13 / 25
第13話
王都からマッケンジー公爵領まで荷馬車で3日、そこから舞台の準備に1日、そして、最初の演目を昼と夜の部1日2回、5日間計10公演を終えて、やっと3日間のお休みになった。
「ジーナ、出かけるけど一緒に行かない?」
「王都に負けないカフェがあるの!
チーズケーキが絶品で!」
同姓から誘われるなんて、今までにほぼ無いに等しい、親しくなれるまたとないチャンスではあるけれど、体が悲鳴を上げていて泣く泣くお断りした。
まず3日間荷馬車に揺られた段階で、体がバキバキだった。
そこから初めての仕事に緊張感に包まれながら、休みなく動き続けること6日間。
5日目の公演が終了後、やり遂げた達成感とともに緊張の糸が切れ、疲れがどっと出た。
劇場から歩いて数分の場所にあるこの宿屋に戻ると、私はベッドに倒れ込み朝まで眠り続けた。
同室の二人が出かけて物音がしなくなると、また私は瞼を閉じた。
ん・・・・・・誰だろう・・・・・・
クライブ様?サンディーさん?
扉がノックされる音に目が開くも、眠り過ぎたようで頭が働かなかった。
・・・・・・ここは?
シングルベッドが3台。
その上には洋服や雑誌、化粧品が所狭しと乗っている。
そうだった、ここは・・・・・・。
やっと今の状況を理解して立ち上がり、客人に返事をすれば、リリアンさんが部屋から出てこない私を心配し様子を見に来てくれたようだった。
食事を済ませたか聞かれ、まだ食べていないことを伝えると昼食に誘ってくれた。
リリアンさんの行きつけらしいおしゃれなレストランへ行くと、テラス席に案内され私達は腰を下ろした。
「ジーナは荷馬車になんて乗ったことなんてなかっただろうから、大変だったでしょ」
リリアンさんは私に断りを入れると、タバコに火をつけた。
ゴールドのシガレットホルダーを細い指で挟む姿は艶めかしく、思わずドキッとしてしまうほどだった。
「・・・はい。正直、体が痛くて大変でした」
リリアンさんは個人的なことは聞いてこないけれど、私が貴族というのを知っているだろうから素直に答えた。
「そりゃ、そうよね。
私も初めて荷馬車に乗った時は、身体中痛くてどうにかなるんじゃないかと思ったわ」
懐かしそうに笑うと、過酷な現場に私が弱音を吐く可能性も考えていたと教えてくれた。
とにかく素晴らしい技術だわ。とリリアンさんは私の腕前を褒めてくれ、本当に助かったわ、ありがとう。とお礼を言った。
「そうそう、ジーナのその左手なんだけど、公爵領の医師に診てもらったらいいわ」
リリアンさんの話では公爵領の医師は優秀らしい。
たしかに火傷の跡は茶色っぽくなり、少し引き攣ったようにも見える。
劇団の一員になってからは忙しくて悩んでる暇もなかったけれど、改めて自分の左手を見ると茶色の跡は目立っていた。
「今の時間帯なら、きっとすぐに診てもらえるわ」
ため息をついていると、リリアンさんには顔が目立つからと帽子を渡され、私は紹介された医師の居る治療院へ向かうことにした。
治療院まではひたすら真っ直ぐ歩いて時計台を左に曲がる。
元々一人で外出することはほとんどないうえ、ここは知らない土地ときている。
簡単な道のりといえ、トラブルに巻き込まれないように足早に歩き続けた。
時計台の前まで来て、道を渡るために馬車が通り過ぎるのを待っていた。
ん?
この感じは・・・・・・。
斜め後ろから感じる視線を意識したと同時に、低めの声が聞こえてきた。
「美人のお姉さん、お茶でも飲みませんか?」
軽薄そうな台詞に、返す言葉は決まっていた。
私は振り返らずに口を開いた。
「今、治療院へ急いでますので」
「治療院・・・それって左に行ったところの?」
「そうですが、では、行きますので」
「ああ、そこなら今休憩中だよ」
なんなんだろう。
イラっとして、道を渡ろうとした時だった。
「俺が治療院の医師のノーマン・アボットだからね」
振り返ると、白衣を着た年若い男性が壁に寄りかかっていた。
「ジーナ、出かけるけど一緒に行かない?」
「王都に負けないカフェがあるの!
チーズケーキが絶品で!」
同姓から誘われるなんて、今までにほぼ無いに等しい、親しくなれるまたとないチャンスではあるけれど、体が悲鳴を上げていて泣く泣くお断りした。
まず3日間荷馬車に揺られた段階で、体がバキバキだった。
そこから初めての仕事に緊張感に包まれながら、休みなく動き続けること6日間。
5日目の公演が終了後、やり遂げた達成感とともに緊張の糸が切れ、疲れがどっと出た。
劇場から歩いて数分の場所にあるこの宿屋に戻ると、私はベッドに倒れ込み朝まで眠り続けた。
同室の二人が出かけて物音がしなくなると、また私は瞼を閉じた。
ん・・・・・・誰だろう・・・・・・
クライブ様?サンディーさん?
