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109.ミッちゃんのレトケレス探し5
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捕まえた者達の尋問などは領主とギルマスに任せて、ミッちゃん達は屋敷に転移で戻って来た。
陽はすっかり山の稜線に沈んで、夜空が広がっている。
領主一行とギルマスは眠れぬほど忙しいだろうが、頑張ってほしいと無責任なことをハイエルフは思う。
「ごめんね、パウパウ。お腹すいただろう?」
「だいじょぶ、網元さんとオッチャンがくれたの齧ってたから」
子供の言葉に、一体なにを齧っていたのかと首を傾げつつ魔道人形が開けた玄関の扉を潜る。
と、中からフワリと何かを焼く香ばしい匂いがしてきた。
フッバーを促して厨房に入ったミッちゃんは、ますます首を傾げる。
「え?」
魔道人形達が調理をしている。
手を止めた魔道人形さんが、「いらっしゃいませフッバー様。お帰りなさいませウルジェド様、パウパウ様」と頭を下げた。
「魔道人形、調理を……」
「はい、あと暫くお時間を頂きます」
「わぁ!今日は魔道人形さん達が作ってくれたの?なあに?良い匂いがしてるねっ」
事情の分からないパウパウは嬉しそうに尋ねる。
「出来上がってからのお楽しみでございますよ。パウパウ様」
緑色の単眼が小刻みに揺れて明滅する。
「……あぁ、そうだ。フッバーは今日、泊まるから用……
「はい。お部屋は3階に御用意させていただきます。フッバー様、今のお時間に御入浴は如何ですか」
「うん!フッバーさん、お風呂行こう?ぼく、連れてってあげる。お洋服とか靴とかも洗濯してくれるの」
「お、おいウルジェド?」
「あぁ、それがいい。一風呂いってこい。私は少しやる事がある」
楽しそうなパウパウに手を引かれて、フッバーが風呂へ向かったのを確認して、ウルジェドは魔道人形に声を掛けた。
「誰か、夕食調理の指示をしたか?」
「いいえ、特に頂いておりませんが、あまり遅くなりますとパウパウ様の睡眠に差しさわりが出ると推察いたしました」
「……そうか、ありがとう。夕飯が楽しみだよ」
スッと礼をして調理に戻る魔道人形を見て、溜息を吐く。
(何か、様子が変わったとは思っていたが、益々人のようになってきた…)
学習をしていくタイプの魔道具とはいえ、今までには無い変化だった。
だが、一先ず魔道具の事は置いて、今すべきことを片付けようと首を振ると、収納空間から小さなカニ型魔道具を取り出す。
と、直ぐに小カニから声が響いた。
「ちょっとぉ~ウルジェドォ聞いてぇぇぇ!ガルデンがガルデンが酷いのぉ~」
「うるさいよ叔父上。そんな事より「そんな事って何よぉ!こっちは大変なのよ!だってね、酷くない?あの人、なんだか手慣れてい
「叔父上の私事なんぞ、聞いてる場合じゃないんですよ!」
珍しくウルジェドが大きな声を出したからか、カニの向こうのマールジェドが黙った。
カニも左右のハサミをそれぞれ上下にしたままで固まった。
「リヨスアルヴァのターヴ・ミンとの間に生まれたハーフエルフの子供が、プタフォタンに住んでいて、その子供が、ここ3年程、何度か誘拐されそうになっています。今日は五人、刺客か誘拐犯なのかに襲われかけました」
小ガニは静かだ。
「叔父上にターヴ・ミンの人となりと家族、伴侶について調べて欲しいとお願いしてましたよね。どうでしたか?10才そこらの子供を害して、得をしそうな者がいましたか?」
小ガニはピクリとも動かない。
「こっちの領主のベネ殿はファトゥス前王の嫌がらせなら、今年は起きないだろうと言ったが、実際に襲われかけたとなれば、今日のは別口なんだ叔父上。叔父上!」
「……落ち着きなさいウルジェド、カニに話しかけている変な人に見えるよ」
ウルジェドは大きな溜息を吐くと、後ろを振り返った。
「これを作った人が言わないでくださいよ、マール叔父上」
マールジェドは厨房のダイニングテーブルに腰を下ろすと、徐に片手を上げ、
「魔道人形さん、私の分も追加してね」
