ上がった額に、後頭部付近に残った黒髪を逆立てた、中年の男。粗末で野性味あふれる革製の服を纏った彼は、どこから見てもゴロツキらしい風体だ。
「なッ、なぁ?――よかったら降参しねェか? 仲間もやられちまッたことだしさ……」
「なんだと!? 馬鹿にするんじゃねぇぞガキが!――死にやがれ!」
降参の提案を挑発と受け取った男が、剣を振り上げエルスに斬りかかる!
力任せの斬撃をエルスは辛うじて受け止めるが、腕には強い痺れが走る――!
これまでの、魔物相手とは違う――
明確な〝殺意の言葉〟と共に繰り出される攻撃は、酷く、鋭く、重い。
「ぐッ……。やるしかねェのかッ……!」
「エルス……」
アリサは剣を手にしたまま、心配そうにエルスを見つめる。
エルスがそちらへ目で合図を送ると――アリサは小さく頷いて、霧の中へと後ずさる――。
「ぅおぉ――ッ!」
叫びと共にエルスは剣を振るうが、どうにも力が入らない。太刀筋にも迷いが表れ、男の剣によって易々と弾かれてしまう!
「なんだザコが!? その程度で偉そうにしやがって!」
「うわッ――!」
剣先が喉元へと迫り――エルスは、ギリギリで回避する!
迷いのあるエルスとは違い、男の剣は確実に急所を狙ってくる。
――相手を殺す気なのだ。
ふと見遣ると――足元には、アリサが仕留めた男の亡骸が転がっている。このままでは、次にこうなるのはエルス自身だ。
アリサは旅に出た時から、すでに覚悟を決めていたのだろう。
いずれ、こういう日が来るということも理解して――。
「チックショオォ――ッ!」
エルスは雄叫びを上げ、居合いのように剣を振り抜く!――鋭い剣先が男の剣を弾き飛ばし、彼の腹にも一筋の赤い線を残した!
「ぐはァ……。やるじゃねえか……クソガキが……!」
男の口からは血が滴り落ち、傷は浅くないことを示している。しかし彼はニヤリと嗤い、さらに懐から小型の斧を取り出した!
「なッ、なあ? もうやめようぜ……? 今なら回復魔法で助かるしさ、もういいだろ……?」
真っ赤な雫の滴る剣をぶら下げ、エルスは引きつるような笑顔で言う――。
「――おい、教えてやるよ。テメェみてえな甘っちょろいガキがなぁ……?」
額に脂汗を滲ませつつ、男は目の前にギラリと光る斧を構える!――それを見て、エルスも慌てて剣を構え直す!
「テメェみてえなザコのせいでなぁ! 仲間が死ぬんだよぉ――ッ!」
そう叫ぶと、盗賊は斧を真っ直ぐ右へ――
アリサの方へ投擲した――!
「――あっ!? きゃあぁぁ――っ!」
「な……ッ! アリサ――ッ!」
まともに不意打ちを受けたのか、アリサは今までに聞いたことのないような悲鳴を上げる! 続いて、大地に人の倒れる音が――エルスの耳に、木霊した――。
ニセルの見立てによると洞窟内には罠が張られており、彼らとの交戦を避けて三人が侵入することは不可能だ。
霧に乗じて見張りへ奇襲を掛けるべく、ニセルは二人に簡単な作戦を話す――。
「オレが向こうへ回り込み、あの二人を始末する。こっちの二人を、お前さんたちで一人ずつ片づけろ。――いけるか?」
「はいっ!」
「……わッ、わかった……!」
「よし。それでは――」
「――ちょ、待ったッ……!」
行動に移りかけたニセルを、エルスが慌てて引き留める。
「どうした?」
「もしさ――俺がアイツに苦戦しても、二人とも手を出さねェでくれ……」
一人の冒険者として、自分自身でやらなければいけない。
エルスは何度も、自身に言い聞かせる――。
「ああ、わかった。ただし死ぬなよ? 向こうは遠慮なく、お前さんを殺しにくるだろうからな」
「エルス、気をつけてね?」
「お……おうッ……!」
消え入りそうな声で言い、エルスは引きつった笑顔と共に親指を立てる。
そんな彼の指先は、未だ震えたままだ――。
「では作戦開始だ。増援を呼ばれる前に、手早く片づけるぞ」
ニセルは霧に隠れながら洞窟の前を迂回し、エルスらと反対側へと回り込む――。
ついに〝人〟との戦闘が始まる。
エルスとアリサは剣を抜き、静かに息を呑む。ほどなくして、目的の地点に辿り着いたニセルが小石を拾い、広場の中央へ投げた――!
「んあ? なんだ?」
物音に気づいた男たちは抜き身の武器を手に、中央へ集まってくる。
そんな彼らを囲むように、エルスたちも勢いよく飛び出す――!
