運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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151 榛名と亜衣乃と両親の関係


 桜の妊娠報告のおかげで、正式にカミングアウト兼霧咲を両親に紹介するという、榛名にとっては胃が痛くなるようなイベントは急におめでたい雰囲気に変わった。
 両親は何を言っても笑って答えてくれる霧咲を普通に気に入ったようだし――特に糖尿病の父は、医師の霧咲に普段の食生活の愚痴を言って、でも否定されずに受け入れて貰えたことでだいぶ気に入ったようだ。
 亜衣乃に対してはもう小学生ということもあり、二人とも少しだけ接し方に戸惑いはあるものの、凄く良い子だということは伝わっているようだ。
   亜衣乃の方は中高年とのコミュニケーションはお手の物だし、慣れるのも時間の問題だろうな、と榛名は思った。
 以前から孫を欲しがっていた母は、桜のお腹を気にしながらしきりに質問している。

「桜、お腹の子の性別はどっちかもう分かっちょると?」
「そんなの四ヶ月じゃまだ分からんよ、秘密にするから楽しみにしちょって」
「ええ!? 性別分かっとかんと、ピンクかブルーの洋服どっち買えばいいか分からんやろ!?」
「黄色でいいやろ、黄色で。それにイマドキ女の子はピンク、男の子はブルーって考え方自体古いからね!」
「え~!」

 そして榛名は、少し気になっていたことを桜に訊いた。

「お姉ちゃん、つわりは大丈夫やと? なんかよく見たらいつもより顔色が悪いような……」
「んー? 吐き気とはそんなに……でも何かしら食べていたいって感じ。吐きづわりじゃなくて良かったわぁ」
「そっか。あ、これ東京土産ね。チョコレートだけど」
「わあ、ありがとー! 今度は忘れんかったね、エライあー君!」
「そりゃあ、あんだけ念を押されたらね……」

 すると亜衣乃もそわそわして、桜に話しかけた。

「あのぅ、桜お姉ちゃん」
「なあに? 亜衣乃ちゃん」
「赤ちゃんが生まれたら、もう一回宮崎に来てもいい……? 亜衣乃、間近で赤ちゃん見たことがないから、一度でいいから見てみたいの」

 もう二度と宮崎には来れないと思っているような亜衣乃の言葉に、大人たちは一同目を丸くした。
 そして、桜がハッとしてテーブルに少し身を乗り出し、真剣な顔で亜衣乃に言い聞かせるように言った。

「亜衣乃ちゃん、これからは何回だって宮崎に来ていいとよ? あたしたち、これから親戚になるっちゃから! 会うのは別にこれっきりじゃないとよ!?」
「え……そうなの? 亜衣乃、親戚はまこおじさんしかいないからそういうのよく分かんなくて……ごめんなさい」

 亜衣乃にはもう祖父母もいないし、当然従兄弟も存在しない。その上母親には縁を切られて、実の父親は行方知れずだ。
 榛名は今一度、亜衣乃には本当に霧咲しか頼りにできる親族がいないという切ない事実を突きつけられて、また涙が溢れそうになった。
 そう言えば霧咲が以前榛名とのデートを時々断っていた理由は、大抵参観日など亜衣乃の学校行事だったのだ。

「謝ることなんかない! ゴールデンウィークもお盆も夏休みもお正月も、それ以外だっていつでも来ていいとよ! ……ていうか、あー君は帰って来なさすぎ! もっと頻繁にこっち帰ってこんね! 住めとは言わんから!」
「は、はい!」

 いきなり自分に矛先が向かったので、榛名の涙は引っ込んだ。
 何故両親ではなく、姉の桜がそう言うのかは分からないが。
 すると、それには霧咲が答えた。

「私達は医療関係者なので、世間のお休みに合わせて帰省するのは結構厳しいんです……すみません、オフシーズンでもいいですか?」
「それは全然構いませんよぉ! とにかく帰ってきて顔を見せてくれたらお母さんたちも安心するっちゃから……あ、でも亜衣乃ちゃんは夏休みとか一人でこっちに泊まり来てもいいよ、またあたしが空港まで迎えに行くし」
「うん、そのときはうちに泊まればいいしねえ~」

 桜に続けて、榛名の母が言った。

「えっ、亜衣乃がアキちゃんちに泊まってもいいんですか?」
「もちろん。暁哉が亜衣乃ちゃんの親になるなら、私達は亜衣乃ちゃんのおじーちゃんとおばーちゃんになるっちゃかい。ねぇ、お父さん」
「うん、お年玉もあげんとねぇ。それと何か欲しい物があったら遠慮なく言いなさい。えっと……亜衣乃ちゃん」

 父が少々照れた顔をして、亜衣乃の名前を呼んだ。
 亜衣乃は霧咲はともかく、まさかオマケで着いてきた自分までもがこんなふうに榛名の両親に歓迎されるとは全く思っていなかったらしく、暫くは無言で驚いていたが――次第に、その大きな目に大粒の涙が浮かんできた。

「あ……ありがとう、ございま……っ、う、うえぇぇん」

 今まで気丈に振舞っていたものがぷっつりと切れたみたいに、亜衣乃は隣の榛名に抱きついて泣きだした。
 榛名も亜衣乃をぎゅっと抱きしめ返して、自分もつられて涙を浮かべながら、よしよしと亜衣乃の背中をさすってなだめた。
 霧咲も、榛名の両親の亜衣乃の接し方に感激したようで、目元がほんのり赤くなっている。

「ありがとうございます、私がこんな風だから、亜衣乃には普通の親戚付き合いというものをさせてあげられなくて……なのにこんな……」

   霧咲も途中で言葉を詰まらせた。
 飛行機に乗る前はある種諦めているような、開き直った態度だったのに、やはり自分がどうしても亜衣乃にしてやれないことに関しては、霧咲なりに悩んでいたのかもしれない。

「お母さん、お父さん、ありがとう……ほんとにありがとう」

 榛名も両親にありがとうと言う他は、何も言葉にならなかった。
 そして、また先程と同じように桜が場を引き締めて――そういったことを繰り返しながら、食事会は無事終了したのだった。
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