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第7話
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《お父様、お元気でしたか?》
《ああ、見ての通りだ。シャロンもアーチも変わらず元気だよ》
結婚してからも、外務大臣として働いているお父様とは定期的に顔を合わせていた。
三ヶ月に一度、王宮で一時間程お茶を飲みながらお母様や弟アーチの話を聞いたり、差し障りない程度に自分の近況報告をする。
会話は外国語。
大好きだった語学の勉強や会話する機会が無くなってしまったので、私にとっては楽しみのひとときだ。
勿論了承を得てのことであり、会話の内容は全てチェックされている。
《そう、良かったわ。
アーチは、もうすぐ卒業かしら?》
《ああ、あの小さかったアーチが卒業だよ。
そうだ、まだリリーには伝えていなかったな。
実はアーチに婚約者ができたんだよ》
《え?あの子に婚約者?》
数ヶ月前から何かと理由をつけて、この楽しい時間に断りをいれていた。
お父様が今の私の状況を知って心配しているのは想像できたし、何より情けない顔を見られるのが怖かった。
夜会だけで充分だった。
でも、スタインベック公爵の一言を聞いて、本当はお父様に会いたかったんだと気づいた。
私の件には一切触れず、こうして楽しそうに家族の話をしてくれるのを、安心するとともに申し訳なくも思う。
《学園でアーチと成績を競い合っていた才女だよ》
問題は山積みだけれど、お父様と会って家族の存在を思い出し、少し前向きになれるような気がした。
アーチの卒業祝いに何を贈ろう。
四つ年下で私の真似ばかりしていたいた弟を思い出して、心が和らいでいくのがわかった。
しかし、程なくしてある噂話が駆け巡り、上向きかけていた気持ちは急降下する。
ここ最近、私に対する周りの接し方に違和感を感じていた。
様子を伺うような、僅かに距離を置かれているような。
侍女長にそんな疑問を溢すと、実は・・・でたらめな話を耳にすることが増えていると、言いづらそうに口を開いた。
「国王様が、事故によりご主人を亡くし、悲しみに打ちひしがれる元婚約者であるフランチェスカ様を支えて、お二人は再び惹かれ合っている・・・・・・と」
「それから・・・・・・王妃様がそのことに大変嫉妬され、フランチェスカ様に嫌がらせをしているとも・・・・・・」
嫌がらせ?
私が、フランチェスカ様に?
どうして・・・・・・
そんな根も葉もない噂話がどうして・・・・・・
そもそもフランチェスカ様とは、顔見知り程度の関係だ。
直接会話したのは十歳の頃、王太子だったあの人の婚約者候補として出席したお茶会位だろう。
嫌がらせをされたのは、むしろ・・・私の方なのに。
エーデルワイスの間は王族専用エリアにあり、限られた者のみ立ち入りが認められる。
そんな場所で、喪が開けるまで夜会に出席できない恋人と二人きりの夜会を開いていた。
控え室でもらったカードは、恐らく別の人物の筆跡だった。
私にカードを手渡してくれた侍女は突然退職。
一応調査すると、フランチェスカ様のご実家カミンスキー公爵家の遠縁の子爵令嬢ということが解った。
でも、もうどうでも良くなり、ひたすら仕事に励んでいた。
まるで流行の歌劇のストーリーかと耳を疑ってしまう噂話に頭が痛くなる。
こんな不道徳な話をあたかも純愛のように捉えるなんて。
かといって、誰かに反論したところでどうなるものでもない。
いつも通り、笑顔を貼り付けて過ごすだけ。
ただ、あの夜ショックを受けて、侍女から渡されたカードを紛失したことが悔やまれた。
国王の筆跡偽造の罪は重い。
まぁ、失くしたものは仕方ない。
諦めもついた頃ーー
夜会の休憩中バルコニーで涼んでいたが、少し冷えるので控え室へ移動しようかと腰を上げると、扉が開いた。
「・・・おっと、こんな肌寒いとは」
登場した男性は、大袈裟に両腕をさすりながら私を見て微笑んだ。
「ご機嫌よう、スタインベッ・・・・・・」
それは・・・あの時の・・・・・・
なぜ、それを公爵が・・・・・・
その時、風に乗ってウッディーな香りが辺りに漂った。
そうか、この香りはあの夜ぶつかった時に・・・・・・
