24 / 322
13 堂島の鋭い指摘
「──榛名くん、なんか顔めっちゃ疲れてね?」
「え?」
今日の夜勤は有坂と堂島と榛名の三人だ。
夜勤と言っても22時には終わるので正確には『遅出』または『準夜勤』だ。
T病院の透析室では、月水金のみ2クールやっており、患者の大半が働いている人達だ。
彼らは仕事終わりに透析治療にやってくる。
現在夜勤の患者は17名、それを3人で捌くので夜勤もなかなか忙しい。
リーダーからの申し送りが終わったあと、臨床工学技士の堂島に顔を覗き込まれて、そんな心配をされた榛名だった。
「別に、昨日忙しかったからだし」
「ホントにそれだけ? でもきっちり5時に帰ってたっしょ?」
「そういえば主任、昨日あのイケメン先生とデートしたんですよね!? どうでしたか!?」
「!!」
有坂さんめ、余計なことを……! と思ったが、口から出たものはどうしようもない。
堂島は一瞬驚いた顔を榛名に向けて、すぐに有坂に聞いた。
「ちょ、有坂っち何それ? イケメン先生って昨日来た霧……なんだっけ、霧島先生」
「霧咲先生だよ」
なんで俺が教えなきゃいけないんだと思いながら、榛名は堂島の質問に答える。
「そう、キリサキ先生! 俺ちらっとしか見なかったけど、確かにすげぇイケメンだったな……てか榛名君、俺の誘いは何回も断ってんのに、なんで初対面の先生の誘いには乗るの!? 俺ちょっと傷ついた!」
「そりゃあ堂島くん、顔よ、顔の違い」
そう辛辣なツッコミを入れたのは本日の日勤リーダー、富永だ。
昨日の定時前に、霧咲の噂をして騒いでいたスタッフの一人である。
「何ソレ!? 俺だって別にブサイクなわけじゃねーし! でもあの先生と比べるのは酷でしょ!? ねぇ榛名くん嘘だよね? 顔で選んだとか嘘だよね!? 嘘だって言ってよぉ~」
(なんでそんなに必死なんだよ……)
「……先生からの誘いを断れるわけないだろ、しかもうちがお世話になってるK大の医師なんだし」
榛名は堂島に『ウザイ』という辛辣な眼差しを向けながらも、誤解されないように話した。
富永の冗談に乗っかってもよかったのだが、そうすると堂島がもっとウザくなりかねないのでやめた。
ちなみに榛名が堂島の誘いを断るのは、MEとしては堂島を認めているものの、その性格が少し苦手だからだ。
二人で食事などをしてあまり親しくなりたくない。
可哀想なので言わないが。
「ヒドイー! オレなら断ってもいいの!?」
「だって堂島君に機嫌損ねられるのは別にいいけど、K大の先生の機嫌を損ねて助っ人やめるとか言われたらやばいだろ」
それは実際に言われたことだ。
まあ、タチの悪い冗談だったのだが。
そして榛名は堂島に対して結構辛辣なことを言っているのだが、榛名本人はあまりそのことに気付いていない。
「榛名君が食事断っただけで先生が助っ人辞退するとかそんなんあるわけねぇじゃん! 立派なパワハラだし! てか俺の機嫌を損ねることにもう少し躊躇してよ! ……はぁ……つまり、榛名君的には接待だったってこと?」
「そんなもんかな。ま、奢られたのはこっちだけどね」
昨日のことはあまり思い出したくない。
霧咲は榛名を3~4回絶頂に導いてもなお、『朝まで寝かせないよ』などという恐ろしいセリフを吐いていたのだが、突然病院からの呼び出しを食らってやむなく中断したのだった。
そして榛名は、無意識に昨日のことを思い出していた。
《プルルルル……》
『チッ、邪魔が入ったな……はい、霧咲です。え? 原さんが溢水を起こしてるって? 前回撮ったCTRと今のサーチは? ……んーじゃあ酸素5リットルから開始して、95%をキープして。今からとりあえず3時間イーカムで回して血圧を見てできるだけ水を引いといてください。場合によっては胸腔穿刺するから、その準備も。……あぁ、今すぐ行くよ、近所だから1時間もかからない』
(今、このひと舌打ちしたぞ……てか、溢水ってやばいじゃん)
溢水とは、心臓に溜まった水が肺にまで溢れた状態のことを言い、十分に呼吸ができず陸にいながら溺れたような状態になる症状だ。
透析患者が医者や看護師の言うことを聞かず、余計な水分を取りすぎるとこうなる。
『あの、霧咲さ、霧咲先生』
『最近入院してきた訳あり患者でね。看護師に隠れて水道水をがぶ飲みしていたらしい』
『大丈夫なんですか?』
『さてね。それにしても、君といると何故かいつも呼び出しをくらうな……朝まで抱きしめてしつこく何度も好きだよって囁いてやれば、君は俺のものになると思ったのに。試すのは次回に持ち越しだな』
『なッ!!』
(次回っていうか、三度目なんてないから!!)
