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第1章 王子は私を追いかける
混乱しているだけですよ
しおりを挟む皆さまごきげんよう。
国王陛下のよけi……こほん、計らいで何故か王子の婚約者になろうとしている、ジゼルでございます。
「陛下、ジゼルに王子殿下の婚約者が務まるとも思えません。なので辞退させて頂きます」
父様はまだ諦めていませんでした。きっとそのセリフは私が殿下の婚約者にならないように言ってくださっているのだろうけれど、なんでだろう。悲しくなってくる。そんなにダメかな、私。思わぬところから腹パンをくらい、地味に傷ついてしまいました……。
「ジルフォードにちゃんと返せる辺り、優秀であることはこの目で見た。それに噂もかねがね聞いてるよ。将来王妃になるのにそれらの能力は必要だからね。ジゼル嬢は向いていると私は思うが?」
陛下……!フォローありがとうございます……!
……じゃなかった。いい?ジゼル。このままだと私はなりたくもない王子の婚約者に据えられてしまうわよ。婚約者になったら今よりも厳しい訓練が始まるんだから、死んじゃいます!
父様にこっそりと、「もっとわたくしを、けなして下さいませ」と伝えれば、何故か悲しそうな顔をされてしまいました。解せぬ。
「……ジゼルを殿下の婚約者にするのは些か時期が早い気がします。殿下の熱が冷める可能性も十分にあるでしょうし。ジルフォード殿下の婚約者候補、という形なら、ウェリス侯爵家も飲みましょう。それ以上は固く拒否を申し上げます」
これ以上は食い下がれないようです。私も、婚約者候補なら大丈夫だと思います。逃げられますし。陛下は少し顎髭を撫でながら考える素振りを見せた後、仕方がないと渋々頷いた。
「……うむ、今はそれでいいだろう。これ以上押せば確実に逃げられるからな。はっはっは。……それでは、ジルフォード。ジゼル嬢と庭園を歩いてみるのも良いと思うが?」
「はい、そうさせて頂きます」
ジルフォード殿下は壇上から優美にこちらに降りてきて、私の目の前に立ちました。私は笑顔を張り付けながら、内心混乱していました。そして私は逃げられないとも察しました。
恭しく、まるでダンスを誘うかのように手を差し伸べた殿下。
「リズ、行こうか」
「は、ひ……」
人生は詰み、とよく言うものです。
**
私の心の中とは反する麗らかな、小鳥も囀る陽気。
ジルフォード殿下にエスコートをされながら、私は彼と庭園を散策しています。
殿下は少し意識を飛ばしていた私の顔を覗き込み、「大丈夫?」と心配そうに瞳を揺らしました。はっとした私は、いけないと自分を叱咤します。
「はい、大丈夫ですわ。少し展開に追いつけていなくて、混乱しているだけですの。殿下の御前で申し訳ありません」
「いや、いいよ。驚くよね。だってあの時リズは早く帰りたいなって顔に張り付けていたでしょ?」
うっ。ばれたか。そんなにポーカーフェイス下手くそなのかな。作法の先生にはお墨付きを貰ったのに。私は殿下の言葉に苦笑して誤魔化しました。
殿下は私の両手を包み込み、私に向かい合うようにしました。私は何事だろう、と殿下を見上げると、彼は真剣な顔をしてこちらをじっと見ていました。殿下の金色の髪がさらさらと風に撫でられ揺れています。
「私は必ずリズを幸せにする。後悔はさせない。どうか私の婚約者になってくれないかな」
「……申し訳ありません」
「貴方の自由は保障する。リズ、これでもダメか?」
自由を保障する、という言葉は、私にはとても甘美に聞こえました。ですが、私は殿下の婚約者にはなれません。私にはいずれ国母になるという覚悟が第一ありません。私は、貴族令嬢の「普通」でいいのです。王子の婚約者になるなど、イレギュラー極まりない展開など望んでいません。
……それに、私は愛ある結婚を望んでいます。
父様も母様も、本当はもの凄く仲睦まじくて。
母様を父様は溺愛しているし、母様は普段あれだけ父様を尻に敷いていますが、私は知っているんです。母様が、父様に貰ったブローチを毎日愛おしそうに撫でて、毎日嬉しそうに父様のハグとキスを受けているのを。
それを見て憧れないわけがないじゃないですか。
殿下が私の事を実際どう思っているのかは私には分かりませんが、私は殿下には恋心をこれっぽっちも抱いていないのです。
殿下も、愛情を注いでくれる方がいいに決まっています。
殿下の婚約者には、そういう熱意のある方がなるべきだと思います。フリージア様なんて、まさに適任じゃないですか。地位も、美貌も、博識も、なにより殿下を想う心を持っている、そんな方。今は、殿下は悩みすぎて混乱しているだけなんです。どうか、分かって欲しい。
「……殿下。殿下は婚姻をどのようにお考えですか?」
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