【R18】夏目さんのご褒美はレッスンの後

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 ちょっと待って。
 え、ちょっと待って私の心臓の音が闇雲に忙しい、闇雲の使い方間違ってると思うけどさ、うん、そんくらい動揺してる!!!
 だって嘘、夏目さんのその声から容姿から笑顔から、私のタイプにドストライクなショタなんですが?! マネージャーとしては今直ぐスカウトしたい物件なのですがッ!!!
 ど、どうする! 何でこんなすっぴんみたいな顔で来ちゃったんだよ! 

「こちらにどうぞ」
「ふぁい!」
 いいぃいやだ! 実在する三次元に声裏返っちゃう!! 手汗だらだらで何なら脇も背中も汗滲んできてるけど、夏目さんはそんなド緊張してる私ににっこり笑って首を傾げた。
「やる気まんまんですね」
「?!」
 やだ勝手に両手握り拳になってるし! 勘違いされてしまった! ってゆうか光太君なら「キッモ」って言ってくるけどやっぱ仕事中の生身の人間様は違うなあ! こんなキモさ200%の私にお優しいお言葉をかけてくださったぞ! 
 夏目さんは先導してくれてついてくんだけど、歩くついでに前見てると夏目さんが視界に入ってお金握らせそうになるので周りを見といた。

 女性限定と書かれていたのは、私が受ける無料体験のプラン【VENUS BODY CHALLENGE】だけみたいで、ジム自体は男の人も出入りしているようだ。
 といっても、ジムって単語から連想される汗臭くて、黒光りした筋肉隆々な男達がはあはあしながら、ダンベル持ち上げてるような場所じゃなくて、実際には店に入った瞬間から芳香剤のいい匂いがしたし、店内は白に統一されて清潔感重視な綺麗な空間で、お花やオシャレな絵画が飾ってあったり可愛いオルゴールのBGMが流れてる、想像してたジムとは違う明るい雰囲気だった。
 そして私はさっき夏目さんが立っていたカウンターの後ろのちょっとした談話スペースでお茶出されて座って待たされている。


 ここまで来たら、もう帰れないなと思いながら、お茶をちびちび、まああのもう少し夏目さん拝みたいし。
 はあ、お茶飲んだら何か固形物食べたくなってきちゃったなあ、お茶だからお煎餅とかしょっぱい物でもいいんだけど、あんぱんとかもいいなあ、そうなんだよなあ、緑茶ってなんでもいけるんだよなあ、うーん甘い物食べたいよおおおアイス食べたいアイス! チョコモナカジャンボ食べながらお茶飲むの好きなんだよな。

 なんて思っていたら「お待たせしました」とさっきの女性ならぬ、可愛らしい夏目さんの声が後ろからして背中ビクってなってしまった。
 正直、何にも気にしないで家族と会話してる時の私の方が声低い気がする。

 夏目さんは私の横にくると腰を降ろして膝をついて両手で名刺を差し出した、やややや、止めて!!! って思うくらいキラキラなスマイルで話掛けてくる。
 一度頭を下げて、顔を上げると白い歯が光った。


「改めまして、本日は当ジムの無料体験をご予約いただきまして誠にありがとうございます。トレーナーの夏目 将汰と申します。多々里さんの担当をさせて頂きますのでどうぞ宜しくお願いします」
「しゃい!」
 噛む。
 名刺渡されて、わ、わ、わ! 本当私好みのショタフェイス止めて下さい! 課金しちゃうからぁ!!!
 なんて言えないくて、ガチガチしながら名刺受け取って、ほら、将汰ですよって言ってくるんだけど、もう生きててくれてありがとうな顔が近くにありすぎてお母さんに抱っこされたい(混乱中)。
「緊張されてます? 大丈夫ですか?」
 可愛いく小首を傾げてくるもんだから、あわわわ……それ光太様がたまにファンの前でやる必殺猫かぶりポーズ!
「い、いえいえいえ! 全く! 凄く緊張してますが大丈夫です!!」
「え、それはちょっと困りますよ、リラックスして下さい」
 なんて肩ポンポンされちゃって、ヤダ! お触り一回いくらですか払わなきゃ!
 そしたら、小柄なお姉さんが一人、笑顔でこっちに向かってきた。

