【R18】兄弟の時間【BL】

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ハナちゃん

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「ハング……へぇそうハングね……」

 熊ちゃんのこんな疲れた顔を見るのは初めてだ……!
 十二時間カラオケ耐久した時だって二人で朝日浴びながら笑顔で秋葉を歩いたぞ。

「マジか…………やるじゃん信長殿……」

 と言いつつ熊ちゃんは全く笑ってなかった。
 僕の横で高杉さんはガムくっちゃくっちゃしてた。
 そんで熊ちゃんは同じゲーム担当してるメンバーに軽く怒っていた。
 またメールするから席戻っていいよだって。


「どーなるんかな」
「さぁ? マスター前に修正してもっとでかいエンバク起こしててもチェックしきれないから、直さないと思う」
「そっか、あんなんでも直さないんだ」
「さっき仕様書読んだらこのゲーム子供向けでオートセーブだからあそこで止まって電源落としてもデータが消える訳じゃないし。あってはならないバグだけどディレクターは目瞑るんじゃないかな。タイアップでライセンスの期間もあるし発売日延長は有り得ないから」
「ほー……」


 熊ちゃんは午後から同タイトルのリリース判定会議なのにどうするんだコレと項垂れていた。
 とりあえず僕達は引き続きゲームしてチェック業務に戻る事になった。


 昼のチャイムが鳴って、一応お昼持ってきといて良かった。
 兄さん食べます? って朝豹が作っておいてくれたおにぎり。

 一つ取って眺める。
 普段は作らないんだろうな、この海苔とか形とかへったくそな感じが好感度大だ。
 可愛いじゃないか弟め。

「何笑ってんスか」
「え、笑ってたかな」
「自分で作ったの?」
「いや弟」
「ふぅん」
「今訳あって弟のとこに置いてもらってるんだ」
「へぇ」
「僕初めての場所って苦手だから買い物いけなくて。エレベーターとか知らない人と一緒になるの嫌だしコンビニ行って顔見知りに会うのも、挨拶どうやってしていいか迷うし面倒じゃない」
「面倒なのはたっつんの方っスね、そんな周りを気にして生きた事ないんでワカンネ」
「だろうね、周囲の目気にしてたらそんな見た目になんないもんね 」
「見た目褒められたの初めてかも」
「褒め…………まぁいいや」

 高杉さんは鞄からコンビニ袋と2リットルのペットボトル出して水ゴクゴクやりながらパン食べてる。
 水……人ってそんな必要なのか水……。

「で」
「う?」

 ペットボトルから口を離して手の甲で唇を拭うとヤンキーeyeでこっち見てきた。

「何で笑ってたんスか」
「いや、だから笑ってたの知らないから」
「弟の事考えたら笑ってたん?」
「ん? まぁ強いてゆうなら…………そう、かな?」

 あの何でもできそうなスーパーイケメンの癖して料理は苦手でそれなのに僕のためにおにぎり作ってくれたんだプププって…………。
 あ、プププって笑ってんじゃん僕。


「好きな人を考えると無意識に口が綻んじゃうアレっスか」
「いや、好きとかそうゆうんじゃないけど弟だし」
「弟って言う名の幼馴染みとか、弟みたいに可愛がってる親戚の子とか弟の表現にも色々あるじゃないっスか」
「どんな想像力だよ! 正真正銘100%血の繋がったそういう関係にない弟だっつーの!」
「そういう関係?」
「まぁ何か変な虫が寄り付かないようにってマーキングされたけど、色々無理すぎるだろ兄弟でどうとかって」
「へえ、そうゆー事」
「そうゆー…………あぁ!」


 大きなコロッケパンむしゃむしゃやりながら高杉さん見てくんだけど。

「何見てんすか」
「そうだよお前ッ! さっきトイレで変なこ」
「あ? お前?」
「ッ! 貴殿のさっきのトイレのアレ何?!! そーゆう事ってどーゆう事?」

 年下の癖に何て目で見やがるんだ、クッソ年上なめんなよ! 敬語の方がいいデスカ!!
 そう、さっきトイレでちゅってして結局ドア閉めないで僕置いていっちゃうからすっげ急いで出たんだぞ!

「何ってキスだけど」
「そっかあれキスって言うんだ! うん知ってた!!」
「…………」
「…………」


 僕の質問がいけなかったのかな?! もうわかんねーや!

 それにしても豹君、何コレおにぎりしょっぱいよ。
 塩ジャリジャリしてるじゃんどういう握り方したの?
 やたらと塩気のあるおにぎりなのに中身が更に梅干しで、え? 兄ちゃん塩分過多で殺す気?

