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「君は、何を……」
「ご、ごめんなさいっ、俺、トイレ!」
「暁哉!」
霧咲の自分を呼ぶ声から逃げるように、榛名は掘りごたつから脱出しようとした。
けれどやはり掘りごたつからは直ぐに出られず、同じように立ち上がった霧咲に腕を掴まれた。
「暁哉、座って」
「離してください……!」
酔っぱらっているとはいえ、なんてことを言ってしまったのだろう。
霧咲だって思い出したくないはずなのに。
恐くて顔が上げれない。
霧咲の顔が見れない。
「いいから座るんだ。騒いだら亜衣乃が起きてしまうよ」
「……」
それを言われたら、おとなしく従うしかない。
思わず御簾ごしに亜衣乃の方へ目をやるが、規則正しく寝息を立てていた。
思わずホッと胸を撫で下ろす。
……絶対、亜衣乃には聞かせたくない台詞だったから。
「暁哉、俺がそっちへ行くから少し詰めてくれないか?」
「え!?」
榛名がぼんやりしてる間に霧咲はさっと立ち上がり、榛名の横に入ろうとしてきた。
とりあえず言う通りに場所は空けたものの、榛名はまだ霧咲の顔を見ることは出来ない。
そして、こたつに入ると――霧咲は少し強ばっていた榛名の身体をギュッと抱きしめた。
「! 誠人さ――」
「馬鹿だなぁ君は。まだあいつのことを気にしていたの? あいつと君は全然違うんだってちゃんと言っただろう」
優しい声で霧咲が言い、抱きしめながら同時に榛名の頭もよしよしと撫でた。
「……そう、でしたね」
確かに霧咲はそう言った。
自分も納得したつもりだった。
けれど……
「ごめんなさい……俺が、弱いだけなんです」
頭では納得していても、心は納得していない。
否、無理矢理納得させていた。
やはりそう簡単に納得するなんて所詮無理だったのだ。
榛名が霧咲からその話を聞かされたのは、まだつい最近のことなのだから。
その後も思うことは色々あったのだが、愚痴すら誰にも言えずに一人で抱え込んで、日々の忙しさでなんとか誤魔化していた。
「ごめんなさい……俺、貴方にこんなにも愛されてるんだって分かってるのに……」
優しく抱きしめられると思わず涙腺が緩み、ポロポロと零れて霧咲の浴衣に染み込んでいく。
「いや、君は何も悪くないよ。気付いてやれなかった俺が悪いんだ……ごめん。俺の言葉が足りてなかったと思う」
「……」
「言葉というか、アフターケアかな? 俺は自分のことばかりで……君が俺の全てを受け入れてくれるから、年下の君に甘えてばかりだった」
甘えていいのに。
今まで元恋人と妹との板挟みで辛かった分、霧咲は全然自分に甘えていいのだ。
どうしようもない位に嫉妬してしまうのは、きっと自分の許容範囲が狭いだけなのだから。
自分にも言いたくない過去はあるくせに。
霧咲の過去まで、否、過去の霧咲まで自分のものにしてしまいたいと榛名は思っているのだ。
そんなことは、絶対に無理なのに。
「ごめんなさい……」
「もう謝らないで。君は悪くないんだから」
「ごめんなさいっ……」
自分が初めて愛した人が霧咲だったから、霧咲が初めて愛した相手も自分だったら良かったのに。
榛名はそんな傲慢な気持ちを抱いていることに、謝罪をしているのだった。
もし過去がそんなふうに書き換えれたら、亜衣乃はここにはいないのに。
「暁哉……愛してるよ」
「う……っ」
「今は君だけを愛してる。これからもずっと……だよ」
「誠人さん……」
なるべく声を出さないように。
亜衣乃に泣いていると気付かれないように、榛名は霧咲の胸にギュッと縋り付いて、静かに涙を流した。
霧咲も『泣かないで』とは言わなかった。
その代わり、榛名が泣き止むまでずっと優しく抱きしめて『愛してる』と囁いていた。
