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第16話
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クリケット伯爵領のお屋敷に帰ると、弟達は大喜びでスティーブン様からもらったお菓子に飛びついた。
私もピンクのマカロンといちごのタルトを味わって食べた。
テーブルには、花瓶に飾られたピンクの薔薇がある。
それを見て、弟達はニヤニヤしていた。
弟達は試験へ向けての勉強、私もメイドの仕事に戻った。
アンドリュー様は王都から戻った翌日にお屋敷へ帰ったので、夜会での失態を謝罪すると、「面白いものが見られて楽しかったよ。ただ、アルコールには次回から気をつけてね」と、笑われた。
次回なんてあるわけないけど、とにかく失望されてなくて安心した。
スティーブン様に横抱きされたことで皺くちゃになってしまったドレスは、アンドリュー様が魔法で美しく新品同様にしてくれた。
それから2、3日後だろうか。
まだ、早い時間にグレースさんに呼ばれた。
「ジョイ、ちょっと来てちょうだい。
あなたにお客様なの」
私にお客様?
思いあたる人なんていないけれど、とりあえずお待たせしている部屋へ向かった。
そこには母のお兄様、つまりは私の伯父であるウッズ男爵が居た。
「伯父様・・・」
何年振りだろう。
昔は母に似ていると思ったけど、年齢による生え際の後退と立派なお腹まわりが、記憶とはかなりの変化を遂げていた。
「ジョイ、久しぶりだね。
美しくなって・・・」
ここは人目もないから、眼鏡はかけてはいない。
伯父様は気のせいか、少し目に涙を浮かべているように見えた。
「何かあったんですか?」
長いため息をついてから、伯父様はゆっくりと話し始めた。
「実はね、先日の夜会にジョイがウッズ男爵令嬢として出席したことで、翌日から我が家に信じられない量の釣書が届いているんだよ」
釣書?
「ジョイ宛にだよ。
あの美しい令嬢と婚約したいと。
ああ、そういえばジョイは男爵家の養子になったこと知らなかったんだよね。
まずは、その話からしないといけないね」
父に以前から懸想していた、資産家でもあるデイビス伯爵家のミランダ様は、母がジャンを産んで亡くなってから、弱っている父に近づき、子爵家領地の水害による多大な負債の援助を申し入れた。
もちろん自分が子爵夫人になるのを条件に。
父もこれ以上領民に苦しい生活を強いらせられず、申し入れを受けることにした。
ただ、ミランダ様は私達子ども達の存在が邪魔だったらしく、新たな条件を追加し、子ども達の離籍と接触禁止を父に約束させた。
父は条件をのむ代わりに、生まれたばかりのジャンに1年間は乳母をつけること、子爵家敷地内に私達を住まわせることを頼んだ。
そして、秘密裏に母の兄であるウッズ男爵に私達を養子にすることをお願いし、今に至るらしい。
伯父様には、私達に会うことを資産家であるデイビス伯爵家に知られる訳にはいかず、何の手助けも出来ずにすまなかった。と、頭を下げられた。
やっぱり、そうだったのか・・・。
アンドリュー様に男爵家の養子になっている話を聞いてから、もしかしたら。とは思っていた。
父は父なりに考えたんだろう。
貴族には責務があるのも解る。
でも、それでも母を亡くしてすぐに違う女性が屋敷に出入りし、しかも子どもまで生まれた。
ジャンとたった1歳違いだ。
考えてどうなるものでもない。
でも・・・。
「ジョイ、困ったことに、マテオ・ジョーンズ侯爵令息が君を気に入っているんだ。
どうやら、2年前のデビュダントで一目惚れしてダンスを踊ったらしいんだが。
今回の夜会でジョイを見かけて、どうしても会いたいらしい。
それで、ジョイには私と共に男爵家に来てもらいたいんだ。
ジョーンズ侯爵家には大変お世話になっていて、断りきれず申し訳ない」
伯父様は申し訳なさそうに頭を下げた。
これは断れないやつだろう。
侯爵家か。
いつの間にか部屋で話を聞いていた執事のダニエルさんは、「坊ちゃんにすぐに知らせます」と言い、部屋から出て行った。
伯父様はすぐに私を連れて来るように頼まれたらしく、私はワンピースに着替えて男爵家の馬車に乗った。
30分程進んで、ちょうど橋を渡った所で馬車がガタンと揺れた。
何?
