運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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126 イレギュラー発生

   堂島が胸にモヤモヤを抱えたまま、普通に合コンの日――土曜日はやってきた。
   堂島も二宮もこの日は日勤だったのだが、定時30分前になってイレギュラーが発生した。

「えっ! 今から緊急透析ですか!?」

   受話器を持ってそう言った榛名の周りに、定時を待って暇を持て余していたスタッフ達がわらわら集まってきた。
 どうやら奥本医師からの電話のようだ。

「はい……はい……今からですね、すぐにベッドを準備します。堂島くん、個室で回路組んでくれる? ダイアライザーは50でいいって、シャントじゃなくてカテの患者だから――富永さん、準備の方お願いします。はい、透析後は3階に入院ですね、分かりました、病棟に連絡は済んでますか? ……はい、じゃあお待ちしてます」

   榛名が受話器を置いた。一瞬の静寂が透析室に訪れる。

「……まあ、そういうことです」
「そういうことですかぁ~……」

   榛名の言葉に、誰とも無く答える。スタッフ一同、はーっと同時にため息をついた。
   定時前に緊急透析ということは、日勤の誰かが居残りをしないといけないからだ。
   午後透析がある日ならそのまま夜勤者が受け持つのだが、今日は土曜日で午前透析だけのため、必然的に居残り業務が発生する。

「とりあえずナースは俺が残ります。MEさんも誰か1人、居残りお願いします」

   主任の責任感からか、率先して榛名が手を挙げた。
   他のナースは「いいんですか」と戸惑う顔は見せたものの、主任の榛名がそう言った以上は誰からも異論は無かった。
   そしてMEからは、

「じゃあ、俺が残ります」

   手を挙げたのは、二宮だった。

「え、でも二宮先輩……」
「終わったら行くから、先方にはそう伝えててくれるか?」
「いやいや、それなら俺が残りますよ! だって……」

   (山本主任の目的は、アンタなんだし)

   何故敵に塩を送ろうとしているのか自分でもよく分からないのだが、多分深い意味はない。

「いや、やっぱり俺が残るよ。ありがとうな、堂島」
「せんぱーい……」

   そんなわけで榛名と二宮を残し、それ以外のスタッフは皆定時で帰宅となった。




「……榛名主任、良かったんですか? 土曜日なのに、これから何か用事とかあったんじゃ……」

   二宮は、霧咲とのことを気にして榛名に聞いたのだが、榛名にはそこまで伝わっていなかった。

「いいんですよ俺は。今日はバレンタインデーですからね、約束のある女性陣を先に帰してあげないと……二宮さんこそ堂島くんになにか言ってましたよね、用事があったんじゃないですか?」

   榛名の言葉で、二宮は今日がバレンタインデーだということに気付いた。
   そういえば、休憩室にチョコレートの箱が数個置いてあった気がする。
 てっきり誰かが食べたくて買ったものとばかり思っていた。
   自分には特に関係ない行事なので、二宮にとってバレンタインとはその程度の認識でしか無い。

「ただの飲み会です」
「へえ、コメディカル同士のですか?」
「いえ、その……外科のナース達との合コン、で」
「合コン!?」
「あ、はい」

   榛名が派手に驚くものだから、そっちの方が二宮はびっくりしてしまった。

「そんなに驚くことですか?」
「や、だって二宮さん、合コンとかそういうのはあんまり興味無さそうだから……」
「俺、独身ですよ? 合コンくらい普通に行きます」

   今は恋人がいるので誘われても積極的には行かないのだが、今回はしょうがない。
   誘ってきたのが恋人自身であったため、彼の顔を潰さないためにも即座にOKしたのだった。

「あは、そうですよね」
「主任も用事がないなら行きますか?」
「ええっ!?」

   榛名は今度こそ盛大に驚いた。
 後ろに飛び退くほどの勢いだ。

「冗談ですよ。……あー、冗談でも俺が誘ったこと、言わないでくださいね。霧咲先生に東京湾に沈められてしまう」
「あ、ハイ……?」

   前半は分かったが、後半は意味が分からなかった。
   何にせよ、霧咲に言えるハズが無い。
 そんなことを言えば二宮どころか榛名自身が折檻されてしまうことを、榛名は自分でよく分かっているのだから。

 ――それにしても。

「二宮さんも冗談を言ったりするんですね」
「……主任の中の俺はどんだけ真面目人間なんですか? 冗談の一つや二つくらい言いますよ」
「そりゃそうですけど、以前だったら言わなかったんじゃないですか? 特に俺には……」

   親しい仲間内でなら分かる。
   けれど、自分や有坂、若葉、堂島にさえも、二宮が冗談を言う風には見えない。
 以前だったならば、もっと見えなかった。

「それだけ、主任との距離が縮まったってことですかね」
「え?」
「嬉しいですよ、俺は」
「お、俺も嬉しいですけど……」

   それは最もな理由なのだが、そもそも彼はそんなことを言う人間だっただろうか?
   こんな気障な台詞はむしろ霧咲が言いそうな感じで、二宮のイメージではない。榛名はますます困惑してしまった。

「もしかして困ってます?」
「もしかして俺をからかってます?」
「正解です」
「……っもう! 二宮さん!!」
「ハハハッ! 俺が榛名主任に怒られるのって、すげぇ新鮮ですね。すいません、ふざけ過ぎました。ちょっと性格移ってきてんのかな……」
「え?」

   2人の会話はそこまでだった。
 緊急透析の患者が、奥本医師と共に透析室に到着したからだ。

「や~榛名くんに二宮くん、2人とも残って貰って悪いね~! じゃあ早速、血圧測って透析はじめようか。といっても今日は水引きだけね」
「「ハイ」」

   二宮が言った『性格が移ってきてる』というのは、誰かのことを指しているんだろうか。

 (もしかして、付き合っている人? でも今夜は合コンだって言ってたしなぁ……)

「榛名くん、患者の血圧は?」
「100と56ですね」
「ん~……じゃあとりあえず2時間ECUMイーカムで、1キロ引こうか」
「はい」
「じゃ、回路繋ぎます」

   それからは奥本と3人だったので、二宮が冗談を言う事はもう無かった。
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