304 / 322
6
次の日、宮崎ブーゲンビリア空港にて。
「お姉ちゃん、身体を大事にしてね。次は亜衣乃ちゃんが夏休みに入ったら来るよ。そのときはまだ産まれてないやろうけど、産まれたらまたすぐに赤ちゃんの顔を見に帰ってくるから」
榛名は、両親と一緒に見送りに来てくれた桜に言った。旦那の高志は今日も仕事で、『今度は俺も一緒に遊んでね』という事付けを貰った。
昨日姉は弟を溺愛していると言ったけど、榛名だって姉のことが大好きなのだ。東京に住むと決めたのは自分だけど、こういうときばかりは傍にいて、頼りにしてもらいたいと思う。――車の運転もできない、頼りない弟だけれど。
「まあまあ、気にせんでまたいつでも帰ってきないよ、あー君ひとりでも、三人でも歓迎するから」
「うん。お姉ちゃんもまた東京にいつでも来ていいからね。なんやったけ、好きなバンドのライブとか」
「そりゃ行きたいけどさぁ、あたしはもう気軽には行けんとよ!」
「あ、そっか、残念やね……」
桜は東京にライブなどで用事があるときは、いつもホテル代わりに榛名のマンションに泊まっていた。夜は姉弟で外で呑みに行ったりして……そういうことも今後はもうないのだと思うと、少しさびしくなる。
「桜さん、本当に色々とありがとうございました。身体を大事にして、元気な赤ちゃんを産んでくださいね」
「ありがとうございます、霧咲さん。これからも弟をよろしくお願いしますね、何かあったらいつでも連絡してください! あ、ノロケでも全然いいですからね!」
「はい、是非聞いてください」
「ちょっ! 二人いつの間に連絡先交換したと!?」
焦る榛名を見て、霧咲と桜は同時にニヤニヤと笑った。
亜衣乃はさっきまで土産屋でみやざき犬グッズを霧咲に沢山買ってもらってはしゃいでいたが、なんだか今は泣きそうな顔をしている。そして、無言で桜に抱きついた。
「桜お姉ちゃん、優しくしてくれてありがとぉ……」
「え!? そんな、亜衣乃ちゃんたらそんなの当たり前よぉ、またいつでも遊びに来ていいかいね? 一人でも泊まりにきてね」
「うん……っ」
桜に一番懐いていた亜衣乃は、別れが淋しくて泣いているようだった。亜衣乃につられて桜も、榛名もぐずっと貰い泣きしてしまう。
榛名たちは、次は両親に向き合った。
「お父さんとお母さんもありがとう、短い間やったけどお世話になりました。……お父さんは糖尿病が悪化して透析にならんように、食生活気を付けてよね。お母さんは食事管理が大変やろうけど、わからんかったら相談に乗るから、いつでも電話して」
「あらま、暁哉からそんな言葉が出るとはねぇ……」
「俺だって毎回電話が結婚の催促やなかったら、別に邪険にはせんかったとよ! 普通の会話して、普通の」
「その節はごめんなさい~」
霧咲も榛名の隣で、両親に深くお辞儀をした。
「私と亜衣乃も大変お世話になりまして、本当にありがとうございました。暁哉君とはまだ籍も入れていないのに、息子として扱ってもらえてすごく嬉しかったです」
「そんな、霧咲さん。……末っ子長男で甘やかして育てた息子ですけどね、どうかよろしくお願いします。その、色々大変かと思いますけど……」
「はい、一生大事にすると誓ったので」
「……!」
家族の前でそんなはっきりと宣言されて恥ずかしい……恥ずかしいのだけど、やはり嬉しかった。榛名は照れ隠しにきゅっと下唇を噛んだ。
父は照れているのか母に同意して頷くばかりで特に何も言わず、ただ霧咲に握手を求め、ぎゅっと強く握っていた。(その姿がツボに入ったのか、霧咲は少し笑いを堪えているようだった)
そして、泣きやんだ亜衣乃が元気よく言った。
「おじーちゃんとおばーちゃんもいつでも東京に遊びにきてね! 今度は亜衣乃が東京を案内してあげるから!」
「ありがとう亜衣乃ちゃん、足腰が元気なうちに絶対に行くからね。スカイツリーに行ってみたいとよね」
「そんなのお安い御用だよ! ね、まこおじさん!」
「お前が案内するんじゃないのか? ……まあいいか。亜衣乃の言う通り、いつでも遊びに来てくださいね。それか今度一緒に旅行でも行きましょう」
「旅行! いいですね、温泉旅行どうですか?」
「ええ~!? また温泉~!?」
旅行話には両親よりも榛名が先に食いつき、また温泉に入りたいという榛名に亜衣乃が呆れた声を出した。
「さ、そろそろ時間だ」
「はい。――じゃあお父さん、お母さん、お姉ちゃん、またね」
見送りは保安検査場の入り口までなので、中に入る直前まで、榛名は家族に手を振った。
生きているうちにあと何回会えるか分からない、自分たちのことを受け入れてくれた両親にこれからは積極的に親孝行をしよう、と胸に誓いながら。
番外編・宮崎観光編【完】
次からは、二宮×堂島の番外編です。
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