ミストリアンクエスト

幸崎 亮

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第1章 ファスティアの冒険者

第51話 裏切り者

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 「魔物を呼び出しただと!? どういうことだ、マーカス!」
 「それが……ゼニファーのアネが突然、宝部屋に走り出してさぁ――!」

 ジェイドは声を荒げ、慌てふためく手下へ詰め寄る。
 マーカスの話を要約するに――彼がゼニファーなる人物へ敵襲を報せた直後、彼女は宝物庫から〝謎の棒切れ〟を持ち出し、アジト内に魔物を呼び出しはじめたということらしい。

 「ゼニファーめ!――俺様のアジトで何しやがる!」
 「こうの杖だ! 早く止めねェと、ここも魔物だらけになっちまうぞ!」

 エルスは拳を握り、ジェイドに強く訴える――
 その直後。奥の通路から、多くの魔物の、うなる声が響いてきた――!

 「来たあぁ!?――じゃ! 報告したんで、オイラは退散しまッス!」
 「――待てマーカス! お前もアジトを守れ!」

 しかし、盗賊マーカスはジェイドの制止を振り切り――
 一目散に、外へと逃げ去ってしまった!

 手下の逃亡に、いきどおるジェイド。
 そんな彼の背後に、魔物の群れが姿を現す――!

 「ハッ! ヴィストォ――!」

 ジェイドは振り返り、群れへ向かって魔法を放つ――!
 風の刃になぎ倒され、魔物は黒いしょうを噴き出しながら、すぐさまくうへと溶け消えた!

 「ふっ、どうやら本当のようだな。ジェイド、案内してくれ」
 「あの女ッ!!――どいつもこいつも、この俺様を裏切りやがる!」

 ニセルの声には答えず――ジェイドは宝物庫へと向かい、もうぜんと通路を駆けだした! エルスたちも彼を追い、急いで洞窟の奥へと走る――!


 「チィ、魔物ども!――ここは古い貯蔵庫だ! 迷宮ダンジョンじゃねえぞ!」

 ジェイドは蔓延はびこる魔物を処理しながら、そう吐き捨てる!
 相手は〝はじまりの遺跡〟と同じく弱い種類だが、やはり数が多い。エルスはジェイドと共に、押し寄せる魔物の群れを斬り払う――!

 「あの杖をなんとかしねェと、そのうち洞窟からあふれ出ちまう! 急がねェと!」
 「裏切り者の始末は俺様がやる! 手を出すなよ!? 少年!」

 「ああッ! 魔物は倒しちまうけどなッ! 魔物狩りは、冒険者の仕事なんだ!」
 「ハッ! 結構! ヴィストォ――!」

 ジェイドは魔法を放ち――通路の魔物を一掃し、駆け抜ける!
 エルスたち三人も、彼の後に続いた――!


 通路の先は分かれ道になっており、それぞれに多くの敵の姿が確認できる――。
 すでに洞窟の奥は、魔物のそうくつとなってしまったようだ。

 「オレが連中を片づけておく。エルスたちは先に行け――!」
 ――クロスボウにボルトそうてんし、ニセルは小さく左手を挙げる。

 「わかった! 頼んだぜッ!」
 「ニセルさん、気をつけてねっ!」

 「なぁに、すぐに追いかけるさ」

 ニセルに後方を任せ――魔物の群れを強行突破しつつ、エルスたちは目標へ向かってひた走る!

 やがて三人は突き当たりへと到達し――
 勢いよく、その円形の部屋へと飛び込んだ――!


 「あらぁ?――ジェイド。貴方あなた、まだ生きてたのねぇ?」

 部屋の中央には若い女が居た。露出の多い派手な服を身につけ、かかとの尖った靴を履いている。彼女の鼻からほほにかけては、大きな縫い痕が目立っている。耳が尖ってもいるが、長身が特徴のエルフ族にしては小柄なようだ。

 「ゼニファー! 依頼品に手を出すとは、どういうつもりだ!?」
 「どういうつもりって? アタシは言われた通り、真面目に働いてるだけよん?」

 ゼニファーは地面に突き立てた〝こうの杖〟に手をかざしながら、挑戦的な眼をジェイドへ向ける。床面にはまがまがしい魔法陣が浮かび、彼女の周囲には、魔力によるしょうへきが展開されているのが解る。

 「そんな指示をした覚えはないぞ! お前もゼインのように裏切るつもりか!?」
 「ゼイン?――ああ、ザインのことねぇ。彼もアタシも、貴方なんか裏切ってないわよん?」

 ゼニファーはあきれたように、杖へと視線を移す。
 杖からはしょうがあふれ、周囲の空間には闇色のうずが生み出されている――!