そう言おうとしたのだが、霧咲に遮られた。
『榛名さん、悪いけどシャワー貸してくれるかい? あと、できたらタオルも』
『榛名さん』。
そう呼ぶということは霧咲は既に医者モードで、先ほどまでの甘いやりとりは終わりということだろう。
自分だけ引きずっていると思われたら嫌なので、榛名も素早く看護師モードに切り替えた。
『用意しておきますから、早くシャワー浴びてきてください。急がないと患者さん危ないんでしょう?』
そう言ったら、少し目を丸くした霧咲に髪をくしゃっと撫でられて──
チュッ
軽い音を立てて、頬にキスをされた。
『なっ!?』
先程までもっと凄いことをしていたというのに、霧咲の行動に榛名はたちまち真っ赤になって頬を押さえた。
そんな榛名に霧咲はクスッと笑って、「なんだかきみ、俺の奥さんみたいだね」と言った。
『~~っ馬鹿なこと言ってないで、早くシャワー行ってください!』
『はいはい、看護師さん』
『看護師ですけど何か!?』
ただ事実を言われただけなのに、何故かからかわれたような気分になった。
その前に『奥さんみたい』などと言われたからだろうか。
(もう、冗談じゃない……!)
榛名は胸の高鳴りを必死に否定して、甘い痛みとだるさを残した腰をゆっくりと上げて、霧咲のために浴室にタオルを準備した。
「え?」
今日の夜勤は有坂と堂島と榛名の三人だ。
夜勤と言っても22時には終わるので正確には『遅出』または『準夜勤』だ。
T病院の透析室では、月水金のみ2クールやっており、患者の大半が働いている人達だ。
彼らは仕事終わりに透析治療にやってくる。
現在夜勤の患者は17名、それを3人で捌くので夜勤もなかなか忙しい。
リーダーからの申し送りが終わったあと、臨床工学技士の堂島に顔を覗き込まれて、そんな心配をされた榛名だった。
「別に、昨日忙しかったからだし」
「ホントにそれだけ? でもきっちり5時に帰ってたっしょ?」
「そういえば主任、昨日あのイケメン先生とデートしたんですよね!? どうでしたか!?」
「!!」
有坂さんめ、余計なことを……! と思ったが、口から出たものはどうしようもない。
堂島は一瞬驚いた顔を榛名に向けて、すぐに有坂に聞いた。
「ちょ、有坂っち何それ? イケメン先生って昨日来た霧……なんだっけ、霧島先生」
「霧咲先生だよ」
なんで俺が教えなきゃいけないんだと思いながら、榛名は堂島の質問に答える。
「そう、キリサキ先生! 俺ちらっとしか見なかったけど、確かにすげぇイケメンだったな……てか榛名君、俺の誘いは何回も断ってんのに、なんで初対面の先生の誘いには乗るの!? 俺ちょっと傷ついた!」
「そりゃあ堂島くん、顔よ、顔の違い」
そう辛辣なツッコミを入れたのは本日の日勤リーダー、富永だ。
昨日の定時前に、霧咲の噂をして騒いでいたスタッフの一人である。
「何ソレ!? 俺だって別にブサイクなわけじゃねーし! でもあの先生と比べるのは酷でしょ!? ねぇ榛名くん嘘だよね? 顔で選んだとか嘘だよね!? 嘘だって言ってよぉ~」
(なんでそんなに必死なんだよ……)
「……先生からの誘いを断れるわけないだろ、しかもうちがお世話になってるK大の医師なんだし」
榛名は堂島に『ウザイ』という辛辣な眼差しを向けながらも、誤解されないように話した。
富永の冗談に乗っかってもよかったのだが、そうすると堂島がもっとウザくなりかねないのでやめた。
ちなみに榛名が堂島の誘いを断るのは、MEとしては堂島を認めているものの、その性格が少し苦手だからだ。
二人で食事などをしてあまり親しくなりたくない。
可哀想なので言わないが。