と思った次の瞬間、馬車の扉が開き、口に布を当てられた。
アルコールのような匂いを感じながら、私の意識はそこで途切れた。
私もピンクのマカロンといちごのタルトを味わって食べた。
テーブルには、花瓶に飾られたピンクの薔薇がある。
それを見て、弟達はニヤニヤしていた。
弟達は試験へ向けての勉強、私もメイドの仕事に戻った。
アンドリュー様は王都から戻った翌日にお屋敷へ帰ったので、夜会での失態を謝罪すると、「面白いものが見られて楽しかったよ。ただ、アルコールには次回から気をつけてね」と、笑われた。
次回なんてあるわけないけど、とにかく失望されてなくて安心した。
スティーブン様に横抱きされたことで皺くちゃになってしまったドレスは、アンドリュー様が魔法で美しく新品同様にしてくれた。
それから2、3日後だろうか。
まだ、早い時間にグレースさんに呼ばれた。
「ジョイ、ちょっと来てちょうだい。
あなたにお客様なの」
私にお客様?
思いあたる人なんていないけれど、とりあえずお待たせしている部屋へ向かった。
そこには母のお兄様、つまりは私の伯父であるウッズ男爵が居た。
「伯父様・・・」
何年振りだろう。
昔は母に似ていると思ったけど、年齢による生え際の後退と立派なお腹まわりが、記憶とはかなりの変化を遂げていた。
「ジョイ、久しぶりだね。
美しくなって・・・」
ここは人目もないから、眼鏡はかけてはいない。
伯父様は気のせいか、少し目に涙を浮かべているように見えた。
「何かあったんですか?」
長いため息をついてから、伯父様はゆっくりと話し始めた。
「実はね、先日の夜会にジョイがウッズ男爵令嬢として出席したことで、翌日から我が家に信じられない量の釣書が届いているんだよ」
釣書?
「ジョイ宛にだよ。
あの美しい令嬢と婚約したいと。
ああ、そういえばジョイは男爵家の養子になったこと知らなかったんだよね。
まずは、その話からしないといけないね」
父に以前から懸想していた、資産家でもあるデイビス伯爵家のミランダ様は、母がジャンを産んで亡くなってから、弱っている父に近づき、子爵家領地の水害による多大な負債の援助を申し入れた。
もちろん自分が子爵夫人になるのを条件に。
父もこれ以上領民に苦しい生活を強いらせられず、申し入れを受けることにした。
ただ、ミランダ様は私達子ども達の存在が邪魔だったらしく、新たな条件を追加し、子ども達の離籍と接触禁止を父に約束させた。
父は条件をのむ代わりに、生まれたばかりのジャンに1年間は乳母をつけること、子爵家敷地内に私達を住まわせることを頼んだ。
そして、秘密裏に母の兄であるウッズ男爵に私達を養子にすることをお願いし、今に至るらしい。
伯父様には、私達に会うことを資産家であるデイビス伯爵家に知られる訳にはいかず、何の手助けも出来ずにすまなかった。と、頭を下げられた。
やっぱり、そうだったのか・・・。
アンドリュー様に男爵家の養子になっている話を聞いてから、もしかしたら。とは思っていた。
父は父なりに考えたんだろう。
貴族には責務があるのも解る。
でも、それでも母を亡くしてすぐに違う女性が屋敷に出入りし、しかも子どもまで生まれた。
ジャンとたった1歳違いだ。
考えてどうなるものでもない。
でも・・・。
「ジョイ、困ったことに、マテオ・ジョーンズ侯爵令息が君を気に入っているんだ。
どうやら、2年前のデビュダントで一目惚れしてダンスを踊ったらしいんだが。
今回の夜会でジョイを見かけて、どうしても会いたいらしい。
それで、ジョイには私と共に男爵家に来てもらいたいんだ。
ジョーンズ侯爵家には大変お世話になっていて、断りきれず申し訳ない」
伯父様は申し訳なさそうに頭を下げた。
これは断れないやつだろう。
侯爵家か。
いつの間にか部屋で話を聞いていた執事のダニエルさんは、「坊ちゃんにすぐに知らせます」と言い、部屋から出て行った。
伯父様はすぐに私を連れて来るように頼まれたらしく、私はワンピースに着替えて男爵家の馬車に乗った。
30分程進んで、ちょうど橋を渡った所で馬車がガタンと揺れた。
何?
と思った次の瞬間、馬車の扉が開き、口に布を当てられた。
アルコールのような匂いを感じながら、私の意識はそこで途切れた。
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