運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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33 嫌な予感と優越感

 霧咲の講演会は2週間後に行われる予定らしい。
 榛名が霧咲からそれを聞いた次の日、師長に確かめてみたら『昨日は休みだったから今日掲示する予定だったのよ~』と言われた。言うのを忘れていたわけではなかったらしい。
 榛名はその詳細の書かれたプリントをもらうと、透析スタッフ向けの掲示用ホワイトボードにマグネットで貼りつけた。
 そして赤いボード用マジックで、『霧咲先生が講演されるので、是非皆で行きましょう!』と書き、空いている箇所に『参加者』と書き込み、自分の印鑑を押した。
 こういう地味な仕事も大体主任である榛名の役目である。
 すると榛名の後ろから、有坂が覗き込んできた。

「あれれ~っ、この日霧咲先生が講演するんですかぁ!?」
「そうだよ、有坂さん行ける?」
「絶対行きますぅ! なんなら応援幕でも作っていきますかぁ!? みんなで席から『霧咲先生ガンバレ』って文字で応援しましょうよぉ!」
「それは……確実に失敗の原因になるからやめておいた方がいいね」
「ええ~ッ」

 霧咲は意外と笑い上戸だ。
 そんなことをすれば、きっと檀上で笑って憤死することだろう。
 想像すると面白くて榛名は久しぶりに声を出して笑った。

「ちょ、榛名君が笑ってる! 何々、何の面白いことがあったの?」 
 
 気付けば数人のスタッフが榛名と有坂の後ろに集まっていた。
 今は昼休憩から戻ってきて回収を待つ時間なので、皆自分の担当患者の回収が始まるまでは時間を持て余しているのだ。

「霧咲先生が今度講演するらしいですよぉ。これは絶対行かなきゃです~!」
「えー……俺はどうしようかな」

 ナースは皆『ほんとに?』『行かなきゃ!』と言っているが、堂島だけは渋っていた。
 もっとも堂島はあまりこういう研修に参加するタイプではないので、別に珍しくはない。
 それは他のナースも同じなのだが、今回は霧咲効果で参加率が良さそうだ。

「お弁当豪華らしいよ、葛西薬品が主催だから」
「マジで? じゃあ、弁当のために行こっかな」

 堂島は前に霧咲のことを嫌いだと言っていたが、あれは本気だったのだろうか。
 霧咲のイケメンぶりをやっかんだだけの冗談だと思っていたのだが、本当にあまり好きではないらしい。

「そうだ、そろそろ霧咲先生の歓迎会もしましょうよ! 助っ人といえど、すごくお世話になってるし」

 中堅看護師の若葉が言った。
 若葉は彼氏がいるが、透析室では霧咲のファンであることを包み隠さない。
 若葉の発言に有坂も同意した。

「いいですねぇ~! 榛名主任、霧咲先生の好きなものを聞いててください、霧咲先生が好きな食べ物のお店にしましょう~!」

 二人は歳は違うが気が合うらしく、普段も一緒に遊んでいるらしい。

「あ、確かお刺身が好きだって言ってたよ」

 ぽろっと言ってしまったが、当然その発言は有坂に食いつかれた。

「ホントですかぁ!? 既に知ってるなんてさすがふたりは仲良しですね! じゃあ霧咲先生の歓迎会は和食で決定ですぅ! 若葉さん、早速ぐりゅなびでお店探しましょう~!」
「よしきた!」
「その前に仕事しようね。ほら、回収始まるから解散解散っ」

 『ふたりは仲良し』発言をさっと流すように、榛名はスタッフを解散させた。
 いつも霧咲の回診に付いているのは榛名だが、それは他のスタッフが嫌がるからであって、まさかそんな風に見られていたなんて思っていなかった。
 一緒に食事に行ったのは一度きりだと言っておいたのに。

(まさか気を使われて回診を当てられていたとか……いや、そんなはずないよな……)

「二人は仲良し、かぁ」
「!」

 全員が回収に行ったと思っていたのに、まだ堂島はホワイトボードの前に残っていた。
 しかも何やら有坂の発言を深く突っ込みたいらしい。
 榛名は少し嫌な予感がした。

「堂島君、最初の回収は誰なの?」
「木野さん。50分だからまーだまだだよ」
「そう、俺は倉田さん30分から回収だから行くね」
「――榛名君ってさぁ」

 踵を返そうとしたら、わざとらしい声で呼び止められた。
 榛名は少し煩わしいといった顔で堂島を振り返る。

「何?」
「霧咲先生と、どこまでいってんの?」
「……は?」

 嫌な予感というのは、何故こうも当たるのだろう。
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