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「ちなみに、妹の元旦那は俺の元カレなんだ」
「えぇえぇ!?」
二宮が派手に驚き、手に持っていた焼酎のグラスが揺れた。中身が少しテーブルに零れたが、何事も無かったように布巾で綺麗に拭きとる。
「知らずに浮気されてたんだけどね。妹は俺と彼が元々付き合っていたことを知らなかったんだけど、前から浮気を疑っていたみたいだから調査したら相手は俺だった――というわけさ。まあ、彼が妹とデキ婚した時点で愛想が尽きて別れていたんだけど」
「じゃあ、明確な浮気というわけではない……?」
「妹にとってはね。俺は付き合っているときに浮気されてたよ」
「あ、そうか……」
「それで二人は離婚して、その後に子供が産まれて……でも彼も妹もその子を捨てたから、その子は今俺が引き取って育てている。暁哉にもよく懐いてて、もう実の伯父の俺よりもずっと仲がいいんだ、妬けるくらい」
「そう、だったんですか……」
二宮はなんと言っていいか分からなかった。たしかにその話を聞いたら、自分と付き合おうとする前にきっぱりと離婚する、と宣言した山下は潔いのかもしれない。二宮にその気はないが……。
「……ショック、でしたか?」
「そりゃあね、君だって堂島君に突然『先輩の妹と結婚しました! 家族になったからこれからもずっと一緒ですね!』なんてことを能天気に言われたらショックだろう?」
「いやもう、ショックどころではないですね……」
二宮には姉も妹もいないので同じことが起こる可能性は低いが、他に女がいれば同じことだ。考えただけでぞっとするが、その可能性はゼロではない。
今は互いに信じているけれど……。
「……霧咲先生の元彼氏の目的は結局なんだったんですか? ずっと一緒にいたいだけなら、別に妹さんと結婚する必要はないじゃないですか」
「それ、聞いちゃう?」
「あ、言いたくなければいいです、すみません」
二宮の引き際が良すぎるので、霧咲はついつい話してしまう。
「いや言うよ、もう10年も前のことだしね。……俺が何気なくそこらへんにいた子どもを可愛いって言ったから、だって。俺たちの間に子供はできないからね、俺に子どもを作ってあげたかったらしい」
「な……」
「意味が分からないし、最低だろう? そのためだけに妹を利用したんだ」
「それは……ひどい、ですね」
同性同士で子どもができないのは当然だ。しかしそれでも子供がほしいカップルは養子を貰ったり、ペットを飼ったり、何らかの方法はある。それなのに霧咲になんの相談もせずに、そんなことをしたのか……。
霧咲はもう10年前のことだから、と割り切っているように見える。
しかし二宮は、もし自分の身に同じことが起きたら同じように立ち直れるかどうか分からない……と思った。
「でも妹からしたら俺もその男と一緒なんだ。俺たちが共謀してやったと思い込んでいるから、今も同じくらい憎まれているし。産まれた子どもが可愛くないのも分かる。でも亜衣乃――姪は母親が好きだったから、引き離すのはとても可哀想だったな……」
「……………」
「まあそんな俺も亜衣乃も、今は暁哉と会えてとても幸せなんだけどね。だからその山下氏の奥さんと子供も、不幸になるか幸せになるか今は分からないけど、これからもずっと愛されないまま騙されて生きるよりはいいと思う。山下氏にとってもね」
「そう……です、ね。ほんと、そうです……」
二宮は自分たちを捨てた父親を恨んでいた。でもあのまま愛のない結婚生活を両親が続けていたら、状況はもっと悪化していたかもしれない。あの頃は最悪だったが、今は母も笑顔を見せてくれるし、弟も職に就いてそれなりに毎日楽しく過ごしているようだ。
二宮は弟を大学に行かせてあげられなかったことを悔やんでいるが、大学に行った人間が全員、幸せになれるわけでもない。
そして今の自分は言わずもがな――だ。
二宮はグイッとグラスに残った焼酎を飲み干すと、はーっと息を吐いた。
「霧咲先生、ありがとうございます。……俺は自分のせいで物事が悪い方向にしか行かないんじゃないか、と思ってました。でも、先のことなんて誰にも分からないですよね……」
「うん。ごめんね、アドバイスはいらないって言ってたのに余計なことを言って」
「いいえ、霧咲先生のことが知れて嬉しいです」
二宮ははにかみながら今の気持ちを素直に言ったのだが、霧咲は少し驚いた顔をして――。
「二宮さんって、意外と人たらしなところがあるよね……」
「?」
なんにせよ、これからもよろしく。二人はそう目くばせあって、引き続き酒を飲み交わすのだった。
~ここから先は会話のみでお楽しみ下さい~
「ところでずっと気になってたんだけど、聞いていいかな」
「ハイ? なんでしょうか」
「堂島君とさ……どっちがネコなの? 日によって違うとかある?」
「ネコ? ……あ、上か下かってヤツですか? 俺が毎回攻める方ですよ」
「だよね、ごめん。なんとなく分かってはいたけど、逆だったらもし暁哉に今日のことがバレたらなんとなくマズいなと……」
「確かに……」
「いや、どっちにしろマズイのかもしれないけど。でも今日のことも伝える気はないから、そのつもりでお願いします」
「了解です、俺もその方がいいので助かります」
「まあ同僚と飲んでくる、っていう言葉にウソはないからね」
「なるほど、そうですね」
「ちなみに俺のほかに君達の関係を知ってる人はいるの?」
「いませんよ、榛名さんにバレそうになっただけです」
「ああ、機械室でイチャイチャしてたんだっけ……」
「あと今俺の首に噛み痕とキスマークあるんですけど、それを指摘されて湿布を貼ってもらいました」
「え、それ寝違えじゃないんだ!?」
「はい」
「……二宮さん、マジで隠す気ないんだね?」
「相手のことはバレてませんからねえ……」
「……で、どうなの実際? 堂島君は」
「すっげーエロいしすっげー可愛いですよ。昼間のアイツからは想像できないくらい」
「あ、明け透けだね!?」
「え、そういうことが聞きたかったんですよね? 回りくどい言い方してもしょうがないじゃないですか」
「いやそーだけど……面白いなあ、二宮さん。ねえ、ちょっとだけウイスキー飲んでみないかい?」
「俺に掘られたいんですか? 堂島に聞いた話だと、マジ自分でもドン引きするくらいやばいですよ、俺は。もうサイッテー人間ですよ」
「……やっぱりやめとくよ」
「ええ、それがいいと思います。ところで榛名さんはどうなんですか?」
「……元気にしてるよ?」
「知ってますよ。今日も会いましたし、俺の方が日中一緒にいる時間が長いんですから」
「……………すごく、可愛いよ」
「霧咲先生、自分が云いたくないなら人に聞かない方がいいですよ」
「そうだね、肝に銘じておくよ」
「あ、そういえばこないだ榛名さんに……」
「何何?」
「霧咲先生と結婚式挙げないんですかってノリで聞いたんですよ」
「は!?」
「もちろん挙げたいけど、実際は難しいだろうなぁ……ってションボリした顔してたんで、是非叶えてあげたらどうですか?」
「――二宮さん」
「ハイ?」
「ここ、俺が奢るね」
「いや、俺が奢るつもりで誘ったんでいいですよ」
「そう言わずに、ね?」
「……じゃあ、お言葉に甘えて……」
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