どうやら、食べていく気満々らしく、定食屋の客のように注文をした。
ウルジェドは今、鍋をかき回している魔道人形が、
『はいよ!ちょっと待ってな』とでも、言い出すのではないかと少し緊張したが、普通に手を止めて、
「かしこまりました、マールジェド様」と頭を下げたのでホッとする。
「……叔父上」
「さて、ターヴ・ミンには前王の王命で8年ほど前に婚姻をした妻がいる。あのスケレスタ姫の母親の末妹、つまり叔母ね。ターヴ・ミン=メリウスの配偶者ということで、今回の粛清対象からは外れているわ。王族の血も遠いし」
ウルジェドは黙って先を促した。
「物静かで、メリウス卿を立てるうえに、エルフ至上主義でも無いという、どこにスケレスタと同じ血が?ってくらい出来たエルフの女性って噂よ。唯一の欠点が……」
「欠点?」
「…なかなか世継ぎに恵まれなかった」
ウルジェドは瞳を細めて「ふぅん…」とだけ言った後、収納空間から薄い木の箱を取り出す。
白木材の蓋を外して、中が見えるようにマールジェドへと差し出したのは、パティオル作のクリサオラに似た優美な飾り物だ。
「あら、これは……」
魔道具師としてのマールジェドは、その美しさと共に技術を読み取る。
「これは…錬金術師が作ったの?錬金符……素晴らしい作品、見事ね」
「襲われかけた少年の産親が作った。私が知りたいのは繋がりだ」
今度はマールジェドが目を細めて「ふぅん」と言いながら、指で摘まみ上げた飾りを揺らす。
シャラシャラリリ…チリチリ……
少し魔道人形の髪の揺れに似た澄んだ音がして、下に付いた小さな魔石同士が触れるとキンッと鳴った。
「産親は一度の逢瀬の後、これに似た飾り物を渡してターヴ・ミンと別れ、それ以来、会ってはいない……」
揺れる銀色の飾りを見ながらウルジェドは続ける。
「私が知りたいのは繋がりだ。どこで子供の事が分かったのか、誰が前王に話したのか。そして……」
「そういえばウルジェド、パウちゃんはレトケレスを見れた?」
どこか遠くを見ているような、焦点の合っていない目をしながら、突然マールジェドが問うた。
「叔父上?」
「あの虫って、他のメスが産んだタマゴをメスが壊すんですってね……怖いなぁ」
全く怖がっていない顔でマールジェドは話を続ける。
「王命の政略結婚とはいえ、誠実で男前な夫の執務机の引き出しの中に、何故か飾られていない見事な細工物を見つけたら、大人しい奥方は何をどう思うのかしらねぇ。しかも、リヨスアルヴァにはない細工物。調べちゃうかもねぇ」
ウルジェドは未だに違う場所を見ているマールジェドに声を掛けた。
「叔父上、どうやって知ったんです」
「……現在進行形で見ているから?彼の屋敷の机。左の一番下の引き出しの奥を」
マールジェドの蜂型魔道具か?と一瞬思ったが、あれでは大きすぎるだろう。
引き出しの中に潜り込めるサイズの魔道具?と、考えていると、蒼い瞳の焦点が定まり、光を戻したマールジェドがテーブルの上に指で小さく丸を描いた。
小さな輪に光が走った真ん中に、小さな黒い……
「これ……魔道具か?」
「新型のサルティちゃんです!ここまで小さく出来ました‼」
体にはフサフサと硬い毛が生えていて、丸い大きなビーズのような黒い目玉が2つとその左右に中小中の大きさの目玉が3つずつ頭を取り巻くように並んでいる。
顔の前の牙めいた触肢が小さな手のようにピコピコ動き、前足をやっ!とばかりにピーンとあげて挨拶らしき動きをした。
正面から見ると、大きな目で愛嬌があるのかもしれないが、上から見たら小さくてもしっかりと蜘蛛である。
「流石に、今回は実験工房を使って作ったわ、数が数だったからねぇ」
「新作……」
我が叔父ながら信じられない。
この人、一体いつ寝ているんだろうかと小さな蜘蛛を眺める。
指の先ほどの大きさ、これならば机に潜り込みも出来るだろう。
「これを直ぐに使えたという事は……」
「そうねぇ、調査と監視で…今、稼働しているのは400匹ね」
とんでもないことをさらっと言ったマールジェドに溜息を吐く。
「叔父上、ちゃんと寝て下さい」
