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31 嫉妬と駆け引き
霧咲と付き合いだして約二ヶ月が経った。
仕事で週に一度は顔を合わせるが、プライベートでほぼ一日一緒に居れるのは週末だけで、あとはたまに仕事帰りの霧咲が榛名に会いに来ていた。
榛名は霧咲の家を知らないし、行ったこともない。
霧咲いわく『あまりにも汚くて呼べない』らしいが、その理由は榛名には最初到底信じられなかった。
……が、逆にそれが霧咲の欠点なのかもしれない、と思った。
疑う理由はないのだが、家に呼んでくれない理由を何故かそれ以上は聞けないでいる。
「合コンね……、時間があれば行ってもいいけど、生憎忙しいからなぁ。君と会う以外に割く時間は一切無いんだよ」
現在、榛名の部屋で自分の部屋のように寛いだ格好でコーヒーを飲みながら、霧咲は淡々とそう言った。
榛名はその答えに驚いた。後半は自分にとって嬉しいことを言われているのに、反応したのは前半だけだ。
「え、時間があれば合コン行く気なんですか……?」
「君の顔を潰す真似はしたくないじゃないか。透析患者もそこそこ多い外科病棟の主任にお願いされたんだろう? 関係が悪化したら君たち透析室の看護師さん達が困るだろうし……仕事だと割り切って行くよ」
「いやいや霧咲さん、そんなのいいですから! 俺の顔なんてグシャグシャに潰しちゃっていいですから! 大体ウチと外科は前から仲が悪いんです。先生同士もですし、ナースなんてもっと最悪で。俺は男だからそんなにじゃないですけど、女性陣は……」
透析室のナースは既婚者ばかりなので(もしくは彼氏もち)霧咲のことを狙っている者はいないものの、もし外科のナース達と霧咲が合コンしたなんて知ったら、霧咲をまるでアイドルのように慕っている透析室のナースたちは怒り狂うだろう。
今より更に関係が悪化するのは目に見えている。
つまり、霧咲の配慮は余計なお世話なのだ。
それに忙しいから、なんて理由で断ったら『じゃあ開いてる日はいつですか』とか『いつまでも待ってます』と、ずっと期待し続けるに決まっている。
(そんなの、冗談じゃない……!)
「俺が君の可愛い顔を潰せるわけがないだろう、馬鹿なのか?」
「可愛いとかどうでもいいですから」
霧咲ははあーっと大きなため息を着いた。
少し呆れたようなニュアンスだった。
「君は本当にマジメだよね……そんなのいちいち俺に聞かずに恋人の君が勝手に断っていいのに。『霧咲先生はそんな暇あるかバカヤローって言ってました』って言っても俺は全然構わないんだよ?」
「で……でも本当は、時間があったら行ってもいいって思ってるんですよね?」
榛名は心底面白くない、というぶすくれた顔で霧咲にそう聞いた。
すると霧咲はぽん、と隣に座る榛名の頭を軽く撫でた。
「嫉妬する君の顔がもっと見たいって理由でなら、俺は行っていいって言うかもしれないね」
「っ……霧咲さん!」
「じゃあ聞くけど。君はさ、どうして行くかどうか俺に選ばせようとしたんだ?」
「え?」
ぐ、と腰を引かれて軽く抱き寄せられた。
「俺に断ってほしいっていう意志は伝わったけど、最初は明らかに俺に選ばせようとしたよね。それはどうしてかな?」
「……」
「俺を試した?」
「……すみません」
榛名は最初、『外科病棟の主任から霧咲先生を合コンに誘いたいって言われたんですけど、どうしますか?』という聞き方をした。
試したというか、霧咲がはっきり断ってくれるのを期待していたのだ。
けれど霧咲は時間があれば行ってもいい、と言った。
それで榛名はひどく驚いて憤慨したのだ。
仮にも付き合っているのだから、他人から『霧咲を狙っている』と宣言されるのも、自分から霧咲にそれを伝えるのもかなり嫌だった。
『きみがいるのに、合コンなんか行くわけないだろう』――霧咲がそう言ってあげれば榛名は安心するのに、それをわざわざ言ってあげないのが霧咲の性格の悪いところだ。
いちいち霧咲の言葉に翻弄される榛名が可愛くてたまらないから。
『試したのか?』なんて、普段から榛名をからかってくる霧咲には『どの口が言ってるんだ』と言ってもいいくらいなのに、それに気付かず素直に謝るところも可愛い。
