運命のひと~生真面目な看護師は意地悪イケメン医師に溺愛される~

すずなりたま

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44 霧咲の可愛い恋人について

 榛名が電話に出ない。
 メールも返ってこない。
 霧咲はスマホの画面を見つめて首を傾げた。
 今日は日勤だと聞いていたので、18時にはもう家に着いているはずだ。
   しかも今日は、T病院から預かっていた患者の迎えに榛名が来たらしい。
 看護師の朝井がそう言っていた。
 朝井は、スタッフの中でも結構な曲者だった。

『今日来られたT病院の榛名っていうすっごく若い主任さん、霧咲先生の助っ人が今年いっぱいだってこと知らなかったみたいですよ』

 少し榛名を小馬鹿にしたような口調とどこか勝ち誇ったような態度、そして自分も聞いたことのないその内容に、霧咲は耳を疑った。

『え、どこから聞いた話? それ……』
『え? 前に霧咲先生が自分で言ってたじゃないですか』

 霧咲はわざとらしくため息を吐いた。

『俺はそんな話をした覚えはないよ。いつまで助っ人をするかは、とりあえず年が明けてから考えるって言ったんだ。まさか君、今年いっぱいだって榛名さんに言ったの?』
『……ハイ』

 朝井は仕事中でも霧咲に色目を使ってくる厄介な看護師だった。
 自分の他に霧咲に憧れている女性を見つけたら影でチクチクといじめている、と看護師長に聞いたことがある。
 看護師の人間関係に医者の自分が口を出すことはないけれど、まさか榛名にも同じようなことをしたのではないだろうか、と不安になった。
 なので、一応確かめてはみる。

『まさかと思うけど、他にも不確かな発言はしていないよね?』
『いいえ? 向こうだって笑ってましたし……』

 朝井はしどろもどろに答える。
 あやしい……この上なく、あやしい。

『君、さっき榛名さんのことをすごく若い主任だって言ってたけど、榛名さんはああ見えて20代後半だよ。まあ、若手なほうだけど……T病院の透析スタッフには彼より年上の看護師もいるけど、彼は技術もあって責任感も強いから主任に選ばれたんだと思うよ』
『……』
『あまり軽率な発言をして、俺に恥をかかせないでくれないかな。それと俺はT病院の助っ人を楽しんでやっているからね』
『すみません……でした』

 いつもなら、こんなにキツイことを看護師には言わない。
 けれど、朝井のこの態度だと十中八九、榛名に嫌味を言っているに違いなかった。
 自分の可愛い恋人を陰でいじめるなど、相手が誰であろうと絶対に許さない。
 そんな日勤帯の出来事を思い出して、霧咲は深いため息を吐いた。
 榛名は朝井の嫌味などさらりと流しているかもしれないが、嫌な思いをさせたとは思うので一応K大透析室の責任者として代わりに謝りたかったのだ。

 けど、一時間ごとに鳴らしている着信に榛名は一度も出てくれない。
 メールの返事も返ってこない。
 スタッフの誰かと飲みに行っているのだろうか?
 いや、今日は火曜日だし、榛名の性格から自分以外の人間と平日に酒を飲もうとはしないだろう。
 無理に誘われなければ、だが。
 なにしろ榛名は自分では意識してなさそうだが、本当に押しに弱いのだ。
 きっと相手が霧咲じゃなくても、無理矢理頼み込まれれば付いていくだろう。

(まさか、堂島とじゃないだろうな……)

 MEの堂島は、霧咲の歓迎会以来榛名にはちょっかいを出さなくなったようだ。
 けれど、回診の時には相変わらず榛名への視線を感じる。
 この間『自分はホモじゃない』と威勢よく啖呵を切っていたものの、榛名のことはどうしても気になるらしい。
 榛名は霧咲と付き合い始めてから、元々持っていた男を惹き付けるような色気を普段から駄々漏れさせるようになった。
 それはストレートの男でもドキッとするような危うい色気だ。
 堂島は元々コッチの気があったのかもしれない。
 本人は無自覚だが、そんな榛名の色気に見事に当てられてしまっているのだから少し可哀想ではある。
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