 目の前の人意味わかんないし、おにぎりはしょっぺーし逃げ場がないんですが!
 何気な~く、目を逸らしながら携帯見たら。


【祝! 新たな斑鳩邸ッ!!!】

 って両親が古い日本家屋の前で写真撮ってるけど嘘でしょ?!
 やぁーめぇーろぉーよぉお!!

 買っちゃったの…………!!?
 し、下見の意味わかってんのかな。
 何でそんなレジ横のお菓子感覚で買っちゃったの、前の人会計長くて手持ち無沙汰だった? あ、これcmでやってヤツじゃん的なノリで買ってるよね!
 嘘、380万? 4DKが380万?!
 何とかなりそうな価格なんですけど! 軽率に買ってしまえそうハウスなんですけど。

 ヤベェ……い、居場所が……僕の居場所が……!!


 光速瞬きしても全くぶれない両親の笑顔にもはや震えてきたら、前から声がした。


「もっかいしてい?」 
「は?」
「もっかいキスしてい?」
「何でだよ」
「したいから」
「は?」
「オレがしたいから」
「理不尽の極みッ!」

 していー訳ねーだろ! ってこっち近付いて来るのを両手伸ばして食い止めようとしたら、高杉さんは手にあったおにぎりにパクッと一口かぶりついた。

「…………」
「あっ何勝手に食べてんの」

 無言でモグモグやってて、飲み込んで凄い勢いで水飲んだ後、持ってたコロッケパン差し出してくる。

「たっつんコレと交換しない? オレ今日おにぎりの気分」
「え、そんなの自分でおにぎり買えよ」
「いいじゃん。嫌いっスかコロッケパン」
「いや、嫌いじゃないけど」
「じゃあ断る理由なくね」
「何でそんな強引なんだよ」
「抱くぞ、交換しろ」
「意味不明過ぎるっ!」

 パン押し付けられておにぎり奪われて家買われて仕事して散々じゃないか僕!
 午後も仕事があるって考えるだけで軽く鬱なのに!

 結局パン食べて普通に美味しくて、めっちゃ眠い午後一時、ああ良かった……パズルゲーのチェックだったら寝てたぞ確実に。

「たっつん対戦しね?」
「ん? いいよ。僕あんまり上手じゃないけどね」
「うっス。オレのがゲーム進んでで曲数多いからこっちでい?」
「わかった」

 コントローラー持って画面見たら、狼のキャラクター選択してるのはいいとして、キャラクター名が。

「ハナちゃん……ああ、華狼なんだっけ……名前」
「うち代々花屋なんで本当は華楼って名前にする予定だったんだけど、字画がどうとか色々あって、とりあえず読みだけ残したって」
「へぇ花屋……ね」
「そこそこの華道の家柄なんスよ」
「高杉さんもやるの」
「うっス、暇ん時とかたまに花ぶっ刺すよ。人に教えたり…………ああオレの事もそう呼んでいっスよ」
「ん?」
「華ちゃんって」
「華ちゃん?」
「何たっつん」
「華ちゃん」
「たっつんゲームしよっか」

 数秒見つめあったりなんかしちゃって何か気持ち悪ッ!!!

 で、仕事は仕事なんで二人で対戦しつつ、何気にあ、ここ可笑しくね、みたいな箇所もあってバグ報告調べて何となくどんな仕事なのか理解できてきた。

 出来てきたけど、マジ疲れる……!
 ダンスゲーム、ニートにはキッツいなコレ!

 三時間踊らされて遂に僕は机に伏した。
 高杉さ……華ちゃんはトイレ行っちゃった。
 PC見て仕様書見ながら少し休憩だ。

 さっき昼休みに同じタイトル担当してる人がきて、凄いっすねとか初めからいてくれたら良かったのに! みたいに言われて、余計な事しやがってって言われると思ってたから安心した。
 良い人ばっかだ。

 時計見て、後二時間で終わりか~と思ってたら首のとこ痛みが走って、出そうになる声を口を手を当てて押し込んだ。

「あ、起きてたんだ」
「何すんだよ! 痛いな!」
「いや、寝てるのかと思って」
「例え寝てたとしても普通に起こせばいいだろ!」
「ん、両手塞がってたから」

 振り返ったら八重歯を見せた半眼がジュース持ってて一本くれた。
 くれるの? ありがとう……なのか? そんなことより、

「首イテーし」

 噛まれたであろう襟足のとこ擦って睨んだら、華ちゃんはなぜか笑った。

「牽制っス」
「はぁ? そんな事しなくたって僕寝ないよ!」
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