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158.パウパウと大漁祈願祭11
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骨鎧魚を収納魔法でミッちゃんが仕舞いこむと、周りの子供達と神官からも声が上がった。
他の患者も居るのだから静かにしろと叱られたばかりなので、流石に声は小さめだ。
医療棟に戻るジフラン少年と手を繋ぎながらパウパウは
「あのねジフラン君…もしかしたら、怖い夢とか見ちゃうかもしれないから……」
新緑色の瞳を少し泳がせて
「……マールちゃんなら、お祭りの記憶をナイナイして貰えるって」
そう躊躇いがちに言うパウパウを見降しながらも、ジフランの目は遠い。
パウパウが心配しているのはフラッシュバックだ。
恐ろしい体験で付いた心の傷は、何度も蘇るぞとパウパウの記憶が、ガンガンと警鐘を鳴らして来ているのだ。
「……シッタラサァ、今日の事サ忘ッチまうかも知ンネェだろ……それはヤだかンナァ」
パウパウと視線を合わせた少年は、照れ臭そうに口を歪めて笑った。
「怖エこと有ったけンど、良ェことも有ったかンナァ」
「……そっか」
繋いだ手を振りながらパウパウが言う。
「ソダナぁ」
同じようにパウパウと繋いだ手をブンブンしてジフランが笑った。
レカベットの少年達に別れを告げて──ラキップは施術が終わらず会えなかったが──社の坂を下りていく。
「パウパウ、気ィ付けレヤ。こン坂で転ぶと姫様に持ってかれるんだってよォ」
意地悪そうな顔をしてダグラスが声を掛けて来た。
「えぇっ!」
それは何処の三年坂ですか!七味唐辛子、売って下さい‼と思いながらも、心に蓋をする。
どんな世界でも人が考える事って似るのかもしれない。
「ダグ!また、そうやって怖がらせない!パウパウ、嘘だからな。ただの言い伝えだから」
「そうだよ!それにさ、ダグラス。お前、どんどん訛っ!戻ってるよ!ギルマスに言いつけるからね」
マルトフとフィリの剣幕に、ダグラスが何だよぉと口を尖らせた。
「だいじょぶ、パウパウ。私と手を繋いて行こう。ほら、私ハイエルフだからねぇ、幾らここで転んでも平気だよ」ミッちゃんが差し出した手を取って、坂を下りる。
「で、ゴドー達は、これからどうすン…るんだ?」
フィリに言われたからか、ダグラスが言いづらそうに話しかけた。
「あぁ、俺らは広場サ戻って夜祭り見てから船サ戻るつもりだ。親父らは夜参リで社サ来ルらしいケンドもよ」フィリの言葉で気付いたのか、ゴドーも言葉を探りながら話す。
「夜参り!」
それだ。それ!
もともと社に来たのはサヤーダに言われたという事も有るが、その神事に潜り込むための下見だったのだ。
サリレの三人とパウパウが目を見開いてゴドーを見たものだから、ゴドーもサコッタの他の二人も後退った。
アブナイ!転んだら姫様に持っていかれてしまうぞっ。
「お、おぅ、アレダベ?勝船の儀礼櫂の奉納バして、姫様の御渡りサ見守るンダベヤ」
ダグラスより年嵩のゴドーの方が詳しいようだ。
「でも、でもさ、何で見ちゃいけないのかな?」
興味津々のフィリが目を輝かせて詰め寄ると、ゴドーが後退りする。
だから危ないって!とパウパウはハラハラするが、舟に乗っている子達は、体幹がしっかりしているらしい。
「サァナァ…姫様のウミワタリ?ッテェのが有るって聞いたけン…れども」ゴドーが言葉を濁す。
「ナシタよ?」
「ダグラス、訛ってるって」マルトフが斜め上の注意をした。
「イヤ、知らネデ済むなら、それがエェって…親父ガナ…」
ダグラスにとってゴドーは友達だ。
離れた村に住む、祭り等でなければ会えないけれども、大切な船好きの趣味仲間だと思っている。
だから、当然、心配で尋ねた。
「何かアッタンカ?」
「夜参りの事じゃネェンダケンドモよ……親父ラの様子が、ピリピリしてンダワ」
ゴドーの言葉に他のサコッタの少年達も頷いた。
ゴドーと同じように不安げな影が表情に滲んでいる。
「舟競争の後からだからヨォ、アッタラ魚サ、うちトコサ来ッカモッテ心配サしてんのかって思ったんだケンドモ……」ゴドーが首を振る。
