運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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「それで君は、俺への当て付けであの男に付いていこうとしたの?」
「はあ!? そんなわけないだろ!!」

   榛名はバッと頭を上げて霧咲を見た。
 切羽詰まったような必死な表情の榛名を見て、霧咲の顔が少し歪む。

「……ごめん、さっき君があの男に肩を抱かれていたから嫉妬したんだ」
「え……?」

(霧咲さんが、嫉妬?)
 
 霧咲は、榛名をもう一度胸にぎゅう、と抱き締めた。

「榛名、俺は別に聖人君子でもなんでもないから、以前他の人に声を掛けられて付いていったこともあるよ」
「……」

(やっぱり、そうなんだ……)

   榛名は霧咲のバスローブをぐっと握った。

「でも、あの日君に会って……俺は君のことしか考えられなくなった。自分から声を掛けたのはあれが初めてだったし、ナイトアフロディーテを飲ませたのも君が初めてなんだ。それは信じてほしい」

(あのカクテルが、なんだっていうの……?)

「それと確かに俺はローズの常連だけど、目的はリュートさんと話すことだ。下心なんかはないよ、彼はとても素敵だけど、俺にとってはそういう対象じゃない。それに彼には最愛の恋人がいるからね。さっきも常連客の中にいたよ」
「え、マスターの恋人が?」

   それは意外な事実だった。
 確かに仲の良さそうな常連客は何人かいたが、一体どの男があの美人マスターの恋人だったのだろう。
 霧咲がローズに通うのは彼に会いに行くためだと堂々と宣言されても、榛名は全く妬かなかった。
 それは、榛名もマスターに対しては霧咲と同じ気持ちだからだ。

「うん。俺と同じで年下の可愛い恋人。……いや、リュートさんにとっては年下のカッコいい恋人かな」
「はあ」

   カッコいい人はたくさんいた気がする。
 あと、やたらと可愛い子も。

「榛名、俺は君以外に恋人なんかいないよ。遊びだなんてとんでもない。結構熱烈にアピールしていたつもりだったのに今更そんな勘違いをされるなんて、俺の方が泣きたい気持ちだ。──俺が好きなのは、本当に君だけだよ。他にもいるだなんて、生憎だが外科医はそんな暇じゃない」

   榛名は霧咲の言葉を、頭の中でゆっくり反芻していく。

(年下の、可愛い恋人……?)

(俺以外に、恋人はいない?)

(恋人?)

「コイビト!?」

   榛名はバッと霧咲の胸から離れて顔を見上げた。
 霧咲は『今更何を言ってるんだ』とでも言いたげな顔で、あっさりと答えた。

「君は俺の恋人だよ。だって君も俺のことが好きだろう」

   はっきりと言われて、榛名は真っ赤になる。

「……っっ!」
「違うの?」
「違……わない、です」

   そうか。好き同士だから……自分達はもう、恋人だったのだ。
 『恋人になろう』とか『付き合おう』という言葉はなかったが、大人同士ならこんなものなのかもしれない。
 そもそも、もう二回もセックスをしている。
   一体どの時点で自分が霧咲の恋人になったのか榛名には全く理解できないが、とにかく遊び相手でなければいい。
   榛名は安心して、身体中の力が一気に抜けていく気がした。
 同時に、嬉しくて他に言葉が出てこない。

(自分が誰かの恋人っていうのがこんなに嬉しいなんて、初めてだ……)

   今まで付き合ってきた女性のことを『恋人』だと思ったことはない。
 付き合っているのだから恋人なのだろうけど、榛名は彼女に恋をしていたわけではないから、『恋人』と思う発想はなかった。
 本当に最低だったと榛名は我ながら思うが、それはいつも繰り返されるヒドイ扱いや振られ方で相殺されている、とも思う。
   榛名も霧咲の背中に腕を回して、強く抱きついた。
 見えてはいないけれど、なんだか霧咲が笑ってる気がした。

「──まぁ、俺はさっきローズで君が俺を庇ってくれた時から既に恋人だと思ってたけどね」
「へ?」
「俺をあいつに渡さないって、大声で言ってたじゃないか」
「そ、それは……!」

   そんな直接的には言ってないのだが、あの態度では榛名が霧咲を好きなことは明白で、榛名は思い出してますます赤面した。
   よくよく考えれば、あの時点で霧咲に『好きです』と言っていたも同然なのだ。
 しかも公衆の面前で。
   なんで気付かなかったんだろう……と、榛名は穴があったら入りたくなるほど恥ずかしかった。
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