 「ハッ! ブツに手を出し、アジトを魔物の巣にしやがった奴が、何を言う!」
 「もぅ、察しが悪いオトコねぇ――。だって裏切りようがないでしょ? 最初からアタシたちのボスは、貴方あなたじゃないんだから」

 「なっ!――何だと……!?」

 「特別に教えてあげるわぁ。アタシたちは別々の依頼のために協力してたダケ。あなたはこれの奪取を。アタシとザインはこれの設置と起動を、ね?」

 「まさか――俺様を、良いように利用しやがったのか!?」

 額に血管を浮き上がらせながら、ジェイドは激しい怒りを露にする。
 そんな彼の前に、エルスが一歩進み出た。

 「おい、あんた! 今すぐそれから離れろッ! その杖のせいで、ザインはバケモンになっちまったんだぞッ!?」

 「ええ、あわれなオトコよねぇ。『俺が世界を変えてやる!』とでも、思ったのかしらん?」
 ――さげすむように言い、ゼニファーは鼻でわらう。

 「アタシは、そういうのナイから。人生長いのよ? ハーフエルフだし。誰かの下で雇われて、堅実に生きてくわぁ……」

 そう語り終えたゼニファーは手を止め、紫色の長い髪をかき上げた――。

 「さてっと――。そろそろ溜まったかしらん? じゃ、アタシは帰るわねぇ?」
 「待て! ゼニファー!」

 ジェイドは左手に武器を構え、ゼニファーへ飛びかかる!――が、彼女を囲む障壁にはじかれ、大きくばされてしまった!

 「もぅ。急に迫っちゃ危ないわぁ? アタシの方が、魔力は上なんだから」

 地面に伏したジェイドを見下しながら、ゼニファーは言う。
 ジェイドは顔を上げ、鬼の形相で彼女を睨みつける――!

 「あっ、そうそう。杖には触っちゃダメよん? いーい? 絶対にねぇ?」
 ――わざとらしく言い残し、ゼニファーは呪文を唱える!

 「フレイト――!」

 ゼニファーは〝移動魔法フレイト〟を発動し――
 エルスたちには目をくれず、高速で飛び去ってしまった――!

 「チィ! 必ず借りは返すぞ――!」


 元凶が立ち去り――円形の宝部屋に、ただぼうぜんと立ち尽くすエルスたち。
 中央の魔法陣はまがまがしく輝き、突き立ったこうの杖からは、黒い稲妻と共に大量のしょうが吐き出され続けている――!

 「これ……なんとか……しなきゃだね……」
 「ああ……。でもどうすりゃ――ッて!……アリサッ……!?」

 エルスはアリサの顔を見る。充満する瘴気によって体力が削られたのか、明らかに顔色が悪い。包帯からもわずかに、血がしたたり落ちている――。

 「とにかくあれから離れねェと……。通路で休んでくれ。もうすぐニセルが追いついてくれるはずだッ!」
 「うん。そうするね。ごめん……」

 彼女は少しよろめきながら、ゆっくりと通路へ出てゆく。「大丈夫だよ」と言わないところから察するに、アリサが受けたダメージは小さくないのだろう――。


 アリサが離脱し――
 部屋に残されたエルスとジェイド。

 すると目の前で、杖から発せられた闇が収束し――
 が、数体の魔物へと姿を変える――!

 「なるほどなッ!――魔物コイツらをブッ倒すと黒いのが出ンのは、そういうことかよッ!」

 エルスは額に汗を浮かべ、真っ直ぐに剣を構える!
 ジェイドもエルスの隣に立ち、武器を左手に身構えた――!

 「ハッ、少年!――ともかく、奴らを始末するぞ!」
 「ああ、いくぜッ! 戦闘開始ィ――!」
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