運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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 しかし。

(いやいや。たかが合コンの誘いを断るだけなのに、榛名くんの何を参考にすんだよ……) 

 それに榛名に限らず、自分達の関係を知っている者は自分達以外にはいない。
 これからも誰かに言うつもりもなかった。
    それについて話し合ったことはないが、きっと二宮も同じ考えだろう。

(でもそれって、単に後腐れなく別れるためだろうか?)

 自分と二宮の関係は、数ヶ月前まではただの職場の同僚で先輩と後輩だった。
 あの日、二宮に誘われて二宮の部屋で酒を飲んで、アホな自分が二宮の忠告を無視して二宮にウイスキーを飲ませた結果、こうなった。 
 端的に言うと、堂島は二宮にレイプされた。
 そして新しい世界の扉を開けてしまったのだ。

(男どうしとか、SMプレイとか、あの人ほんとヤバすぎじゃね? ウイスキー飲んだだけでああなるとかマジ変人……)

 思い出すとドン引きするのに、二宮の飴と鞭に見事に翻弄された堂島は、その結果――二宮に好意のようなものを抱いてしまった。
 そしてレイプした責任を取ってもらうという名目のもと、付き合って貰うことに成功した。

(俺が無理矢理付き合わせたみたいだけど、嫌なら嫌だって言うよな、ふつう)

 しかし堂島には、このまま一生男の二宮と付き合っていく、という決心や覚悟なんてものは皆無だ。
 というより、考えないようにしている。
 堂島は元々ノンケだし、女性と付き合っている時もそういう考えだった。
 だからそれは堂島にとっては別に何も特別なことではない。
 もう27になるのに、結婚だとか子どもだとか、そういうものは堂島にとって未だに現実味がなかった。
 友達の大半がまだ独身であるし、親に結婚を急かされたこともないからだ。

(お互い楽しくお付き合い出来ればそれでいい。もし失敗して子どもが出来たら、その時はその相手と結婚すりゃいいんじゃねぇ?)

 誰かと付き合う時は、いつもそういうノリだった。相手だって同じだ。
 無意識にそういう相手を選んで付き合っていたのかもしれないが。
 二宮は今まで付き合った相手とはノリも趣味も性別も違うが、堂島としてはやはり今を楽しむだけの軽いお付き合いのつもりだ。
 男同士だから余計に、結婚や子どもというワードは遥か彼方に消え去っている。
 それなのに、二宮との関係は堂島の心のどこかにいつも影を落としていた。
   なんだかひどくモヤモヤするような、イライラするような……

「あ、堂島くん、おかえり」

 透析室に一歩足を踏み入れたら、正面のベッドの患者の止血中の榛名と目が合った。

「休憩上がったら堂島くんにも回収付けてるから、担当の患者さん確認しといてね」
「え、マジで? 長引いて俺がずっと帰って来なかったらどーするつもりだったんだよ榛名く……じゃなくて、榛名主任」

 堂島は二宮に注意されてから、仕事中は榛名のことをちゃんと『主任』と呼ぶようになった。
 まだほんの少し、照れ臭さは残っているが。

「だって二宮さんが、この時間には堂島くんも戻って来るだろうから回収に付けていいよって言ってくれたよ? ほんとに帰ってきたし」
「……はあ、さすが二宮先輩」

 堂島は透析室全体をぐるっと見渡すと、遠くの方で新たな透析回路(午後の患者用)を組んでいる二宮を見つけた。
 別に自分が戻ってくる時間を把握されてるくらいは全然特別なことじゃない。
 ME同士なら何をやって何時に終わるかは大体見当が付くし、まあ、それは何のトラブルも起こらなければの話なのだが……
 それでもなんとなく、嬉しい気がするのは何故だろう。

(俺ってけっこう単純かも……)

 もう一度、遠くにいる二宮を見つめる。
 確かに、黙々と仕事をしている姿はまるで職人のようでカッコイイとは自分も常々密かに思っていた。 
 この姿を――透析室のスタッフはしょうがないとして――恋愛目的の山本なんかに見つかりたく無かったのに。
 山本から合コンに誘われたことを、二宮に伝えなければいけない。
 二宮が合コンに参加するしないは別としても……いや、自分が行くのも止められるかもしれない。
 そしたらどうしよう、早いとこ山本に断りのLINEを入れなければ。

「堂島くーん、そこに突っ立ってると上村さんの通行の邪魔ですぅ!」
「え? あ、ごめんっ!」

 有坂の声にハッとすると、いつの間にか目の前に車椅子の患者がいて、自分が通せんぼする形になっていた。
 全く気付かなかった。

「上村さぁん、なんか言ってよ~! 静かだから気付かなかったじゃん」
「……」

 上村氏は外科に入院中で、車椅子自走ができる高齢の男性患者だ。
 堂島の声掛けに何も答えず、堂島が避けると透析室を静かに去っていった。
 元々耳が遠いので、堂島の声が聞こえなかったのかもしれない。
 なんにせよこの患者に無視されるのは慣れているし、そうされるのは堂島だけではない。
 唯一氏がボソボソと喋り返すのは、お気に入りの看護師の榛名にだけだったか……

「堂島くん早く休憩に行きなよ、時間無くなるよ? あ、その前に沈子2個持ってきて! ついでにガーゼも」
「はーいはいはい」

 榛名に言われて、ようやくエンジンが再度掛かった気がした。
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