28 / 41
第28話 ローリー・ディクソン
しおりを挟む
ブルージェ王国のはずれに位置する片田舎の子爵領で、善良な両親と面倒見の良い二人の兄、生まれたばかりの妹と暮らしていた。
長閑なこの領は主に農業で成り立ち、果物栽培も盛んだった。
青い空に、どこまでも広がる農地。
自然豊かなこの地には、診療所、商店、食堂があり、生活に必要な最低限の物も揃っていた。
田舎貴族とは言っても一応は子爵家である我が家には家庭教師が居た。
幼い頃から兄達が学ぶ隣で家庭教師の話を聞いていた俺は、早いうちから勉強に興味を持ち屋敷にある本を片っ端から読み漁った。
『やあ、君がローリーかな?』
ある日、突然目の前に現れた見るからに都会的は紳士は、遠縁にあたるディクソン侯爵その人だった。
『勉強と本が好きだと聞いたよ。
うちの屋敷の図書室にはありとあらゆる本が揃っているんだ。
絵本、図鑑に流行りの冒険小説から、そんじゃそこらじゃお目にかかれない稀覯本までね。
ローリー、
どうかな?
うちに来ないかい?』
魅力的な誘いは、家族との別れを意味することを薄々気づいていた。
見たことがない立派な馬車に揺られること3日間。
王都の中心部と思えないほど広い敷地の中に、歴史を感じさせる重厚な造りの屋敷が見えた。
『さぁ、着いたようだ』
ディクソン侯爵家。
ここで3ヶ月間生活した後、次期ディクソン侯爵としての資質が認められたようで、正式に養子となり、俺は8歳でローリー・ディクソンとなった。
侯爵家では3人の家庭教師から歴史、国内の貴族について、外国語、マナーを学び、空いた時間は話に聞いていた図書室に入り浸った。
侯爵も侯爵夫人も温厚で優しい人達だった。
ただ、生まれ育った所が田舎だっただけに、都会に慣れず外出しない俺を心配して、侯爵領や侯爵の出身地である隣国へ連れて行ってくれた。
侯爵の弟が住む隣国のスタンリー伯爵領の屋敷には、2歳になったばかりの可愛い女の子が居た。
『ろーりー?』
『そうだよ。君のなまえは?』
『みら!』
茶色の大きな瞳に、ふっくらした頬、柔らかそうな茶色の髪はクルンとカールしてる。
『まりー』
ミラはそう言うと、手に持っていたお人形を見せてくれた。
どうやら、この人形の名前がマリーと言うらしい。
『マリー、はじめまして。
ローリーだよ』
マリーに挨拶すると、ミラの顔はパァッと明るくなり、マリーを持っていない方の小さな手で俺の手を掴むとぴょこぴょこ走り出した。
連れて行かれたのは、可愛いらしくピンク色と白を基調としたミラの部屋のようだった。
ミラは部屋へ入った途端、俺の手を離しておもちゃ箱へ駆け寄ると、中から新たに人形を取り出した。
そして、次から次へと人形を俺に見せては名前を教えてくれると、一体の人形を渡された。
『りんだ』
こうして、この先長く続くことになるお人形遊びが始まり、遊びに来るたびにリンダを手渡された。
毎年夏になるとスタンリー伯爵領を訪れた。
お人形遊び、かくれんぼ、花かんむり作りにダンス。
5歳になるとミラに婚約者ができて、“王子さま”の話を楽しそうに教えてくれた。
鼻のあたりにある愛らしいそばかすをお茶会でバカにされたと聞いた時には、本気で頭にきた。
うちの国ではそばかすは、“天使からの贈り物”と言われている。
美人の象徴というのにーー
ミラにそのことを説明するも、落ち込み過ぎて聞こえていないようだった。
だから、毎年ミラに会う度にこの話をした。
ミラを見ていると、妹のリリーを思い出した。
子爵領を出た時、まだ1歳に満たなかった小さな妹を知らず知らずのうちにミラに重ね合わせていたのかもしれない。
そんなミラは10歳の頃、弟のチャーリーが生まれたことを婚約者の王子さまに報告に行ってから、明らかに様子が変わった。
『・・・・・・ない。何でもない』
天真爛漫だった少女は、この日を境に表情が冴えなくなり、勉強や刺繍に力を注ぐようになった。
カイから何があったのか聞き出して、その理由を知って拳を握りしめたのを覚えている。
学園を卒業後は、王城で文官として働き出した。
忙しい部署に配属され、数年後には宰相補佐官となり多忙を極め、気づけばスタンリー伯爵領には何年も足を運んでいなかった。
そんなある時、仕事の都合で隣国に立ち寄った際に何年振りかに会ったミラは、はっとするほど美しくなっていた。
その1年後、ミラは結婚したーー
長閑なこの領は主に農業で成り立ち、果物栽培も盛んだった。
青い空に、どこまでも広がる農地。
自然豊かなこの地には、診療所、商店、食堂があり、生活に必要な最低限の物も揃っていた。
田舎貴族とは言っても一応は子爵家である我が家には家庭教師が居た。
幼い頃から兄達が学ぶ隣で家庭教師の話を聞いていた俺は、早いうちから勉強に興味を持ち屋敷にある本を片っ端から読み漁った。
『やあ、君がローリーかな?』
ある日、突然目の前に現れた見るからに都会的は紳士は、遠縁にあたるディクソン侯爵その人だった。
『勉強と本が好きだと聞いたよ。
うちの屋敷の図書室にはありとあらゆる本が揃っているんだ。
絵本、図鑑に流行りの冒険小説から、そんじゃそこらじゃお目にかかれない稀覯本までね。
ローリー、
どうかな?