そして、素直に安心させてあげない理由はもう一つある。
榛名は大人しく霧咲の胸に頭を預けて抱かれているが、可哀想なくらいに沈んだ声で続けた。
「俺、霧咲さんを試したんでしょうか? きっぱり行かない、って言ってくれるだろうと思って……というか言ってほしくて、まさか行ってもいいなんて言われるなんて思いませんでした。でもそれは俺のため、なんですっけ」
「そうだよ、全て可愛いきみのため」
榛名は、気障ったらしい霧咲の態度だけ綺麗に流した。
「でも、それなら……俺のためなら、行かないで貰えるのが俺は一番嬉しいです……」
榛名は霧咲の腕をぎゅっと掴んでそう言った。
霧咲はとうとうこらえきれなくなり、笑い出した。
「ふはっ!」
「……え? 霧咲さん?」
榛名は怪訝な顔で霧咲の顔を見上げた。
「本っ当~~に君は素直で可愛いなあ。合コンなんて行くわけないし、君が行くのも絶対に許さないよ」
「俺は行きませんよ! ……あ」
そして、榛名も霧咲の真意に気付いた。
「君にも、最初からそう言って欲しかったな」
霧咲が合コンに行くなんて許さない、と。
どうしますか? なんて試されるような聞き方をされて、霧咲は自分は信用されていないのかと面白くなかったのだ。
だからワザと榛名を煽るような言い方をした。
「すみません、信じてないわけじゃないんです。ただ、霧咲さんがモテすぎるから少し不安になっちゃって……」
霧咲は苦笑して、榛名の髪をそっと撫でた。
「俺がモテるのは、今に始まったことじゃないじゃないか」
「そんなことわかってますよ!」
T病院で有名になってきたというだけで、霧咲は元々はK大の医者だ。
そちらでも同じように――否、これ以上にモテまくっているに違いないが、榛名はそこは気付かないふりをしていた。
気付いたら、毎日気になって仕事どころではなくなる。
「ふふ。ごめんね、少し意地悪がすぎたかな?」
「だんだん慣れてきてますよ、貴方のイジワルには」
「そう、じゃあその成果を見せてもらおうかな。……そろそろベッドへ行こうか」
そうして、榛名は霧咲に寝室へと連れ込まれたのだった。
仕事で週に一度は顔を合わせるが、プライベートでほぼ一日一緒に居れるのは週末だけで、あとはたまに仕事帰りの霧咲が榛名に会いに来ていた。
榛名は霧咲の家を知らないし、行ったこともない。
霧咲いわく『あまりにも汚くて呼べない』らしいが、その理由は榛名には最初到底信じられなかった。
……が、逆にそれが霧咲の欠点なのかもしれない、と思った。
疑う理由はないのだが、家に呼んでくれない理由を何故かそれ以上は聞けないでいる。
「合コンね……、時間があれば行ってもいいけど、生憎忙しいからなぁ。君と会う以外に割く時間は一切無いんだよ」
現在、榛名の部屋で自分の部屋のように寛いだ格好でコーヒーを飲みながら、霧咲は淡々とそう言った。
榛名はその答えに驚いた。後半は自分にとって嬉しいことを言われているのに、反応したのは前半だけだ。
「え、時間があれば合コン行く気なんですか……?」
「君の顔を潰す真似はしたくないじゃないか。透析患者もそこそこ多い外科病棟の主任にお願いされたんだろう? 関係が悪化したら君たち透析室の看護師さん達が困るだろうし……仕事だと割り切って行くよ」
「いやいや霧咲さん、そんなのいいですから! 俺の顔なんてグシャグシャに潰しちゃっていいですから! 大体ウチと外科は前から仲が悪いんです。先生同士もですし、ナースなんてもっと最悪で。俺は男だからそんなにじゃないですけど、女性陣は……」
透析室のナースは既婚者ばかりなので(もしくは彼氏もち)霧咲のことを狙っている者はいないものの、もし外科のナース達と霧咲が合コンしたなんて知ったら、霧咲をまるでアイドルのように慕っている透析室のナースたちは怒り狂うだろう。
今より更に関係が悪化するのは目に見えている。
つまり、霧咲の配慮は余計なお世話なのだ。
それに忙しいから、なんて理由で断ったら『じゃあ開いてる日はいつですか』とか『いつまでも待ってます』と、ずっと期待し続けるに決まっている。
(そんなの、冗談じゃない……!)