「いらっしゃいませ、こちら着替えのウェアになってますので使って下さい」
「ウェア?」
「すみません、ありがとうございます。鯨伏いさふしさん」
 お姉さんは夏目さんと同じ黒のポロシャツにパンツ姿で首から名札を下げてて鯨伏の名前の上には【ヨガ、ピラティスインストラクター】って書かれてる、当然だけどプロ―ポーションばっちりで美しい。
 鯨伏さんはワンレンボブの茶髪を耳にかけて言う。
「夏目君は指導員歴は長いけど、パーソナルトレーナーとしては今回が初めてなので、何かあったら言って下さいね」
「パーソナルトレーナー……?」
 語尾に疑問を付ければ夏目さんはクスッてウィンクした。
トレーナーって意味ですよ」
「!!」
 な、何のイベントだコレ。
「まあ指導員としては一流だったから、分からない事や疑問に思った事は何でも聞いて下さい。はい」
 白いシャツと黒い短パン? 畳まれた服を渡されて、ありがとうございますってお礼を言えば鯨伏さんは手を振って行ってしまって夏目さんは立ち上がった。

「じゃあ行きましょうか、まず更衣室で着替えてもらってそれから体の測定をします」
「は、はい」

 先を歩く夏目さんの後を追うんだけど、目の前で揺れる白髪が気になって仕方がない。
 うん、夏目さん顔も童顔だけど、その背も中々の童サイズだぞ!
 私の肩の下辺りに夏目さんの白髪が揺れている、うっそ! やだ!! こんな所でまた萌え身長差!!!

「どうしました?」
「何でもないです!」
「道、迷いました?」
「え?」
「店まで……ほら、うちのビル少し駅から離れてるじゃないですか」
「ああ……地図見ながら来たので」
「自転車で来る方って中々いなかいのでびっくりしました」
「何でそれ知って……?」
「上から見てましたから、多々里さんが来るの」
 15階から?!
「私をですか?」
「そうですよ」
 驚いてたら夏目さんは急に足を止めるもんだから、胸にちょっと後頭部が当たる。
 夏目さんはそのまま私を見上げてきて、また笑った。




「楽しみにしてました」




「…………?」
「多々里さんが来るの」
「う」
「だって多々里さんは僕の初めての生徒さんなので」
「…………あ、ああ……あの、は、はい……」

 思わず頷いてしまって、え、頷いて良かったんか?! もうなんか色んな意味でドキドキが止まらぬ。

 夏目さんは歩き出して慌ててついてく、受け付けはこの15階で、上にはパワー系トレーニングに特化したマシンエクササイズやボルダリングなんかもやってるって教えてくれた。
 各階に更衣室やシャワールーム、15階にはパウダールームもあって、24時間監視カメラもついてるし女性も安心だそうだ。
「会員になるには、ちゃんと身分証明書や勤務先も書いてもらいますから、素性の知れない人は利用できないようになってます」
「へえ」
 それが普通なのか、厳重なのかは正直分からないけれど、ここですって通された更衣室も開けたらワンクッションおいてカーテンで仕切られてて、その奥が更衣室、中には非常ベルが付いていた。
 着替えが済んだら出てきて下さい。だって…………。
 ロッカーの前には大きな鏡に洗面台が四つ、そこには制汗スプレーや綿棒にコットン脂取り紙、ご自由に使って下さいのタオルに櫛、ゴムと本当に手ぶらでオッケーみたいだ、へえ今時のジムってこんなんなんだ。
 素晴らしいと思う、思うよ、幸いにして更衣室に人はまばらで私の周りには誰もいないので。
 置かれていたタオルを手に取って口に当て声なき声で叫んでおいた。


 うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! 


 ってゆうか、色々な感情が体から噴き出してしまった。

 どういう事ですか?!!! 夏目さん?!! 夏目さん!! って!! なぜ私の目の前にあのようなメンズが?!
 しかも私の専属トレーナーってなんだよ! パーソナルって!! 
 そして気付いてましたか…………。


 私、もうあの入会する事になってねえかって……。



 ちょっと待ってよ、無料体験したらこれっきりなはずだったんだけどな……だってパーソナルトレーニングって高いよねえ?!
 でもあれを断るって出来るのか?! 楽しみにしてたなんて、そんな言葉生まれて初めて言われたよ、どうしよう! どうしようう!! 光太君浮気してごめんなさい!!

 ロッカーバンバンやって、とりあえず着替えるか。
 手頃なロッカーに荷物放り込んで、ティーシャツ脱いだ所までは良かった。
 問題は……。

「あ……ちょっとこれ……うーん……」

 あの……サイズが……。
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