サッカリンワールド~ヤンデレな幼なじみに激しく執着溺愛されています~

すずなりたま

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「ひぐっ、うぅっ……もう、やだよぉ……っ」

   命令された内容の羞恥に耐えきれず、僕はこどもみたいに泣きだした。
 大声で喚くわけじゃないけど、ぼろぼろと零れる涙を拭うことも隠すこともせず、キヨに心から訴えた。

「キヨ、お願いだからもうこんなことはやめてよ! 僕たち友達じゃん!! 親友じゃないの!? こんなのひどいよ! ……っ、いままでのこと全部冗談にしてくれるなら、僕はキヨにされたひどいことはぜんぶ忘れるから……だから、前の優しいキヨに戻ってよぉ!!」
「……ミチオ」
「冗談にして、ぜんぶうそにして! お願いキヨ、友達の前でオナニーしたり友達とセックスするなんて僕はやっぱりいやだ! できないよぉ……!!」
「……」

 まるで氷柱つららのように冷たく鋭いキヨの視線を全身に感じながら、僕はなぜか小学生の頃のことを思い出していた。
   僕は、ほんとうに昔からキヨのことが好きだった。
 親にも教師にも――多分本人にも呆れられるくらい、好きだった。
 何をするにも『キヨがするならする』、どこに行くにも『キヨが行くなら行く』、自分の意志で自発的に何かをした思い出はない。
 キヨに出逢う前まで僕は本当に恐がりで引っ込み思案な子どもだったから、まるで金魚の糞のような僕に親は特に何も言わなかった。
 多分キヨには僕の知らないところでだいぶ謝っていただろうけど――キヨ本人が僕を煩わしそうに扱ったことは一度もなかったから、安心してキヨにくっついて回っていた。
 僕がキヨに頼みごとをしたり、それに対してお礼を言ったときに見せてくれるキヨの優しい笑顔が僕はなによりも好きだった。

『キヨごめんね、居残り学習に付き合わせて。ぼく、算数が全然わからなくって……先生に聞きに行ったら、いそがしいから水沢くんに教えてもらえって』
『あの先生の教え方ヘタだよね。オレも聞いててわかんなかったよ』
『でもキヨは算数できるじゃん……』
『オレは兄ちゃんに教わってるから。すっごい分かりやすい解き方があるんだよ、ミチオにも教えてあげる!』
『……ありがと、キヨ』
『いいよ、ほかならぬミチオの頼みだもの。でもオレ以外の奴に聞いたらダメだからね? 何か困ったことがあったらまずはオレに頼るって約束してくれたら教えてあげる』
『わかった、約束する! ……でもぼく、キヨ以外に頼れる友達なんていないから……あんまり約束の意味なさそうだよ?』
『いいんだよ、ミチオが覚えていてくれたら』
『……うんっ』

 中学に上がってからは金魚の糞具合は少しはマシになったけど、それでも毎日キヨと一緒に登下校していたし、部活だってキヨの真似をしてサッカー部に入った。
 高校もキヨと一緒のところを受験したし、やっぱり部活も……。
 キヨは、容姿も頭脳も性格もすべて僕が憧れてやまない自慢の親友だ。その親友が、僕だけに過保護なのが本当は嬉しかった。
 なんとなく恥ずかしくて気付かないふりをしていたけど、それは一人では何もできない僕の唯一の自慢だったんだ。

 僕は自分のことがあまり好きじゃないけど、キヨに甘やかされているときだけは自分のことが好きになれた。
 凄いキヨに大事にされている自分は、同じように凄いんだって思うことができたから。
 ただの錯覚なのに、そんな気分に浸れるだけで僕は幸せだった。
 友達はキヨさえいればいいと思って他の子とは仲良くしなかった。
 仲良くしたくても、傍から見ればいつもキヨを独り占めしている僕は周りから嫉妬されて、嫌われていたから無理だったんだけど。
 でも、自分がそこまでキヨに大事にされている理由を深く考えたことは一度もなかった。
 それが僕の最大の誤算なんだろう。

 ただキヨが優しくて、面倒見がよくて、僕を心から大事な親友だと思ってくれているんだと思っていた。
 もしくは弟みたいに思っているのだと。
 キヨにはつよしくんという兄がいるから、僕を可愛がることで毅くんの真似をしたいのかな、と時々思った。
 僕は一人っ子だから、キヨに弟みたいに扱われるのは別に悪い気はしなかった。
 むしろ嬉しいくらいだ。
 それに親友でも弟でも――どちらにせよ、キヨに大事にされているという事実は変わらないのだから。
   だからこんなことをされても、僕はやっぱり心からキヨを嫌いにはなれないんだ。
 そうなるまで甘やかされていた、ということだろう。

「……言いたいことはそれだけ?ミチオ」

 僕に向けられているキヨの冷たい態度も、浴びせられる冷たい言葉も、まだどこか現実じゃないような気がしている僕は――きっとどこか一部が麻痺しているに違いない。
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