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しおりを挟む「ティリは僕の隣に座って」
「ジーク……?」
「いいから」
ジークフリードは、眉間に皺を寄せるニコラスを横目に、強引にティリアーナを頷かせた。
いつこの男は自分の気持ちに気が付くのだろうか。
今も唯の嫉妬した男の顔になっていると言うのに。
ジークフリードは眉尻を下げてすれ違っている2人を思う。
残念ながら、ニコラスがそんな表情をしている事など、俯き気味のティリアーナは知りっこない。
「実はね今日はティリに大事な話があったんだ」
ティリアーナはジークフリードの真剣な表情を見て背筋を伸ばした。彼が夜会の途中で態々抜け出したのは、この話をする為ではないかと。
「ニカも居るし丁度いいかもしれない」
固唾を飲んで次の言葉を待っていたティリアーナだったが―――ジークフリードは彼女の手をそっと上から覆い、優しく握り締めた。
―――――は?
ティリアーナは目が点になった。
何故今自分の手を握るのか、訳が分からない。
突然謎の行動をし始めたジークフリードに、ティリアーナは首を傾げてみせる。
「もし、ティリが良ければ―――僕の婚約者になってくれないかな」
ティリアーナは冷静だった。何の芝居だろうと、一体王太子のどの悪戯に付き合わされているのかと、今までの自身の経験がエマージェンシーを鳴らしている。
ジークフリードは何がしたいのか、全く意図を掴めないティリアーナだったが、一方でニコラスと言えば、主の発言に息をするのも忘れ、只目の前の2人を凝視していた。
ニコラスにとって、ジークフリードもティリアーナも、大切な友人であり、ジークフリードに限っては敬愛する主でもある。彼等が結ばれるのは自分の本望だと思っていたのだ………つい昨日までは。
今日はおかしい。
ティリアーナの全てに目が止まる。
彼女の周りがキラキラと煌めいて見える。
彼女をこの腕に閉じ込めて、自分のものにしたいと思ってしまう。あわよくば彼女に―――自分を愛して欲しいとまで。
あぁ、そうか。
俺は彼女を愛している。
この時になって初めてニコラスは自身の想いに気が付いた。
とろりと蕩ける瞳をジークフリードは彼女に向ける。
その甘く優しげな視線を何と言うのか、ニコラスは理解していた。
本来ならば主の恋を仕える身としては応援すべきだ。
十分分かっている。
でも彼女が欲しい。ジークフリードを押し退けてでも、ティリアーナ=オルコットを望んでしまうのだ。
「きっと僕達なら良い関係を築けると思うんだ。ニカもそう言ってくれたしね。―――ねぇニカ。君も僕達の婚約に賛成してくれるよね?」
そう言えばティリアーナは、自分には様々な表情を見せてくれていたとニコラスは思い出す。彼女が自分の隣に居る事が当たり前になっていて、肝心な事に気が付かなかった自分が酷く情けない。
遅いだろうか。
彼女は大嫌いと自分に言った。
きっと王太子であるジークフリードに嫁いだ方がティリアーナ自身は幸せになれるだろう。
それでも―――――と、掌をぐっと握り締めたニコラスは、ジークフリードを真っ直ぐ射抜く。
「俺は、反対です。俺は、ティリアーナを愛していますから、諦められません」
ティリアーナは目を瞠ってニコラスを見た。今の言葉は自分の妄想が生んだ幻聴だ。そんな都合の良い夢など有り得ない。だって彼は昨日まで自分を見向きもしていなかったのだから。ジークフリードとニコラスが巫山戯ているだけかもしれない。
そんなティリアーナを一瞥したジークフリードは、満足そうに微笑んだ。ニコラス遅いよ、とからかいたくなる衝動を抑える。
「君達はちゃんともっと話すべきだ。……いい報告を待ってるよ」
そう言い残したジークフリードは、外套を翻して英姿颯爽と退出していった。
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