運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

文字の大きさ
58 / 322

    榛名が二人の再会した経緯を話し終えた後、リュートの口から「ほう……」という、色っぽい感嘆のため息が漏れた。

「すごい……正に運命じゃないですか。そんな偶然ってあるんですね」
「俺もビックリしました。まさかうちの透析室に助っ人に来てくれたのが、その……霧咲先生だったってことに。ていうかまず医者だったってことからビックリしましたよ」
「何、俺が医者だといけないの?」

   少しむっとした声で霧咲が榛名に言った。
 勿論本気ではなく、ただのポーズなのだが。
 それでも榛名は、霧咲の態度に眉を顰めて弁解した。

「い、いけないなんて誰も言ってないじゃないですか。てか、俺が看護師だって言った時点で医者だって教えてくれたらよかったのに! 黙ってるなんて人が悪いですよ」
「だってきみがあまりにも楽しそうに色々話してくれるものだから……。あの時俺が医者だって言ったら、きっときみは一瞬で酔いが醒めて態度が一変していただろう? 看護師ならばなおさらだ」
「………」

   その様子は、榛名は自分でも想像できた。
 確かに霧咲の言う通り、あの時に医者だと言われていたら榛名は萎縮してしまって楽しく呑むどころではなくなっていただろう。
 そうなると、霧咲との関係もあれっきりだったに違いない。
   一瞬沈黙が訪れたあと、夏木が少し遠慮気味に手を上げながら言った。

「あ、あのー……、この機会だからちょっと聞きたいんですけど、人工透析ってどういう病気になったらなるもんなんですか? 予防方法とかはあるんですか?」
「あ、それって俺も聞いてみたいです! 悠さんが病気になったら嫌だもん!」

   夏木に続いて広川も、元気に手を挙げて聞いてきた。
 すると霧咲はニヤリと笑って、「ですって、看護師さん」と榛名に振った。
 しかし榛名も「では説明をお願いします、霧咲先生」と言い返した。
 看護師モードならば、多少の霧咲の言動は怖くない。

「やれやれ……優秀なナースのきみが患者にどういう説明をするのかを聞いてみたかったのになぁ」
「患者に病気の説明するのはドクターの仕事でしょう? リュートさん、ギムレットをもう一杯お願いします」
「はい」

 榛名は二杯目のギムレットを頼んだ。
 榛名はいたって普通のナースなのだが、褒められたことは素直に受け取っておこうと思った。
 いつもなら謙遜か否定をするのだが、酒がだんだんと回ってきているらしい。
 霧咲は、若者二人に透析について説明を始めている。
 土曜の夜なのに、何故か他のお客は来なかった。

「透析っていうのは簡単に言えば腎臓の代わりでね……つまり腎不全、腎臓の機能がダメになったら透析の適応になるんだよ。それで、腎臓がダメになる一番の原因は糖尿病の合併症が多いかな。糖尿病はいわゆる生活習慣病だ。だから予防っていうのは規則正しい生活をすること、それ以外にない。これは他の病気にも言えることだけど……分かった?」
「はあ、ざっくりとは」

   広川も夏木も同じような反応をした。

「それでいいよ、若いうちからあんまり病気を意識しすぎてもしょうがないからね。どんなに規則正しい生活をしていても病気になる人はなるし、又はその逆もある。糖尿病にならなくたって他の病気になる可能性もあるし、もしくは交通事故に遭う可能性だってあるんだ。――だからその日その日を悔いなく生きていればそれでいい、と俺は思うんだよね」
「霧咲さん、お医者さんなのにアレに気をつけろコレに気をつけろって言わないんですね」
「君が今何らかの病気にかかっていて、アドバイスを求めているなら言うよ? でも、別にそうじゃないだろう」
「はい」
「なら、俺が医者として言えることは特にないかな。あとは何か分からないことがあったら、俺じゃなくて看護師さんに聞いてください」

   そう言って、霧咲はグイっとカミカゼを飲んだ。
 夏木と広川は、分かったような分からなかったような……という顔をしている。

「ちょっと霧咲先生、すっごい簡単な説明だけしてこっちに投げないでくださいよ」
「医者なんてそんなもんさ。そうだろ?」
「……」

   そういう医者もいるが、少なくとも霧咲はそういうタイプではないと思う。
 仕事中は、特に。

「じゃあ看護師さんに質問でーすっ! 生活習慣病って具体的には何に気を付ければいいんですか?」

   今度は広川が榛名に聞いた。
 もう霧咲は何も言わなさそうだったので、榛名が説明した。

「えっと……まあ、基本的には煙草を吸われている方は禁煙をして、あとは適度な運動と三食しっかり栄養バランスの取れた食事を食べること。それとお酒は控えめに……。そんな基本的なことかな」
「へえー。だって! 悠さんっ」
「なんで俺に振るんだ? 皐月」
「でもその基本的なことが、意外と難しいんですよねぇ……」

    リュートがしみじみとしながら言った。

「そう、だから俺はもう諦めてます」
「霧咲先生、医者なのに!?」

   ニヤリとして言う霧咲に、夏木がツッコんだ。
 そして榛名は、失礼かもしれないと思ったが気になっていたことをリュートに聞いた。

「あの、土曜の夜なのに他のお客さんが来ませんが、もしかして今日はお休みだったとかじゃないですよね?」
「お二人が見えたので、その時点で貸切営業にしたんです。あの後の話を邪魔されずにじっくり聞きたかったもので」

   マスターは、こともなげに笑ってそう言った。

「い、いいんですか!? その、売上とか」
「いいですよ。ね? 兄さん」
「お前の店だからな、好きにして構わないさ」

   その後もお酒を飲みながら色々な話をして盛り上がった。
 広川は、香島が来たらアルコールを解禁したようだった。







「……主任、榛名主任? 会議終わりましたよ」
「あ、はいっ、すみません」

   気付いたら、長ったらしい主任会議は終わっていた。
 榛名は途中から全く参加していなかったが、まあそれもいつものことだ。
 主任会議で問題にあがるのは、ほぼ内科病棟と外科病棟で、透析室としては特に持っていきたい問題は何も無かった。ちなみにこの場にいる男性は榛名だけだった。

「それじゃ霧咲先生との合コンの件、本当によろしくお願いしますね!」
「ああ、はい……」

   せっかく楽しかった夜のことを思い出して忘れかけていたのに、追い打ちのような山本の言葉で、榛名はまた会議前のような憂鬱な気分になったのだった。
感想 7

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。