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榛名はスポンサーの気持ちでもいたのだが、亜衣乃がどうしても自分のお小遣いで買いたいというので、ラッピングは百均で揃えることになった。
百均とはいえ、品揃えの豊富さに榛名は驚いた。
一人だったら普段は絶対に立ち寄らないコーナーなので──。
その次は榛名宅の近所にあるスーパーに行き、必要な材料を購入した。チョコレートケーキの作り方は榛名が調べており、もっとも簡単だと思うレシピにした。
「炊飯器でチョコレートケーキが作れるの?」
「うん。実は実験というか、午前中に試作してみたんだけど、簡単だしなかなか美味しかったよ。まだ残ってるから食べてみる?」
「食べるー!」
そのケーキは亜衣乃にも好評で、作り方も簡単だったので榛名は隣で教えながら、ほとんど亜衣乃が一人で作った。
湯せんの段階で、亜衣乃がチョコレートの入った容器に直接お湯を注ごうとしたときは慌てて止めに入ったが。
作りながら、前に霧咲とホットケーキを作ったときの話を聞いて榛名は何度も笑った。
ケーキを作るというのに、いきなり胡麻油をチョイスするところからつっこみ所が満載だったが、二人の料理の出来なさにも驚いた。
「まこおじさんは亜衣乃が割った卵の殻を取り除くのがいちばん疲れたって言ってた。でも亜衣乃は、まこおじさんがお箸でケーキをひっくり返そうとしてるときがいちばんドキドキしたよ。最初二つ折りになっちゃったし……」
「あはは……誠人さん、オペは凄く上手なんだけどなぁ」
「ふうん、きっと才能が全部そっちに振り切っちゃったんだね」
「……」
亜衣乃の言い分に感心しつつ、しかしどうにか霧咲が伯父の威厳を失わないようにしてあげたかったのだが、榛名には難しかった。
そして無事にチョコレートケーキは完成し、冷ましてラッピングまで終了した。
「じゃあ明日、仕事が終わったら一旦取りに帰って、それからそっちに向かうね」
「うん! 待ってるね。何時ごろになりそう?」
「仕事は17時までだから、18時ごろには着くと思うよ」
「えっと、……午後6時ごろってこと?」
「あ、そうそう! ごめん、分かりにくかったよね」
医療職は普段から24時間表記で時刻を数えるため、つい癖でそう言ってしまう。
亜衣乃は普段から少し大人びた話し方をするので、まだ小学4年生だということをつい忘れてしまっていた。
「ううん、まこおじさんもよく言うし、たまにわかんなくなるときあるけど……亜衣乃、頑張って覚えるからアキちゃんもそのまま使ってていいよ」
「亜衣乃ちゃん……」
榛名は(いい子だなぁ)と感激して、亜衣乃の頭をヨシヨシと撫でた。
それから二人は晩御飯を食べて、別々にお風呂に入った。
亜衣乃はお泊まりセットは用意していたが、寝具は一組しかないので榛名のベッドで一緒に寝ることにした。
ベッドに入った途端、亜衣乃はくすくすと笑いだした。
「なんだかまこおじさんに悪いなあ。アキちゃんと一緒に寝ただなんて、バレたら怒られちゃいそう~」
「そうかな?」
「そうだよ! だってまこおじさん、アキちゃんのことでときどき亜衣乃に張り合ってくるんだよ? アキちゃんのこと、ほんとに大好きなんだから」
「誠人さんは、亜衣乃ちゃんのことだって大好きだよ」
榛名がそう言うと、亜衣乃は少し苦笑した。
それがあまりにも子どもらしからぬ笑い方だったので、榛名は少しドキッとした。
「亜衣乃、ちゃん?」
「……まこおじさんが亜衣乃とこんなふうに喋ってくれるようになったのはね、多分アキちゃんと会ってからだよ」
「え?」
「それまでもまこおじさんは優しかったけど……でも……ずっと壁みたいなものがあったの。亜衣乃をどんなふうに扱っていいのかわからない、みたいな……なんだかいつも困った顔してた」
それは、榛名も以前霧咲から聞いたことがあった。
亜衣乃をどんなふうに扱っていいのか分からない、と。
でも二人の様子を見ているととてもそんなふうには見えなかったので、あまり真剣に気にしたことはなかった。
「その理由を亜衣乃はずっと知らなかった。知ったのは、お正月にママと2人でアキちゃんに会いに来たときだよ。まあ、当然だなーって思っちゃった。まこおじさんをわざとパパって呼んでたことがあったから、それでかなってずっと思ってたんだけどね」
