運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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148 榛名、再度カミングアウトする


 桜を先頭にして、榛名と霧咲と亜衣乃は並んで歩いていたのだが、榛名がピタリと足を止めてしまったので霧咲と亜衣乃は榛名から二歩ほど進んだ状態で気付き、振り返った。

「アキちゃん?」
「暁哉?」

 二人が榛名を呼ぶ。
 しかし榛名の視線は母親に注がれたままで、次第に何かに耐えるように、ぐっと下唇を噛みしめていた。

(足が、動かない……)

 ひどく緊張しているけれど、親に会ったら明るく話すつもりだった。

 この人が俺の恋人の霧咲誠人さんで、そしてこっちが姪の亜衣乃ちゃん。
 二人とも芸能人みたいに綺麗やろ? お姉ちゃんはさっき本当に間違えたとよ、ウケるやろ。
 でも誠人さんは大学病院の医者でね、俺んとこの透析室に毎週助っ人してくれてるとよ。
 あれ? 何驚いちょっと?
 俺、前に男の人が好きって言ったやろ。あれ嘘じゃなかったとよ。これで信じた?
 俺はこの二人が大好きで、もう家族も同然と思ってるからお母さんたちにもきちんと紹介したくてさ。
 お姉ちゃんは今どき男同士なんて珍しくないって言ってくれたけど、無理に理解してくれとは言わない。
 でも俺、誠人さんとは結婚するつもりやから。ううん、もう結婚したつもりでいるから。
 お母さんたちが認めてくれんでも、それは変わらないから。

 ――と、こちらの言いたいことを一方的に伝えて、あとは両親の反応を見るだけ。
 榛名はそういう心積もりだった。
 けれどここに来て実際に両親の姿を目にすると、今まで母親に言われたことがありありと思い出されてしまったのだ。

『あんたは榛名家の長男やとに、いつまで東京にいるつもりやと?』
『もう28やのに、いつ結婚すると?』 
『早く孫の顔を見せんね!』

 榛名は母親のことを口喧しいとは思っているが、決して嫌いではない。
 末っ子長男でわりと甘やかされて育った自覚があるし、テストでいい点を取ったり運動会でいいところを見せれば大袈裟な程喜んでくれるので、それは嬉しかった。
 反抗期もほんの少し態度を素っ気なくしていただけで、派手に反抗した記憶はない。
 看護師という職にも就いて、たまに仕送りなんかもして、それなりにいい息子なんじゃないかな、と自分でも思っていた。
 けどそれも、昨日までの話だ。
 母親は、まさか息子が男の婚約者を連れて来るとは思っていなかっただろう。 
 そろそろ地元に戻ってきて、可愛いお嫁さんを貰って、可愛い孫を抱く自分の姿を想像していただろう。
 一応カミングアウトはしたものの、単にお見合いをエスケープしたかった息子の下らない嘘だと思っていただろう。
 榛名は男性を、霧咲を好きになったことが恥ずかしいなんて思わない。
 だけど、最終的に母の理想の息子にはなれなかったことは心底申し訳ないと思った。

「暁哉……」

 いつの間にか、母親の方が動けない榛名に歩み寄ってきていた。
 静かに名前を呼ばれて、触発されるように榛名は言った。

「――ごめんなさい」
「え?」
「女の人好きになれんで、ごめんなさ……っ」

 言いながら、涙が溢れた。
 せめて嗚咽を漏らさないようにと口を抑えたが、駄目だった。

「暁哉」

 霧咲が後ろからそっと榛名の肩を抱き、榛名は反射的に霧咲の胸に縋った。

「誠人さん……っ」

 両親と姉夫婦がじっと見ているけど、そんなのは些細な事だ。
 自分はこの人を愛している。
 どうしようもないくらい、愛している。
 それはこれから先何があっても決して覆りはしない、純然たる事実だ。
 霧咲は榛名の代わりに口を開こうとしたが、それよりも先に。

「暁哉、なんであんたが謝ると? 謝らんといけんのはお母さんの方やろ? ……あんたのことよく知らんかったのに、今まで勝手なことばっかり言って、ほんとにごめんねぇ……」
「え……?」

 榛名は霧咲の胸にうずめていた顔をあげて、母の方を見た。

「あんたはあんなタチの悪い嘘を付く子と違うって、お母さんあんたが出てったあとに思い返したとよ。ちょっと半信半疑やったけど。でも桜にね……そのぉ……」
「……?」

 母は少し言葉を汚したが、榛名も霧咲もじっとその先を待った。

「もう、お母さん!」

 桜が少し怒った口調で、母に続きを促した。

「うう。桜にね、怒られたとよ……」
「へ?」

 母はまるで叱られた子どものような目で桜を見たあと、勢いよく榛名に頭を下げた。

「暁哉、今までしつこく結婚しろとか孫の顔見せろとか言って本当にごめんねえ!」
「え!?」
「お母さんてっげ反省しちょるから、その、許して!!」
「いや、俺別に怒っちょらんけど!?」

 毎回電話が来るたびにウンザリはしていたが、別にそのことで腹を立てたことは無い。
 榛名は訳が分からず姉の方を見ると、何故か勢いよく親指をグッと立てられた。

「ええ……」
「はい! とりあえずかーなり目立っちょるからさっさとレストランに移動しましょー、ほら行った行った」
「はーい! 行こ、アキちゃん」
「う、うん……」

 桜が母の背を押しながらずんずんと歩いていき、そのあとを亜衣乃が榛名の手を握って早歩きで着いていく。
 榛名たちの後ろでは、霧咲と父と義兄がそれぞれ軽く自己紹介をしながらゆっくりと着いてきていた。

(よく分かんないけど、とりあえず認められたってこと……なのかな……?)

「アキちゃん、ママと仲直りできて良かったね!」

 亜衣乃が榛名を見上げて、ニコニコしながらそう言った。
 別に、母と仲違いをしていたわけではないけれど……

「……うん、良かった」

 榛名は亜衣乃の無邪気な笑顔に安堵し、一方的に繋がれていた手を軽く握り返した。
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