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第10話
「シドニー、もう痛みはないの?」
「ええ、大丈夫です。
手袋も薄いので動かしにくくないですし、仕事に支障はありません」
「・・・そう」
フランシス様は私の手の状態をとても気にかけてくれている。
仕事復帰が早すぎるとまで言われた。
でも、ただでさえ仕事に穴を開けて迷惑をかけた上に、沈んだ顔なんて見せられない。
「お医者様も手袋で保護した方が治りも早いと仰ってましたから、じきに完治するかと」
「まぁ、シドニーがそう言うなら。
ただ、無理だけはしないでね」
実際にはあれから手の状態に変化はなかった。
とりあえずはお医者様に言われた通り、毎日地道にクリームを塗ることを続けていた。
それしか為す術べがなかったから。
クライブ様は忙しいらしく、相変わらず泊まり込みが続いてる。
ただ、着替えを渡しに騎士団へ通っている執事の話では、そろそろ一度帰宅できそうだ。と話していたらしい。
そして、その夜、もう寝ようかとベッドに入って目を瞑っていると、静かに扉が開く音が聞こえた。
「済まない、起こしてしまったか?」
「いいえ、ついさっき横になったばかりです。
クライブ様、お帰りなさいませ」
ベッドの上で起き上がると、クライブ様は騎士服のまま少し息を切らしていた。
「・・・ただいま」
「食事はお済みですか?」
「ああ」
「お茶でも「大丈夫だ」」
考えれば、お茶を淹れて火傷を負った人の言う台詞ではなかったかもしれない。
部屋が薄暗いのでベッドサイドのライトを少し明るくすると、クライブ様が借りてくれた小説が目に入った。
「小説をありがとうございました」
もう全部読んだこと、推理小説は最後の最後まで謎が解けなかったことを話すと、ほんの少し嬉しそうに目を細めてベッドの傍に腰を下ろした。
近くで見るクライブ様は以前会った時と同様に頬が少しこけて、目の下に隈ができていた。
「お疲れ・・・ですよね。
あちらでは眠れていますか?」
「ああ、大丈夫だ」
とてもそうは見えなかったけれど、考えてみれば12年間辺境に身を置いたクライブ様は、2~3日なら少しの仮眠で戦い続けられる。と以前私が戦闘時の睡眠状況を質問した時に、そう答えていたっけ。
あまり当てにならないことを思い出していると、クライブ様は私の左手を取って優しく口付けをした。
「痛くないか?」
頷くと、クライブ様のブルーの瞳と目が合った。
やがて大きな手が私の頬に優しく触れ、唇がそっと重なった。
「帰れなくて済まない」
唇が離れていくと、かすれた声で囁くようにそう言って、大きな体で包み込むように抱きしめてくれた。
あたたかいクライブ様に包まれていると抱えている不安も忘れられ、しばらくの間幸せを感じていた。
「着替えてくる」
そう言ったクライブ様の体がゆっくりと離れて行く時、ちょうど自分が今抱きしめられていたクライブ様の騎士服の胸元辺りに、赤みを帯びた口紅の跡が見えた。
普段から化粧品を扱っている私には分かる。
それは、間違いなく口紅の跡だった。
「ええ、大丈夫です。
手袋も薄いので動かしにくくないですし、仕事に支障はありません」
「・・・そう」
フランシス様は私の手の状態をとても気にかけてくれている。
仕事復帰が早すぎるとまで言われた。
でも、ただでさえ仕事に穴を開けて迷惑をかけた上に、沈んだ顔なんて見せられない。
「お医者様も手袋で保護した方が治りも早いと仰ってましたから、じきに完治するかと」
「まぁ、シドニーがそう言うなら。
ただ、無理だけはしないでね」
実際にはあれから手の状態に変化はなかった。
とりあえずはお医者様に言われた通り、毎日地道にクリームを塗ることを続けていた。
それしか為す術べがなかったから。
クライブ様は忙しいらしく、相変わらず泊まり込みが続いてる。
ただ、着替えを渡しに騎士団へ通っている執事の話では、そろそろ一度帰宅できそうだ。と話していたらしい。
そして、その夜、もう寝ようかとベッドに入って目を瞑っていると、静かに扉が開く音が聞こえた。
「済まない、起こしてしまったか?」
「いいえ、ついさっき横になったばかりです。
クライブ様、お帰りなさいませ」
ベッドの上で起き上がると、クライブ様は騎士服のまま少し息を切らしていた。
「・・・ただいま」
「食事はお済みですか?」
「ああ」
「お茶でも「大丈夫だ」」
考えれば、お茶を淹れて火傷を負った人の言う台詞ではなかったかもしれない。
部屋が薄暗いのでベッドサイドのライトを少し明るくすると、クライブ様が借りてくれた小説が目に入った。
「小説をありがとうございました」
もう全部読んだこと、推理小説は最後の最後まで謎が解けなかったことを話すと、ほんの少し嬉しそうに目を細めてベッドの傍に腰を下ろした。
近くで見るクライブ様は以前会った時と同様に頬が少しこけて、目の下に隈ができていた。
「お疲れ・・・ですよね。
あちらでは眠れていますか?」
「ああ、大丈夫だ」
とてもそうは見えなかったけれど、考えてみれば12年間辺境に身を置いたクライブ様は、2~3日なら少しの仮眠で戦い続けられる。と以前私が戦闘時の睡眠状況を質問した時に、そう答えていたっけ。
あまり当てにならないことを思い出していると、クライブ様は私の左手を取って優しく口付けをした。
「痛くないか?」
頷くと、クライブ様のブルーの瞳と目が合った。
やがて大きな手が私の頬に優しく触れ、唇がそっと重なった。
「帰れなくて済まない」
唇が離れていくと、かすれた声で囁くようにそう言って、大きな体で包み込むように抱きしめてくれた。
あたたかいクライブ様に包まれていると抱えている不安も忘れられ、しばらくの間幸せを感じていた。
「着替えてくる」
そう言ったクライブ様の体がゆっくりと離れて行く時、ちょうど自分が今抱きしめられていたクライブ様の騎士服の胸元辺りに、赤みを帯びた口紅の跡が見えた。
普段から化粧品を扱っている私には分かる。
それは、間違いなく口紅の跡だった。
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