運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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154 榛名の部屋で


 写真談義で盛り上がったあと、姉夫婦は夫の高志が明日朝早くから仕事なので晩御飯はうちで食べる、と言って帰った。
 桜とはまた明日に会う予定なので、姉弟はあっさりと別れの挨拶を済ませた。
 夕食まではまだ時間があるので、とりあえず榛名は霧咲たちに息抜きをさせようと思い、二階にある自分の部屋へ案内することにした。

「別に面白いものは無いですからね、探さないでくださいよ。亜衣乃ちゃんもね!」
「分かってるって」
「ね~」

 特に霧咲に釘を刺しながら自室に入ると、以前は物置代わりにされていた部屋はすっきりと整理整頓されていた。今回霧咲たちが来ることを考えて、母が諸々片付けてくれたらしい。

「なかなか綺麗にしてあるじゃないか。お母さんが片付けてくれたのかな?」
「……だと、思います」

 前回部屋の隅に無造作に置かれていたいくつかの段ボール箱が無くなり、学生の頃――この家に住んでいたころの部屋そのままになっていた。
 専門学校時代の看護の教科書が納められた学習机と、幼い頃から同じ、色褪せた青い無地のカーテンがなんだかひどく懐かしく感じる。
 前回帰ってきたときは、そんな感傷に浸る余裕はなかったのに――。
 
「わ~亜衣乃、まこおじさん以外の男の人の部屋って初めて入るー! なんか飾ってる小物とか、やっぱり女の子のものとは全然違うね!」

 亜衣乃は本棚に飾ってあるミニカーや電車などの小物を見てはしゃいだあと、同じ棚に陳列してある写真立ての中身に反応した。

「あ、ナース姿のアキちゃんだ、可愛い! でもなんか周り女の子ばっかりだね? それにみんなローソク持ってるのはなんでなの?」
「それは戴帽式のときの写真だよ、看護師を目指すための儀式というかなんというか。高校一年の頃かなぁ……男子は俺を入れてクラスで3人くらいしかいなかったから、必然的に一緒に写るのも女の子ばかりになるんだよね」

 とはいえ、普通は男子どうしで固まるのかもしれないが、榛名は男子よりも女子の方が気が合ったためそうなった。

「ふうーん……。あ、亜衣乃ちょっとおトイレ行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」

 亜衣乃が部屋を出ると霧咲と二人きりになったが、その霧咲がさっきから部屋を見渡しながらずっと黙っているので、榛名は少し不信に思いながらも声をかけた。

「あの、なにか変なものでも見つけました……?」
「きみ、恐竜が好きだったの?」
「えっ?」

 霧咲の意外な言葉に榛名は一瞬キョトンとした。

「恐竜の図鑑や本が何冊もあるし、フィギュアもいくつか飾ってるだろう」
「あ、ええまあ……小学生の頃はわりかし好きでしたね。恐竜とか車とか電車とか……でも、たいていの男の子ってそうじゃないですか?」

 しかしわざわざそんなことを聞いてくるのだから、霧咲は恐竜にも車にも電車にも興味を持たない子供だったのかもしれない、と榛名は思った。

「今のきみからは想像つかないね。東京のきみのマンションはすごくシンプルだからさ」
「そりゃあもう大人ですから……シンプルなのは誠人さんも同じじゃないですか」
「まあ、そうなんだけどね」

 誠人さんは小学生の頃何が好きだったんですか? 榛名はそう聞こうとしたが、霧咲に遮られた。

「うまく言えないんだけど、俺は今感動してるんだ。この部屋で君は勉強していたんだなとか、思春期には悩みを抱えて籠ったりしたのかなって思って」
「ふふ、なんだか恥ずかしいですね」

 榛名もうまく言えないのだが、なんだか霧咲にそっと心の内側を触れられたような――そんな気がした。

「誰かの部屋に入って、こんなことを思うのは初めてだよ」
「誠人さん……」

 まるで磁石に引き寄せられるように、榛名はふらりと机のそばに立っている霧咲へと近づいた。
 二人の距離が縮まり、無言で見つめ合い、唇を重ねようとしたその瞬間――

「おーいアキちゃーん、まこおじさーん!」

 何故か窓の外から亜衣乃が二人を呼ぶ声が聞こえた。
 弾かれたように慌てて霧咲から離れた榛名が窓を開けて顔を出すと、何故か亜衣乃が父とふたりで庭に出ていた。

「亜衣乃、おじーちゃんと一緒にお庭で遊んでるねー!」
「あっうん、わかった……!」

 父の趣味は庭いじりと家庭菜園のため、榛名家の庭はそんなに広くはないが少々凝った造りになっている。亜衣乃が庭に興味を示してくれて、父はニコニコと嬉しそうにしていた。
 窓を閉めて、榛名がふうと息を吐くと霧咲があきれたように言った。

「相変わらず中高年相手にだけは類稀なるコミュニケーション能力を発揮するな、亜衣乃は」
「俺達と同じような仕事に向いてるのかもしれませんね……ていうか俺、父のあんな嬉しそうな顔初めて見たんですけど」
「ははっ、それはなによりだな」
「まったく、ンッ……」

 まだカーテンが開けっ放しだというのに、霧咲は不意打ちで榛名に先ほどし損ねたキスをした。
 榛名は少し驚いたものの、すぐに目を閉じて従順に霧咲のキスを受け入れ、そっと背中に手を回した。
 そのまま数秒間、二人は唇を重ねるだけの比較的あっさりとした――しかし心のこもったキスに没頭した。
 唇が離れた瞬間、榛名が頬を赤らめてうっとりとした表情で言った。

「誠人さん……俺もね、恋人を部屋に招き入れたのは貴方が初めてですよ」

 霧咲は目を丸くしたあと、ふっと嬉しそうな――今にもとろけそうな甘い表情を見せ、榛名をきつく抱きしめた。
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