運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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 主任と言えば聞こえはいい。
 が、今までと給料はさほど変わらないのに責任ばかり重くなって、面倒な会議などにもしょっちゅう駆り出され、その上師長と部下の看護師の間で板挟みにもなる、非常に厄介な役職だ。
 管理職である看護師長とも立場は違うし、師長の近藤は面倒な業務は榛名に振ってくることが多い。
 若輩者な手前文句も言えず、それでも仕事は淡々とこなすので榛名はいいようにこき使われていた。

 そして師長がいないとき、透析室で起きた不祥事──いわゆるインシデントやアクシデント──の責任を負うのは主任の榛名だ。(最終的には師長だが)
 だからどんな状況でも対応できるようにするべく、榛名は通常の主任業務に加え、師長に頼まれたこともすべて真面目にこなしていた。
 それに、病院はやはりまだまだ女性が多い職場だ。ここで女性陣に嫌われるような発言や振る舞いをしたらどのような目にあうか、榛名は学生時代に身をもって知っていた。
 だから基本的に、師長を含む女性陣には反抗しないのである。

「主任~! 横井さんの穿刺せんし変わってくださぁい!」

 有坂が助けを求めてきた。
 榛名は軽くため息をついて有坂に向き合う。

「有坂さん。どうして自分にはまだ難しい人にわざわざ穿刺にいくの?」
「だって、こういうのって経験じゃないですか~……」
「向上心があるのはいいことだけど。自分の技術も見極めないと何回も刺される患者さんが可哀想だろ? 急いでうまくなろうとしなくてもいいんだから……それにまだ新人なんだし、刺せなくても誰も責めないよ」
「……ハイ」

 しょぼんとしているその姿が少し可哀想になるが、もっと可哀想なのは患者だ。
 難しい患者というのは性格が気難しい患者を指しているのではなく(その場合もあるが)複雑な血管を持つ患者のことである。
 透析は16G(ゲージ)の針を二本、シャントと呼ばれる血管に刺さないと始まらない。
 透析で使用する針は点滴や採血用の針とは全く違い、輸血や献血で使用する針よりも大きくて、見た目でわかりやすく言えば、竹串サイズだ。
 当然、最初のうち──透析導入したばかりの頃──は激しい痛みを伴う。
 血管が発達すれば、あるいは慣れれば痛みは少なくなるといわれているが、めちゃくちゃ太い針で刺されるのだから、痛いものは痛い。
 まず穿刺ができなければ透析は行えないため、シャント穿刺は透析を行う上でもっとも重要な医療行為なのである。(カテーテルを挿れて行う場合もあるが、大半は内シャントを使用する)
 新人の透析看護師が苦労するのも、まずは穿刺なのだ。

「じゃあ横井さんの穿刺は俺がいくから、他の患者のところに行ってくれる?」
「はい、竹中さんに行ってきます……」

 有坂が刺せなかった横井氏の血管は方向が複雑で、穿刺ができる人間は透析室でも数人に限られていた。
 榛名は穿刺は得意な方だ。絶対に成功するわけではないが、8割方は成功する。
 しかしベテランだろうと、透析室の看護師が全員穿刺が得意なわけではない。
 しかも血管は看護師によって相性もある。
 だから穿刺が苦手な者は難しい血管の患者はそれとなく避け、得意な者が刺しにいくという暗黙の了解がある。

(急いで穿刺しないと、リーダー業務が終わらないぞ……)

 思わずこぼれそうになった溜息を飲み込んで、榛名は聴診器と駆血帯を手に持ち、横井氏の待つベッドへと向かった。
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