「チッ!――敵か? 冒険者を寄越すとは、あの腰抜け連中め!」
「ここは俺らの縄張りだ! 失せやがれ自警団の犬どもが!」
「――ふっ。悪いが、そういうわけにはいかん。念のために訊くが、賊から足を洗うなら見逃してもいいぞ?」
「ふざけんじゃねぇ!――いくぞテメェら、ぶっ殺してやる!」
ニセルの提案に、当然ながら良い返答が戻るはずもなく――
盗賊の決まり文句のような台詞と共に、戦闘の幕が切って落とされた――!
「そうか。残念だ」
宣言通り。ニセルは一切の無駄のない動きで二人の盗賊の息の根を止め、刃に付いた血を振り払う――!
あっさりと。
悲鳴すら上げることなく。
二人の男は、ニセルの足元に転がった。
「ふっ」
ニセルは息を吐き、エルスの方へ目を遣る。彼ひとりでも、難なくこの場を制圧できただろう。それも不意打ちならば、相手が言葉を発する暇さえ与えずに。
それでも、あえて正面からの戦闘に持ち込んだのは――
彼らへの優しさであり、冒険者としての試練なのだ。
「自分なりの答えを探せ。絶対に死ぬなよ?」
霧の中から戦況を見守るべく――
ニセルは対峙しあう四人から距離をとる――。
「よく見りゃ、女とガキじゃねぇか! ナメやがって!」
「ガキじゃないもん! やあっ――!」
片手持ちの斧を振り上げ、盗賊の男がアリサに襲いかかる!――だが、彼女の素早い剣によって胸を貫かれ、男は敢え無く大地に崩れ落ちた!
「ごぼッ……!……この女……!」
「あっ、女は合ってたかも」
ニセルとアリサによって、あっという間に三人が倒され――エルスと対峙している盗賊にも、焦りの色が浮かぶ。
「クソが……! ふざけやがって、どこにこんな……」
禿げ上がった額に、後頭部付近に残った黒髪を逆立てた、中年の男。粗末で野性味あふれる革製の服を纏った彼は、どこから見てもゴロツキらしい風体だ。
「なッ、なぁ?――よかったら降参しねェか? 仲間もやられちまッたことだしさ……」
「なんだと!? 馬鹿にするんじゃねぇぞガキが!――死にやがれ!」
降参の提案を挑発と受け取った男が、剣を振り上げエルスに斬りかかる!
力任せの斬撃をエルスは辛うじて受け止めるが、腕には強い痺れが走る――!
これまでの、魔物相手とは違う――
明確な〝殺意の言葉〟と共に繰り出される攻撃は、酷く、鋭く、重い。
「ぐッ……。やるしかねェのかッ……!」
「エルス……」
アリサは剣を手にしたまま、心配そうにエルスを見つめる。
エルスがそちらへ目で合図を送ると――アリサは小さく頷いて、霧の中へと後ずさる――。
「ぅおぉ――ッ!」
叫びと共にエルスは剣を振るうが、どうにも力が入らない。太刀筋にも迷いが表れ、男の剣によって易々と弾かれてしまう!
「なんだザコが!? その程度で偉そうにしやがって!」
「うわッ――!」
剣先が喉元へと迫り――エルスは、ギリギリで回避する!
迷いのあるエルスとは違い、男の剣は確実に急所を狙ってくる。
――相手を殺す気なのだ。
ふと見遣ると――足元には、アリサが仕留めた男の亡骸が転がっている。このままでは、次にこうなるのはエルス自身だ。
アリサは旅に出た時から、すでに覚悟を決めていたのだろう。
いずれ、こういう日が来るということも理解して――。
「チックショオォ――ッ!」
エルスは雄叫びを上げ、居合いのように剣を振り抜く!――鋭い剣先が男の剣を弾き飛ばし、彼の腹にも一筋の赤い線を残した!
「ぐはァ……。やるじゃねえか……クソガキが……!」
男の口からは血が滴り落ち、傷は浅くないことを示している。しかし彼はニヤリと嗤い、さらに懐から小型の斧を取り出した!
「なッ、なあ? もうやめようぜ……? 今なら回復魔法で助かるしさ、もういいだろ……?」
真っ赤な雫の滴る剣をぶら下げ、エルスは引きつるような笑顔で言う――。
「――おい、教えてやるよ。テメェみてえな甘っちょろいガキがなぁ……?」
額に脂汗を滲ませつつ、男は目の前にギラリと光る斧を構える!――それを見て、エルスも慌てて剣を構え直す!
「テメェみてえなザコのせいでなぁ! 仲間が死ぬんだよぉ――ッ!」
そう叫ぶと、盗賊は斧を真っ直ぐ右へ――
アリサの方へ投擲した――!
「――あっ!? きゃあぁぁ――っ!」
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