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124 堂島、葛藤する
ファミレスでの食事を終えて、二宮は堂島のアパートの前に車を着けた。
時刻はもうすぐ21時になるはずだ。
「じゃあな、堂島」
「え、上がっていかないんスか? コーヒーくらい出しますけど……」
「だから明日俺、早出だって」
「そんなん分かってるっスけど」
でも付き合ってるんだから、もう少し一緒にいたいって思ってくれたっていいのに。
――なんて、いつもは彼女に言われる立場だった。
『もう帰っちゃうの? もっとゆっくりしていけばいいのに……』
それが何故、同じ男なのに自分がそれを言う立場になっているのだろうか。
確かにセックスでは堂島が女役をしたのだが、別に性格まで女々しくなる必要はないだろう。
勿論、わざとやっているわけではないのだが。
(俺は、男だっつーの)
だから、
『ねぇ……帰らないでよ』
そんなふうに引き止める真似は、出来ない。
重たいし、カッコ悪いし、なんか自分の方がたくさん好きみたいで嫌だ。
「おやすみ、寒いから早く中入れよ」
「はーい、先輩、おやすみなさいっス」
二宮は口角を上げて少しだけ笑うと、別れのキスもせずに去っていった。
車の重抵音がだんだん遠くなって、道路を照らすライトが見えなくなるまで、堂島は二宮の車をじっと見つめていた。
(もしかして、付き合ってるって思ってんのは俺だけ、とか……?)
キスをした。
セックスもした。
責任を取れ、と言って納得してもらった。
だから一応付き合っている、と思っている。
でも、何かが足りない。
何かが満たされない。
その何かとは、なんだ。
「は……マジ、意味わかんねえし……」
二宮といる時、こういう思考に陥る自分が嫌だ。
まるで二宮に執着しているみたいに思える。そんなはずは無いのに。
*
「堂島くん、お腹でも壊したんですかぁ?」
「……………」
今日の遅出(夜勤)のメンバーは、堂島、有坂、若葉の3人だった。
申し送りを聞く前にいきなり有坂からそんなことを言われ、堂島は数秒間反応ができなかった。
本日申し送りをしてくれるリーダーの榛名はまだ患者と話しているため、3人でリーダー席の前で突っ立って待っている状態だ。
「……え、そんなふうに見える? 俺」
「見えますぅ」
「なんか変なモンでも食ったって顔してるよー? 眉間に皺寄せちゃってさぁ」
今度は若葉も加わった。この2人は歳は数個離れているが、透析室では特に仲良しなナースコンビだった。
ぶりっこの有坂と姉御肌の若葉は相性がいいらしく、プライベートでもよく一緒に遊んでいるらしい。
「別に変なモンなんて食ってねーし……昨日は二宮先輩の奢りでファミレスで定食食って、」
「え、二宮さんと堂島くんって一緒に食事とか行くんですかぁ、なんか意外ですぅ~」
「本当、二宮さんは意外~」
「なんで? 俺ら同じMEだし、食事くらいふつーに行くし」
「そうなんですけどぉ~」
有坂と若葉は、『だってねぇ、』『うん、』などと2人にしか分からない会話と目配せをしている。
なんか失礼だ! と怒りたいが、自分もよく同じことをしているから怒るに怒れない。
「ちょっと、何がそんなにおかしいんスか? 俺と二宮先輩のツーショットが?」
「だって2人、性格全然違うくない? 透析室で話してるところもあんまり見ないし……ていうか二宮さんがプライベートで堂島くんに構ってるってのがなんか意外なの。あ、もしかして無理矢理誘った?」
「あー、ついに榛名主任から鞍替えですかぁ?」
「鞍替えって何!? それに別に俺は榛名くんのことなんか」
なんだかひどく誤解されている。
否定しようと思ったのだが――
「3人とも待たせてごめん! すぐに申し送り始めるから、あとちょっとだけ待ってて!」
榛名がバタバタとこちらに走ってきて、3人の会話は中断した。
「お疲れ様ですぅ、榛名主任」
「お疲れ様です!」
「お、お疲れ様で~す……」
「はい、じゃあ申し送りを始めます。――ん? 堂島くんどうしたの? なんか顔がおかしいけど」
「は!?」
いきなり顔面をディスられたのかと思い、堂島は強めのリアクションを返した。
「主任、それはいつもですぅ」
「あ、顔って顔色のことだからね!? 別に堂島くんの顔が変だって言ってるわけじゃないよ!?」
「ああ、マジメに言ってたんですね……榛名主任ってば可愛い……」
「もーみんな好き放題言うっスね、別に至ってふつーですからご心配なく!どーせ俺はブスですよ!」
「堂島くん、面倒くさいから拗ねるなですぅ」
「そうさせてんのは自分だって分かってる!?」
「体調が大丈夫ならいいや。じゃ、午前中の申し送りから始めまーす」
「榛名主任……クールなところも良きです」
3人とも堂島に冷たい。
わざとなのは分かっているが。
それに一応体調を心配してくれたらしいので本気で怒る気にはならない。
(もしかして俺、顔に出てるのか……?)
二宮との関係を怪しまれるよりはマシだが、一緒にいることをそこまで意外そうにされるのもなんだか面白くない。
(くそ、俺めんどくせぇな……)
この関係がもしもこの職場にバレたりしたら……なんて、考えたくもないくらい最悪の事態なのに。
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