運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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「榛名主任、大丈夫ですか?」

 有坂が言っていた『車で来ていて榛名をマンションまで送ってくれるというスタッフ』は、二宮に決まったらしい。
 17時を回ったあと、二宮はわざわざ休憩室まで迎えにきてくれた。

「すみません二宮さん。家、逆方向でしょう?」
「別に用とかないんで、俺は全然構わないです」

 さらりと二宮は言う。
 別になんてことありません、という態度が有難かった。

「すみません、別に病気じゃないし、地下鉄で帰れるんですけど……」
「本当に顔色が悪いので、無理しない方がいいですよ」

(そんなに目に見えるほど、顔色が悪いのか……俺)

「……ありがとうございます」

 憔悴しきった声で、榛名は礼を言った。
 二宮の車はスバルのインプレッサで、カラーは意外に派手な青だった。
 榛名は助手席に乗り込むと、正直な感想を言う。

「二宮さん、車好きなんですか? かっこいい車ですね」
「ありがとうございます。クルマは見るのも乗るのも好きなんです……そういえば霧咲先生はポルシェに乗ってますよね」

 ドキッとした。
 今、霧咲の名前は心臓に悪い。
 でも二宮に悟られるわけにはいかないので、榛名は普通に返した。

「ええ。なんでもブラックバードに憧れてるとかって……意味はわかりませんけど」
「それってもしかして、『嶋先生』のことですかね?」
「シマセンセイ?」

 そんな名前の医者が、T病院にいただろうか? いや、いない。
 どこか有名大学の先生なのだろうか。
 キョトンとした榛名に、二宮が説明してくれた。

「漫画のキャラクターですよ。嶋先生っていう外科医が黒のポルシェに乗ってて、夜の首都高をガンガン飛ばしてブラックバードって呼ばれてるんです。主人公のライバル的な……いや、仲間かな?そんな存在です」
「そうなんですか……」

 そういえば、調べようと思っていたのをすっかり忘れていた。

「霧咲先生って漫画好きなんですかね? なんだか少し親近感が湧きますね。俺も好きなんで」
「へえ……」

 今度ネットカフェに行ったらその漫画を読んでみようかな、と思った。
 でも、今更そんな霧咲が恋しくなるような行為はしない方がいいだろうか……と榛名は迷う。

「良かったら漫画貸しましょうか? 俺全巻持ってるんで。すっげぇ長いから、今度主任の家まで持っていきますよ」
「ホントですか? 有難うございます」

 二宮と話している間は、少しだけ霧咲のことを忘れることができた。
 マンションの下まで送ってもらい、コーヒーでも飲んでもらおうとしたのだが。

「じゃあ榛名主任、また明日」
「……はい、ありがとうございました」

 何故か他の男を部屋に上げるのは――たとえ相手が何の下心もない二宮だとしても――霧咲への罪悪感があって出来なかった。
 罪悪感など、榛名が感じる必要などないのに。
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