「えっと……」
「あ、ごめん。アキちゃんには面白い話じゃないよね」
亜衣乃は、自分が霧咲の元恋人の娘──しかも自分の母をひどい形で裏切った──ということをいまだに気にしているのだった。
気にしない、はずがない。
「亜衣乃ちゃん……」
榛名は、亜衣乃になんて声をかけていいのか分からなかった。
子どもなんだからそんなの気にしなくていいんだよ、というのはあまりにも軽々しく、無責任だと思った。
あの一件で、亜衣乃はギリギリのところで繋がっていた実の母親に捨てられたのだから。
「だからね、アキちゃんありがとう」
「……え?」
いきなり突拍子もなく礼を言われて、榛名は面食らった。
「まこおじさんを好きになってくれて。アキちゃんがまこおじさんの恋人になってくれたから、まだ予定だけど、亜衣乃のママにもなってもらえるんだし。亜衣乃ね、ママと一緒にお菓子作りするのって夢だったんだぁ」
「……っ」
榛名は今度こそ、言葉に詰まった。
「まこおじさんも前よりすごく明るくなって、もう亜衣乃に対して変な壁も作らなくなったしね。ふつつかな伯父だけど、これからもまこおじさんをよろしくね、アキちゃん。ぜーっったいに浮気はしないから。亜衣乃が保障するよ!」
「こ、こちらこそ……ぅうっ……」
「あははっ、アキちゃん泣かないでよ~」
いい大人なのに、こどもの前でボロボロ泣くなんて、なんてみっともないのだろう。
情けないのは分かっているが、次から次へと溢れ出る涙は自分では止められないのだった。
(ありがとうなんて、こっちが言いたいのに)
泣いている榛名を見て、亜衣乃はけらけらと笑っている。
本当に強い子だな、と榛名は思った。
「っ亜衣乃ちゃんも、無理しなくていいんだからね!? 泣きたいときは泣いていいし、つらいことがあったら俺でも誠人さんでもいいからちゃんと話してね! 絶対だよ……」
「うん、わかった。……アキちゃん、今日は本当にありがとう。おやすみなさい」
「うん、おやすみ……」
榛名と亜衣乃は、布団の中で手を繋いだまま深い眠りに落ちていった。
百均とはいえ、品揃えの豊富さに榛名は驚いた。
一人だったら普段は絶対に立ち寄らないコーナーなので──。
その次は榛名宅の近所にあるスーパーに行き、必要な材料を購入した。チョコレートケーキの作り方は榛名が調べており、もっとも簡単だと思うレシピにした。
「炊飯器でチョコレートケーキが作れるの?」
「うん。実は実験というか、午前中に試作してみたんだけど、簡単だしなかなか美味しかったよ。まだ残ってるから食べてみる?」
「食べるー!」
そのケーキは亜衣乃にも好評で、作り方も簡単だったので榛名は隣で教えながら、ほとんど亜衣乃が一人で作った。
湯せんの段階で、亜衣乃がチョコレートの入った容器に直接お湯を注ごうとしたときは慌てて止めに入ったが。
作りながら、前に霧咲とホットケーキを作ったときの話を聞いて榛名は何度も笑った。
ケーキを作るというのに、いきなり胡麻油をチョイスするところからつっこみ所が満載だったが、二人の料理の出来なさにも驚いた。
「まこおじさんは亜衣乃が割った卵の殻を取り除くのがいちばん疲れたって言ってた。でも亜衣乃は、まこおじさんがお箸でケーキをひっくり返そうとしてるときがいちばんドキドキしたよ。最初二つ折りになっちゃったし……」
「あはは……誠人さん、オペは凄く上手なんだけどなぁ」
「ふうん、きっと才能が全部そっちに振り切っちゃったんだね」
「……」
亜衣乃の言い分に感心しつつ、しかしどうにか霧咲が伯父の威厳を失わないようにしてあげたかったのだが、榛名には難しかった。
そして無事にチョコレートケーキは完成し、冷ましてラッピングまで終了した。
「じゃあ明日、仕事が終わったら一旦取りに帰って、それからそっちに向かうね」
「うん! 待ってるね。何時ごろになりそう?」
「仕事は17時までだから、18時ごろには着くと思うよ」
「えっと、……午後6時ごろってこと?」
「あ、そうそう! ごめん、分かりにくかったよね」
医療職は普段から24時間表記で時刻を数えるため、つい癖でそう言ってしまう。
