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「T病院さんにはいつもうちの患者を積極的に引き取って貰っていますから。俺も自分がオペした患者の経過は一応自分で確認したいですし……外来や救急には既に数人の医師が助っ人に行ってますが、今回は腎臓外科医の要請があったので、K大透析センターの医師の中から代表で自分が来た、というわけです。よろしくお願いします、榛名主任さん」
「よ、ろしくお願いします……」
霧咲がここに来た理由は分かった。
しかし表面上は落ち着いているものの、榛名は内心少しパニックに陥っていた。
一か月前、榛名は偶然この男と出逢い、一緒に酒を飲み、甘く激しい一夜を共にしたのだ。連絡をくれ、とメモが残されていたものの連絡する勇気はなく、もう忘れようと思っていた。
その相手が、今目の前に立っている。
(このひとの前で俺はあんな、あんな……!!)
もう、二度と会わないと思っていた。だからあんな自分でも引くくらいの痴態を晒し、破廉恥な行為ができたのだ。
その相手とこれから一緒に仕事をしなければならないなんて、いったいどんな拷問だ。
あまりの恥ずかしさと襲ってくる絶望感に、榛名は眩暈がしそうだった。
すると、霧咲がそっと榛名に近づいてきた。榛名は一瞬顔をこわばらせたが、それは誰も気付けないくらいの変化だった。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……
心臓が早鐘のように動き、ありったけの警鐘を鳴らしている。
この男に近付いてはいけない、と。
「榛名さん、少し顔色が悪いようだけど……大丈夫ですか? それに、痩せてるし。ご飯はちゃんと食べてますか?」
「だ、大丈夫です、心配してくださって有難うございます、霧咲先生」
不自然にならないよう、榛名は霧咲に微笑んだがその笑顔は若干引きつっていた。
『痩せてるし』──その言葉は、榛名には『あの時よりも痩せた』と言われているように聞こえた。実際、その通りなのだが。
「通勤はどのように来てるんですか?」
「!?」
これで終わりかと思ったら、いきなり予想もしていなかった質問をされた。榛名は少し拍子抜けしたが、素直に答えた。
「地下鉄です」
「では今日は僕の車で家まで送りますね。仕事が終わったら裏玄関の前で待っててもらえますか? 榛名さん」
「え!?」
「看護師さん目線の透析室について色々お話を伺いたいですし、良かったら晩御飯も一緒にどうかなって」
(なんで!? っていうか今は他の人もいるのに、そんな堂々と誘うなんて……!)
「あら~榛名君ったら羨ましい! でもそうね、男同士の方が先生も話しやすいですよね~! 榛名君は、患者さんのことも私よりよっぽど詳しいんですよぉ、霧咲先生」
「へえ、それは頼りになる主任さんですね」
「それはもう~!」
珍しく師長が自分のことをベタ褒めしているのに、何故かちっとも嬉しくない。
むしろ余計なことを言わないでくれ! と大声で叫びたくなった。
「榛名くん、霧咲先生は毎週木曜日に来てくださるから準備の方よろしくね。……じゃあ霧咲先生、そろそろ他の場所を案内しましょうか」
「はい、お願いします奥本先生。では失礼します、榛名さん」
「……お疲れ様です」
そして奥本と師長、霧咲はまたどこかへ移動した。きっと病院内を案内している途中だったのだろう。
案内役、二人もいる? と榛名は師長に少し呆れた。
「あのぉ主任、堀尾さんの今日のドライの指示は……?」
「あ!! 忘れてたっ!! 他にも沢山貰わなきゃいけない指示が~!!」
有坂に言われて、奥本に指示を仰ぐのをすっかり忘れていた榛名は慌てて3人の後を追いかけた。
「榛名主任があんなに慌ててるとこ初めて見ましたぁ……」
「俺も……かな?」
慌てて出て行った榛名の姿を見て、有坂と堂島は珍しいものを見た、という顔をしていた。
「よ、ろしくお願いします……」
霧咲がここに来た理由は分かった。
しかし表面上は落ち着いているものの、榛名は内心少しパニックに陥っていた。
一か月前、榛名は偶然この男と出逢い、一緒に酒を飲み、甘く激しい一夜を共にしたのだ。連絡をくれ、とメモが残されていたものの連絡する勇気はなく、もう忘れようと思っていた。
その相手が、今目の前に立っている。
(このひとの前で俺はあんな、あんな……!!)
もう、二度と会わないと思っていた。だからあんな自分でも引くくらいの痴態を晒し、破廉恥な行為ができたのだ。
その相手とこれから一緒に仕事をしなければならないなんて、いったいどんな拷問だ。
あまりの恥ずかしさと襲ってくる絶望感に、榛名は眩暈がしそうだった。
すると、霧咲がそっと榛名に近づいてきた。榛名は一瞬顔をこわばらせたが、それは誰も気付けないくらいの変化だった。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……
心臓が早鐘のように動き、ありったけの警鐘を鳴らしている。
この男に近付いてはいけない、と。
「榛名さん、少し顔色が悪いようだけど……大丈夫ですか? それに、痩せてるし。ご飯はちゃんと食べてますか?」
「だ、大丈夫です、心配してくださって有難うございます、霧咲先生」
不自然にならないよう、榛名は霧咲に微笑んだがその笑顔は若干引きつっていた。
『痩せてるし』──その言葉は、榛名には『あの時よりも痩せた』と言われているように聞こえた。実際、その通りなのだが。
「通勤はどのように来てるんですか?」
「!?」
これで終わりかと思ったら、いきなり予想もしていなかった質問をされた。榛名は少し拍子抜けしたが、素直に答えた。
「地下鉄です」
「では今日は僕の車で家まで送りますね。仕事が終わったら裏玄関の前で待っててもらえますか? 榛名さん」
「え!?」
「看護師さん目線の透析室について色々お話を伺いたいですし、良かったら晩御飯も一緒にどうかなって」
(なんで!? っていうか今は他の人もいるのに、そんな堂々と誘うなんて……!)
「あら~榛名君ったら羨ましい! でもそうね、男同士の方が先生も話しやすいですよね~! 榛名君は、患者さんのことも私よりよっぽど詳しいんですよぉ、霧咲先生」
「へえ、それは頼りになる主任さんですね」
「それはもう~!」
珍しく師長が自分のことをベタ褒めしているのに、何故かちっとも嬉しくない。
むしろ余計なことを言わないでくれ! と大声で叫びたくなった。
「榛名くん、霧咲先生は毎週木曜日に来てくださるから準備の方よろしくね。……じゃあ霧咲先生、そろそろ他の場所を案内しましょうか」
「はい、お願いします奥本先生。では失礼します、榛名さん」
「……お疲れ様です」
そして奥本と師長、霧咲はまたどこかへ移動した。きっと病院内を案内している途中だったのだろう。
案内役、二人もいる? と榛名は師長に少し呆れた。
「あのぉ主任、堀尾さんの今日のドライの指示は……?」
「あ!! 忘れてたっ!! 他にも沢山貰わなきゃいけない指示が~!!」
有坂に言われて、奥本に指示を仰ぐのをすっかり忘れていた榛名は慌てて3人の後を追いかけた。
「榛名主任があんなに慌ててるとこ初めて見ましたぁ……」
「俺も……かな?」
慌てて出て行った榛名の姿を見て、有坂と堂島は珍しいものを見た、という顔をしていた。
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