「後ナ、討伐船サ乗ってたアピズってオッチャン、居ネェくなったノサ」他の子が話を引き取った。
「ンダ。オ父サ聞いたら、船サ降りたってぇダケでヨォ」
少年の頃に村を飛び出し、四年ほど前に、ふらっと戻って来た男だそうだ。
話を聞いてハイエルフは、あの男かと思い出す。
サコッタの舟揚場を使った何かの罪を犯している男。
アピスに成り済まして、四年もの間サコッタで暮らしていた男。
あの身のこなしにしろ、自分の威圧を無視した事にしろ、普通の漁師ではない。
「でもさ、そんな人なら、ふらっと船を降りちゃったのかもよ?プタフォタンの方が賑やかだしさぁ」マルトフが訳知り顔で推論を披露した。
「……ソッカもなぁ」ゴドーは少し寂し気に頷いた。
サコッタは小さな村らしいので、人が減るのは寂しいのだろうとパウパウは思う。
そのまま一行が言葉少なに坂を下って行くと、風向きが変わったからだろうか、パウパウの耳に微かに下の広場から音楽が聞こえて来た。
金属を叩くような澄んだ音、風を引っ掻く笛の音とトントコトントコとリズムを刻む太鼓みたいな音にさわさわと人の気配と声が混じる。
「あ、ミッちゃんって、町の広場に行くの?」
確かベネ様に、夕方に広場でと言われていた筈だ。
だが、この下の屋台などが出ていた場所も、中々に広い空間だった。
尋ねられたミッちゃんは、さて、どちらの広場だろう?と、珍しく首を傾げた。
「とりあえず、町の広場へ行ってみたらどう?ゴドー君たちは、あっちの見物をするんでしょう?」マールジェドがポンとミッちゃんの肩を叩いて言う。
「あぁ、ではゴドー君たちを送って行こうか」
そろそろ陽も低くなってきている。
社のある丘は木立も多いので暗くなるのも早いのだろう。
少し足早に丘を下って広場へ出ると、屋台はすっかり店じまいをして片付け作業が始まっていた。
道具などを端の方へ寄せているようだ。
あれだけ沢山いた、屋台を楽しんでいた人々は居なくなっていた。
片付けをしている人足働きの男達が数人、黙々と屋台だった木柱や板を端へと運んでいる。
周りに生えた木立の根元にゴトンと道具を置く音。
人足たちが木の影に染まると、黒い人型に見える。
ゴドン。
ゴトン。
開けた空間には誰もいない。
楽を奏でる人達も、祭りを楽しむ人たちも、だれもいない。
「……あれ?」
「どうしたの?パウパウ」
「んっと……音楽とか、聞こえてなかった?」
「……いや、何も聞こえてはいなかったよ。どんな音がしてたの?」
怪訝そうに見下ろしたミッちゃんにパウパウは首を振る。
「ん~、聞き間違いかも……ね?」
──祭り囃子─
この世界で聞こえる筈がない調子。
それとも、前世の記憶を持つパウパウだから、聞き取れた音だったのか。
心配そうな顔をするハイエルフの手をぎゅっと握りしめて、パウパウは笑った。
ミッちゃんも握り返して微笑んだ。
「まぁ、これなら町の広場のほうだね。じゃあ行こうか」
トンッと軽く地面をつま先で叩いて、ハイエルフは転移をした。
─────────────────────────────────────
日暮れには、まだ早い時間にも関わらず贅沢にも長い木柱の上で魔道ランタンが揺れていた。
わぁッ!と歓声が上がり、タンタ、タンタ、タンタタンと軽快なリズムを刻むタフの音に、合わせてシャリシャリ平鈴が鳴る。
広場の中央に設置された舞台の上では、大道芸人が幾つもの輪を投げながら踊り、舞台の下で楽し気に見ている人々も、高揚してうずうずと足踏みや手拍子をしている。
可愛らしい顔立ちの子供が心づけを強請って篭を持ち人々の間を回る。
背負った作り物の妖精の羽根には何かの術が施されているのか、ランタンの光を弾いて仄かに発光している。
暗くなるころには、踊りの輪が出来るのかもしれない。
少し広場から離れた場所に転移をしてきたハイエルフに、サコッタの子供達は驚いたような表情を緩めて、頭をさげた。
「アンガトゴザイヤシタ」
「あ、ゴドー、お前ら、明日帰エンのか?」
「おぅ、多分、昼すぎだヤ」ダグラスにそう返事をして、サコッタの子供達が人ごみに消えていくのを見送った。