亜衣乃は普段から少し大人びた話し方をするので、まだ小学4年生だということをつい忘れてしまっていた。
「ううん、まこおじさんもよく言うし、たまにわかんなくなるときあるけど……亜衣乃、頑張って覚えるからアキちゃんもそのまま使ってていいよ」
「亜衣乃ちゃん……」
榛名は(いい子だなぁ)と感激して、亜衣乃の頭をヨシヨシと撫でた。
それから二人は晩御飯を食べて、別々にお風呂に入った。
亜衣乃はお泊まりセットは用意していたが、寝具は一組しかないので榛名のベッドで一緒に寝ることにした。
ベッドに入った途端、亜衣乃はくすくすと笑いだした。
「なんだかまこおじさんに悪いなあ。アキちゃんと一緒に寝ただなんて、バレたら怒られちゃいそう~」
「そうかな?」
「そうだよ! だってまこおじさん、アキちゃんのことでときどき亜衣乃に張り合ってくるんだよ? アキちゃんのこと、ほんとに大好きなんだから」
「誠人さんは、亜衣乃ちゃんのことだって大好きだよ」
榛名がそう言うと、亜衣乃は少し苦笑した。
それがあまりにも子どもらしからぬ笑い方だったので、榛名は少しドキッとした。
「亜衣乃、ちゃん?」
「……まこおじさんが亜衣乃とこんなふうに喋ってくれるようになったのはね、多分アキちゃんと会ってからだよ」
「え?」
「それまでもまこおじさんは優しかったけど……でも……ずっと壁みたいなものがあったの。亜衣乃をどんなふうに扱っていいのかわからない、みたいな……なんだかいつも困った顔してた」
それは、榛名も以前霧咲から聞いたことがあった。
亜衣乃をどんなふうに扱っていいのか分からない、と。
でも二人の様子を見ているととてもそんなふうには見えなかったので、あまり真剣に気にしたことはなかった。
「その理由を亜衣乃はずっと知らなかった。知ったのは、お正月にママと2人でアキちゃんに会いに来たときだよ。まあ、当然だなーって思っちゃった。まこおじさんをわざとパパって呼んでたことがあったから、それでかなってずっと思ってたんだけどね」
「えっと……」
「あ、ごめん。アキちゃんには面白い話じゃないよね」
亜衣乃は、自分が霧咲の元恋人の娘──しかも自分の母をひどい形で裏切った──ということをいまだに気にしているのだった。
気にしない、はずがない。
「亜衣乃ちゃん……」
榛名は、亜衣乃になんて声をかけていいのか分からなかった。
子どもなんだからそんなの気にしなくていいんだよ、というのはあまりにも軽々しく、無責任だと思った。
あの一件で、亜衣乃はギリギリのところで繋がっていた実の母親に捨てられたのだから。
「だからね、アキちゃんありがとう」
「……え?」
いきなり突拍子もなく礼を言われて、榛名は面食らった。
「まこおじさんを好きになってくれて。アキちゃんがまこおじさんの恋人になってくれたから、まだ予定だけど、亜衣乃のママにもなってもらえるんだし。亜衣乃ね、ママと一緒にお菓子作りするのって夢だったんだぁ」
「……っ」
榛名は今度こそ、言葉に詰まった。
「まこおじさんも前よりすごく明るくなって、もう亜衣乃に対して変な壁も作らなくなったしね。ふつつかな伯父だけど、これからもまこおじさんをよろしくね、アキちゃん。ぜーっったいに浮気はしないから。亜衣乃が保障するよ!」
「こ、こちらこそ……ぅうっ……」
「あははっ、アキちゃん泣かないでよ~」
いい大人なのに、こどもの前でボロボロ泣くなんて、なんてみっともないのだろう。
情けないのは分かっているが、次から次へと溢れ出る涙は自分では止められないのだった。
(ありがとうなんて、こっちが言いたいのに)
泣いている榛名を見て、亜衣乃はけらけらと笑っている。
本当に強い子だな、と榛名は思った。
「っ亜衣乃ちゃんも、無理しなくていいんだからね!? 泣きたいときは泣いていいし、つらいことがあったら俺でも誠人さんでもいいからちゃんと話してね! 絶対だよ……」
「うん、わかった。……アキちゃん、今日は本当にありがとう。おやすみなさい」
「うん、おやすみ……」
榛名と亜衣乃は、布団の中で手を繋いだまま深い眠りに落ちていった。
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