《落とし物を届けに来た》
公爵はカードを手にボルコフ語で囁いた。
《ああ、見ての通りだ。シャロンもアーチも変わらず元気だよ》
結婚してからも、外務大臣として働いているお父様とは定期的に顔を合わせていた。
三ヶ月に一度、王宮で一時間程お茶を飲みながらお母様や弟アーチの話を聞いたり、差し障りない程度に自分の近況報告をする。
会話は外国語。
大好きだった語学の勉強や会話する機会が無くなってしまったので、私にとっては楽しみのひとときだ。
勿論了承を得てのことであり、会話の内容は全てチェックされている。
《そう、良かったわ。
アーチは、もうすぐ卒業かしら?》
《ああ、あの小さかったアーチが卒業だよ。
そうだ、まだリリーには伝えていなかったな。
実はアーチに婚約者ができたんだよ》
《え?あの子に婚約者?》
数ヶ月前から何かと理由をつけて、この楽しい時間に断りをいれていた。
お父様が今の私の状況を知って心配しているのは想像できたし、何より情けない顔を見られるのが怖かった。
夜会だけで充分だった。
でも、スタインベック公爵の一言を聞いて、本当はお父様に会いたかったんだと気づいた。
私の件には一切触れず、こうして楽しそうに家族の話をしてくれるのを、安心するとともに申し訳なくも思う。
《学園でアーチと成績を競い合っていた才女だよ》
問題は山積みだけれど、お父様と会って家族の存在を思い出し、少し前向きになれるような気がした。
アーチの卒業祝いに何を贈ろう。
四つ年下で私の真似ばかりしていたいた弟を思い出して、心が和らいでいくのがわかった。
しかし、程なくしてある噂話が駆け巡り、上向きかけていた気持ちは急降下する。
ここ最近、私に対する周りの接し方に違和感を感じていた。
様子を伺うような、僅かに距離を置かれているような。
侍女長にそんな疑問を溢すと、実は・・・でたらめな話を耳にすることが増えていると、言いづらそうに口を開いた。
「国王様が、事故によりご主人を亡くし、悲しみに打ちひしがれる元婚約者であるフランチェスカ様を支えて、お二人は再び惹かれ合っている・・・・・・と」
「それから・・・・・・王妃様がそのことに大変嫉妬され、フランチェスカ様に嫌がらせをしているとも・・・・・・」
嫌がらせ?
私が、フランチェスカ様に?
どうして・・・・・・
そんな根も葉もない噂話がどうして・・・・・・
そもそもフランチェスカ様とは、顔見知り程度の関係だ。
直接会話したのは十歳の頃、王太子だったあの人の婚約者候補として出席したお茶会位だろう。
嫌がらせをされたのは、むしろ・・・私の方なのに。
エーデルワイスの間は王族専用エリアにあり、限られた者のみ立ち入りが認められる。
そんな場所で、喪が開けるまで夜会に出席できない恋人と二人きりの夜会を開いていた。
控え室でもらったカードは、恐らく別の人物の筆跡だった。
私にカードを手渡してくれた侍女は突然退職。
一応調査すると、フランチェスカ様のご実家カミンスキー公爵家の遠縁の子爵令嬢ということが解った。
でも、もうどうでも良くなり、ひたすら仕事に励んでいた。
まるで流行の歌劇のストーリーかと耳を疑ってしまう噂話に頭が痛くなる。
こんな不道徳な話をあたかも純愛のように捉えるなんて。
かといって、誰かに反論したところでどうなるものでもない。
いつも通り、笑顔を貼り付けて過ごすだけ。
ただ、あの夜ショックを受けて、侍女から渡されたカードを紛失したことが悔やまれた。
国王の筆跡偽造の罪は重い。
まぁ、失くしたものは仕方ない。
諦めもついた頃ーー
夜会の休憩中バルコニーで涼んでいたが、少し冷えるので控え室へ移動しようかと腰を上げると、扉が開いた。
「・・・おっと、こんな肌寒いとは」
登場した男性は、大袈裟に両腕をさすりながら私を見て微笑んだ。
「ご機嫌よう、スタインベッ・・・・・・」
それは・・・あの時の・・・・・・
なぜ、それを公爵が・・・・・・
その時、風に乗ってウッディーな香りが辺りに漂った。
そうか、この香りはあの夜ぶつかった時に・・・・・・
《落とし物を届けに来た》
公爵はカードを手にボルコフ語で囁いた。
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