「ふむ、どうしたものかな」ミッちゃんは顔を顰めた。
広場で夕方というベネの指示だったが、細かい事は聞いていないのだ。
さっさとローブを羽織ったマールジェドと違い、ミッちゃんは美貌を晒したままなので、知らない人々の視線が流石に煩わしい。
遠巻きに見てくるだけなので、まだ我慢は出来るが、時おり混ざる秋波を帯びた眼差しには嫌悪しか感じない。
癒しを求めて思わずパウパウの手をキュっと握ると、不思議そうに顔を上げて「ん?」っと新緑色の瞳が見返してくる。
「……パウパウ、帰ろうか」
「何を言ってるのよウルジェド、これも約束でしょ」
ハァ……正直、面倒くさいと思っていると、騒めきが大きくなり、人ごみが割れていく。
わぁ!という歓声が一際、大きくなると同時に人々が口々に「ベネ様っ!」「ご機嫌様だ!」と弾んだ声を上げる。
「表討伐船のサヤーダ船長だぁ!」何処かの子供が高い声で叫ぶ。
どぉっと歓声が濁流のようになった。
「わぁ!討伐冒険者のフッバーだっ!」
「フッバー!」「フッバー!」「ベネ様~」「サヤーダ船長~!」「プタフォタン!プタフォタン!」
どうやら今日の祭りの主役達の登場らしい。
人垣の向こうに、大きな龍人族の領主ベネ・ウオレオが、いつもの上機嫌の笑顔で手を振りながら歩くのが見える。続くのはギルドマスターの同じく龍人族のカウダ=タンニナ。
彼らよりは小柄に見えるが、十分に見事な体躯のフッバーが、少し困った顔に作り笑いを浮かべながら歩き、その後ろに表討伐船のサヤーダ船長が、一昨年の大漁旗を仕立て直した鮮やかな上着を纏って颯爽と続く。
その後ろを乗組員達が誇らしげに胸を張り、手を振りながら歩いて行く。
「……帰ろうか、パウパウ」
「無理だよミッちゃん……」
そっかぁ、無理かぁ。
あの喧噪の中に入るのか、私。と、ミッちゃんは半眼で遠い目をした。
他の患者も居るのだから静かにしろと叱られたばかりなので、流石に声は小さめだ。
医療棟に戻るジフラン少年と手を繋ぎながらパウパウは
「あのねジフラン君…もしかしたら、怖い夢とか見ちゃうかもしれないから……」
新緑色の瞳を少し泳がせて
「……マールちゃんなら、お祭りの記憶をナイナイして貰えるって」
そう躊躇いがちに言うパウパウを見降しながらも、ジフランの目は遠い。
パウパウが心配しているのはフラッシュバックだ。
恐ろしい体験で付いた心の傷は、何度も蘇るぞとパウパウの記憶が、ガンガンと警鐘を鳴らして来ているのだ。
「……シッタラサァ、今日の事サ忘ッチまうかも知ンネェだろ……それはヤだかンナァ」
パウパウと視線を合わせた少年は、照れ臭そうに口を歪めて笑った。
「怖エこと有ったけンど、良ェことも有ったかンナァ」
「……そっか」
繋いだ手を振りながらパウパウが言う。
「ソダナぁ」
同じようにパウパウと繋いだ手をブンブンしてジフランが笑った。
レカベットの少年達に別れを告げて──ラキップは施術が終わらず会えなかったが──社の坂を下りていく。
「パウパウ、気ィ付けレヤ。こン坂で転ぶと姫様に持ってかれるんだってよォ」
意地悪そうな顔をしてダグラスが声を掛けて来た。
「えぇっ!」
それは何処の三年坂ですか!七味唐辛子、売って下さい‼と思いながらも、心に蓋をする。
どんな世界でも人が考える事って似るのかもしれない。
「ダグ!また、そうやって怖がらせない!パウパウ、嘘だからな。ただの言い伝えだから」
「そうだよ!それにさ、ダグラス。お前、どんどん訛っ!戻ってるよ!ギルマスに言いつけるからね」
マルトフとフィリの剣幕に、ダグラスが何だよぉと口を尖らせた。
「だいじょぶ、パウパウ。私と手を繋いて行こう。ほら、私ハイエルフだからねぇ、幾らここで転んでも平気だよ」ミッちゃんが差し出した手を取って、坂を下りる。
「で、ゴドー達は、これからどうすン…るんだ?」
フィリに言われたからか、ダグラスが言いづらそうに話しかけた。
「あぁ、俺らは広場サ戻って夜祭り見てから船サ戻るつもりだ。親父らは夜参リで社サ来ルらしいケンドもよ」フィリの言葉で気付いたのか、ゴドーも言葉を探りながら話す。
「夜参り!」
それだ。それ!
もともと社に来たのはサヤーダに言われたという事も有るが、その神事に潜り込むための下見だったのだ。
サリレの三人とパウパウが目を見開いてゴドーを見たものだから、ゴドーもサコッタの他の二人も後退った。
アブナイ!転んだら姫様に持っていかれてしまうぞっ。
「お、おぅ、アレダベ?勝船の儀礼櫂の奉納バして、姫様の御渡りサ見守るンダベヤ」
ダグラスより年嵩のゴドーの方が詳しいようだ。
「でも、でもさ、何で見ちゃいけないのかな?」
興味津々のフィリが目を輝かせて詰め寄ると、ゴドーが後退りする。
だから危ないって!とパウパウはハラハラするが、舟に乗っている子達は、体幹がしっかりしているらしい。
「サァナァ…姫様のウミワタリ?ッテェのが有るって聞いたけン…れども」ゴドーが言葉を濁す。
「ナシタよ?」
「ダグラス、訛ってるって」マルトフが斜め上の注意をした。
「イヤ、知らネデ済むなら、それがエェって…親父ガナ…」
ダグラスにとってゴドーは友達だ。
離れた村に住む、祭り等でなければ会えないけれども、大切な船好きの趣味仲間だと思っている。
だから、当然、心配で尋ねた。
「何かアッタンカ?」
「夜参りの事じゃネェンダケンドモよ……親父ラの様子が、ピリピリしてンダワ」
ゴドーの言葉に他のサコッタの少年達も頷いた。
ゴドーと同じように不安げな影が表情に滲んでいる。
「舟競争の後からだからヨォ、アッタラ魚サ、うちトコサ来ッカモッテ心配サしてんのかって思ったんだケンドモ……」ゴドーが首を振る。
「後ナ、討伐船サ乗ってたアピズってオッチャン、居ネェくなったノサ」他の子が話を引き取った。
「ンダ。オ父サ聞いたら、船サ降りたってぇダケでヨォ」
少年の頃に村を飛び出し、四年ほど前に、ふらっと戻って来た男だそうだ。
話を聞いてハイエルフは、あの男かと思い出す。
サコッタの舟揚場を使った何かの罪を犯している男。
アピスに成り済まして、四年もの間サコッタで暮らしていた男。
あの身のこなしにしろ、自分の威圧を無視した事にしろ、普通の漁師ではない。
「でもさ、そんな人なら、ふらっと船を降りちゃったのかもよ?プタフォタンの方が賑やかだしさぁ」マルトフが訳知り顔で推論を披露した。
「……ソッカもなぁ」ゴドーは少し寂し気に頷いた。
サコッタは小さな村らしいので、人が減るのは寂しいのだろうとパウパウは思う。
そのまま一行が言葉少なに坂を下って行くと、風向きが変わったからだろうか、パウパウの耳に微かに下の広場から音楽が聞こえて来た。
金属を叩くような澄んだ音、風を引っ掻く笛の音とトントコトントコとリズムを刻む太鼓みたいな音にさわさわと人の気配と声が混じる。
「あ、ミッちゃんって、町の広場に行くの?」
確かベネ様に、夕方に広場でと言われていた筈だ。
だが、この下の屋台などが出ていた場所も、中々に広い空間だった。
尋ねられたミッちゃんは、さて、どちらの広場だろう?と、珍しく首を傾げた。
「とりあえず、町の広場へ行ってみたらどう?ゴドー君たちは、あっちの見物をするんでしょう?」マールジェドがポンとミッちゃんの肩を叩いて言う。
「あぁ、ではゴドー君たちを送って行こうか」
そろそろ陽も低くなってきている。
社のある丘は木立も多いので暗くなるのも早いのだろう。
少し足早に丘を下って広場へ出ると、屋台はすっかり店じまいをして片付け作業が始まっていた。
道具などを端の方へ寄せているようだ。
あれだけ沢山いた、屋台を楽しんでいた人々は居なくなっていた。
片付けをしている人足働きの男達が数人、黙々と屋台だった木柱や板を端へと運んでいる。
周りに生えた木立の根元にゴトンと道具を置く音。
人足たちが木の影に染まると、黒い人型に見える。
ゴドン。
ゴトン。
開けた空間には誰もいない。
楽を奏でる人達も、祭りを楽しむ人たちも、だれもいない。
「……あれ?」
「どうしたの?パウパウ」
「んっと……音楽とか、聞こえてなかった?」
「……いや、何も聞こえてはいなかったよ。どんな音がしてたの?」
怪訝そうに見下ろしたミッちゃんにパウパウは首を振る。
「ん~、聞き間違いかも……ね?」
──祭り囃子─
この世界で聞こえる筈がない調子。
それとも、前世の記憶を持つパウパウだから、聞き取れた音だったのか。
心配そうな顔をするハイエルフの手をぎゅっと握りしめて、パウパウは笑った。
ミッちゃんも握り返して微笑んだ。
「まぁ、これなら町の広場のほうだね。じゃあ行こうか」
トンッと軽く地面をつま先で叩いて、ハイエルフは転移をした。
─────────────────────────────────────
日暮れには、まだ早い時間にも関わらず贅沢にも長い木柱の上で魔道ランタンが揺れていた。
わぁッ!と歓声が上がり、タンタ、タンタ、タンタタンと軽快なリズムを刻むタフの音に、合わせてシャリシャリ平鈴が鳴る。
広場の中央に設置された舞台の上では、大道芸人が幾つもの輪を投げながら踊り、舞台の下で楽し気に見ている人々も、高揚してうずうずと足踏みや手拍子をしている。
可愛らしい顔立ちの子供が心づけを強請って篭を持ち人々の間を回る。
背負った作り物の妖精の羽根には何かの術が施されているのか、ランタンの光を弾いて仄かに発光している。
暗くなるころには、踊りの輪が出来るのかもしれない。
少し広場から離れた場所に転移をしてきたハイエルフに、サコッタの子供達は驚いたような表情を緩めて、頭をさげた。
「アンガトゴザイヤシタ」
「あ、ゴドー、お前ら、明日帰エンのか?」
「おぅ、多分、昼すぎだヤ」ダグラスにそう返事をして、サコッタの子供達が人ごみに消えていくのを見送った。
「ふむ、どうしたものかな」ミッちゃんは顔を顰めた。
広場で夕方というベネの指示だったが、細かい事は聞いていないのだ。
さっさとローブを羽織ったマールジェドと違い、ミッちゃんは美貌を晒したままなので、知らない人々の視線が流石に煩わしい。
遠巻きに見てくるだけなので、まだ我慢は出来るが、時おり混ざる秋波を帯びた眼差しには嫌悪しか感じない。
癒しを求めて思わずパウパウの手をキュっと握ると、不思議そうに顔を上げて「ん?」っと新緑色の瞳が見返してくる。
「……パウパウ、帰ろうか」
「何を言ってるのよウルジェド、これも約束でしょ」
ハァ……正直、面倒くさいと思っていると、騒めきが大きくなり、人ごみが割れていく。
わぁ!という歓声が一際、大きくなると同時に人々が口々に「ベネ様っ!」「ご機嫌様だ!」と弾んだ声を上げる。
「表討伐船のサヤーダ船長だぁ!」何処かの子供が高い声で叫ぶ。
どぉっと歓声が濁流のようになった。
「わぁ!討伐冒険者のフッバーだっ!」
「フッバー!」「フッバー!」「ベネ様~」「サヤーダ船長~!」「プタフォタン!プタフォタン!」
どうやら今日の祭りの主役達の登場らしい。
人垣の向こうに、大きな龍人族の領主ベネ・ウオレオが、いつもの上機嫌の笑顔で手を振りながら歩くのが見える。続くのはギルドマスターの同じく龍人族のカウダ=タンニナ。
彼らよりは小柄に見えるが、十分に見事な体躯のフッバーが、少し困った顔に作り笑いを浮かべながら歩き、その後ろに表討伐船のサヤーダ船長が、一昨年の大漁旗を仕立て直した鮮やかな上着を纏って颯爽と続く。
その後ろを乗組員達が誇らしげに胸を張り、手を振りながら歩いて行く。
「……帰ろうか、パウパウ」
「無理だよミッちゃん……」
そっかぁ、無理かぁ。
あの喧噪の中に入るのか、私。と、ミッちゃんは半眼で遠い目をした。
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