「あら、大丈夫よ。前にお前が叩き落としたバッタ型と同じでね、今回は10匹ずつに隊長を決めてるから」
だとしても、40匹からの情報を整理することになる。
どれ程に脳に負担がかかるのかと考えると恐ろしい。
「いやぁねぇ、そんな怖い顔をしないで。全部、自分で処理しようとしたら流石に鼻血が出たから、辞めたわよ~」
ヘラリと笑う叔父にウルジェドは脱力する。
「ほんとに、休んでくださいよ、ガルデンだって心配するでしょうに」
「あ!」
何かを思い出したようにマールジェドが目を見開いた。
「それよ、それ!ちょっと聞いてよウルジェド!あのね、ガルデンって詐欺よ詐欺!あんな堅実剛健ってカンジのくせに手慣れ……
マズイ!何かを起動させた!と、ウルジェドが思った時、
「あ!マールちゃんだぁ‼」
嬉しそうに声を上げて、なんだか、ほかほかになったパウパウが入って来た。
後ろから付いて来ていたフッバーは、マールジェドを見て固まっている。
「あ!パウちゃ~ん!久しぶり~」
マールジェドはガルデンの話から切り替えて、両手を広げた。
「マぁールちゃんっ!」
パウパウは、トトトと速足をして、その腕に飛び込みエヘヘと笑った。
「あ~、やっぱりパウちゃん癒されるわぁ……あら、お風呂に行ってたの?」
「あのね、フッバーさん案内しに行ったの。ぼく、一緒に入っちゃった!」
「……フッバーさん?」
マールジェドは入り口で固まったままの男に気づき、会釈する。
「あ。あの…」
パウパウと風呂に行ってホカホカしているフッバーは気圧されたように言葉にならない。
「フッバー、私の叔父、マールジェドだ。叔父上、彼はフッバー。銀級の冒険者だ。面倒見の良い男でな、こっちに来てから色々と世話になっている」
「そう、フッバーさん、ありがとう。私はマールジェドです」
「あ、あぁ、お俺はフッバー。よろしく頼む……」
なんとも辿辿しい口調で、挨拶をしたフッバーに、ミッちゃんはポンっと椅子を叩いて座る場所を示した。
─ねぇねぇ、どうしたの?マールちゃん─
─あのねぇ、ウルジェドの馬を返しに来たの、ドワーフさん達が分解しそうで危なかったわぁ!─
パウパウを膝に乗せたマールジェドが笑う。
ほかほかのパウパウも笑う。
それをボンヤリと見ながら、フッバーは「なんかスゴイ」と呟いた。
陽はすっかり山の稜線に沈んで、夜空が広がっている。
領主一行とギルマスは眠れぬほど忙しいだろうが、頑張ってほしいと無責任なことをハイエルフは思う。
「ごめんね、パウパウ。お腹すいただろう?」
「だいじょぶ、網元さんとオッチャンがくれたの齧ってたから」
子供の言葉に、一体なにを齧っていたのかと首を傾げつつ魔道人形が開けた玄関の扉を潜る。
と、中からフワリと何かを焼く香ばしい匂いがしてきた。
フッバーを促して厨房に入ったミッちゃんは、ますます首を傾げる。
「え?」
魔道人形達が調理をしている。
手を止めた魔道人形さんが、「いらっしゃいませフッバー様。お帰りなさいませウルジェド様、パウパウ様」と頭を下げた。
「魔道人形、調理を……」
「はい、あと暫くお時間を頂きます」
「わぁ!今日は魔道人形さん達が作ってくれたの?なあに?良い匂いがしてるねっ」
事情の分からないパウパウは嬉しそうに尋ねる。
「出来上がってからのお楽しみでございますよ。パウパウ様」
緑色の単眼が小刻みに揺れて明滅する。
「……あぁ、そうだ。フッバーは今日、泊まるから用……
「はい。お部屋は3階に御用意させていただきます。フッバー様、今のお時間に御入浴は如何ですか」
「うん!フッバーさん、お風呂行こう?ぼく、連れてってあげる。お洋服とか靴とかも洗濯してくれるの」
「お、おいウルジェド?」
「あぁ、それがいい。一風呂いってこい。私は少しやる事がある」
楽しそうなパウパウに手を引かれて、フッバーが風呂へ向かったのを確認して、ウルジェドは魔道人形に声を掛けた。
「誰か、夕食調理の指示をしたか?」
「いいえ、特に頂いておりませんが、あまり遅くなりますとパウパウ様の睡眠に差しさわりが出ると推察いたしました」
「……そうか、ありがとう。夕飯が楽しみだよ」
スッと礼をして調理に戻る魔道人形を見て、溜息を吐く。
