猫田くんと犬塚くん

すずなりたま

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 朝練が終わる頃には、俺は寝不足と体力消耗で死にそうになっていた。

「……きもちわりぃ……」

 朝練の内容は主に体力作りのトレーニングだ。それと、バレーの基礎練。飛んだり走ったりボール打ったり投げたりバレー部は結構ハードな部活だ。その上学校にも走ってきたもんだから、俺の体力ゲージはそろそろ尽きてきてる。まだ朝8時前なのに。

「大丈夫か?理音。別に朝練は強制じゃないんだから、仕事の次の日くらいは休んだらどうだ。美奈子さんも心配していたぞ」

 少し汗をかいただけで平気な顔をしている昂平が俺のそばにきて、スポドリとタオルを渡してくれた。

「一日でもサボったらトレーニングになんねぇだろーが」
「仕事帰りにジム行くとかすれば」
「高校生が金払って運動するとか、それこそありえねぇだろっ!」

    運動する場所のない社会人ならともかくな!母ちゃんにも言ったけど、トレーニングなんてもちろん口実だ。少しでもお前と一緒に居たいからだよ、ばーか。気付けばか。
    ……一生気付くな、ばか。

「シャワー浴びれるか?」
「あぁ?そんくらいの体力は残ってるっつぅの」

    昂平程じゃないけど、俺だって中学の頃からずっとバレーやってきてるんだから、それなりの基礎体力はついてるんだからな。

「うわぁっ」

    とか言っといて、立ち上がろうとしたら膝がカクンと折れてしまった。体育館の床に膝をついて、俺は舌打ちをした。足がガクガクしている。

「やっぱ無理してるじゃないか……」
「うるせぇな!……もー、お前先行けよっ、ホームルーム遅れるぞ!」

    体力がないことを気にされると、朝練にも来るなと言われているような気持ちになる。だから心配してくれてるのに悪いと思いつつも、ついこうやって悪態をついてしまう。

「馬鹿」
「誰がバカだ!……わっ!?」

    昂平が俺の右腕を掴んで立たせてくれた。いきなり触れられてギョッとする。また、顔近いし!

「朝も先に行けって言ってたけどな、俺が勝手にお前の家に押しかけてるんだ。心配するのも俺が勝手にしていることだ。だから先に行けとか言うな、馬鹿理音」
「んだよ……っ」

   昂平に掴まれたままで、俺は歩きだす。やべえ、掴まれたとこが熱い。心臓の音、昂平にも聞こえそう。

「昂平と理音ってホント付き合ってねーの?なんかすげーお似合いなんですけど」

 突然後ろから、佐倉先輩にそんなことを言われた。

「はぁ!?ちょ、冗談やめてくださいよ!俺達はただの幼馴染です!」
「突っ込むところが違う、理音。ただの幼馴染の前に、俺たちは男同士だろうが」
「あ、ああ、そう!そうですよ!俺には可愛いガールフレンドがたっくさんいるんです!なんで男のコイツと付き合わなきゃならないんですか!」
「ムキになって否定するところがあやしいな~」
「はぁ!?」

   何言ってんだよ、佐倉先輩!!んなこと言って、チョットでも昂平に怪しまれたらどーすんだっ!!

「佐倉先輩、あんまり理音をからかうと嫌われますよ」
「はいはい、昂平君の大事なお姫様をいじめてすいませんね」
「~~~っ!!」

   もしかして朝練の前の会話、聞かれてた!?

「もう知らねぇっ!!」

   恥ずかしいやら情けないやらで、俺は昂平の腕を振り切ると早歩きでシャワールームへと向かった。まだこんなスタスタ歩ける体力残ってたんだな俺。

「……」

    誰と誰がお似合いだ。何がお姫様だ!昂平のお姫様はきっと俺じゃなくて、可愛い女の子だ。そんなの分かってる、ちくしょうめ。

「おい、待て理音!」

    昂平が追いかけてきた。何で追いかけてくるんだコイツは。目的地は同じだけど。

「なんだよ!急ぐなら先に行けよ!」
「そんなムキになるな。佐倉先輩は俺たちをからかいたいだけなんだから」
「わかってるよ!うるせぇな!」

   うるさいのはどう考えても俺の方だけど、この場合「口煩い」って意味にしてくれ。

「なんでそんな怒ってるんだ」

    なんで?そんなの決まってる。

「お前が俺をお姫様なんて言うからだろ!!」

   何で俺は、苛ついてると思ったことをすぐ言ってしまうんだろうか。毎回反省しているのに、全然治らない。案の定、昂平はあっけにとられた顔をして俺を見ていた。

「俺に女扱いされたことが嫌だったのか?」

   そうじゃない。それだけが理由じゃない、けど。

「……そーだよ。完璧綺麗系イケメンの俺のどこがお姫様に見えるんだよ!バレーのしすぎで目まで筋肉になってんじゃねぇのか!?」

 ああ、なんで俺はこんな可愛くないことばっかり言ってしまうんだろう。昔は素直に『こーちゃん大好き』なんて言えてたのに。
 一体、いつからこんなひねくれちまったんだろう。こんなんじゃ、いつ昂平に呆れられるか嫌われるか分かったもんじゃない。

「すまん、俺が悪かった。二度と言わない」
「………」
「急いでシャワー行くぞ。ホームルーム始まる」

   ぽん、と頭の上に手を置かれたと思ったら、昂平は俺を追い越してシャワールームに向かった。1メートルくらいの距離を開けて、俺は無言で昂平に着いていく。
   何で昂平はいつもいつも俺を甘やかすんだろう。そのたびに俺は泣きそうになるのに。



   後方にて──。

「ホント、実際の理音ってRIONのイメージと180度違うよなあ、ガキ臭すぎっつうか。RIONはク―ルビューティーっつかセクシーっつかエロいのにな~」
「俺はいつもの猫田先輩のほうがいいです。特に犬塚先輩の前だとツンデレ全開で可愛いんですよね……」
「は、何?ツンデレ?」
「佐倉先輩は猫田先輩をいじめすぎですよ。バレー部辞めたらどうしてくれるんですか?一生恨みますからね」
「だーってアイツ、反応可愛いんだもん」
「もん、じゃねーですよ。佐倉先輩が言っても可愛くないです」
「お前も1年のくせに可愛くない」
「………」
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