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第13話
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王都からマッケンジー公爵領まで荷馬車で3日、そこから舞台の準備に1日、そして、最初の演目を昼と夜の部1日2回、5日間計10公演を終えて、やっと3日間のお休みになった。
「ジーナ、出かけるけど一緒に行かない?」
「王都に負けないカフェがあるの!
チーズケーキが絶品で!」
同姓から誘われるなんて、今までにほぼ無いに等しい、親しくなれるまたとないチャンスではあるけれど、体が悲鳴を上げていて泣く泣くお断りした。
まず3日間荷馬車に揺られた段階で、体がバキバキだった。
そこから初めての仕事に緊張感に包まれながら、休みなく動き続けること6日間。
5日目の公演が終了後、やり遂げた達成感とともに緊張の糸が切れ、疲れがどっと出た。
劇場から歩いて数分の場所にあるこの宿屋に戻ると、私はベッドに倒れ込み朝まで眠り続けた。
同室の二人が出かけて物音がしなくなると、また私は瞼を閉じた。
ん・・・・・・誰だろう・・・・・・
クライブ様?サンディーさん?
扉がノックされる音に目が開くも、眠り過ぎたようで頭が働かなかった。
・・・・・・ここは?
シングルベッドが3台。
その上には洋服や雑誌、化粧品が所狭しと乗っている。
そうだった、ここは・・・・・・。
やっと今の状況を理解して立ち上がり、客人に返事をすれば、リリアンさんが部屋から出てこない私を心配し様子を見に来てくれたようだった。
食事を済ませたか聞かれ、まだ食べていないことを伝えると昼食に誘ってくれた。
リリアンさんの行きつけらしいおしゃれなレストランへ行くと、テラス席に案内され私達は腰を下ろした。
「ジーナは荷馬車になんて乗ったことなんてなかっただろうから、大変だったでしょ」
リリアンさんは私に断りを入れると、タバコに火をつけた。
ゴールドのシガレットホルダーを細い指で挟む姿は艶めかしく、思わずドキッとしてしまうほどだった。
「・・・はい。正直、体が痛くて大変でした」
リリアンさんは個人的なことは聞いてこないけれど、私が貴族というのを知っているだろうから素直に答えた。
「そりゃ、そうよね。
私も初めて荷馬車に乗った時は、身体中痛くてどうにかなるんじゃないかと思ったわ」
懐かしそうに笑うと、過酷な現場に私が弱音を吐く可能性も考えていたと教えてくれた。
とにかく素晴らしい技術だわ。とリリアンさんは私の腕前を褒めてくれ、本当に助かったわ、ありがとう。とお礼を言った。
「そうそう、ジーナのその左手なんだけど、公爵領の医師に診てもらったらいいわ」
リリアンさんの話では公爵領の医師は優秀らしい。
たしかに火傷の跡は茶色っぽくなり、少し引き攣ったようにも見える。
劇団の一員になってからは忙しくて悩んでる暇もなかったけれど、改めて自分の左手を見ると茶色の跡は目立っていた。
「今の時間帯なら、きっとすぐに診てもらえるわ」
ため息をついていると、リリアンさんには顔が目立つからと帽子を渡され、私は紹介された医師の居る治療院へ向かうことにした。
治療院まではひたすら真っ直ぐ歩いて時計台を左に曲がる。
元々一人で外出することはほとんどないうえ、ここは知らない土地ときている。
簡単な道のりといえ、トラブルに巻き込まれないように足早に歩き続けた。
時計台の前まで来て、道を渡るために馬車が通り過ぎるのを待っていた。
ん?
この感じは・・・・・・。
斜め後ろから感じる視線を意識したと同時に、低めの声が聞こえてきた。
「美人のお姉さん、お茶でも飲みませんか?」
軽薄そうな台詞に、返す言葉は決まっていた。
私は振り返らずに口を開いた。
「今、治療院へ急いでますので」
「治療院・・・それって左に行ったところの?」
「そうですが、では、行きますので」
「ああ、そこなら今休憩中だよ」
なんなんだろう。
イラっとして、道を渡ろうとした時だった。
「俺が治療院の医師のノーマン・アボットだからね」
振り返ると、白衣を着た年若い男性が壁に寄りかかっていた。
「ジーナ、出かけるけど一緒に行かない?」
「王都に負けないカフェがあるの!