(何か、様子が変わったとは思っていたが、益々人のようになってきた…)
学習をしていくタイプの魔道具とはいえ、今までには無い変化だった。
だが、一先ず魔道具の事は置いて、今すべきことを片付けようと首を振ると、収納空間から小さなカニ型魔道具を取り出す。
と、直ぐに小カニから声が響いた。
「ちょっとぉ~ウルジェドォ聞いてぇぇぇ!ガルデンがガルデンが酷いのぉ~」
「うるさいよ叔父上。そんな事より「そんな事って何よぉ!こっちは大変なのよ!だってね、酷くない?あの人、なんだか手慣れてい
「叔父上の私事なんぞ、聞いてる場合じゃないんですよ!」
珍しくウルジェドが大きな声を出したからか、カニの向こうのマールジェドが黙った。
カニも左右のハサミをそれぞれ上下にしたままで固まった。
「リヨスアルヴァのターヴ・ミンとの間に生まれたハーフエルフの子供が、プタフォタンに住んでいて、その子供が、ここ3年程、何度か誘拐されそうになっています。今日は五人、刺客か誘拐犯なのかに襲われかけました」
小ガニは静かだ。
「叔父上にターヴ・ミンの人となりと家族、伴侶について調べて欲しいとお願いしてましたよね。どうでしたか?10才そこらの子供を害して、得をしそうな者がいましたか?」
小ガニはピクリとも動かない。
「こっちの領主のベネ殿はファトゥス前王の嫌がらせなら、今年は起きないだろうと言ったが、実際に襲われかけたとなれば、今日のは別口なんだ叔父上。叔父上!」
「……落ち着きなさいウルジェド、カニに話しかけている変な人に見えるよ」
ウルジェドは大きな溜息を吐くと、後ろを振り返った。
「これを作った人が言わないでくださいよ、マール叔父上」
マールジェドは厨房のダイニングテーブルに腰を下ろすと、徐に片手を上げ、
「魔道人形さん、私の分も追加してね」
どうやら、食べていく気満々らしく、定食屋の客のように注文をした。
ウルジェドは今、鍋をかき回している魔道人形が、
『はいよ!ちょっと待ってな』とでも、言い出すのではないかと少し緊張したが、普通に手を止めて、
「かしこまりました、マールジェド様」と頭を下げたのでホッとする。
「……叔父上」
「さて、ターヴ・ミンには前王の王命で8年ほど前に婚姻をした妻がいる。あのスケレスタ姫の母親の末妹、つまり叔母ね。ターヴ・ミン=メリウスの配偶者ということで、今回の粛清対象からは外れているわ。王族の血も遠いし」
ウルジェドは黙って先を促した。
「物静かで、メリウス卿を立てるうえに、エルフ至上主義でも無いという、どこにスケレスタと同じ血が?ってくらい出来たエルフの女性って噂よ。唯一の欠点が……」
「欠点?」
「…なかなか世継ぎに恵まれなかった」
ウルジェドは瞳を細めて「ふぅん…」とだけ言った後、収納空間から薄い木の箱を取り出す。
白木材の蓋を外して、中が見えるようにマールジェドへと差し出したのは、パティオル作のクリサオラに似た優美な飾り物だ。
「あら、これは……」
魔道具師としてのマールジェドは、その美しさと共に技術を読み取る。
「これは…錬金術師が作ったの?錬金符……素晴らしい作品、見事ね」
「襲われかけた少年の産親が作った。私が知りたいのは繋がりだ」
今度はマールジェドが目を細めて「ふぅん」と言いながら、指で摘まみ上げた飾りを揺らす。
シャラシャラリリ…チリチリ……
少し魔道人形の髪の揺れに似た澄んだ音がして、下に付いた小さな魔石同士が触れるとキンッと鳴った。
「産親は一度の逢瀬の後、これに似た飾り物を渡してターヴ・ミンと別れ、それ以来、会ってはいない……」
揺れる銀色の飾りを見ながらウルジェドは続ける。
「私が知りたいのは繋がりだ。どこで子供の事が分かったのか、誰が前王に話したのか。そして……」
「そういえばウルジェド、パウちゃんはレトケレスを見れた?」
どこか遠くを見ているような、焦点の合っていない目をしながら、突然マールジェドが問うた。
「叔父上?」
「あの虫って、他のメスが産んだタマゴをメスが壊すんですってね……怖いなぁ」
全く怖がっていない顔でマールジェドは話を続ける。
