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150 桜の報告
「あ、アキちゃん!?」
いきなり榛名に抱きしめられたので、亜衣乃は驚いてしまった。
楽しい話題でないことは自分でも分かっていたので、場の雰囲気が暗くならないように明るく話したつもりだったのに……。
榛名だけでなく、榛名の両親や姉も少し涙ぐんでいるようだった。
「俺も……俺もね、亜衣乃ちゃんと会えて本当に嬉しいよ。ありがとう……」
「えっ……と、亜衣乃、別にアキちゃん達を泣かすつもりじゃなかったんだけどなあ……」
「大人は涙脆いんだよ!」
「そうなんだ……じゃあこれからは気を付けるね?」
「べ、別に気を付けなくてもいいけど」
霧咲がそっと榛名にハンカチを差し出して、榛名はそれを受け取ると亜衣乃も腕の中から解放した。
「……あたしは、詳しい事情はよくわからないし、えらそうなことも言えんけど……」
桜が言い、一同は桜に目を向けた。
「亜衣乃ちゃんのママは、亜衣乃ちゃんがお腹にいるって分かったときは凄く嬉しかったと思うなあ。本当に望まれてなかったら、きっと妊娠が分かった時点で、その……」
桜は言葉を濁したが、なんと言いたかったのかは全員が分かった。
場がシインと静まり返る。
「うん、分かってる。ありがとう桜お姉ちゃん。だから亜衣乃、ママには感謝してるの」
「亜衣乃ちゃん……」
すると黙っていた霧咲が口を開いた。
「あの、この子は大人同士の醜いいざこざに巻き込まれてしまっただけなんです! この子が母親と暮らせなくなったのも、元はと言えば伯父である私が原因で……」
「誠人さんは何も悪くないですよ!!」
「まこおじさんのせいじゃないよ!!」
霧咲の言葉は榛名と亜衣乃によって遮られてしまった。
「えーと、つまりどういうことなの?」
桜が尋ね、榛名が霧咲に言った。
「誠人さん、この際だからもう全部この場で話してしまいましょう。家族になるんだから、秘密にしていてもしょうがないですよ!」
「いや、もちろん君の家に行って、亜衣乃が寝たあとにでも話すつもりだったんだけどね……」
「なにそれ、亜衣乃のこと仲間外れにしないでよぉ!」
霧咲は榛名と亜衣乃に同時に攻めたてられ、眉根を寄せて二人をなだめつつ、榛名家に亜衣乃を養子に迎えた経緯を話すこととした。
「分かった分かった、今から話すよ。……あの、亜衣乃の父親は私の昔の恋人なんです。お恥ずかしい話ですが、私は彼が妹ともそういう関係だったのを妹が妊娠するまで知らなくて……。そのことをきっかけに彼とは別れましたが、私が彼と付き合っていたことも同時に妹に知られてしまって。そして彼は、亜衣乃が生まれる前に私達の前から姿を消しました。妹も、亜衣乃を育てられないと……。私は同性愛者であることを理由に両親から勘当されたので、この子は年老いた両親が育てました。この子が五歳になるまで、ですが。二人とも立て続けに心臓発作で亡くなりましたので……」
霧咲の話を、榛名達も榛名の両親達も黙って聞いていた。
霧咲は話を続ける。
「それから亜衣乃は妹と二人で暮らしていましたが、やはり上手くはいっていなかったというか……ギリギリのところで保たれていた親子関係を、私が壊した形になりました。ですので私は、この子が成人するまで責任を持って育てるつもりです。暁哉くんにも……その、私達の事情を全て話したうえで、一緒にいてほしいとお願いしました。彼は快くそれを受け入れてくれた上に、亜衣乃のことも妹のように可愛がってくれて……本当に、感謝してもしきれません。なので私は暁哉くんを育ててくださったご両親にも、ずっとお礼が言いたかったんです。ありがとうございます」
霧咲が話し終わったが、桜や榛名の両親が反応をする前に――
「あの、ちょっといいですか。異議ありです!」
「亜衣乃も!」
榛名と亜衣乃が二人で勢いよく右手を挙げて、反応した。
「な、なんだい?」
「亜衣乃ちゃんと蓉子さんの親子関係をブチ壊したというか、とどめを刺したのは誠人さんじゃなくて俺ですから! 人の責任までひっ被らないでください! それと一緒にいたいって言ったのは俺もですから!」
「亜衣乃、アキちゃんの妹じゃなくて娘だから! アキちゃんは亜衣乃のママだからー!! それにママと亜衣乃の関係はとぉーっくの昔に破綻してたんだから、二人とも自分のせいにしないでくれる!? これはあくまで亜衣乃とママの問題なの!!」
亜衣乃は途中からは榛名に対しても異議を唱え、その小学生とは思えない迫力に榛名と霧咲は同時に「は、はい……」と言った。
思わず「すいませんでした」と続けそうになったが、それは大人としてあまりにも格好悪いので何とか耐えた。
「なんか、三人の力関係がよく分かった気がするわぁ……」
「え!?」
桜がぽつりと言い、とにかく、とまとめに入った。
「霧咲さんも亜衣乃ちゃんも色々苦労したようだけど、今は二人とも幸せやとよね?」
「「そうです!」」
「あー君も、二人と会えて幸せやとよね?」
「もちろん!」
「じゃあみんな幸せでめでたしめでたし、やね! さあさ、お食事再開しよー!」
榛名は、いつも家族の潤滑油的な役割をしてくれる姉がこの場に居てくれて本当に本当に良かった――と心から思った。
両親は情報過多でまだぼんやりしているし、義兄は立場的に下手に口を挟んだりしない。
「あ、めでたいついでに報告しとくわ。実はあたし、妊娠四か月目でーす! 九月ごろに産まれる予定だから、みんなよろしく~!!」
「……は?」
「え?」
「あかちゃん!?」
桜は夫以外まだ誰にも報告していなかったようで、ぼんやりしていた両親が一気に正気に戻り、ええええええ―――!!?? と今日一番の大声を上げたのだった。
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