チーズケーキが絶品で!」
同姓から誘われるなんて、今までにほぼ無いに等しい、親しくなれるまたとないチャンスではあるけれど、体が悲鳴を上げていて泣く泣くお断りした。
まず3日間荷馬車に揺られた段階で、体がバキバキだった。
そこから初めての仕事に緊張感に包まれながら、休みなく動き続けること6日間。
5日目の公演が終了後、やり遂げた達成感とともに緊張の糸が切れ、疲れがどっと出た。
劇場から歩いて数分の場所にあるこの宿屋に戻ると、私はベッドに倒れ込み朝まで眠り続けた。
同室の二人が出かけて物音がしなくなると、また私は瞼を閉じた。
ん・・・・・・誰だろう・・・・・・
クライブ様?サンディーさん?
扉がノックされる音に目が開くも、眠り過ぎたようで頭が働かなかった。
・・・・・・ここは?
シングルベッドが3台。
その上には洋服や雑誌、化粧品が所狭しと乗っている。
そうだった、ここは・・・・・・。
やっと今の状況を理解して立ち上がり、客人に返事をすれば、リリアンさんが部屋から出てこない私を心配し様子を見に来てくれたようだった。
食事を済ませたか聞かれ、まだ食べていないことを伝えると昼食に誘ってくれた。
リリアンさんの行きつけらしいおしゃれなレストランへ行くと、テラス席に案内され私達は腰を下ろした。
「ジーナは荷馬車になんて乗ったことなんてなかっただろうから、大変だったでしょ」
リリアンさんは私に断りを入れると、タバコに火をつけた。
ゴールドのシガレットホルダーを細い指で挟む姿は艶めかしく、思わずドキッとしてしまうほどだった。
「・・・はい。正直、体が痛くて大変でした」
リリアンさんは個人的なことは聞いてこないけれど、私が貴族というのを知っているだろうから素直に答えた。
「そりゃ、そうよね。
私も初めて荷馬車に乗った時は、身体中痛くてどうにかなるんじゃないかと思ったわ」
懐かしそうに笑うと、過酷な現場に私が弱音を吐く可能性も考えていたと教えてくれた。
とにかく素晴らしい技術だわ。とリリアンさんは私の腕前を褒めてくれ、本当に助かったわ、ありがとう。とお礼を言った。
「そうそう、ジーナのその左手なんだけど、公爵領の医師に診てもらったらいいわ」
リリアンさんの話では公爵領の医師は優秀らしい。
たしかに火傷の跡は茶色っぽくなり、少し引き攣ったようにも見える。
劇団の一員になってからは忙しくて悩んでる暇もなかったけれど、改めて自分の左手を見ると茶色の跡は目立っていた。
「今の時間帯なら、きっとすぐに診てもらえるわ」
ため息をついていると、リリアンさんには顔が目立つからと帽子を渡され、私は紹介された医師の居る治療院へ向かうことにした。
治療院まではひたすら真っ直ぐ歩いて時計台を左に曲がる。
元々一人で外出することはほとんどないうえ、ここは知らない土地ときている。
簡単な道のりといえ、トラブルに巻き込まれないように足早に歩き続けた。
時計台の前まで来て、道を渡るために馬車が通り過ぎるのを待っていた。
ん?
この感じは・・・・・・。
斜め後ろから感じる視線を意識したと同時に、低めの声が聞こえてきた。
「美人のお姉さん、お茶でも飲みませんか?」
軽薄そうな台詞に、返す言葉は決まっていた。
私は振り返らずに口を開いた。
「今、治療院へ急いでますので」
「治療院・・・それって左に行ったところの?」
「そうですが、では、行きますので」
「ああ、そこなら今休憩中だよ」
なんなんだろう。
イラっとして、道を渡ろうとした時だった。
「俺が治療院の医師のノーマン・アボットだからね」
振り返ると、白衣を着た年若い男性が壁に寄りかかっていた。
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