「ヒドイー! オレなら断ってもいいの!?」
「だって堂島君に機嫌損ねられるのは別にいいけど、K大の先生の機嫌を損ねて助っ人やめるとか言われたらやばいだろ」
それは実際に言われたことだ。
まあ、タチの悪い冗談だったのだが。
そして榛名は堂島に対して結構辛辣なことを言っているのだが、榛名本人はあまりそのことに気付いていない。
「榛名君が食事断っただけで先生が助っ人辞退するとかそんなんあるわけねぇじゃん! 立派なパワハラだし! てか俺の機嫌を損ねることにもう少し躊躇してよ! ……はぁ……つまり、榛名君的には接待だったってこと?」
「そんなもんかな。ま、奢られたのはこっちだけどね」
昨日のことはあまり思い出したくない。
霧咲は榛名を3~4回絶頂に導いてもなお、『朝まで寝かせないよ』などという恐ろしいセリフを吐いていたのだが、突然病院からの呼び出しを食らってやむなく中断したのだった。
そして榛名は、無意識に昨日のことを思い出していた。
《プルルルル……》
『チッ、邪魔が入ったな……はい、霧咲です。え? 原さんが溢水を起こしてるって? 前回撮ったCTRと今のサーチは? ……んーじゃあ酸素5リットルから開始して、95%をキープして。今からとりあえず3時間イーカムで回して血圧を見てできるだけ水を引いといてください。場合によっては胸腔穿刺するから、その準備も。……あぁ、今すぐ行くよ、近所だから1時間もかからない』
(今、このひと舌打ちしたぞ……てか、溢水ってやばいじゃん)
溢水とは、心臓に溜まった水が肺にまで溢れた状態のことを言い、十分に呼吸ができず陸にいながら溺れたような状態になる症状だ。
透析患者が医者や看護師の言うことを聞かず、余計な水分を取りすぎるとこうなる。
『あの、霧咲さ、霧咲先生』
『最近入院してきた訳あり患者でね。看護師に隠れて水道水をがぶ飲みしていたらしい』
『大丈夫なんですか?』
『さてね。それにしても、君といると何故かいつも呼び出しをくらうな……朝まで抱きしめてしつこく何度も好きだよって囁いてやれば、君は俺のものになると思ったのに。試すのは次回に持ち越しだな』
『なッ!!』
(次回っていうか、三度目なんてないから!!)
そう言おうとしたのだが、霧咲に遮られた。
『榛名さん、悪いけどシャワー貸してくれるかい? あと、できたらタオルも』
『榛名さん』。
そう呼ぶということは霧咲は既に医者モードで、先ほどまでの甘いやりとりは終わりということだろう。
自分だけ引きずっていると思われたら嫌なので、榛名も素早く看護師モードに切り替えた。
『用意しておきますから、早くシャワー浴びてきてください。急がないと患者さん危ないんでしょう?』
そう言ったら、少し目を丸くした霧咲に髪をくしゃっと撫でられて──
チュッ
軽い音を立てて、頬にキスをされた。
『なっ!?』
先程までもっと凄いことをしていたというのに、霧咲の行動に榛名はたちまち真っ赤になって頬を押さえた。
そんな榛名に霧咲はクスッと笑って、「なんだかきみ、俺の奥さんみたいだね」と言った。
『~~っ馬鹿なこと言ってないで、早くシャワー行ってください!』
『はいはい、看護師さん』
『看護師ですけど何か!?』
ただ事実を言われただけなのに、何故かからかわれたような気分になった。
その前に『奥さんみたい』などと言われたからだろうか。
(もう、冗談じゃない……!)
榛名は胸の高鳴りを必死に否定して、甘い痛みとだるさを残した腰をゆっくりと上げて、霧咲のために浴室にタオルを準備した。
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