うちに来ないかい?』
魅力的な誘いは、家族との別れを意味することを薄々気づいていた。
見たことがない立派な馬車に揺られること3日間。
王都の中心部と思えないほど広い敷地の中に、歴史を感じさせる重厚な造りの屋敷が見えた。
『さぁ、着いたようだ』
ディクソン侯爵家。
ここで3ヶ月間生活した後、次期ディクソン侯爵としての資質が認められたようで、正式に養子となり、俺は8歳でローリー・ディクソンとなった。
侯爵家では3人の家庭教師から歴史、国内の貴族について、外国語、マナーを学び、空いた時間は話に聞いていた図書室に入り浸った。
侯爵も侯爵夫人も温厚で優しい人達だった。
ただ、生まれ育った所が田舎だっただけに、都会に慣れず外出しない俺を心配して、侯爵領や侯爵の出身地である隣国へ連れて行ってくれた。
侯爵の弟が住む隣国のスタンリー伯爵領の屋敷には、2歳になったばかりの可愛い女の子が居た。
『ろーりー?』
『そうだよ。君のなまえは?』
『みら!』
茶色の大きな瞳に、ふっくらした頬、柔らかそうな茶色の髪はクルンとカールしてる。
『まりー』
ミラはそう言うと、手に持っていたお人形を見せてくれた。
どうやら、この人形の名前がマリーと言うらしい。
『マリー、はじめまして。
ローリーだよ』
マリーに挨拶すると、ミラの顔はパァッと明るくなり、マリーを持っていない方の小さな手で俺の手を掴むとぴょこぴょこ走り出した。
連れて行かれたのは、可愛いらしくピンク色と白を基調としたミラの部屋のようだった。
ミラは部屋へ入った途端、俺の手を離しておもちゃ箱へ駆け寄ると、中から新たに人形を取り出した。
そして、次から次へと人形を俺に見せては名前を教えてくれると、一体の人形を渡された。
『りんだ』
こうして、この先長く続くことになるお人形遊びが始まり、遊びに来るたびにリンダを手渡された。
毎年夏になるとスタンリー伯爵領を訪れた。
お人形遊び、かくれんぼ、花かんむり作りにダンス。
5歳になるとミラに婚約者ができて、“王子さま”の話を楽しそうに教えてくれた。
鼻のあたりにある愛らしいそばかすをお茶会でバカにされたと聞いた時には、本気で頭にきた。
うちの国ではそばかすは、“天使からの贈り物”と言われている。
美人の象徴というのにーー
ミラにそのことを説明するも、落ち込み過ぎて聞こえていないようだった。
だから、毎年ミラに会う度にこの話をした。
ミラを見ていると、妹のリリーを思い出した。
子爵領を出た時、まだ1歳に満たなかった小さな妹を知らず知らずのうちにミラに重ね合わせていたのかもしれない。
そんなミラは10歳の頃、弟のチャーリーが生まれたことを婚約者の王子さまに報告に行ってから、明らかに様子が変わった。
『・・・・・・ない。何でもない』
天真爛漫だった少女は、この日を境に表情が冴えなくなり、勉強や刺繍に力を注ぐようになった。
カイから何があったのか聞き出して、その理由を知って拳を握りしめたのを覚えている。
学園を卒業後は、王城で文官として働き出した。
忙しい部署に配属され、数年後には宰相補佐官となり多忙を極め、気づけばスタンリー伯爵領には何年も足を運んでいなかった。
そんなある時、仕事の都合で隣国に立ち寄った際に何年振りかに会ったミラは、はっとするほど美しくなっていた。
その1年後、ミラは結婚したーー
154
あなたにおすすめの小説
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる