好きです、朝比奈先パイ。~元引きこもりの美少年、陽キャヤンキー先輩に溺愛される~

すずなりたま

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 どうしよう。
 逃げだそうにもいつの間にか前に二人、後ろに一人と退路を塞がれているし、恐くて身体が動かない。声も出せそうにない。
 他の部屋から人の気配を感じるのに、不気味なほど静まり返っている。
  きっと皆ドアの内側から様子を伺っているに違いない。
 入学前だし、そもそもオレと同じ新入生が怖そうな先輩から助けてくれるとは思えなかった。
    漫画のような正義マンは、この世には――いや、この学校には存在しないのだろうか?

「そんな恐がんなって、優しくするっつってんじゃん」
「お前の顔が恐いんじゃね?」
「はぁ? なわけねぇだろ、朝比奈の野郎じゃあるまいし」

 アサヒナ? 誰だそれは。
 この人たちよりも怖い人間が、この学校には存在するというのですか……。
 そもそもここは、名門と名高いお坊ちゃん学校のはずでわ?
 なんでこんなガラの悪いヤンキー達と早々にニアミスするんだよ。
 まさか名門高校の実態は、ヤンキーの巣窟――!?
 などと考えこんでいると、突然曲がり角の向こうからゆらりと大きな影が視界の隅に見えた。

「ハハハッ! そりゃ朝比奈に比べりゃ大体の奴は怖くな――」
「おいテメェ、誰が勝手に俺の噂をしていいっつったクソ野郎」

 連中の背後から、何百年も続く眠りから無理矢理目覚めさせられた魔物のような、恐ろしく機嫌の悪い声がした。
 まさか本当に漫画のような正義マン、いや救世主が――!?

「げぇっ!? あ、朝比奈ァ!?」
「あ? てめェ何人の顔見てゲロ吐いたみたいなダセェ声出してんだよ、ぶち殺すぞ」
「ひいっ」

 ……いや、違う。
 これ絶対、正義マンとかそういうのじゃない。
 だってこの人、この人たちの100倍はガラが悪い……。

「ち……違うぜ!? よってたかって新入生に乱暴とかそんなことするわけねーじゃん!? な、そーだよなお前ら!?」
「おい黙れ馬鹿!!」

 こんな綺麗な自白する人初めて見た。

「ほーうほうほう。オメーら、俺様の前でそんなことしようとしてたのかァ、それはいけねぇなぁ。そんなもん当然、超制裁コースだよなァ!」
「「「ぎゃあああああああ!!」」」

ドカッ、ドスッ、ボキッ、ゴキッ。

 漫画でしか目にしたことのない物騒なオノマトペが、廊下中に鳴り響いている。
 襲われかけたオレが「そ、そこまでしなくても……」と言いたくなるような鬼畜の所業が目の前で行われていた。
 笑顔で人を殴っている人も、泣きながら殴られている人も初めて見た。
    けれど、ビビりすぎて腰まで抜けたオレにその人を止める勇気はなかった。
 もちろんオレ自身も正義マンなどではないので……ゴメンなさい。

「あ~、ほんのちょっとスッキリしたァ、サンドバック志願センキュッ!」
「……」

 いや、志願してないしてない。
 心の中で冷静に突っ込んだ。(とても正面切って突っ込むことなどできない)
 オレの存在に気付いているのかいないのか、スッキリしたらしいその人はオレの方は一度も見ずに――先ほどまでの不機嫌な態度がまるで嘘のように――ふんふんと鼻歌まじりで立ち去っていった。
 これがオレと朝比奈先輩の、最初の出逢い。
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