「俺が君の可愛い顔を潰せるわけがないだろう、馬鹿なのか?」
「可愛いとかどうでもいいですから」
霧咲ははあーっと大きなため息を着いた。
少し呆れたようなニュアンスだった。
「君は本当にマジメだよね……そんなのいちいち俺に聞かずに恋人の君が勝手に断っていいのに。『霧咲先生はそんな暇あるかバカヤローって言ってました』って言っても俺は全然構わないんだよ?」
「で……でも本当は、時間があったら行ってもいいって思ってるんですよね?」
榛名は心底面白くない、というぶすくれた顔で霧咲にそう聞いた。
すると霧咲はぽん、と隣に座る榛名の頭を軽く撫でた。
「嫉妬する君の顔がもっと見たいって理由でなら、俺は行っていいって言うかもしれないね」
「っ……霧咲さん!」
「じゃあ聞くけど。君はさ、どうして行くかどうか俺に選ばせようとしたんだ?」
「え?」
ぐ、と腰を引かれて軽く抱き寄せられた。
「俺に断ってほしいっていう意志は伝わったけど、最初は明らかに俺に選ばせようとしたよね。それはどうしてかな?」
「……」
「俺を試した?」
「……すみません」
榛名は最初、『外科病棟の主任から霧咲先生を合コンに誘いたいって言われたんですけど、どうしますか?』という聞き方をした。
試したというか、霧咲がはっきり断ってくれるのを期待していたのだ。
けれど霧咲は時間があれば行ってもいい、と言った。
それで榛名はひどく驚いて憤慨したのだ。
仮にも付き合っているのだから、他人から『霧咲を狙っている』と宣言されるのも、自分から霧咲にそれを伝えるのもかなり嫌だった。
『きみがいるのに、合コンなんか行くわけないだろう』――霧咲がそう言ってあげれば榛名は安心するのに、それをわざわざ言ってあげないのが霧咲の性格の悪いところだ。
いちいち霧咲の言葉に翻弄される榛名が可愛くてたまらないから。
『試したのか?』なんて、普段から榛名をからかってくる霧咲には『どの口が言ってるんだ』と言ってもいいくらいなのに、それに気付かず素直に謝るところも可愛い。
そして、素直に安心させてあげない理由はもう一つある。
榛名は大人しく霧咲の胸に頭を預けて抱かれているが、可哀想なくらいに沈んだ声で続けた。
「俺、霧咲さんを試したんでしょうか? きっぱり行かない、って言ってくれるだろうと思って……というか言ってほしくて、まさか行ってもいいなんて言われるなんて思いませんでした。でもそれは俺のため、なんですっけ」
「そうだよ、全て可愛いきみのため」
榛名は、気障ったらしい霧咲の態度だけ綺麗に流した。
「でも、それなら……俺のためなら、行かないで貰えるのが俺は一番嬉しいです……」
榛名は霧咲の腕をぎゅっと掴んでそう言った。
霧咲はとうとうこらえきれなくなり、笑い出した。
「ふはっ!」
「……え? 霧咲さん?」
榛名は怪訝な顔で霧咲の顔を見上げた。
「本っ当~~に君は素直で可愛いなあ。合コンなんて行くわけないし、君が行くのも絶対に許さないよ」
「俺は行きませんよ! ……あ」
そして、榛名も霧咲の真意に気付いた。
「君にも、最初からそう言って欲しかったな」
霧咲が合コンに行くなんて許さない、と。
どうしますか? なんて試されるような聞き方をされて、霧咲は自分は信用されていないのかと面白くなかったのだ。
だからワザと榛名を煽るような言い方をした。
「すみません、信じてないわけじゃないんです。ただ、霧咲さんがモテすぎるから少し不安になっちゃって……」
霧咲は苦笑して、榛名の髪をそっと撫でた。
「俺がモテるのは、今に始まったことじゃないじゃないか」
「そんなことわかってますよ!」
T病院で有名になってきたというだけで、霧咲は元々はK大の医者だ。
そちらでも同じように――否、これ以上にモテまくっているに違いないが、榛名はそこは気付かないふりをしていた。
気付いたら、毎日気になって仕事どころではなくなる。
「ふふ。ごめんね、少し意地悪がすぎたかな?」
「だんだん慣れてきてますよ、貴方のイジワルには」
「そう、じゃあその成果を見せてもらおうかな。……そろそろベッドへ行こうか」
そうして、榛名は霧咲に寝室へと連れ込まれたのだった。
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