運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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「シャントの音が全然聴こえないんですぅ! 主任も確認してくださいーっ」
「ええっ!?」

   嫌な予感は当たった。
 榛名は自分の聴診器を河原氏の左腕のシャントに当てて、シャント音の聴取を試みたが……たしかに何の音も聞こえなかった。
 通常であれば、シャントのある腕からは血液の流れる音がよく聴こえるのだ。(※シャントは動脈と静脈を繋いであるため、普通の血管よりも太く、大量の血液が流れている)

「あの、何かやばいんですかね?」

   河原氏は50歳の男性で、透析歴は1年と少しだ。
 透析記録を見ると、前回透析終了後はシャント音の聴取は出来ていたようだった。
 榛名は河原氏に質問した。

「河原さん、今朝は自分でシャントの音聴いてみました?」
「あ……いいえ……」
「聴く習慣は?」
「すいません、意識して聴いてないです」

   まあ、しょうがない。
 最初の内は自分で聴診器を購入して毎日聴いている患者もいるが、慣れてきたらこんなものだ。
 河原氏のシャントは閉塞しているらしかった。

「河原さん、何らかの原因でシャントが詰まってるみたいです。痛みとかはないですか? 今のままだと今日は透析ができません」
「ええっ、ほんとですか? 痛くはないですけど、これってどうしたら治るんですか……!?」
「詰まった血管を元通りにするオペをしなければいけません。有坂さん、俺は奥本先生に連絡してくるから」
「あっ榛名主任! 霧咲先生が来ましたよお!!」
「え?」

   有坂に言われて後ろを振り返ると、ちょうど霧咲が回診をしに透析室に来たところだった。
 そういえばもう10時で、最近は連絡をせずとも来てくれるようになっていたのだ。
 榛名は霧咲と目が合い、ぺこりと会釈をした。
   急に有坂に呼ばれたため、まだ回診の準備をしていなかった。
 透析室で起きている事態を何も知らない霧咲は榛名の方に歩いてきて、にこやかに挨拶をした。

「おはよう、榛名さん」
「お、おはようございます。すいません霧咲先生、まだカルテの準備とかできてなくて……」
「何かあったの?」

    榛名の様子がいつもと違うことに霧咲は気付いたらしい。

「河原さんのシャントが閉塞したみたいなんです……俺はこれから奥本先生に電話しますから、回診は少し待って頂いてもよろしいですか?」

   榛名はこの時内心とても慌てていたため、霧咲が回診のためだけに助っ人に来ているのだと思い込んでおり、彼が外科医だということを失念していた。

「そうなの? じゃあすぐにPTAしようか」
「えっ?」

   PTAとは、経皮的血管拡張術(又は経皮的シャント拡張術)のことだ。
 何らかの原因でシャントが閉塞又は狭窄した際に、先端にバルーン(風船)のついたカテーテルを問題の部分に挿入し、そこでバルーンを膨らませることによって血管を拡張する手術である。
 30分から60分ほどで終わる簡単な手術なのだが、T病院では今までシャントが閉塞したら奥本が患者に中心静脈カテーテルを挿入してそこから透析を行い、後日に血管外科の藤野医師に紹介する……というなんとも面倒くさい方法を取っていた。(当然患者もカテ挿入中は入院することになる)

「え……と、今からオペですか?」
「私は一応腎臓血管外科医ですよ? こういう時こそ活用してやってください」

   あっけにとられた顔をしている榛名を見て、霧咲はクスクス笑っている。

(そうだ……そういえばこの人、外科医だった!!)

   榛名は暫し感動していたが、すぐに行動した。

「で、ではお願いします! すぐに奥本先生とオペ室に連絡しますね! 師長、今から河原さんPTAのオペです。有坂さん、準備ができるまで霧咲先生の回診補助よろしく。大丈夫、今日は採血した週じゃないから」
「えっ、えええ!?   が、がんばりますぅ……!」

   ──とまあこんな具合で、霧咲はなかなかT病院の透析室に様々な恩恵をもたらしていた。
 しかし、プライベートというか、榛名には恋人として複雑なことがあった。
 それは……。
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