扉がノックされる音に目が開くも、眠り過ぎたようで頭が働かなかった。
・・・・・・ここは?
シングルベッドが3台。
その上には洋服や雑誌、化粧品が所狭しと乗っている。
そうだった、ここは・・・・・・。
やっと今の状況を理解して立ち上がり、客人に返事をすれば、リリアンさんが部屋から出てこない私を心配し様子を見に来てくれたようだった。
食事を済ませたか聞かれ、まだ食べていないことを伝えると昼食に誘ってくれた。
リリアンさんの行きつけらしいおしゃれなレストランへ行くと、テラス席に案内され私達は腰を下ろした。
「ジーナは荷馬車になんて乗ったことなんてなかっただろうから、大変だったでしょ」
リリアンさんは私に断りを入れると、タバコに火をつけた。
ゴールドのシガレットホルダーを細い指で挟む姿は艶めかしく、思わずドキッとしてしまうほどだった。
「・・・はい。正直、体が痛くて大変でした」
リリアンさんは個人的なことは聞いてこないけれど、私が貴族というのを知っているだろうから素直に答えた。
「そりゃ、そうよね。
私も初めて荷馬車に乗った時は、身体中痛くてどうにかなるんじゃないかと思ったわ」
懐かしそうに笑うと、過酷な現場に私が弱音を吐く可能性も考えていたと教えてくれた。
とにかく素晴らしい技術だわ。とリリアンさんは私の腕前を褒めてくれ、本当に助かったわ、ありがとう。とお礼を言った。
「そうそう、ジーナのその左手なんだけど、公爵領の医師に診てもらったらいいわ」
リリアンさんの話では公爵領の医師は優秀らしい。
たしかに火傷の跡は茶色っぽくなり、少し引き攣ったようにも見える。
劇団の一員になってからは忙しくて悩んでる暇もなかったけれど、改めて自分の左手を見ると茶色の跡は目立っていた。
「今の時間帯なら、きっとすぐに診てもらえるわ」
ため息をついていると、リリアンさんには顔が目立つからと帽子を渡され、私は紹介された医師の居る治療院へ向かうことにした。
治療院まではひたすら真っ直ぐ歩いて時計台を左に曲がる。
元々一人で外出することはほとんどないうえ、ここは知らない土地ときている。
簡単な道のりといえ、トラブルに巻き込まれないように足早に歩き続けた。
時計台の前まで来て、道を渡るために馬車が通り過ぎるのを待っていた。
ん?
この感じは・・・・・・。
斜め後ろから感じる視線を意識したと同時に、低めの声が聞こえてきた。
「美人のお姉さん、お茶でも飲みませんか?」
軽薄そうな台詞に、返す言葉は決まっていた。
私は振り返らずに口を開いた。
「今、治療院へ急いでますので」
「治療院・・・それって左に行ったところの?」
「そうですが、では、行きますので」
「ああ、そこなら今休憩中だよ」
なんなんだろう。
イラっとして、道を渡ろうとした時だった。
「俺が治療院の医師のノーマン・アボットだからね」
振り返ると、白衣を着た年若い男性が壁に寄りかかっていた。
あなたにおすすめの小説
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
君に愛は囁けない
しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。
彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。
愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。
けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。
セシルも彼に愛を囁けない。
だから、セシルは決めた。
*****
※ゆるゆる設定
※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。
※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
愛があれば、何をしてもいいとでも?
篠月珪霞
恋愛
「おいで」と優しく差し伸べられた手をとってしまったのが、そもそもの間違いだった。
何故、あのときの私は、それに縋ってしまったのか。
生まれ変わった今、再びあの男と対峙し、後悔と共に苦い思い出が蘇った。
「我が番よ、どうかこの手を取ってほしい」
過去とまったく同じ台詞、まったく同じ、焦がれるような表情。
まるであのときまで遡ったようだと錯覚させられるほどに。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。
山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。
姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。
そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。
沈黙の指輪 ―公爵令嬢の恋慕―
柴田はつみ
恋愛
公爵家の令嬢シャルロッテは、政略結婚で財閥御曹司カリウスと結ばれた。
最初は形式だけの結婚だったが、優しく包み込むような夫の愛情に、彼女の心は次第に解けていく。
しかし、蜜月のあと訪れたのは小さな誤解の連鎖だった。
カリウスの秘書との噂、消えた指輪、隠された手紙――そして「君を幸せにできない」という冷たい言葉。
離婚届の上に、涙が落ちる。
それでもシャルロッテは信じたい。
あの日、薔薇の庭で誓った“永遠”を。
すれ違いと沈黙の夜を越えて、二人の愛はもう一度咲くのだろうか。