運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

文字の大きさ
276 / 322

 榛名はスポンサーの気持ちでもいたのだが、亜衣乃がどうしても自分のお小遣いで買いたいというので、ラッピングは百均で揃えることになった。
   百均とはいえ、品揃えの豊富さに榛名は驚いた。
 一人だったら普段は絶対に立ち寄らないコーナーなので──。
 その次は榛名宅の近所にあるスーパーに行き、必要な材料を購入した。チョコレートケーキの作り方は榛名が調べており、もっとも簡単だと思うレシピにした。

「炊飯器でチョコレートケーキが作れるの?」
「うん。実は実験というか、午前中に試作してみたんだけど、簡単だしなかなか美味しかったよ。まだ残ってるから食べてみる?」
「食べるー!」

 そのケーキは亜衣乃にも好評で、作り方も簡単だったので榛名は隣で教えながら、ほとんど亜衣乃が一人で作った。
   湯せんの段階で、亜衣乃がチョコレートの入った容器に直接お湯を注ごうとしたときは慌てて止めに入ったが。
 作りながら、前に霧咲とホットケーキを作ったときの話を聞いて榛名は何度も笑った。
 ケーキを作るというのに、いきなり胡麻油をチョイスするところからつっこみ所が満載だったが、二人の料理の出来なさにも驚いた。

「まこおじさんは亜衣乃が割った卵の殻を取り除くのがいちばん疲れたって言ってた。でも亜衣乃は、まこおじさんがお箸でケーキをひっくり返そうとしてるときがいちばんドキドキしたよ。最初二つ折りになっちゃったし……」
「あはは……誠人さん、オペは凄く上手なんだけどなぁ」
「ふうん、きっと才能が全部そっちに振り切っちゃったんだね」
「……」

 亜衣乃の言い分に感心しつつ、しかしどうにか霧咲が伯父の威厳を失わないようにしてあげたかったのだが、榛名には難しかった。
 そして無事にチョコレートケーキは完成し、冷ましてラッピングまで終了した。

「じゃあ明日、仕事が終わったら一旦取りに帰って、それからそっちに向かうね」
「うん! 待ってるね。何時ごろになりそう?」
「仕事は17時までだから、18時ごろには着くと思うよ」
「えっと、……午後6時ごろってこと?」
「あ、そうそう! ごめん、分かりにくかったよね」

 医療職は普段から24時間表記で時刻を数えるため、つい癖でそう言ってしまう。
   亜衣乃は普段から少し大人びた話し方をするので、まだ小学4年生だということをつい忘れてしまっていた。

「ううん、まこおじさんもよく言うし、たまにわかんなくなるときあるけど……亜衣乃、頑張って覚えるからアキちゃんもそのまま使ってていいよ」
「亜衣乃ちゃん……」

 榛名は(いい子だなぁ)と感激して、亜衣乃の頭をヨシヨシと撫でた。
 それから二人は晩御飯を食べて、別々にお風呂に入った。
 亜衣乃はお泊まりセットは用意していたが、寝具は一組しかないので榛名のベッドで一緒に寝ることにした。
 ベッドに入った途端、亜衣乃はくすくすと笑いだした。

「なんだかまこおじさんに悪いなあ。アキちゃんと一緒に寝ただなんて、バレたら怒られちゃいそう~」
「そうかな?」
「そうだよ! だってまこおじさん、アキちゃんのことでときどき亜衣乃に張り合ってくるんだよ? アキちゃんのこと、ほんとに大好きなんだから」
「誠人さんは、亜衣乃ちゃんのことだって大好きだよ」

 榛名がそう言うと、亜衣乃は少し苦笑した。
 それがあまりにも子どもらしからぬ笑い方だったので、榛名は少しドキッとした。

「亜衣乃、ちゃん?」
「……まこおじさんが亜衣乃とこんなふうに喋ってくれるようになったのはね、多分アキちゃんと会ってからだよ」
「え?」
「それまでもまこおじさんは優しかったけど……でも……ずっと壁みたいなものがあったの。亜衣乃をどんなふうに扱っていいのかわからない、みたいな……なんだかいつも困った顔してた」

 それは、榛名も以前霧咲から聞いたことがあった。
 亜衣乃をどんなふうに扱っていいのか分からない、と。
 でも二人の様子を見ているととてもそんなふうには見えなかったので、あまり真剣に気にしたことはなかった。

「その理由を亜衣乃はずっと知らなかった。知ったのは、お正月にママと2人でアキちゃんに会いに来たときだよ。まあ、当然だなーって思っちゃった。まこおじさんをわざとパパって呼んでたことがあったから、それでかなってずっと思ってたんだけどね」
「えっと……」
「あ、ごめん。アキちゃんには面白い話じゃないよね」

 亜衣乃は、自分が霧咲の元恋人の娘──しかも自分の母をひどい形で裏切った──ということをいまだに気にしているのだった。
 気にしない、はずがない。

「亜衣乃ちゃん……」

 榛名は、亜衣乃になんて声をかけていいのか分からなかった。
 子どもなんだからそんなの気にしなくていいんだよ、というのはあまりにも軽々しく、無責任だと思った。
   あの一件で、亜衣乃はギリギリのところで繋がっていた実の母親に捨てられたのだから。

「だからね、アキちゃんありがとう」
「……え?」

   いきなり突拍子もなく礼を言われて、榛名は面食らった。

「まこおじさんを好きになってくれて。アキちゃんがまこおじさんの恋人になってくれたから、まだ予定だけど、亜衣乃のママにもなってもらえるんだし。亜衣乃ね、ママと一緒にお菓子作りするのって夢だったんだぁ」
「……っ」

 榛名は今度こそ、言葉に詰まった。

「まこおじさんも前よりすごく明るくなって、もう亜衣乃に対して変な壁も作らなくなったしね。ふつつかな伯父だけど、これからもまこおじさんをよろしくね、アキちゃん。ぜーっったいに浮気はしないから。亜衣乃が保障するよ!」
「こ、こちらこそ……ぅうっ……」
「あははっ、アキちゃん泣かないでよ~」

 いい大人なのに、こどもの前でボロボロ泣くなんて、なんてみっともないのだろう。
 情けないのは分かっているが、次から次へと溢れ出る涙は自分では止められないのだった。

(ありがとうなんて、こっちが言いたいのに)

 泣いている榛名を見て、亜衣乃はけらけらと笑っている。
 本当に強い子だな、と榛名は思った。

「っ亜衣乃ちゃんも、無理しなくていいんだからね!?   泣きたいときは泣いていいし、つらいことがあったら俺でも誠人さんでもいいからちゃんと話してね!   絶対だよ……」
「うん、わかった。……アキちゃん、今日は本当にありがとう。おやすみなさい」
「うん、おやすみ……」

 榛名と亜衣乃は、布団の中で手を繋いだまま深い眠りに落ちていった。
感想 7

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。