「ご、ごめんなさいっ、俺、トイレ!」
「暁哉!」
霧咲の自分を呼ぶ声から逃げるように、榛名は掘りごたつから脱出しようとした。
けれどやはり掘りごたつからは直ぐに出られず、同じように立ち上がった霧咲に腕を掴まれた。
「暁哉、座って」
「離してください……!」
酔っぱらっているとはいえ、なんてことを言ってしまったのだろう。
霧咲だって思い出したくないはずなのに。
恐くて顔が上げれない。
霧咲の顔が見れない。
「いいから座るんだ。騒いだら亜衣乃が起きてしまうよ」
「……」
それを言われたら、おとなしく従うしかない。
思わず御簾ごしに亜衣乃の方へ目をやるが、規則正しく寝息を立てていた。
思わずホッと胸を撫で下ろす。
……絶対、亜衣乃には聞かせたくない台詞だったから。
「暁哉、俺がそっちへ行くから少し詰めてくれないか?」
「え!?」
榛名がぼんやりしてる間に霧咲はさっと立ち上がり、榛名の横に入ろうとしてきた。
とりあえず言う通りに場所は空けたものの、榛名はまだ霧咲の顔を見ることは出来ない。
そして、こたつに入ると――霧咲は少し強ばっていた榛名の身体をギュッと抱きしめた。
「! 誠人さ――」
「馬鹿だなぁ君は。まだあいつのことを気にしていたの? あいつと君は全然違うんだってちゃんと言っただろう」
優しい声で霧咲が言い、抱きしめながら同時に榛名の頭もよしよしと撫でた。
「……そう、でしたね」
確かに霧咲はそう言った。
自分も納得したつもりだった。
けれど……
「ごめんなさい……俺が、弱いだけなんです」
頭では納得していても、心は納得していない。
否、無理矢理納得させていた。
やはりそう簡単に納得するなんて所詮無理だったのだ。
榛名が霧咲からその話を聞かされたのは、まだつい最近のことなのだから。
その後も思うことは色々あったのだが、愚痴すら誰にも言えずに一人で抱え込んで、日々の忙しさでなんとか誤魔化していた。
「ごめんなさい……俺、貴方にこんなにも愛されてるんだって分かってるのに……」
優しく抱きしめられると思わず涙腺が緩み、ポロポロと零れて霧咲の浴衣に染み込んでいく。
「いや、君は何も悪くないよ。気付いてやれなかった俺が悪いんだ……ごめん。俺の言葉が足りてなかったと思う」
「……」
「言葉というか、アフターケアかな? 俺は自分のことばかりで……君が俺の全てを受け入れてくれるから、年下の君に甘えてばかりだった」
甘えていいのに。
今まで元恋人と妹との板挟みで辛かった分、霧咲は全然自分に甘えていいのだ。
どうしようもない位に嫉妬してしまうのは、きっと自分の許容範囲が狭いだけなのだから。
自分にも言いたくない過去はあるくせに。
霧咲の過去まで、否、過去の霧咲まで自分のものにしてしまいたいと榛名は思っているのだ。
そんなことは、絶対に無理なのに。
「ごめんなさい……」
「もう謝らないで。君は悪くないんだから」
「ごめんなさいっ……」
自分が初めて愛した人が霧咲だったから、霧咲が初めて愛した相手も自分だったら良かったのに。
榛名はそんな傲慢な気持ちを抱いていることに、謝罪をしているのだった。
もし過去がそんなふうに書き換えれたら、亜衣乃はここにはいないのに。
「暁哉……愛してるよ」
「う……っ」
「今は君だけを愛してる。これからもずっと……だよ」
「誠人さん……」
なるべく声を出さないように。
亜衣乃に泣いていると気付かれないように、榛名は霧咲の胸にギュッと縋り付いて、静かに涙を流した。
霧咲も『泣かないで』とは言わなかった。
その代わり、榛名が泣き止むまでずっと優しく抱きしめて『愛してる』と囁いていた。
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