「王命の政略結婚とはいえ、誠実で男前な夫の執務机の引き出しの中に、何故か飾られていない見事な細工物を見つけたら、大人しい奥方は何をどう思うのかしらねぇ。しかも、リヨスアルヴァにはない細工物。調べちゃうかもねぇ」
ウルジェドは未だに違う場所を見ているマールジェドに声を掛けた。
「叔父上、どうやって知ったんです」
「……現在進行形で見ているから?彼の屋敷の机。左の一番下の引き出しの奥を」
マールジェドの蜂型魔道具か?と一瞬思ったが、あれでは大きすぎるだろう。
引き出しの中に潜り込めるサイズの魔道具?と、考えていると、蒼い瞳の焦点が定まり、光を戻したマールジェドがテーブルの上に指で小さく丸を描いた。
小さな輪に光が走った真ん中に、小さな黒い……
「これ……魔道具か?」
「新型のサルティちゃんです!ここまで小さく出来ました‼」
体にはフサフサと硬い毛が生えていて、丸い大きなビーズのような黒い目玉が2つとその左右に中小中の大きさの目玉が3つずつ頭を取り巻くように並んでいる。
顔の前の牙めいた触肢が小さな手のようにピコピコ動き、前足をやっ!とばかりにピーンとあげて挨拶らしき動きをした。
正面から見ると、大きな目で愛嬌があるのかもしれないが、上から見たら小さくてもしっかりと蜘蛛である。
「流石に、今回は実験工房を使って作ったわ、数が数だったからねぇ」
「新作……」
我が叔父ながら信じられない。
この人、一体いつ寝ているんだろうかと小さな蜘蛛を眺める。
指の先ほどの大きさ、これならば机に潜り込みも出来るだろう。
「これを直ぐに使えたという事は……」
「そうねぇ、調査と監視で…今、稼働しているのは400匹ね」
とんでもないことをさらっと言ったマールジェドに溜息を吐く。
「叔父上、ちゃんと寝て下さい」
「あら、大丈夫よ。前にお前が叩き落としたバッタ型と同じでね、今回は10匹ずつに隊長を決めてるから」
だとしても、40匹からの情報を整理することになる。
どれ程に脳に負担がかかるのかと考えると恐ろしい。
「いやぁねぇ、そんな怖い顔をしないで。全部、自分で処理しようとしたら流石に鼻血が出たから、辞めたわよ~」
ヘラリと笑う叔父にウルジェドは脱力する。
「ほんとに、休んでくださいよ、ガルデンだって心配するでしょうに」
「あ!」
何かを思い出したようにマールジェドが目を見開いた。
「それよ、それ!ちょっと聞いてよウルジェド!あのね、ガルデンって詐欺よ詐欺!あんな堅実剛健ってカンジのくせに手慣れ……
マズイ!何かを起動させた!と、ウルジェドが思った時、
「あ!マールちゃんだぁ‼」
嬉しそうに声を上げて、なんだか、ほかほかになったパウパウが入って来た。
後ろから付いて来ていたフッバーは、マールジェドを見て固まっている。
「あ!パウちゃ~ん!久しぶり~」
マールジェドはガルデンの話から切り替えて、両手を広げた。
「マぁールちゃんっ!」
パウパウは、トトトと速足をして、その腕に飛び込みエヘヘと笑った。
「あ~、やっぱりパウちゃん癒されるわぁ……あら、お風呂に行ってたの?」
「あのね、フッバーさん案内しに行ったの。ぼく、一緒に入っちゃった!」
「……フッバーさん?」
マールジェドは入り口で固まったままの男に気づき、会釈する。
「あ。あの…」
パウパウと風呂に行ってホカホカしているフッバーは気圧されたように言葉にならない。
「フッバー、私の叔父、マールジェドだ。叔父上、彼はフッバー。銀級の冒険者だ。面倒見の良い男でな、こっちに来てから色々と世話になっている」
「そう、フッバーさん、ありがとう。私はマールジェドです」
「あ、あぁ、お俺はフッバー。よろしく頼む……」
なんとも辿辿しい口調で、挨拶をしたフッバーに、ミッちゃんはポンっと椅子を叩いて座る場所を示した。
─ねぇねぇ、どうしたの?マールちゃん─
─あのねぇ、ウルジェドの馬を返しに来たの、ドワーフさん達が分解しそうで危なかったわぁ!─
パウパウを膝に乗せたマールジェドが笑う。
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